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五章 二幕:呪われた亡者の救済
五章 二幕 8話-1
しおりを挟むニックとロイの名誉の葬送から4日後の、十月十四日。
薄っすらとたなびく秋の鰯雲の下、ヴィクトリア王国に接するエーシャルワイドの国境門に併設された砦には、レオンハルトとルヴィウスをはじめ、第二騎士団と財務部、法務部から特別招集された捜査隊あわせて30名が待機していた。
ヴィクトリア王国とエーシャルワイドの国境は、総赤レンガ造りの砦がその役割を担っている。国境門は全部で五つあり、海に近い側から順に1から5の番号が振られ、それぞれに入国審査のための施設が設置されている。
各門自体は荷馬車が五台並んで入れるほどの大きさになっており、その両側は4階建て造りだ。
門を通過した先は円形状の待機所、商人・観光・公務・帰省等など、入国の事情によって分かれている審査設備があり、さらには国の各省庁の出先機関も支所として入っている。
四階建て造りになっている理由は、各省庁に割り当てられた業務室や食堂、そのほか公人や貴賓の控室などがある外交用の設備も担っているからだ。また、勤務する民のため、円形状の待機所の向こう側は、住居はもちろんのこと、宿泊施設や食事処、学校や商業施設も備えた小さな街になっている。
二国は友好国であることから、砦とは言っても防御の意味はなく、単純に出入国の流れを把握するためのものだ。無論、魔の森に近い砦についてはこの限りではなく、軍が配備され、ヴィクトリア王国側からも討伐経験のある騎士や魔法使いが派遣され、両国が協力して防衛に努めている側面があった。魔物討伐が完遂したいま、徐々にその形を変えていく事になるだろう。
レオンハルトとルヴィウスは、貴賓用の控室にいた。他の者たちも近くの会議室に待機させてもらっている。現在時刻は午前十一時。砦の到着は1時間前の午前十時だった。このあと正午に、アンヘリウム男爵家に捜索令状を持って突入することになっている。
「エーシャルワイド側に協力してもらえてよかったね」
ルヴィウスがヴィクトリア王国側を見通せる窓辺で、外の景色を見つめながら言った。
今日のルヴィウスは、騎士団に入団して以来、職務の際には必ず着用している銀の騎士服姿だ。帯剣した格好もすっかり様になっている。巷では“銀月の貴公子”などと呼ばれ、姿絵が大人気らしい。
「むかつく」
唐突に、レオンハルトが愚痴った。
「え?」
振り返ったルヴィウスは首を傾げる。
ソファに足を組んで座っているレオンハルトは、右のひじ掛けに頬杖をついた格好で、むくれていた。
蜂蜜色の髪に晴れ渡る蒼い空のような瞳。第二王子でありながら、魔剣士としての職務を担っていた頃と同じように、漆黒の騎士服を纏っているレオンハルトの姿は、神が造った最高傑作と噂されるほどだ。そんな美丈夫が、まるで子供のように拗ねている。このギャップは、近しい者だけが知る特別な彼の姿だ。
「どうしたの、レオ?」
ルヴィウスは拗ねている理由を問おうと、レオンハルトの隣に腰を下ろした。顔を覗き込むと、レオンハルトはむすっとした表情のまま、ルヴィウスに抱き着く。
「ルゥの姿絵がエーシャルワイドでも流布されてるなんて! 信じられない!」
なんだ、そんなことか。と、ルヴィウスは呆れた。
「レオの姿絵だって大人気じゃないか」
よしよし、と頭を撫でながら、ルヴィウスはレオンハルトを宥める。
「ルゥを誰にも見せたくない」
「レオは誰にも見せたことのない僕の顔を知ってるでしょ」
「そうだけど」
「余所行きの顔なんて、素顔じゃないんだから妬かないでよ」
「ルゥを誰にも見られないようにどこかに閉じ込めておきたい」
「出来もしないこと言わないで」
