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最終章:神様が紡ぐ恋物語
最終章 3話-1
しおりを挟む王国での大夜会が終わった後、あらゆる所でいろいろなことが新たに動きはじめ、それぞれが自身の役割を担い、忙しく対応している間に、静かに季節は移り変わっていった。
ヴィクトリア王国とエルグランデルを行き来しながら迎えた冬。
ルヴィウスが初めて柘榴の宮殿で過ごした年明け。
そして、寒さが緩み始め春の気配が木々や植物の芽に見えるようになった頃には、王国の代表者がエルグランデルへ足を踏み入れることが可能になるほど、魔素の濃度は落ち着いていた。
いつまでも通信魔法のみでやり取りしているわけにはいかないと、両国の関係をさらに近づけるため、ハロルドが設計した魔道具と、レオンハルト考案の魔石の魔力増幅術式により、長距離転移が可能となる転移陣も設置された。
それからは波に乗るような勢いだった。
四月入ると初の四国間交易も始まり、エルグランデル皇国は一気に活気づいた。加えて、魔の森改めアステラ大森林の十ヶ所では道路建設が始まり、転移陣なしの行き来が可能になる日もそう遠くはない。
エルグランデル皇国はレオンハルトを領主として大公領となることが決定しているため、正式に王国と合併するまでに整備しておくことがとにかく多く、その采配と人員配備に年明けから取り組んだものの、それなりの形に落ち着くまで半年を費やすことになった。
六月に入った今は、目の回るような忙しさも落ち着き、新設したそれぞれの部署が組織として稼働し始め、二年半後の合併に向けて、着実に準備を進めている。
そして迎えた今日、六月七日。しばらく宮殿を離れても問題がないと判断したレオンハルトとルヴィウスは、世界樹の泉へと赴くことを決めた。それに際し、宮殿にあるレオンハルトの執務室には、これまでエルグランデルを支えてきた主要人物らが集まっていた。
「間に合って良かった。本当に、よかった」
そう胸を撫でおろすのは、エルグランデルの魔剣士部隊エルゾーイのリーダー、ゲルニカだ。短い黒髪に緑の瞳、大柄な体格で厳ついのだが、隊きっての愛妻家だ。
「ゲルニカ隊長は心配しすぎだって。間に合わなかったらなかったで、何とかなったよ」
そう言うのは、黒髪に青い目で、どこかあどけなさの残るジーク。
「ジーク、楽観主義」
短い言葉で主張したのは、黒髪を三つ編みにしたスタイルが基本の騎士、パラオだ。
「なんにしても、閣下より優しそうでよかったよー」
「閣下、厳しいもんねー。閣下に比べたらだいたいの人は優しいよねー」
双子のラーイとルーイが、同じ顔をしてそう言う。
「あら、二人とも普段からそんなことを思っていたなんて心外だわ」
双子の言い分に、カトレアが笑顔で抗議する。ルーイとラーイは「ふふふー」と笑って、金髪に赤い瞳の魔剣士、シルヴィオの背に隠れた。
「僕を巻き込むのはやめてよね、ルーイ、ラーイ」
そういうシルヴィオに、ルーイとラーイは「えー」と悪戯っぽい顔で笑う。
「皆さま、主君とルヴィウス様の前ですよ。落ち着かれてください」
そう苦言を呈したのはレオンハルトの補佐官、茶の髪にグレーの瞳のウルス・シャラメだ。
「相変わらず、エルゾーイの皆さまは賑やかですね」
苦笑しながらレオンハルトの前に紅茶を出したのはルーベン。主に身の回りの世話をしてくれる侍従で、ハロルドと正反対の性格をしている。
「ルヴィウス様、椅子をお持ちしましょうか」
ルーベンが気を利かせて言う。
レオンハルトの隣に立ったままで話を聞いていたルヴィウスは「大丈夫、ありがとう」と微笑んだ。
「お前たちはここに休憩にきたのか?」
呆れた顔でレオンハルトがエルゾーイの面々を半目で睨む。
「そんなわけないでしょう、主君」
