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そして物語は、崩れていく(2)
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ため息を吐きながら帰ってきた玲は、普段よりもさらに疲れているように見えた。
高校時代ほどではないが、玲はあまり自分の思っていることを表に出さない。その彼女が分かりやすく落ち込んでいるのは、珍しかった。
「おかえり、何かあった?」
「ただいま。うん、ちょっと……」
おなか減ったなぁとそれとなく話題を逸らしながら、玲は部屋着に着替える。その姿を見ながら、俺は自分が夕飯の支度をしていないことに気が付いた。
「あっ……ごめん、ご飯まだできてないや」
「えぇ!?純くんが忘れるなんて……何かあった?」
俺の失敗に気付いた瞬間、玲はいつもと同じ明るい笑顔をこちらに向けていた。自分の事は棚に上げて、俺を心配する素振りを見せる。
「何かあったわけじゃないんだけど……さっきまで人が来てたからさ、ごめん」
「なんだぁ、それは仕方ないね……うんうん」
正直に謝ると、玲は来客には抗えないなぁと言って頷いてくれた。自分も疲れているだろうに、俺のことを責めずに肯定してくれるところに、彼女なりの優しさを感じる。
しばらく考えて、玲は突然指を鳴らした。
「あ、分かった」
「……ん?」
「さては、久しぶりに私の料理が食べたかったんでしょ?」
素直じゃないんだからと言って玲は笑う。最近伸ばしているらしい髪を結いながら、俺をキッチンに入れまいと行く手を阻む。そんな玲の可愛さに負けて、とうとう俺はリビングまで追いやられた。
「ご飯食べたら、一緒にお風呂入ろっか」
玲は屈んで、俺の唇にキスをする。そのキスは、二人とも普段飲まない、苦いコーヒーの味がした。
三ヶ月が経ち、七月。
最近、玲の帰りが少しずつ遅くなってきた。
最初は二週間に一度程度だったが、今ではその頻度も増えて、一週間のうち三日はいつもの時間に帰ってこない。その日は決まって、玲はコーヒーを飲んで帰ってくるようになった。
気になって何をしているのか聞いても、自然に話を逸らされたり、はぐらかされる。疑いたくはないが、今の玲はかなり怪しい。
そう思っていた矢先、玲の怪しい行動が急になくなった。自分の過ちに気付いて、俺のもとに帰ってきてくれたのだろう。
俺は安心していた。俺の浮気であそこまで怒っていた玲が、そんなことをする筈はない。彼女は、俺だけを見てくれる。
その過信が、俺の犯した一つ目の罪だった。
それからしばらくしたあるの夕方、事件は起こった。
今日は玲が友達の家に泊まるらしく、家には俺一人だ。一人だと夕飯を作るのも面倒なので、俺は外食するために外に出ていた。
空は暗いのに、街の明かりが眩しい東京の街中。この賑わいはいつまでも慣れる気がしない。
久しぶりの外食なので、羽を伸ばして良いものでも食べよう。
そう思って、ふと目に留まったレストランに入ろうと歩き始めた時だった。目的の店から、玲が出てきた。横には輝樹がいる。いくら目が悪くても、この明るい街中では絶対に見紛うことのない距離だ。
幸い、反射的に隠れたので二人にバレてはいない。二人は俺のいる方を向かず、反対側に歩き始めたので、俺がすぐそばにいることに気付くことはないだろう。
二人は手を繋いで体を密着させ、仲睦まじそうに話している。
信じたくなかった。よりによって、玲は一番嫌な奴と浮気していた。
動悸が収まらない。軽いパニック状態だった。
その時、後ろから肩を叩かれ、見知った声が聞こえてきた。
「……島崎、大丈夫?」
それは久しぶりに会う、能海愛花だった。
高校時代ほどではないが、玲はあまり自分の思っていることを表に出さない。その彼女が分かりやすく落ち込んでいるのは、珍しかった。
「おかえり、何かあった?」
「ただいま。うん、ちょっと……」
おなか減ったなぁとそれとなく話題を逸らしながら、玲は部屋着に着替える。その姿を見ながら、俺は自分が夕飯の支度をしていないことに気が付いた。
「あっ……ごめん、ご飯まだできてないや」
「えぇ!?純くんが忘れるなんて……何かあった?」
俺の失敗に気付いた瞬間、玲はいつもと同じ明るい笑顔をこちらに向けていた。自分の事は棚に上げて、俺を心配する素振りを見せる。
「何かあったわけじゃないんだけど……さっきまで人が来てたからさ、ごめん」
「なんだぁ、それは仕方ないね……うんうん」
正直に謝ると、玲は来客には抗えないなぁと言って頷いてくれた。自分も疲れているだろうに、俺のことを責めずに肯定してくれるところに、彼女なりの優しさを感じる。
しばらく考えて、玲は突然指を鳴らした。
「あ、分かった」
「……ん?」
「さては、久しぶりに私の料理が食べたかったんでしょ?」
素直じゃないんだからと言って玲は笑う。最近伸ばしているらしい髪を結いながら、俺をキッチンに入れまいと行く手を阻む。そんな玲の可愛さに負けて、とうとう俺はリビングまで追いやられた。
「ご飯食べたら、一緒にお風呂入ろっか」
玲は屈んで、俺の唇にキスをする。そのキスは、二人とも普段飲まない、苦いコーヒーの味がした。
三ヶ月が経ち、七月。
最近、玲の帰りが少しずつ遅くなってきた。
最初は二週間に一度程度だったが、今ではその頻度も増えて、一週間のうち三日はいつもの時間に帰ってこない。その日は決まって、玲はコーヒーを飲んで帰ってくるようになった。
気になって何をしているのか聞いても、自然に話を逸らされたり、はぐらかされる。疑いたくはないが、今の玲はかなり怪しい。
そう思っていた矢先、玲の怪しい行動が急になくなった。自分の過ちに気付いて、俺のもとに帰ってきてくれたのだろう。
俺は安心していた。俺の浮気であそこまで怒っていた玲が、そんなことをする筈はない。彼女は、俺だけを見てくれる。
その過信が、俺の犯した一つ目の罪だった。
それからしばらくしたあるの夕方、事件は起こった。
今日は玲が友達の家に泊まるらしく、家には俺一人だ。一人だと夕飯を作るのも面倒なので、俺は外食するために外に出ていた。
空は暗いのに、街の明かりが眩しい東京の街中。この賑わいはいつまでも慣れる気がしない。
久しぶりの外食なので、羽を伸ばして良いものでも食べよう。
そう思って、ふと目に留まったレストランに入ろうと歩き始めた時だった。目的の店から、玲が出てきた。横には輝樹がいる。いくら目が悪くても、この明るい街中では絶対に見紛うことのない距離だ。
幸い、反射的に隠れたので二人にバレてはいない。二人は俺のいる方を向かず、反対側に歩き始めたので、俺がすぐそばにいることに気付くことはないだろう。
二人は手を繋いで体を密着させ、仲睦まじそうに話している。
信じたくなかった。よりによって、玲は一番嫌な奴と浮気していた。
動悸が収まらない。軽いパニック状態だった。
その時、後ろから肩を叩かれ、見知った声が聞こえてきた。
「……島崎、大丈夫?」
それは久しぶりに会う、能海愛花だった。
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