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第7杯 ②
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「んっ、どうかした?」
「いや、あれ? マス姉じゃなくね……」
洋輔は自身なさげに、外のある場所を見つめたまま呟く、その視線の先をあたしは辿るのだった。
あたしたちがCafeの外を、目を細めてみる様子に、藤井くんはいぶかしげそうな声を出す。
「どうかしのかい、ふたりとも?」
「……ずぶ濡れで、歩いてる女の人がいて」
「どこに?」
「慎一、後ろ……見てみろよ」
「たぶん、見間違いじゃないと思う。あの服は――――」
あたしがマス姉と確信すると同時に、ふたりもとても心配そうな声で話す。
「様子がおかしい、普通じゃなくね?」
「……確かに、様子がおかしいな」
ふたりも、大粒の雨が降りしきる外の様子を伺っている。
あたしは、なんだか心配になってきた――――――――――今日、元気がちょっとなかったマス姉の事を思い出すと。
「――――――か、傘取ってくるね、あたし」
いてもたってもいられず、あたしは既に、席を立ち、歩きかけようとしていた。
そこへ誰かが、あたしの腕を掴んだ。
「っえ――――?」
「……これ」
掴まれた腕の方を見上げると、ものすごく顔色の悪い様子の哲太さんがいた。心配そうな顏で、傘を握りしめている。彼の強い力で引っ張られたあたしの腕が、少し痛んだ。
あたしの微妙に引きつった顔の様子に気づいたのか、慌てて謝ってくれるのだった。
「あっごめん、俺――――――」
「大丈夫です、あたしは……」
あたしがそう言って少し微笑んだら、ホッとした様子で、あたしの腕を掴んでいた手の力が緩む。
哲太さんの方へ向きなおしたあたしは、彼の手から傘を受け取るのだった。
「傘……使いますね」
「――――ああ」
今だ、不安そうにしている哲太さん。あたしはそんな彼をおいて、急いでハイツの出口へ行く。出口を出ようとハッと息を呑む。
暗い雨の中、車のヘッドライトが、目に飛び込んだ。目が眩むほど、それは眩しく、思わずまぶたを閉じた。
それまで、まぶたを閉じていたのを、車のブレーキ音と共に開ける。
「待ってくれ、ますみ」
「ここへは来ないでって、言ってあったでしょ」
岡島ますみと男性が、あたしの目の前でもめている。男性は車から顔を覗かせていた。言い合いに拉致が明かないと思ったのか、そのまま走り去って行った。
出て行くべきなのか、迷う。今、あたしが出て行ったら、どんな顔をするだろう、という思いがよぎった。
あたしなら――――みられたくない、と思うだろう。それなら、何も見なかった事にして、戻るべきかもしれない。そう思い返してから、ハイツへ知らぬ間に戻っていた。
あたしがCafeの入口を、開けた途端に、洋輔が怒る。
「トウコ、なんで、戻ってきたんだよ」
「今は行かない方が、いいと思ったから」
「なんだよ、それ」
「いいから、元の席に戻ろう」
怒ったままの洋輔の腕を掴み、あたしは、グイグイと彼の腕を引っ張り、自分たちの席に戻った。
あたしたちが戻って来た事に、藤井くんは不思議そうな表情。
「どうかしたの、ふたりとも?」
「俺もよくわかんね」
洋輔は彼にそう答えてから、あたしを冷たくみる。彼の視線の冷たさに耐えられそうもなく、さっきと同じ事を言うしかなかった。
「行かない方が……いいと、思ったの」
あたしの言葉に理解できずにいる彼ら。ふたり分の視線があたしを責めるのだった。
そんな中、Cafeの入口を見て、オロオロしている哲太さんが、あたしたちの目に映る。視線の先をあたしたちも、息をとめては見入った。
雨の中、マス姉はやっとの思いで、ハイツの入口の扉を開けていた。彼女の頬には涙が、こぼれている様にも見えた。
それが雨のせいなのかは、ここにいる全員――――――わからなかった。
誰も動く事ができずにいる。あたしも含め、みんなマス姉の事も、見つめる事しかできなかった。
「普通じゃなくね?」
張りつめた空気の中、口を開いたのは洋輔、それに藤井くんが、落ち着いた様子で答える。
「ああ、普通じゃないね」
「そうね、今日はそっとしておいた方がいいと思う」
あたしは顔を伏せ気味に、誰とも視線を合わせないようにした。
藤井くんはあたしの様子に、気が付いたのか、優しい言葉を掛けてくれる。
「何があったのか、教えてくれないかな?」
「――――あたしが、勝手に話すのは」
「わかった。何も話さなくていいよ」
