勇者を救ったのは、強く残念な者たち。【Nice】あまりにも無謀で、あきれるほど強い。

桜良 壽ノ丞

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【2】ものすごく残念で、あまり頼りたく…

反省だけならオレでもできる。

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 * * * * * * * * *



「本当にすまなかった、気が付いたら倒していたんだ。君の手柄を横取りしたような形になって本当に……」
「いや謝るのそこじゃねえじゃん。今それよりやべー事になってんだろうが」

 空を覆っていた厚い雲はなくなり、青空が3人と1匹を照らしている。
 周囲の地面は濡れているものの、陽が沈むまでにはある程度乾きそうだ。
 森のようなモンスターは消滅している。街道だと思っていた道は、随分と手前から擬態によって変えられていたようだ。

 ニースはパンツ1枚になり、ずぶ濡れの装備を乾かしている。
 ジェインは鞄ごと濡れてしまった着替えの半袖シャツを乾かし、恥ずかしそうにコートから着替えた。
 3人は持ち物が乾ききるまで休憩するようだ。

「どうすんだよこれ」
「……どうしよう。いや、決して悪気があった訳じゃないんだ」

 ニースが腕組みをし、ジェインが困ったように俯いている。
 その少し離れた所では、アイゼンが膝を抱えて泣いていた。
 半袖シャツに、下は膝上までのズボン。ジェインのように、乾きの早かった服から身に着けたようだ。

「全力で勇者の心折る馬鹿がどこにいるよ、あいつ心弱いんだぞ」
「ボクは国民の仇と思って魔法を放っただけだ、アイゼンに見せつけた訳じゃない」
「マァーォ」
「なあー? 今回一番活躍したのはネッコだもんなあ?」

 2人の会話がアイゼンの心を更に抉る。
 ニースはゆっくりとアイゼンに近付き、そっとしゃがんでアイゼンの顔を覗き込んだ。

「いい加減機嫌直せって、あんなんいつでも出来る魔法じゃねえんだから」
「……いいんだ、もう、俺は……グスッ、勇者を、辞めるんだ」
「あーもう、辞めたいなら辞めたいで代わりやってやるし。何が不満なんだよ」

 アイゼンはジェインの魔法の威力を見て、完全に心が折れていた。
 アイゼンはこれまで勇者として双剣で道を切り開き、猛勉強で身に着けた知識や技術で人々を救ってきた。

 だが、それがあまりにも「相対的に」些細な事だったと気付いてしまったのだ。

「なんだよ、グスッ……雨って降らせられるんじゃん。給水車呼んだ俺って何?」
「いや、あんなの雨だけじゃなくて雷で全滅だぞ」
「ニースは強いし躊躇なく果敢に立ち向かう、ジェインは強力な魔法が使える、俺って何よ、弱いじゃん。勇者弱いじゃん」
「いや弱くねえし、つかみんなおめー頼ってんすわ。オレが退治屋名乗っても何も依頼来なかったぞ」

 ゴーレムを1撃で倒すニース、前代未聞の魔法威力を誇るジェイン。
 その2人を前に、アイゼンは勇者である事以外に誇れるものを失ってしまった。

 元々アイゼンは気が強い訳でもなく、ただ正義感だけで立っていられただけだ。
 行きつけの酒場で愚痴を言うくらい、落ち込み易い。

「仲間より弱い、魔法も使えない。度胸もない。辞めたいどころかそもそも俺って勇者やっちゃ駄目じゃん。何だよ強い奴がさっさと勇者やっとけよ、だから俺みたいなのが勘違いするじゃん」
「アイゼン。君に救われた者達の気持ちを考えた方がいい。皆、強い者に対してではなく、君に感謝しているんだよ」
「ジェイン……」

