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【2】ものすごく残念で、あまり頼りたく…
チョットの長さをそろそろ定義するべきだと分かる事例。
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「しっかし、でっけー町だよなあ」
「町よりも今はアイゼンさんの心配をするべきではないですか?」
蒸気機関車は途中の町で給水休憩等を挟みつつ、8時間を掛けて目的の町にたどり着いていた。
アンドニカ王国最西端の町、コニヤ。
川を挟んで北に位置する隣国との貿易の要所であり、国内最大の工業都市だ。
森や林が点在する山間の扇状地は、大河を伴って海へと続く。
コニヤで作られたものの多くは海から他の国へ輸出され、王国の重要な資金源となっていた。
整った石畳やモルタルの道に、レンガ造りの建物。郊外の木造の家々も手入れが行き届いている。
海沿いには製鉄所や町工場が並び、露店通りには人が溢れかえっていた。
「アイゼンさん、大丈夫でしょうか」
「大丈夫じゃなくても、今のオレらに出来る事はねえよ」
ニースが小さな四角い窓から外を眺め、ため息をついて座り込む。
ニースとアーサーは冒険者協会に着いた後、アイゼン達とは別室にいた。
石造りの室内には調度品がなく、外を眺める窓は小さい。扉は外から鍵が閉まっている。
早い話が、牢屋だ。
「ったくよ、とりあえず牢屋に通すって、この町の礼儀どうなってんだ」
「ああ、アイゼンさんがもし拷問などをされていたら……」
「んー、オレは眠いしちょっと横になっとくわ」
「心配って言葉知ってますか?」
ニース達は盗賊共を町に差し出し、報奨金を沢山受け取った。
それから冒険者協会本部に向かい、アイゼンが会長との面談を申し出た時……ちょっとした事件が起こった。
「別にジェインを誘拐とかしてねえんだしさ」
「僕はジェインさんが王子だった事すら知らなかったんですが」
ジェインの家出騒動は、コニヤまで伝わっていた。
王子ジェインが何者かに攫われ、もう1週間以上戻ってきていない、と。
ジェインの感覚と王室の感覚がずれていたようだ。
ジェインが弁明するも、言わされているだけだとされ、信用してもらえない。
結局、ニース達は王子誘拐の罪で逮捕されてしまった。
「臭い飯食わせてやるって、どういう事でしょう。ニースさん……は、本当に寝たのか」
1時間程が経ち、看守がようやく牢屋の扉を開けた。
アイゼンが職員らを説得し、ジェインが城との電話で無事を伝えた事で、疑いが晴れたのだ。
「おい2人共、出ろ……おい」
看守の男が扉を開けた時、ニースは見事に爆睡していた。
ニースの腹の上ではネッコも寝ており、アーサーまでもが寝息を立てている。
アイゼンを心配する様子は何だったのか。
「おいっ! 起きろ!」
看守が怒鳴り、石壁の室内に響き渡る。
付近の牢屋からは「うるせえぞ」や「くたばれ」等の怒号が浴びせられた。
まず目を覚ましたのはネッコだ。大きなあくびをして伸びをし、看守が恐怖でしりもちをつく。
続いてアーサーがパチリと目を開け、最後にニースが起き上がった。
「あー、何すか、臭い飯すか」
「解放してやる、さっさと出ろ」
看守は腕組みをし、侮蔑を込めた眼差しを向けている。
ニースはまだ頭がぼーっとしているのか、あまり意味が分かっていないようだ。
もう一度ベッドに横たわり、目を閉じようとする。
「おい、出ろって言ってんだろうが!」
「何だようるせえな。入れっつったり出ろっつったり」
「ジェイン様の計らいで、貴様らの疑いは晴れた。だからさっさと……」
「あ?」
ニースの眉間に深い皺が刻まれた。
「おいおっさん。オレ達悪い事してねえっつうことだよな」
「だから出ろと言っている」
「何で悪い事してねえオレ達に偉そうなんだよ」
「あー僕も気になってましたね」
