147 / 177
五章 二幕:呪われた亡者の救済
五章 二幕 7話-3
しおりを挟む「ルゥも来てくれる?」
ルヴィウスはレオンハルトの手に自分の手を重ねて微笑み返した。
「もちろん。僕がもらった祝福が必要なんでしょ?」
「あぁ、ダリウスを呪いから解放してやるためにルゥの祝福が必要だ」
うん、と頷いたルヴィウスだったが、ふとあることが気にかかった。
「でも、どうしてダリウスは呪われたんだろう。亡者を呪うことが出来る術なんてあるの?」
ルヴィウスの疑問は尤もだ。レオンハルトは彼の手を取り、指を絡めて繋ぐと、甘えるようにその肩に頭を乗せた。
「亡者になったダリウスに呪いを掛けたのは聖女……―――闇烏だよ」
「え、そんなタイミングあった?」
「あったんだよ、これが」
レオンハルトは深くため息をついた。
「闇烏が聖女として王国に滞在していたことがあるだろう? あの時、市井を視察する予定が組まれてたのを覚えているか?」
「うん、父上が彼女の案内役で疲れ果ててた覚えがあるよ」
「その時、街の教会で聖女が祝福を与えるっていうパフォーマンスをしたらしくて、その時に選ばれたのがリーノだった」
「王都にいたの?」
「偶然、と言いたいところだけど、呼ばれたんだろう、ウェテノージルの言うところの大いなる力に」
レオンハルトは繋いだルヴィウスの指を擦ったり握ったりしながら、少し低い声で言った。
ルヴィウスは、当時レオンハルトが自身の行いを悔いていたことから、あまり思い出したくない記憶なのだと察し、柔らかい金の髪に口づけた。
レオンハルトは甘えるようにルヴィウスの肩にすり寄りながら、話を続ける。
「亡者に呪いを掛けられるのは闇烏の祝福と言う名の呪術だけだ。それで当時、あの女がどこかの男爵家に祝福を与えたって騒いでたのを思い出して、あの時の騒動の報告書を漁った。そしたら、街の視察で教会に立ち寄った時の話があって、そこから他の書類や記録を辿ったら、同じ時期にアンヘリウム男爵は減税嘆願の書類を提出しに王都に来ていた。金がないって話なのに、ご丁寧に一家そろって。しかも、普段なら邸に置いてくるリーノも連れていた。ダリウスはリーノにくっついてきたんだろ」
「もしかして、ダリウスって死んだあとリーノの傍にずっと居たのかな?」
「だろうな。だから闇烏に呪われたんだろう。ダリウス亡き後、リーノは両親の意向で離れに追いやられていたらしい。理由は、男爵夫妻が彼を気味悪がったから。リーノが独りで会話している姿を目撃する使用人も多かったっていう証言もある。どう考えても、話し相手はダリウスだよな。まぁ、気味悪がられたおかげで身体的にも精神的にも、リーノの生活は安全になったわけだけど」
ルヴィウスはレオンハルトの手を強く握り返した。
「僕、なんかダリウスの気持ちわかるかも」
「俺も」
レオンハルトは同意を返し、ルヴィウスの手を改めて繋ぎ直す。
大切な人を一人残して死ぬ。もし、その大切な人を取り囲む環境が危険なものだったとしたら……、例え亡者になろうと、なんとかしてその人を護ろうとするだろう。
「リーノっていま何歳だっけ」
「報告では十六歳。魔力が無いらしい。彼を取り巻く厳しい環境下で、魔力が無いまま今まで生きてこられたことを踏まえると、間違いなく神聖力持ちだろうな。そう仮定すれば、亡者になったダリウスをリーノが目視し、会話が出来ていた可能性は充分に考えられる」
「死者の領域は神殿や教会の領分だからね」
その言葉に頷いたレオンハルトは、一つため息をついた後、続けた。
「今回の件で男爵夫妻には有罪判決が出ることが決まってるし、継承三位のジュリアンはまだ七歳で、親戚筋に後継者になれそうな人間もいない。そうなると男爵家の爵位も領土もいったん王家預かりになる。ジュリアンは孤児院預かりになるだろうが、リーノは年齢的に難しい」
「だけど、きっとまともに教育を受けていないよね? 露頭に迷っちゃうよ」
「俺も心配になったから、いちおう預け先というか、引き取り先というか……、考えてはいる。リーノの意志を確かめてからにしようと思ってるけど」
そう、と安堵の相槌をしたルヴィウスは、もう一度レオンハルトの柔らかい髪にキスをした。
「それにしても、慌ただしいまま誕生日を迎えそうだね、レオ」
「そうだなぁ……、明後日の十二日には報告がきて、翌日には父上に上奏するだろ? 十四日には男爵家に乗り込むつもりだからぁ……―――あー、俺の十九歳の誕生日が取り調べで終わるのかぁ」
深いため息をついたレオンハルトに、ルヴィウスは眉尻を下げて笑った。
「それは他の人に任せればいいんじゃない?」
「俺が指揮権持ってるのに?」
「じゃあ、半日で終わらせよう? 大夜会の衣装の最終チェックもあるし。それにご褒美がないと頑張れないでしょ?」
