【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

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五章 一幕:お伽噺と魔王の正体

五章 一幕 6話-4

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「今日の目的はなんだっけ?」

 悪戯を仕掛ける顔でそう言うルヴィウスに、レオンハルトは「あ」と少々間の抜けた声を発した。そして、ルヴィウスと両手を繋ぐと、わざとらしく小さく咳払いし、姿勢を正す。

「お誕生日おめでとう、ルゥ」

 そう告げて、ルヴィウスの唇にキスをした。
 唇を離すと、ルヴィウスがほんのり頬を赤らめて「ありがとう」と微笑む。以前より大人びた顔になったとは言え、レオンハルトのひと言で愛らしい表情を向けてくれるルヴィウスは、相変わらず可愛らしい。

「ルゥに誕生日プレゼントがあるんだけど、今回は物じゃないんだ。気に入ってくれるといいんだけど」

 そう言って、レオンハルトが右の手のひらを見せる。ルヴィウスが目を向けると、何もなかったレオンハルトの手のひらの上に、彼の銀色のバングルが現れた。

「禁書庫で外したままになっちゃって、もう一度ルゥにはめてもらいたいんだけど、その前にバングルに組み込む魔術陣を変えたいんだ。ルゥのバングルも貸してくれる? あと、ピアスも」

 ルヴィウスは「分かった」と答えて、自分の右手首にはめていたバングルと、両耳のピアスを外し、レオンハルトに渡した。そしてふと、疑問に思う。

「ねぇ、レオのバングル、僕じゃないと外せなかったよね? どうやって外したの? って言うか、なんで外したの?」

 当然の疑問だ。レオンハルトが禁書庫でバングルを外すことになった時、ルヴィウスは気を失っていた。今の今まで、自分のバングルがレオンハルトのものと繋がらないのは、魔の森を挟み、かつ、距離が遠すぎるからだと思っていた。
 レオンハルトは返答に窮する。ウェテノージルから継いだ大量の魔力が流れ込む危険に晒されたルヴィウスの安全を確保するために、レオンハルトが自ら左手首を切り落として外した、などと知ったらどう思うか。
 しかし、レオンハルトは、うまい言い訳も、この場を乗り切る嘘も思い浮かばない。困り果てた彼は、話を逸らすことで乗り切ることにした。

「とりあえず、先に魔術陣の説明をするよ」

 そう言いながら自分のピアスも外す。そしてテーブルに対のバングル、対のピアスを並べて置いた。

 目があったら心を見透かされそうで、ルヴィウスのほうを見られない。レオンハルトはなるべく平静を装って説明を続けた。

「えぇっと、ルゥも魔法が上達したから、ひとまずバングルの防御魔法の陣を外そうと思うんだ。その代わり、魔の森を挟んでも、俺にはルゥの、ルゥには俺の状態や位置が、必要に応じて分かるようにしようと思って。そうすれば、それを起点にして転移魔法を展開できるから。とは言え不意打ちの攻撃とかは防いでおきたいから、右のピアスに一度だけ自動展開する防御魔法を組み込むよ。左のピアスには、魔の森の周波数に干渉を受けない通信魔法を入れようと思うんだけど、どうかな?」

 説明を終えたレオンハルトだったが、ルヴィウスのほうを振り返れなかった。しかし、ルヴィウスは向かい合う格好でレオンハルトの膝の上に乗ったままの体勢だ。じっ、とこちらを睨んでいる気配がするが、逃げられる隙はないように思う。

「レオ」

 どこか怒っているような声だ。レオンハルトは横目でルヴィウスを確かめた。
 瞬間、両頬に手を置かれ、ぐいっと強制的にルヴィウスのほうを向かされた。

「向こうに行ったばかりの頃、みんなに心配かけたって聞いたけど?」
「いや、心配かけたって言うか、なんて言うか……。でも俺、食べなくても、寝なくても平気だし、手足を切り落としてもすぐ再生するから―――っ」

 内容は恐ろしいのに、まるで昨晩の食事のメニューを報告するようなレオンハルトの物言いに、ルヴィウスは彼の両頬を、ぱちん、と挟むように、力加減をしつつも遠慮なく叩く。

