コミュ障OLとお茶挽きホスト

森いちほ

文字の大きさ
9 / 57

マッチングアプリでの出会い 8

しおりを挟む
結局、私は幸子さんに止められた後も純さんとのやりとりを続けてました。

日常的にやりとりしていたのは、本当に他愛ないことです。

「おはよう」や「おやすみ」と言った挨拶だったり、今日のお天気の話だったり、テレビ番組の話だったり。

純さんは夜のお仕事で生活時間帯が私とは全く違うので、返信はすぐに来るわけではありませんでしたが、それでもこちらの言ったことにはいつもちゃんと答えてくれました。

それに、純さんは意外にひょうきんな方で、ちょくちょくクスッと来るようなことを言って私をなごませてくれました。

考えてみたら不思議なことです。

純さんとお知り合いになる前は、日常的に連絡を取り合う相手もいなくて、LINEも仕事関係で使うだけでした。

でも別にそれを寂しいと思ったこともないし、話し相手がほしいと思ったこともありませんでした。

逆に、人と深い関係を築くのが煩わしいとさえ感じていたくらいです。

それなのに、今では純さんとのやりとりが日常的なはずせないルーティーンの一つになってしまっているのですから。

そして、やりとりを続けていくうちに、純さんに会いたいという気持ちが日増しに募ってきました。

いえ、もう最初からお会いしたいのはやまやまだったのですが、私の実物を目にした純さんに失望されるのが嫌でした。

「なんだ、可愛いと思ったのは勘違いだった、ただの地味子じゃないか」

って。

それに、LINEのやりとりは慣れてきたものの、本物の純さんにお会いしたら間違いなく挙動不審になる自信がありました。

純さんはおそらく「気にしない」と言ってくださるでしょうが、そんな自分をお見せするのも嫌でした。

だけど・・・そういった気持ちを脇に追いやってしまうくらい、純さんに対する興味は私の中で大きく大きく膨れ上がっていました。

だから、思いきって言ってみたんです。

『今度お会いできませんか』

って。

LINEでその一言をお送りした直後は、心臓がバクバクしていました。

「とうとう言ってしまった。もう後には引き返せない」

という感じです。

端からみたらそこまで大袈裟なことではないのかもしれませんが、私にとってはもうまさに、崖から飛び降りる心境です。

会うのを断られることはないでしょうが、それでも実際にお会いすることになったら・・・。

その先が考えられません。

純さんからの返信が来るのがとってもとっても長く感じられて、その間全く何も手につきませんでした。

LINEの着信音が鳴った時には、冗談じゃなく本当に飛び上がってしまったほどです。

『もちろん会おう! いつがいい?』

『私は土日がお休みなので、土日のどちらかがいいです』

『じゃあ今度の土曜日とかは?』

『大丈夫です』

『できれば俺の仕事の前がいいんだけど・・・17時とかでも大丈夫?』

『大丈夫です』

私、同じことしか言ってません。

待ち合わせ場所は、新宿にあるカフェに決まりました。

あ、お伝えするのを忘れていましたが、純さんは歌舞伎町にお勤めです。

『決まりだね! やっと愛香ちゃんに会える』

また・・・純さんは私の顔がにやけてしまうようなことをおっしゃる。

『私もずっと純さんにお会いしたかったです』

すぐにそう返信しようとして・・・手を止めてしまいました。

送信しようとしたのに、どうしても手が動きません。

その一言が、私にとってはとても重い言葉に感じてしまったのです。

それでもしばらく迷ってから、入力した文章を消しました。

『よろしくお願いします』

代わりに送信したのは、当たり障りのない一言。

『こちらこそよろしく! 楽しみにしてるね』

純さんのテンションは変わりません。

何はともあれ、こうしてお会いすることが決まったのです。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

Re.start ~学校一イケメンの元彼が死に物狂いで復縁を迫ってきます~

伊咲 汐恩
恋愛
高校三年生の菊池梓は教師の高梨と交際中。ある日、元彼 蓮に密会現場を目撃されてしまい、復縁宣言される。蓮は心の距離を縮めようと接近を試みるが言葉の履き違えから不治の病と勘違いされる。慎重に恋愛を進める高梨とは対照的に蓮は度重なる嫌がらせと戦う梓を支えていく。後夜祭の時に密会している梓達の前に現れた蓮は梓の手を取って高梨に堂々とライバル宣言をする。そして、後夜祭のステージ上で付き合って欲しいと言い…。 ※ この物語はフィクションです。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。 この作品は「魔法のiらんど、野いちご、ベリーズカフェ、エブリスタ、小説家になろう」にも掲載してます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

処理中です...