勇者を救ったのは、強く残念な者たち。【Nice】あまりにも無謀で、あきれるほど強い。

桜良 壽ノ丞

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【1】ものすごく怪しくて、あまり信用できない。

振り返らざるを得ない過去。

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 アイゼンが出来るだけ分かりやすく話し、その話を更にジェインが要約する。
 ニースはそれで、どうにか事の真相を理解することが出来た。

「しかし、歴代の勇者様の多くがドラゴン退治に失敗している……その真相がまさかそんなものだったとは」
「ああ。勇者を辞めたいと思っても、そう簡単に辞める事は出来ない。辞める理由の説明も難しい。だから、ドラゴンに負けた事にするんだ」
「実際には誰もドラゴンと戦っていないのですね」

 ドラゴン退治に向かったというのは嘘。その嘘は、勇者が辞めたい時に使う定番のものだった。
 アイゼンは勇者を辞めたくて、次の勇者を探していたのだ。

「もっと言うと、ドラゴンというモンスターがいるのかいないのか、そもそもそこからして本当は分からないんだ」
「え? ドラゴンはこの世に存在しない、架空のモンスターなのですか!」

 勇者はおでこを掻き、自分も当初はいると信じていたと明かす。
 伝説上のドラゴンバスターと呼ばれた勇者は、多くの者が今なお憧れる存在だ。

「しかし、そんなに大変なのですね、勇者という身分は」
「まあ、俺には合わなかった、ってことだよ。ストレスで胃の痛みも治まらなくて」
「けれど、勇者が不在となれば、モンスターを統べるという魔王はどうなるのですか」
「魔王というのも、勇者制度の目的として作り出されたおとぎ話さ」

 アイゼンは誰にも言わなかった秘密を打ち明けた。
 それは、ニースを絶対に次期勇者にすると決めたからだ。
 思考能力にはやや不安があるものの、腕前は確かだ。見た目や口調とは裏腹に、悪い事とは一切無縁な所も理由だった。

 だが、肝心のニースは凹んだままだ。
 魔王もいないと知った時、ニースはとうとう我慢が出来なくなった。

「えーっ! 魔王もいねえのー!?」

 ニースは仰向けの体勢から起き上がり、涙目でアイゼンを睨む。

「オレ、ドラゴンと魔王をぶっ倒してくるって言って故郷出て来たんだけど!」
「そ、それはすまなかった。俺も最初は信じていたけどね」
「どっちともいねえとか、じゃあ俺何目指して退治屋になったんだよ……」

 ニースはいつかはドラゴンや魔王と戦えると信じていた。
 勇者の座を奪おうなどとは考えていなかったが、勇者より活躍する気で冒険者になった。
 まさか、おとぎ話を信じて冒険者になっていたとは、思ってもいなかったのだ。

「そういう冒険者は多い。実際に、オレもそうやって名を馳せるつもりだった。結果として、勇者に選ばれたから名を馳せることは出来たけど」
「なあ、何で勇者やってんすか。ドラゴンも魔王もいねえのに、勇者って何すか」

 ニースの言葉に、アイゼンは一瞬言葉が詰まった。
 アイゼンは品行方正な勇者のイメージを損なってしまい、申し訳なく思っていた。

 だが、勇者になって欲しいと思ったからこそ、ここまで明かしたのだ。
 アイゼンは、この際全てを明かそうと決め、自身の動機を語り始めた。

「俺の故郷は小さな村だった。海と畑があるだけの貧しい村さ。俺も貧しい家庭に育った」
「アイゼン様が? 失礼ですが、アイゼン様の故郷はとても発展している、とお聞きしましたが」
「俺が勇者になった事で発展したよ。辺鄙な所だから、それまで国にも見捨てられていた。国の役人が来るのも年1回、税を取りにくるだけ」

 世の中には英才教育を施され、幼い頃から一流を約束された冒険者もいる。
 アンドニカの国王と妃も、ジェインに武器や魔法の才能があれば……冒険者ギルドの役員にするつもりだった。

 そんな者らを押しのけて勇者の座に就くのは、並大抵の努力で成せることではない。

「ある時、ふと勇者の話が出た。100代目の勇者の地元に、記念の銅像が建てられた、訪問者が増えて、町が潤ったと」
「代々勇者を輩出した町や村は、それぞれ聖地化されていますね」
「その時思ったんだ。俺がもし有名になれたら、この村も豊かになるんじゃないかって」

 アイゼンは見捨てられた故郷のため、勇者を目指していた。
 その話を聞き、ニースは俯いたまま頷く。

「でも、勇者の実態は……使いっぱしりさ。いつでも笑顔、何でも出来て当たり前。全ての期待に応えなくちゃならない。とうとう胃の痛みが激しくなってね、もう無理だと思った」

 アイゼンは、「結局、俺も真の勇者たる資格はなかった」と寂しそうに呟く。

「……その話、嘘じゃねえよな」
「ああ、嘘じゃない。俺の生い立ちも勇者になるまでも、胃の痛みも全部本当だ」

「オレが……勇者になれたら、オレの故郷を救えるか」
「君の故郷はどこなんだい?」
「そういえば、ボクも聞いていませんでした」

 ニースは少し間を取り、出身を明かす。

「ディフォレストだ」
「ディフォレスト?」
「……トリスタン島と言えば分かるか」
「何だって!?」
「暗黒大陸……」

 ニースの故郷の名を聞き、アイゼンとジェインの顔が青ざめた。

「トリスタンは、今どんな状況なんだ? 人が住んでいるのか」
「アンドニカとは交易がなかった、いや、どこの国も……」
「ああ、そうだよ! そうやってみんな見捨てた!」

 トリスタン島は、アンドニカがある「アケドナ大陸」の北東3000キルテに位置する小さな島だ。

 一番近い大陸は東にある「ジェム大陸」だが、そこも2500キルテ程離れている。大陸の最寄りの港町となれば、更に遠い。

「地震の後、海洋性のモンスターが押し寄せたと聞いた。でも帆船で2週間以上掛かる島だ、助けに行こうにも……」
「ああ、分かってるよ、トリスタンには大きな船が寄港できる港もねえし」
「あ、アンドニカからも支援に向かったんだ! けれど海のモンスターには対処できず……すまない、船は引き返したと聞く」

 ニースの故郷は、7年前に壊滅していた。

 元々島には平坦な場所が少なく、海沿いの平地に集落が3つあるだけだった。
 ニースが住んでいたディフォレスト村は一番人口が多く、当時460人が長閑に暮らしていた。

 その島の付近で地震が起き、津波と共に海洋性のモンスターが一気になだれ込んだ。
 津波とモンスターで島の大半の住民が死亡。集落はどこも全てを流された。

 付近を航行中だった船が、津波に飲み込まれるトリスタン島を目撃していた。
 中心にそびえ立つ標高300メルテの山以外、殆どが見えなくなったという。

「全島で100人くらい生き残ってるよ、でも訪問者はいない。まあ来られないよな、今更。なあ、俺が勇者になれたら、トリスタンを復興できるか」
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