「まさか、僕と離れてる間に、また自分を傷つけたのっ?」
「いや、わざとじゃないって言うか……、いや、わざとやってたところもあるけど」
「ねぇっ、やめてって言ったよねっ?」
「ごめん、悪かったと思ってる。ちょっと現実逃避したくて荒れてたって言うか。もうしないから。カトレアたちにも心配かけたし、シェラなんか俺に構いすぎて―――あー……、いや、なんでもない」
「なんでもない?」

 レオンハルトの不自然な物言いにルヴィウスの眉根が寄る。

「シェラと何かあったの?」
「なんにもないよ?」
「本当に?」
「な……何も、なかった、です、はい」
「あったんだね」

 ルヴィウスが半眼の眼差しでレオンハルトを責める。どうしてこの王子様は嘘をつくのが下手なのか。

「はっ、話を元に戻そうっ?」

 なんとか誤魔化し―――いや、誤魔化しきれてはいないのだが―――レオンハルトは会話の軌道修正を図る。しかし、話を元に戻したところで、ルヴィウスの追及が終わるわけではない。そのことに気付けない程、レオンハルトは動揺していたのだ。

 ルヴィウスは、むぅっ、と不服そうな顔をしたものの、一つため息をついて「そう」と言った。

「なら、お望み通り話を元に戻すよ。それで、レオ? 禁書庫でウェテノージル様の力を受け取った時、僕に流れる魔力量が大きすぎるからっていう理由で、君は自分のバングルを外したんだね?」
「いや……うっ」

 ぐにっ、と頬を抓まれた。仕方なく「はひ(い)……」と肯定するしかない。

「バングルを壊すと僕に影響があるかもしれないから、壊して外すっていう手段を取れなかったんだね?」

 目を瞑り、きゅっと唇を引き結んだ。が、今度は顎を掴まれた。なんだか、騎士団に入った影響か、少々扱いが乱暴になっているような気がしなくもない。

「レオ? はい、なら頷いて」

 しばらく無言を貫いていたレオンハルトだったが、これまた仕方なく、頷いて答える。

「じゃあ君は、最終手段として、無理やりバングルを外したんだ?」

 そう言い、ルヴィウスはレオンハルトの左手首を撫でた。
 バレている。そう観念し、レオンハルトはそっと目を開けた。ルヴィウスは、下唇を噛み締め、銀の瞳に今にも溢れ出しそうなほどの涙を溜めていた。
 レオンハルトはルヴィウスを泣かせてしまったと慌てふためく。

「ルゥ、泣かないで、ルゥの所為じゃないから。仕方なかったんだ。それに、俺は手足を切り落としたってすぐに再生するから―――」
「そういう答え方する人にはペナルティだよっ」

 大きな声を上げたルヴィウスは、ぐいぐいとレオンハルトの上着を引っ張り、無理やりに脱がした。そのままソファに押し倒し、レオンハルトの上に跨って物理的に彼を拘束する。

 ぱたぱた、とルヴィウスの涙がレオンハルトの露わになった腹部に堕ちた。

 以前にも、こんなやり取りがあった。あの時もルヴィウスが、自分を大事にしないレオンハルトを叱りつけた。そして彼は平気そうな顔で「大丈夫」と言ったのだ。

「ルゥ、俺は大丈夫だから」
「ぜんぜん大丈夫じゃない……っ」

 あの頃と同じだ。自分を傷つけても平気な顔をしている。本当は、誰よりも傷ついているのに。

「せめて……、僕のために自分を傷つけるのはやめてほしい……」

 泣きながら訴えるルヴィウスを、レオンハルトは体を起こして抱きしめた。

「もうしないよ。ルゥが泣くのは見たくないから。ルゥを悲しませるって分かったから、もうしない」
「ぜったい?」
「絶対。約束する」
「嘘つき。約束破ったくせに」
「今度は、本当に、絶対。約束を破らないから。だから、泣かないで? 俺のこと、許してくれる?」

 オロオロしながらそう言うレオンハルトを、ルヴィウスは可愛いと思ってしまった。こういう顔をされると、なんでもかんでも許してしまいたくなるから、困ったものだ。
 
 
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