【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

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五章 一幕:お伽噺と魔王の正体

五章 一幕 6話-2

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「ルゥ、騎士団はどう? イグドラシエルにもらった祝福の力をちゃんと使えるようにするために、俺の魔力に染まったルゥの体を、ルゥの魔力で満たす必要があるんだろう? だから、魔力をたくさん使う環境に身を置くために、兄上に交渉したって聞いたけど」

 うん、とルヴィウスが小さく頷く。

「兄上も、俺がいない穴を埋めるために、ルゥが魔剣士になるのは合理的だって周りを説得したって手紙をくれたよ。うるさい奴らを黙らせるために、ルゥがわざわざ公爵家から除籍して騎士団に入ったことも、カトレアから聞いた」

 ルヴィウスはもう一度、うん、と小さく頷く。今度は、レオンハルトのシャツの背中をぎゅっと握りしめた。たったそれだけのことで、レオンハルトはこれから何を聞こうが、ルヴィウスが「なんでもない」「平気」と答えてくるであろうことを予測した。

「ルゥ、騎士団で何があった?」
「なんにもない」
「身分が平民になったことで、周りが何か言ってくるんだろう?」
「大丈夫」
「ルゥ、言って」
「平気だもん」

 頑ななルヴィウスに、レオンハルトは小さくため息をつく。

「わかった。じゃあ、俺が言う」

 そう言われ、ルヴィウスは「え?」と顔を上げた。

「兄上から連絡もらってる。襲われそうになったんだってな。兄上が迅速に対処してくれて処分も下したって言われたし、ルゥが頑張ってるんだから余計な手を出すなって釘をさされたから我慢したけど。本当は息の根を止めてやりたかった。腹いせ代わりに魔物狩りしたら、カトレアに“主君は怒るとやっぱり魔王ですね”って言われたよ」

 むすっ、と不機嫌な表情を隠そうともしないレオンハルトを見ていたら、ルヴィウスは可笑しくて笑いがこみ上げてきてしまった。

「ふふふっ、僕は魔王みたいなレオも好きだよ。容赦しないところがカッコいいよね」
「その容赦ない魔王を止められるのはルゥだけなんだから、結論としてはルゥが最強ってことになるな」
「なにその無茶苦茶な理論、ふふっ」

 ルヴィウスの声音が少し柔らかいものになる。レオンハルトはヴェール越しにルヴィウスの柔らかい黒髪を撫でながら言った。

「兄上が、甘えてきてくれないって言ってたよ。騎士団で嫌がらせを受けてるって報告が上がってきても、ルゥが訴えてきてくれないとどうにもできないって。ガイルや第二騎士団のルイズが騎士仲間に声を掛けてくれてたけど、訓練生と見習い騎士は管轄が違うから手を回しきれなかったみたいだ。ごめんな、早く気づいてやれなくて」

 ううん、と答え、ルヴィウスはもう一度レオンハルトにすり寄った。
 自分に対する理不尽な扱いに、腹を立ててくれる人たちがいる。間違ってると、声を上げてくれる人がいる。先回りして対処できないか、行動してくれる人がいる。だから、頑張ってこられた。レオンハルトと離れていても、独りじゃないと思えたから、歯を食いしばれた。

「頑張ったな。偉かった。よくやったよ。もう大丈夫」

 うん、と呟いて答えたルヴィウスの視界が、再び歪む。
 頑張ってきた今日までの日々を、レオンハルトが褒めてくれる。頭や背中を撫でながら、ルヴィウスが負ってきた沢山の小さな心の傷を癒してくれる。ベッドにもぐり込み、独りで声を殺して泣いた夜が、救われていく。
 ルヴィウスは我慢するのをやめて、声を上げて泣いた。そんな自分を、レオンハルトがしっかりと抱きしめてくれる。自分が思っていたよりもずっと、傷ついて苦しかったのだと、ルヴィウスは気づかされた。

 ひとしきり泣いたあと、ルヴィウスは顔を上げる。ヴェール越しにレオンハルトが涙を拭ってくれて、赤くなった目尻や、少し腫れぼったくなった瞼に、治癒魔法を掛けてくれた。
 その優しさに胸が、きゅうっ、と締め付けられ、レオンハルトの姿をはっきりとした輪郭で捉えたくなったルヴィウスは、するり、とヴェールを取った。
 すると、レオンハルトは咄嗟に体半分ほど横に移動し、ルヴィウスとの距離を空けた。
 それが寂しく感じられ、ルヴィウスの表情が曇る。