大げさにゲルニカが両手を腰に置く。
「そうだよ、明日からしばらく留守にする主君に会いに来たんだよ?」
シルヴィオが茶目っ気たっぷりで言う。
「主君の顔が見られないなんて残念だね、ルーイ」
「そうだね、ラーイ。僕たちも寂しいね」
「主君、こいつら、嘘つき」
相変わらず単語で短く話すパラオに、レオンハルトは「そうだな」と苦笑いした。
「俺、主君はどうでもいいけど、ルヴィちゃんに会えなくなるのは嫌だな」
「どういう意味だ、ジーク」
すかさず、レオンハルトが凄む。しかしジークには効かないようだ。
「だって、ルヴィちゃん可愛いんだもん。毎日でも愛でたい」
「愛でるな! 消し炭にするぞ!」
「レオ、一緒になって騒がないで」
ルヴィウスが笑顔でそう言った。
目が笑っていないことに気づき、その場にいた全員が、ぴしゃり、と姿勢を正す。
もちろん、レオンハルトも同様だ。しゃきっと背筋を伸ばし、執務椅子に座りなおしている。
「シェラもこっちに来て」
ルヴィウスが、それまで会話に入ることなくソファに座っていたシェラを呼ぶ。
シェラは少し気まずそうな表情を浮かべながら、ゲルニカの隣に並んだ。シェラの視線が、カトレアのほうに向く。ルヴィウスは、まだレオンハルトのことが吹っ切れていないのだろうかと、勝手な想像をした。けれど、ルヴィウスがそのことに対し、何か声を掛けるのは違う気がした。
「カトレア、紹介してくれる?」
場を取り仕切ることにしたルヴィウスが、カトレアを促した。
以前は敬称をつけて呼んでいたが、レオンハルトの伴侶としてエルグランデルに滞在している以上、上下関係ははっきりしておいたほうがいいと、カトレア本人から名前の呼び方を改めるよう言われたのだ。
「はい、ご紹介します」
カトレアが、彼女の隣の男性を振り向く。
今の今まで、気配を消すかのように彼女の隣に静かにたたずんでいた長身細身の男性が、一歩前へ進み出る。濃いグレーの短い髪にヴィジョンブラッドの瞳はカトレアとよく似ている。男性は右手を胸に当て、深く頭を下げる。
「お初にお目に掛かります、我が主君。セザール・イルヴァーシエルと申します」
セザールはカトレアの従弟にあたる人物だ。髪や瞳の色が似ているのは、その所為でもある。
ハロルドとの結婚が決まっているカトレアは、森の管理や魔道具の研究所の運営で、イルヴァーシエル公爵家を離れなければならなくなった。つまり、ハロルドを婿にとるのではなく、カトレアが嫁ぐ側になったのだ。そのため、彼女の後継を用意する必要があり、しばらく人選が難航していた。しかしこの度めでたく、今日の顔合わせにこぎ着けることが出来たのだ。
「顔を上げろ。堅苦しいのは好きじゃない」
レオンハルトがそう言うと、セザールは「ありがとうございます」と姿勢を元に戻した。
「魔法属性は闇だったか」
レオンハルトが問いかける。セザールは頷いて答えた。
「はい。対象物を退化させることが出来ます。あまり役に立つ魔法ではありませんが、抑止力として分かりやすいのが利点です」
「俺はお前の力をそういう使い方をするつもりはない」
「失礼いたしました」
再び頭を下げたセザールに、レオンハルトはため息交じりに「顔を上げろ」と言う。セザールは素直に「はい」と姿勢を元に戻した。
「セザール、お前はカトレアの後を継いでイルヴァーシエル公爵となる。だがお前の役目はカトレアのようにエルゾーイを率い国のために盾になるものではない。脅威はすでに過ぎ去った。よって、力による統治は必要ない。わかるな?」
「はい、肝に銘じます」
「では、落ち着いたら俺と訓練しよう」
「承知いたし……―――はい?」
レオンハルトに掛けられた言葉が予想外で、セザールは目を瞬かせた。
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