【本編完結】瓦解

星の書庫

文字の大きさ
49 / 54

新しい生活

しおりを挟む
 人の目を避けるようにして、俺たちはアパートの中に入った。
「ここが島崎の部屋……」
能海は物珍しそうに部屋の中を物色し始める。
「引っ越してきたばかりだから、何も面白いものはないぞ」
「うん……あ、これ……」
不意に能海の目に留まったのは、机の上に置いてある写真立てだった。
「ん、どうした?」
「これ……彼女?」
その写真立ては、茉莉の写真を飾っていたものだった。今はその上から被せるように、玲と二人で撮った写真が飾られている。
「あぁ、うん」
「そっか……」
これで能海は諦めてくれるだろう。好意を持ってくれていたのは嬉しいが、俺には玲という彼女がいる。能海の想いには、応えられない。
「この子の事、好き?」
「あぁ、好きだ」
「そっか……」
能海は、何も言わずに部屋を出て行った。

 大学生になってから、玲と会うことは極端に少なくなった。看護学生は忙しいらしい。
今日は、久しぶりに玲と会う日。待ち合わせは駅前にあるカフェだ。
コーヒーを飲みながら時間を潰していると、玲が店内に入ってきた。しばらく中を見回して俺を見つけると、小走りで駆け寄ってくる。彼女は俺の向かいの席に座ると、俺と同じものを注文した。
「ごめん、待った?」
玲は前髪を直しながらごめんねと笑う。
「結構待ったなぁ」
「えぇ……ごめんね」
「冗談だよ、俺もさっき来たところ」
「……いじわる」
冗談を言ってからかうと、玲は分かりやすく拗ねて頬を膨らませた。
いかにも恋人がしそうな会話が可笑しくて、俺たちは見つめ合って笑う。
 話題はお互いの近況へと移る。俺は特に何もしていないので、基本的に玲の話を聞くだけだ。
「やっぱり、看護の学校は忙しい?」
「うん……でも、今の時期はまだ実習がないから楽な方だって、先輩が言っててね……」
玲はついていけるか分からないよと言って笑う。
「これから、あまりこうして会えなくなっちゃうかもね」
「……仕方ないよ」
「うん……」
その日は、一緒に買い物をして帰った。アパートの鍵を無くさないように二人で買ったクマのストラップは、安いながらも心を満たしてくれる、大切なものだ。


 大学生になって二年目の春。俺と玲は同棲することになった。少しでも二人の時間を確保するためだ。
朝、俺は玲が学校に行くのを見送る。抱き合ってお互いの温もりを感じるこの時間が、二人にとっての癒しだ。
「……今日も遅いから」
「うん、頑張って」
「うん」
行きたくないよとぐずる彼女の頭を撫でて、額にキスをする。
「ちゃんと夜ご飯作って待ってるから」
「……うん」
玲は名残惜しそうに俺から離れて、玄関のドアを開ける。
「じゃあ、行ってきます」
手を振って彼女を見送った後、俺も大学に行く身支度を済ませる。
「よし……行くか」
夕飯を何にするか考えながら、俺は大学への道をゆっくり歩いた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ホウセンカ

えむら若奈
恋愛
☆面倒な女×クセ強男の不器用で真っ直ぐな純愛ラブストーリー! 誰もが振り返る美しい容姿を持つ姫野 愛茉(ひめの えま)は、常に“本当の自分”を隠して生きていた。 そして“理想の自分”を“本当の自分”にするため地元を離れた大学に進学し、初めて参加した合コンで浅尾 桔平(あさお きっぺい)と出会う。 目つきが鋭くぶっきらぼうではあるものの、不思議な魅力を持つ桔平に惹かれていく愛茉。桔平も愛茉を気に入り2人は急接近するが、愛茉は常に「嫌われるのでは」と不安を抱えていた。 「明確な理由がないと、不安?」 桔平の言葉のひとつひとつに揺さぶられる愛茉が、不安を払拭するために取った行動とは―― ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※イラストは自作です。転載禁止。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

簒奪女王と隔絶の果て

紺乃 安
恋愛
穏やかな美青年王子が、即位した途端に冷酷な王に変貌した。そしてそれが、不羈の令嬢ベアトリスの政略結婚相手。 ポストファンタジー宮廷ロマンス小説。 ※拙作「山賊王女と楽園の涯」の完結編という位置づけでもありますが、知らなくとも問題ないよう書いてあります。興味があればそちらもお読みください(ただしずいぶんジャンルが違い、とても長いです)。

処理中です...