「ごめん」すぐに気づいたレオンハルトが謝罪を口にする。「そのヴェールが無いとルゥに触れないんだ」
「これ?」

 ルヴィウスがヴェールを両手に持つ。七色に輝くレース編みのヴェール。結婚式の時に花嫁が被る、ロングヴェールによく似ている。

「それ、イグドラシエルがくれたんだ。古代竜のたてがみで出来てるんだって」
「古代竜のたてがみ……。つまり、ウェテノージル様のたてがみってこと?」

 迷いなくそう言ったルヴィウスに、レオンハルトは目を見開いた。

 ウェテノージルが竜に例えられることはあっても、本当に竜だったことは、誰も知らないはずだ。
 レオンハルトも、イグドラシエルの元へ誘われなければ、彼の元の姿が竜だと知ることはなかっただろう。それを知っていると言うことは……。

「ルゥ、もしかしてウェテノージルに会った?」
「うん。会ったって言うか、中に居たって言うか」
「中にって、体の中?」

 レオンハルトが訝しげに眉根を寄せる。ルヴィウスは小さく頷いた。

「たぶん、その所為だと思うけど、眠ってる間にイグドラシエル様とウェテノージル様の記憶を見たんだ。それと、誰に教わることもなく魔法がすごく上達した」
「じゃあ、彼らに何があったのか、知ってるんだな」
「うん。イグドラシエル様、レオにはなんて言ってた?」
「ルゥと一緒に来いって。二人揃ってここへ来てくれないと困るって言ってた。あと、用意して持ってきてほしい物があるって言ってた」

 ルヴィウスは「そう」と呟きながら、言葉を探しあぐね、両手を握りしめた。
 イグドラシエルがレオンハルトに告げた「用意して持ってきてほしいもの」は、ウェテノージルがルヴィウスに手に入れろと言った「逆鱗の対になるもの」だろう。出来れば、確実に手に入る時まで黙っていたい。レオンハルトのことだ。知ればきっと、いとも簡単に手に入れてきてしまう。それでは意味がないのだ。ウェテノージルは、ルヴィウスに手に入れろと言った。それが存在証明になるのだ、と。
 それに、今までレオンハルトから貰うばかりで、自分で手に入れたものをあげたことがない。だから、なんとしてでも自分で手に入れ、彼に渡したい。

 黙り込んでしまったルヴィウスの様子から、知っているのだと察したレオンハルトは、硬い声音で投げかけた。

「ルゥ、知ってるんだな?」

 その問いかけに、ルヴィウスは、こくん、と頷いた。しかし、眉根を寄せて訴える。

「僕が手に入れてくるから、信じて待っていて欲しいんだ」
「俺が手を出だしたらダメってこと?」
「そういう理由もあるけど……、僕が君のためにしてあげたいって言うか……」

 予想外の返答に、レオンハルトは目を瞬かせた。

「それ、危ないことに巻き込まれたりしない?」
「しない。どっちかって言うと、様式美、みたいな感じ。手に入れるために、手順を踏む必要があるだけ。だから、信じて待っててほしい」

 ルヴィウスは銀月色の瞳で、じっ、と蒼い瞳を見つめた。そこには、嘘もごまかしもない。
 しばらく考え込んだレオンハルトは、小さくため息をつく。ルヴィウスは頑固なところがある。特に、レオンハルトに関わる物事に関しては、一度こうと決めたら絶対に譲らない。

「わかった。他には? まだ何かある?」

 優しい声とともに、レオンハルトが再びルヴィウスにヴェールを掛ける。そして、その美しいレース編み越しに、ルヴィウスの頬を撫でた。
 澄んだ夏空のような蒼い瞳が、真っ直ぐにルヴィウスを見つめている。彼はきっと、ルヴィウスがまだ何か知っているとわかっている。

 こういう時、最も不適切な回答は「なにもない」だ。だからルヴィウスは、言ってはいけないたった一つのことを隠すため、ウェテノージルから得た情報で、レオンハルトがまだ知らない物事を語ることにした。
 ルヴィウスは、ふぅ、と一つ息をつき、心を決めて顔を上げる。

「レオは、イグドラシエル様から赤い実をもらったりした?」
「もらった。なんで知ってるの」
「僕も持ってるから」
「赤い実を?」
「そう。たぶん、レオが持ってるのはイグドラシエル様の欠片で、僕が持ってるのはウェテノージル様の欠片だと思う」
「なんでルゥのほうにウェテノージルの欠片があるんだ? 俺がウェテノージルを継ぐ者なんだから、俺がそっちを持ってないとおかしい気がするけど」

 ルヴィウスは口を開きかけ、躊躇って、結局は唇を結んだ。
 確定していないものごと以外は、総てを打ち明けるつもりだが、言葉を選ぶ必要はある。

 ―――本当の意味で私を継ぐ時、今の状態ではレオンハルトは消滅する。

 目覚めた日に交わしたウェテノージルとの会話が蘇る。不完全であることは告げても、それ以上は黙っておかなければならない。これ以上、レオンハルトが無駄に傷つくようなことがないように。
 
 
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