 アイゼンが赤く目を腫らした顔でジェインを見上げる。

「……俺はそう言ってくれるお前に心を折られたんだけどな」
「す、すまない。それは本当にすまない」

 しばらく無言だったが、アイゼンが大きくため息をつき、ゆっくりと立ち上がる。
 ニースは乾いた半袖シャツを着ながら、アイゼンに声を掛けた。

「なあ、アイゼン」
「ん?」
「勇者辞めねえ?」
「え? いや、俺は辞めるつもりなんだけど」
「そうじゃなくてさ」

 ネッコが地面に下ろされた事を不満そうに訴え、ニースに「早く着ろ」と急かす。

「オレ思ったんだけどさあ」
「ん?」
「勇者の仕事が何か、オレ分かってねえんだよな」
「勇者の仕事?」

 ニースは勇者に対し漠然としたイメージしか持っていない。
 勇敢で、頼りになる。その中身が何かまで気にした事がない。

「勇者にさ、何を頼んだらいいか分かんねえ」
「えっ」
「お前何頼まれたかったの」
「そう、言われると……」
「別に勇者じゃなくても出来るんじゃねえの?」

 アイゼンも言葉に詰まってしまった。
 子供のお使いのような扱いはアイゼンの胃を痛めつけてきたが、では何が勇者の仕事なのか。
 強いモンスターの退治は間違いなく勇者の仕事だとして、勇者が必ず居合わせる時ばかりではない。

 勇者は何故必要とされるのか。

「オレは退治屋名乗ってる冒険者だし、モンスターは退治屋が倒す。他に困った事ありゃあ冒険者が片付けるじゃん」
「ボクが見る限り、冒険者はみんなニースのように、得意な分野を掲げているよね。でも勇者は何をする存在か分からないから、みんなとりあえず何でも頼む」
「おー、なるほど! 今の説明はオレでも分かった」

 アイゼンはジェインの指摘を受け、今までの勇者や勇者を頼る人々を思い返していた。

「……勇者は何でも屋のように思われていて、彼らにとっては当たり前の依頼だったのか」
「まあ、勇者がやってくれたって言えば、見栄張る事も出来るからな」
「今までの勇者の功績も、何と言われると思い出せない。そして皆、ドラゴン退治に向かって辞めた事になっている」
「途中で辞めたくなったって事だね」

 アイゼンはしばし考え、干している装備を振り返った。
 赤いマントが取り付けられた、勇者のトレードマークとなった軽鎧だ。

「……俺は、今までの勇者と同じ道を辿っている。ニースが勇者になれば、今度はニースが」
「アイゼン?」
「俺は、そのような逃げ方をしていいのか」

 ニースが勇者として何でもこなすかは疑問がある。
 それでも今のアイゼンの行動は、嫌な事をニースに押し付けるのと同じだ。

「……せっかく、ここまで耐えてきたじゃないか」

 アイゼンが自分に言い聞かせる。ようやく自分が勇者としてやるべき、最後の仕事が分かったのだ。

「2人共、俺は大切な任務を思い出した。だが、俺1人で出来るか不安だ」
「え、何?」
「強いモンスターがいるのか? おう手伝うぞ」
「冒険者協会の本部に着いてから説明する。一緒に来て欲しい」

 アイゼンが力強い眼差しを取り戻した。

「君の故郷のトリスタン島の支援は、俺が協会本部に頼む。だから君は心配しなくていい」
「お、おう」

 まだアイゼンの目は赤い。だがもう涙は落ちない。
 次の目的地を地図で示し、時間や道中のモンスター情報などを説明する。
 ニース達よりやや年上である事を除いても、アイゼンにはどこか安心感があった。

「……俺に譲るって言ったけどさ」
「ん?」
「おめー、やっぱ勇者似合ってるよ」

 先程は勇者としてのプライドをへし折られたと思っていた。
 けれど、こうして認めてくれる者がいれば、また頑張れる。

「……こういうのを、やりがい搾取って言うんだよな。知ってるんだ」

 そう呟きながらも、アイゼンは笑顔だった。
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