不機嫌なニース、頭1つ分背が高いアーサー。
2人に睨まれた事で、流石の看守も言い淀む。
「ごめんなさいは人の基本だろうが。悪人と決めつけて捕まえてんじゃねえよ」
「何だと?」
「ごめんなさい、ほら言ってみろ」
「俺は仕事をしたまでだ」
「うーわ、だっせえ。謝れない大人クソだ……うんこだせえ」
そう言うと、ニースは看守の手から鍵を奪い取った。
呆気に取られた看守をベッドに投げ飛ばし、アーサーと共に牢の外へ出る。
鍵が締まったところで、閉じ込められた看守が立ち上がった。
「おい! 何の真似だ!」
「いや、別にオレ真似とかは特にしてないすね」
「扉越しだと見えないのでは」
「だよな。何で誰も見てねえのにモノマネすると思ったんすか」
ニースは鍵を握り潰し、廊下の突き当りへとぶん投げた。
2人と1匹は看守の罵声を無視して牢を去り、アイゼン達の許へと向かった。
* * * * * * * * *
「この通り、どうかお許し下さい!」
「わたくし達が間違っておりました!」
更に30分後。
治安維持組織のロビーでは、お偉い方を含む数十人がニース達に頭を下げていた。
「ジェイン、おめーの国どーなってんだよ」
「すまない、本当にすまない! 父上が勘違いをしていたようで」
「よく言っとけ。てめえの手駒が偉そうにしやがってって」
「ああ、役人の素行についてはよく話しておく」
ロビーに集まった野次馬達が、拍手で4人を称える。
住民は日頃から治安維持隊に物申したいことがあったようだ。
「こいつら本当に偉そうなんです! 権力をチラつかせて」
「そうそう! 捕まりてえのか? とか言いながらニヤニヤと」
「やっぱり勇者ご一行! 理不尽で粗暴な役人からこの町を救ってくれた!」
王子が代わりに頭を下げるなど前代未聞。
近いうちに王都まで知れ渡り、王様はきっと激怒する。
隊長の男は顔面蒼白で固まっていた。
「重ねて言うけれど、ボクは自分の意志でここにいる。勇者のアイゼンがボクを攫うと思うかい?」
「お、思いません……」
「退治屋と鉱夫がボクを攫うと思うかい?」
「そ、そこは、あの、はい……」
隊長は正直だった。確かに退治屋や鉱夫が王子を連れているのは怪し過ぎる。
アイゼンはボロが出始める前にと話を遮った。
「さて。ジェイン、君は王様に何と言われたんだい」
「ちょっと行ってくるにしてはあまりにも長過ぎると」
「確かにちょっとって……んー、人によるよな」
4人の間でもちょっとの捉え方が異なっていた。
ちなみにジェインは国内1周のつもりだったという。
まさかの時間ではなく距離。
アイゼンのちょっとは30分、アーサーは5分、ネッコはマァーォ。
ニースのちょっとは2年だった。
「ジェイン、お前……帰っちまうのか?」
「ニースさんを護衛にして気を付けてお帰り下さい」
「何でテメーはアイゼン以外いらねえみたいな態度すんの」
「帰らないよ。ボクはまだ知らない事が多過ぎる。もっと世界を知りたいと頼み込んだよ」
ジェインはもう少し一緒にいさせてくれと頼む込む。
この場合の「もう少し」も怪しいところだが、ニースやアイゼンに拒む理由はない。
「王様が納得してんならいいけどよ……そこんとこ大丈夫なんだろうな」
「条件付きだが、きちんと承諾は得ている」
「ジェインさん。条件とは何ですか」
「ああ、条件を引き出すまでは大変だったけどね」
そう言ってジェインがニッコリと微笑む。
「ボクに何かがあったら、勇者であろうと全員火あぶりという事でなんとか落ち着いたよ」
「落ち着いてねーよ! 何でオレ達が罰もらうんだよ!」
「何でその条件を飲んだんですか」
「……早く辞めよ」
アイゼンが小さく決意を呟き、再び冒険者協会本部へと歩き出す。
アイゼンはとうとう勇者を辞める事が出来るのか。
次の勇者はニースになってしまうのか……。
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