「……ごめんなさい」
あたしは藤井くんの優しい気遣いに、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「いや、あれ? マス姉じゃなくね……」
洋輔は自身なさげに、外のある場所を見つめたまま呟く、その視線の先をあたしは辿るのだった。
あたしたちがCafeの外を、目を細めてみる様子に、藤井くんはいぶかしげそうな声を出す。
「どうかしのかい、ふたりとも?」
「……ずぶ濡れで、歩いてる女の人がいて」
「どこに?」
「慎一、後ろ……見てみろよ」
「たぶん、見間違いじゃないと思う。あの服は――――」
あたしがマス姉と確信すると同時に、ふたりもとても心配そうな声で話す。
「様子がおかしい、普通じゃなくね?」
「……確かに、様子がおかしいな」
ふたりも、大粒の雨が降りしきる外の様子を伺っている。
あたしは、なんだか心配になってきた――――――――――今日、元気がちょっとなかったマス姉の事を思い出すと。
「――――――か、傘取ってくるね、あたし」
いてもたってもいられず、あたしは既に、席を立ち、歩きかけようとしていた。
そこへ誰かが、あたしの腕を掴んだ。
「っえ――――?」
「……これ」
掴まれた腕の方を見上げると、ものすごく顔色の悪い様子の哲太さんがいた。心配そうな顏で、傘を握りしめている。彼の強い力で引っ張られたあたしの腕が、少し痛んだ。
あたしの微妙に引きつった顔の様子に気づいたのか、慌てて謝ってくれるのだった。
「あっごめん、俺――――――」
「大丈夫です、あたしは……」
あたしがそう言って少し微笑んだら、ホッとした様子で、あたしの腕を掴んでいた手の力が緩む。
哲太さんの方へ向きなおしたあたしは、彼の手から傘を受け取るのだった。
「傘……使いますね」
「――――ああ」
今だ、不安そうにしている哲太さん。あたしはそんな彼をおいて、急いでハイツの出口へ行く。出口を出ようとハッと息を呑む。
暗い雨の中、車のヘッドライトが、目に飛び込んだ。目が眩むほど、それは眩しく、思わずまぶたを閉じた。
それまで、まぶたを閉じていたのを、車のブレーキ音と共に開ける。
「待ってくれ、ますみ」
「ここへは来ないでって、言ってあったでしょ」
岡島ますみと男性が、あたしの目の前でもめている。男性は車から顔を覗かせていた。言い合いに拉致が明かないと思ったのか、そのまま走り去って行った。
出て行くべきなのか、迷う。今、あたしが出て行ったら、どんな顔をするだろう、という思いがよぎった。
あたしなら――――みられたくない、と思うだろう。それなら、何も見なかった事にして、戻るべきかもしれない。そう思い返してから、ハイツへ知らぬ間に戻っていた。
あたしがCafeの入口を、開けた途端に、洋輔が怒る。
「トウコ、なんで、戻ってきたんだよ」
「今は行かない方が、いいと思ったから」
「なんだよ、それ」
「いいから、元の席に戻ろう」
怒ったままの洋輔の腕を掴み、あたしは、グイグイと彼の腕を引っ張り、自分たちの席に戻った。
あたしたちが戻って来た事に、藤井くんは不思議そうな表情。
「どうかしたの、ふたりとも?」
「俺もよくわかんね」
洋輔は彼にそう答えてから、あたしを冷たくみる。彼の視線の冷たさに耐えられそうもなく、さっきと同じ事を言うしかなかった。
「行かない方が……いいと、思ったの」
あたしの言葉に理解できずにいる彼ら。ふたり分の視線があたしを責めるのだった。
そんな中、Cafeの入口を見て、オロオロしている哲太さんが、あたしたちの目に映る。視線の先をあたしたちも、息をとめては見入った。
雨の中、マス姉はやっとの思いで、ハイツの入口の扉を開けていた。彼女の頬には涙が、こぼれている様にも見えた。
それが雨のせいなのかは、ここにいる全員――――――わからなかった。
誰も動く事ができずにいる。あたしも含め、みんなマス姉の事も、見つめる事しかできなかった。
「普通じゃなくね?」
張りつめた空気の中、口を開いたのは洋輔、それに藤井くんが、落ち着いた様子で答える。
「ああ、普通じゃないね」
「そうね、今日はそっとしておいた方がいいと思う」
あたしは顔を伏せ気味に、誰とも視線を合わせないようにした。
藤井くんはあたしの様子に、気が付いたのか、優しい言葉を掛けてくれる。
「何があったのか、教えてくれないかな?」
「――――あたしが、勝手に話すのは」
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