ご褒美、という単語に反応したレオンハルトは、ぱっと体を起こしルヴィウスを見つめた。まるでおやつを期待している大型犬のように、目をキラキラさせている。
「ご褒美くれる?」
期待たっぷりの上目遣いが可愛らしくて、ルヴィウスは、ふふふっ、と笑った。
「何が欲しいの?」
「ルゥ」
やや食い気味に、そして迷うことなく、レオンハルトが答える。
ルヴィウスはそっと近づいて、レオンハルトの頬にキスをした。そしてそのまま、耳元で甘く囁く。
「ぜんぶ欲しいの?」
すると、レオンハルトはルヴィウスの首筋に吸い付いて、小さな赤い所有の痕を付けた。そしてお返しとばかりに、ルヴィウスの耳元で蕩けるような声で囁き返す。
「ぜんぶくれる?」
ぞくり、とルヴィウスの背中を悦びが走る。レオンハルトは声だけで、ルヴィウスの吐息を甘くしてしまう。
ルヴィウスはもう一度レオンハルトの頬に口づけ、ほんの少し体を離すと、上目遣いに潤んだ瞳で微笑んだ。
「僕のぜんぶ、あげるね」
楽しみにしてる、そう答えたレオンハルトは、ルヴィウスに触れるだけのキスをして、そのままソファに横になった。もちろん、頭はルヴィウスの膝の上だ。
ルヴィウスは柔らかい金の髪を撫でながら、レオンハルトのこの後の予定を思い浮かべる。そして、誰にも甘えない第二王子の唯一の婚約者として、時間が許す限り彼を甘やかすことに決めた。
「次の予定まで40分あるから、30分経ったら起こしてあげるね」
「うん―――あ、ねぇ、ルゥ」
「なに?」
「キスで起こして?」
誰も知らないレオンハルトの甘えぶりに、ルヴィウスの心はくすぐったくなってしまう。
もちろんだよ、と答えたルヴィウスに満足したレオンハルトは、ゆったりと目を閉じた。そして、愛おしい体温を傍に感じたまま、ほんの少しだけ微睡に身を任せる。
すぐに小さな寝息を立て始めたレオンハルトに、ルヴィウスは音になるかならないかほどの声量で呟いた。
―――おやすみ、僕の王子様。
0
あなたにおすすめの小説
脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~
季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」
その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。
ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。
ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。
明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。
だから、今だけは、泣いてもいいかな。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない
ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。
元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。
無口俺様攻め×美形世話好き
*マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま
他サイトも転載してます。
吸血鬼公爵の籠の鳥
江多之折(エタノール)
BL
両親を早くに失い、身内に食い潰されるように支配され続けた半生。何度も死にかけ、何度も自尊心は踏みにじられた。こんな人生なら、もういらない。そう思って最後に「悪い子」になってみようと母に何度も言い聞かされた「夜に外を出歩いてはいけない」約束を破ってみることにしたレナードは、吸血鬼と遭遇する。
血を吸い殺されるところだったが、レナードには特殊な事情があり殺されることはなく…気が付けば熱心に看病され、囲われていた。
吸血鬼公爵×薄幸侯爵の溺愛もの。小説家になろうから改行を増やしまくって掲載し直したもの。
亡国の王弟は女好きの騎士に溺愛される
コムギ
BL
アラバンド国の王弟ルカーシュは、騎士のシモンによって地下牢から救い出された。
その時、肌に触れたシモンに、やけどのような怪我を負わせてしまう。
ルカーシュは北の魔女の末裔であり、魔力を持っていた。
魔力を持たない者に触れると、怪我をさせてしまうという。
騎士団長からの命令で、シモンはルカーシュの護衛につくことになった。
※他サイトにも掲載しています。
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる