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五章 二幕:呪われた亡者の救済
五章 二幕 7話-3
しおりを挟む「ルゥも来てくれる?」
ルヴィウスはレオンハルトの手に自分の手を重ねて微笑み返した。
「もちろん。僕がもらった祝福が必要なんでしょ?」
「あぁ、ダリウスを呪いから解放してやるためにルゥの祝福が必要だ」
うん、と頷いたルヴィウスだったが、ふとあることが気にかかった。
「でも、どうしてダリウスは呪われたんだろう。亡者を呪うことが出来る術なんてあるの?」
ルヴィウスの疑問は尤もだ。レオンハルトは彼の手を取り、指を絡めて繋ぐと、甘えるようにその肩に頭を乗せた。
「亡者になったダリウスに呪いを掛けたのは聖女……―――闇烏だよ」
「え、そんなタイミングあった?」
「あったんだよ、これが」
レオンハルトは深くため息をついた。
「闇烏が聖女として王国に滞在していたことがあるだろう? あの時、市井を視察する予定が組まれてたのを覚えているか?」
「うん、父上が彼女の案内役で疲れ果ててた覚えがあるよ」
「その時、街の教会で聖女が祝福を与えるっていうパフォーマンスをしたらしくて、その時に選ばれたのがリーノだった」
「王都にいたの?」
「偶然、と言いたいところだけど、呼ばれたんだろう、ウェテノージルの言うところの大いなる力に」
レオンハルトは繋いだルヴィウスの指を擦ったり握ったりしながら、少し低い声で言った。
ルヴィウスは、当時レオンハルトが自身の行いを悔いていたことから、あまり思い出したくない記憶なのだと察し、柔らかい金の髪に口づけた。
レオンハルトは甘えるようにルヴィウスの肩にすり寄りながら、話を続ける。
「亡者に呪いを掛けられるのは闇烏の祝福と言う名の呪術だけだ。それで当時、あの女がどこかの男爵家に祝福を与えたって騒いでたのを思い出して、あの時の騒動の報告書を漁った。そしたら、街の視察で教会に立ち寄った時の話があって、そこから他の書類や記録を辿ったら、同じ時期にアンヘリウム男爵は減税嘆願の書類を提出しに王都に来ていた。金がないって話なのに、ご丁寧に一家そろって。しかも、普段なら邸に置いてくるリーノも連れていた。ダリウスはリーノにくっついてきたんだろ」
「もしかして、ダリウスって死んだあとリーノの傍にずっと居たのかな?」
「だろうな。だから闇烏に呪われたんだろう。ダリウス亡き後、リーノは両親の意向で離れに追いやられていたらしい。理由は、男爵夫妻が彼を気味悪がったから。リーノが独りで会話している姿を目撃する使用人も多かったっていう証言もある。どう考えても、話し相手はダリウスだよな。まぁ、気味悪がられたおかげで身体的にも精神的にも、リーノの生活は安全になったわけだけど」
ルヴィウスはレオンハルトの手を強く握り返した。
「僕、なんかダリウスの気持ちわかるかも」
「俺も」
レオンハルトは同意を返し、ルヴィウスの手を改めて繋ぎ直す。
大切な人を一人残して死ぬ。もし、その大切な人を取り囲む環境が危険なものだったとしたら……、例え亡者になろうと、なんとかしてその人を護ろうとするだろう。
「リーノっていま何歳だっけ」
「報告では十六歳。魔力が無いらしい。彼を取り巻く厳しい環境下で、魔力が無いまま今まで生きてこられたことを踏まえると、間違いなく神聖力持ちだろうな。そう仮定すれば、亡者になったダリウスをリーノが目視し、会話が出来ていた可能性は充分に考えられる」
「死者の領域は神殿や教会の領分だからね」
その言葉に頷いたレオンハルトは、一つため息をついた後、続けた。
「今回の件で男爵夫妻には有罪判決が出ることが決まってるし、継承三位のジュリアンはまだ七歳で、親戚筋に後継者になれそうな人間もいない。そうなると男爵家の爵位も領土もいったん王家預かりになる。ジュリアンは孤児院預かりになるだろうが、リーノは年齢的に難しい」
「だけど、きっとまともに教育を受けていないよね? 露頭に迷っちゃうよ」
「俺も心配になったから、いちおう預け先というか、引き取り先というか……、考えてはいる。リーノの意志を確かめてからにしようと思ってるけど」
そう、と安堵の相槌をしたルヴィウスは、もう一度レオンハルトの柔らかい髪にキスをした。
「それにしても、慌ただしいまま誕生日を迎えそうだね、レオ」
「そうだなぁ……、明後日の十二日には報告がきて、翌日には父上に上奏するだろ? 十四日には男爵家に乗り込むつもりだからぁ……―――あー、俺の十九歳の誕生日が取り調べで終わるのかぁ」
深いため息をついたレオンハルトに、ルヴィウスは眉尻を下げて笑った。
「それは他の人に任せればいいんじゃない?」
「俺が指揮権持ってるのに?」
「じゃあ、半日で終わらせよう? 大夜会の衣装の最終チェックもあるし。それにご褒美がないと頑張れないでしょ?」
ご褒美、という単語に反応したレオンハルトは、ぱっと体を起こしルヴィウスを見つめた。まるでおやつを期待している大型犬のように、目をキラキラさせている。
「ご褒美くれる?」
期待たっぷりの上目遣いが可愛らしくて、ルヴィウスは、ふふふっ、と笑った。
「何が欲しいの?」
「ルゥ」
やや食い気味に、そして迷うことなく、レオンハルトが答える。
ルヴィウスはそっと近づいて、レオンハルトの頬にキスをした。そしてそのまま、耳元で甘く囁く。
「ぜんぶ欲しいの?」
すると、レオンハルトはルヴィウスの首筋に吸い付いて、小さな赤い所有の痕を付けた。そしてお返しとばかりに、ルヴィウスの耳元で蕩けるような声で囁き返す。
「ぜんぶくれる?」
ぞくり、とルヴィウスの背中を悦びが走る。レオンハルトは声だけで、ルヴィウスの吐息を甘くしてしまう。
ルヴィウスはもう一度レオンハルトの頬に口づけ、ほんの少し体を離すと、上目遣いに潤んだ瞳で微笑んだ。
「僕のぜんぶ、あげるね」
楽しみにしてる、そう答えたレオンハルトは、ルヴィウスに触れるだけのキスをして、そのままソファに横になった。もちろん、頭はルヴィウスの膝の上だ。
ルヴィウスは柔らかい金の髪を撫でながら、レオンハルトのこの後の予定を思い浮かべる。そして、誰にも甘えない第二王子の唯一の婚約者として、時間が許す限り彼を甘やかすことに決めた。
「次の予定まで40分あるから、30分経ったら起こしてあげるね」
「うん―――あ、ねぇ、ルゥ」
「なに?」
「キスで起こして?」
誰も知らないレオンハルトの甘えぶりに、ルヴィウスの心はくすぐったくなってしまう。
もちろんだよ、と答えたルヴィウスに満足したレオンハルトは、ゆったりと目を閉じた。そして、愛おしい体温を傍に感じたまま、ほんの少しだけ微睡に身を任せる。
すぐに小さな寝息を立て始めたレオンハルトに、ルヴィウスは音になるかならないかほどの声量で呟いた。
―――おやすみ、僕の王子様。
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