勇者を救ったのは、強く残念な者たち。【Nice】あまりにも無謀で、あきれるほど強い。

桜良 壽ノ丞

文字の大きさ
6 / 21
【1】ものすごく怪しくて、あまり信用できない。

元勇者界隈に騙されていた世界。

しおりを挟む


「やべえ、この元勇者さん、オレの名前知ってる! オレもしかして勇者に覚えられるくらい強いっつうことか!」
「え? 元勇……アイゼン様、ニースの事を御存じだったのですか!」
「え、え? あー、いやー……」

 アイゼンは先程から「ニース」「ジェイン」と呼び合っているのを聞いていただけだ。しかし、この流れではもうそれも言い出せない。

「な、名前だけは聞いていた。とても強い退治屋だと。ジェインくん、もちろん俺は君の事も覚えている。5人兄弟の……4人目の王子さまだったかと」
「そうです、ええそうですとも! まさか、ボクを見て王子だと気付く方がいるなんて!」

 賢くないニースと、世間知らずなジェイン。2人は大はしゃぎで喜び合う。
 そんな様子を見て、勇者は気づいてしまった。

 この2人が、とんでもないアホの子だと。

「さあアイゼン様、ニースを次期勇者に推薦しに向かいましょう!」
「オレが次期勇者として、モンスターを全部よゆーで倒しまくってやんよ!」

 今更、人選を間違ったとは言い出せない。
 アイゼンはまた痛み出した胃を押さえつつ、笑顔を張り付けて2人の後に続いた。

 胃が痛いと言い出せば、またしょっぱいヒールを掛けられるだろう。
 元勇者アイゼンの心労は、もう少しばかり続きそうだ。




 * * * * * * * * *




「うぉりゃあああーっ!」

 ニースが剣を振り回し、モンスターを一刀両断していく。
 全身が黒い狼のようなモンスターは、牙を剥いた次の瞬間に下半身を失った。

「ふんぬぅぅー!」

 背丈が3メルテ程もある太めの巨人「トロル」がこん棒を振り下ろす。
 しかし、ニースは機敏にかわし、跳び上がる。
 トロルは振り下ろした手を足場にされ、そのまま胸を一突きされて息絶えた。

「よっしゃ次!」

 町に着くまで、ニースは殆どのモンスターを1人で倒した。
 アイゼンとジェインを守りながら……という自覚があるかは分からないが、モンスターは2人に襲い掛かる事ができずにいた。

「凄い……いや、相手するモンスターが初級・中級者レベルなのは分かる。けれど君の剣の威力は信じられない」
「あ? それなんか疑ってんすか。それとも剣がすげえって言ってんすか。ナメてんすか」
「君自身が信じられないくらい強いと言っているんだ」
「へっへっ、まあな」

 街道を歩いていると、やがて草原のど真ん中に高い外壁が見え始めた。
 町や村は、モンスターの侵入を防ぐため、大抵は高い壁を築いて暮らしている。

 外壁の門をくぐれば、ポツポツと家が並ぶ。中心部までは少し歩かなければならないようだ。
 アイゼンはフードを被り、やや俯いて歩く。

「ニース、すまないが先に宿屋へ寄らないか」
「あー腹痛えんすね、うんこっすね、分かったす。宿って勇者割とかないんすか」
「腹は平気だよ。生憎、割引などの厚意は遠慮している。それより先に話しておきたい事があるんだ」

 大抵の宿屋は町の中心部にある。酒場や賭博場が近く、飯処も多いからだ。
 疲れて立ち寄った時は外壁の近くに欲しいと感じるものの、町が大きければ大きい程、郊外には何もない。

「ニース、その……今更なんだけど、ボクはこの後も一緒に旅をしていいんだよね」
「あとは一人で帰れなんて言わねえよ。旅に出るっつって2,3日で帰る奴がいるかよ」
「うん、有難う」

 城ではジェインが戻らないと言って大騒ぎになっている。それがニース達の耳に入るのは、もう少し後になるだろう。

「あ、あれは宿じゃないかい?」

 10分程歩いた時、徐々に増え始めた家々の中に、1軒の小さな宿屋を発見した。
 宿とは書いているものの、大きさは通常の民家と変わりない。

「まあ、ここでいいや。アイゼンさん、いいすよね」
「こだわりはないよ。君の名義で宿を取ってくれるかい、俺の名前を書くと、騒ぎになる」
「そうですねえ。元とはいえ、勇者様が来たとなれば人が押し寄せそうです」
「王子のおめーの名前も駄目だからな。金目のもん狙われるの面倒だし」

 木造の建物は随分と古い。ただ、床もカウンターも綺麗に磨かれ、手入れは行き届いていた。

 ニースは代表で記帳し、4人部屋を1つ取った。
 3つある部屋の、どれも4人部屋なのだから仕方がない。

「さーて、オレ風呂に入りてえな。飯まで腕立てして、腹筋と……」
「その前に、少し話を聞いて欲しい」

 アイゼンがベッドに腰かけ、真剣な顔でニースを見ている。
 ニースとジェインもそれぞれのベッドに腰を下ろし、話を促した。

「俺は、次の勇者を探して旅をしていた。勇者が不在となっているのは、一応まだ勇者だけど戦えない事になっているからだ」
「あ? ちょっと待って、いきなり難しい話っすか。オレ心の準備してねえと無理だ」
「ボクも一緒に聞くから大丈夫だよ。戦えないから、実質不在という事ですね」

 ニースはとても真剣な顔で話を聞いている。
 頭に入らなくても、彼なりにしっかり聞こうとする気はあるのだ。

「オレは、ドラゴン退治で怪我を負ったという話になっている。だから、表立っては行動できないんだ」
「ごめん、難しい。つまりどういう事すか」
「え、この時点でもう!?」
「勇者だとバレるとまずいから、顔を見られないように行動したいって事さ」
「なんで?」

 ジェインは理解しているが、ニースは理解できていない。
 話をニースのレベルまで落とした方が早いと思い、アイゼンは回りくどい言い方をやめた。

「勇者だと知られたら、俺がこうして無事でいる事に不信感を持たれる」
「もしかして、ドラゴン退治に失敗したというのは……嘘ですか?」
「ああ、そうだ。俺はドラゴン退治になど行っていない」

 衝撃の告白に、ジェインが目をまんまるにして驚く。
 しかし、ニースはその隣で首を傾げていた。

「つまりどういう事?」
「え、え……? 今の説明、だいぶ分かりやすかったと思うんだけど」
「アイゼン様は、ドラゴン退治で怪我をしたと嘘を付いてるんだよ」
「あ? 何、勇者仮病すか」
「まあ、早い話がそうだね」

 ニースは心底落胆していた。
 勇者はいつも自信満々で、嘘などつかない存在だと信じていた。

 ニースはかつて「勇者はトイレに行かないんだぞ」と教えられた事がある。
 それからしばらく、「自分もトイレに行かなければ勇者になれる」と思ったくらいに純粋な子だった。

「オレさ、腹痛えっつうから、ゆっくり歩いたのによ。薬飲む真似までしてあざむ……あざむ、く? とかサイテーす」

 アイゼンとジェインが思わず顔を見合わせる。

「え? そっち?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...