「願望くらい言ってもいいだろ」
「はいはい」
「ルゥの俺の扱いが雑っ」
がばっと体を離したレオンハルトは、やっぱり拗ねた大型犬のようだった。ルヴィウスは仕方なく、ごめん、と謝ってキスをする。
レオンハルトがこんなにも拗ねているのには、それなりの理由がある。
計画では、アンヘリウム男爵夫妻を捕縛したあと、転移陣で王都へ移動、最初の取り調べを行い、立件、法務部へ引き渡すことになっている。
裁判は二十日の大夜会後に行うと決められているため、それまでは貴族用の収監施設に入れる予定だ。
まだ子供のジェラルドについては、心身の安全を第一に、ケア専門職の者と一緒に孤児院へ引き渡すことが決まっており、孤児院の選定にはイーリスが積極的に動いた。親の罪が、幼い子の将来に影を落とさないよう、最大限の配慮がされている。
レオンハルトはそこまでの工程を、明日の午前中もしくは夕刻までに終わらせる予定でいた。そしてその日の夜は、ルヴィウスと共に過ごすつもりだったのだ。なぜなら、明日の十五日は、レオンハルトの誕生日だからだ。
ところが、ヒースクリフから「隣国に協力をいただくのだから、責任者として礼を尽くしてくるように」との指示が出て、明日の晩餐―――つまり、レオンハルトの誕生日当日の晩餐をエーシャルワイドの迎賓館で外交官らと共に摂り、そのまま大夜会出席のためにエーシャルワイドの首長とその夫人をヴィクトリア王国の貴賓館へと、転移魔法で無事に送り届けるよう命を受けた。
当然、そこにルヴィウスは同伴しない。なぜなら彼はまだ騎士団所属の魔剣士であり、今回の件の副責任者でもあるため、不在になるレオンハルトの代わりにルイズや法務部への申し送りをする責任を負っている。
加えて、リーノを保護したあと、後見人に立候補してくれたハロルドに彼を一時的に預けるため、アクセラーダ公爵邸に連れて行かなければならないし、さらにはエドヴァルドの計らいで大夜会前に公爵家に復籍するにあたっての手続きも控えている。
つまり、レオンハルトもルヴィウスも、大夜会当日まで目が回るほど忙しいのだ。
「楽しみにしてたのに……」レオンハルトが再び愚痴る。「せっかくヴェールを使わなくてもルヴィウスに触れられるようになったのに……」
しゅん、と落ち込んだ表情を浮かべたレオンハルトは、ルヴィウスの左手を取って、なぜか両手で揉み始めた。
やることが山積みなのは分かっている。でも、抱き合いたい。口づけして、上あごを責めて甘い吐息を食らいつくしたいし、熱っぽく潤んだ瞳で見つめられながら名前を呼ばれて、もっと、と強請られたい。
首筋から鎖骨まで、いや、胸元にも背中にも、もちろん足の付け根の際どいところにも、とにかく体中に所有の痕をつけたいし、濡れてぐしょぐしょになった後ろを思いっきり突き上げたい。
脚を開かせて奥の奥まで熱を穿って、もうやめてって泣くくらい懇願させて、意識を飛ばすまで組み敷きたい!
「……じゃあ、ちょっとだけする?」
「ちょっとじゃ済ませたくないっ。一晩かけてルゥを抱き潰した―――……え?」
あれ? 手を揉むのをやめて視線を上げると、ルヴィウスが真っ赤な顔をしていた。あ、これは、もしや……。
レオンハルトは恥ずかしくなって自分の口を押えた。
「もしかして俺、声に出てた……?」
ルヴィウスが頷く。
「ど、どのあたりから声に出てた……?」
「やることは山積み、のあたり……」
「全部じゃんっ!」
がくっ、と脱力してソファに突っ伏した。
同じようなことが、過去にも何度かあった。なぜこうなってしまうのか……。
どうやらレオンハルトは、ルヴィウスを我慢すると諸々言葉になってあふれ出てしまうようだ。
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