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最終章:神様が紡ぐ恋物語
最終章 5話-2
しおりを挟むウェテノージルは知略に富んでいて、博識だった。これはあらゆる世界を見てきたことに由来する能力なのだろう。
フォルティスレオはウェテノージルと話しているうちに、彼という存在をすっかり受け入れていた。今まで創造してきた世界にも存在していた、兄弟とか親子とかいう存在に近い感覚だ。
『まず、私の神格を外す必要がある。神格を外すにはルティス、お前と契約し、お前が創造する世界に私を生み落とせばいい。が、何の力もない存在では、目的達成まで時間が掛かりすぎる』
ウェテノージルが言う。フォルティスレオは頷いて答える。
『それなら私が新しく造る世界の“神の代理人”になるのはどうだ。輪廻に封印されているイグドラシエルはお前に引っ張られて生まれ変わるはずだ』
『では、物語の始まりは二柱の神の代理人の誕生としよう。神界では神同士の恋愛はご法度だが、最初から神が二人必要な世界なら禁忌には当たらない。それと、私は人型でないほうがいいだろう。プリケプスという先導者の役割を捨てるには、ただ一人のという名を強調させ、異質な者として存在したほうがいい』
『竜はどうだ。世界の負を浄化する世界樹のイグドラシエルを守護する、ただ一人のための竜』
『いいな、イグドラシエルの守護竜か。気に入った。そうしよう』
『私が干渉できるのは世界に生み落とす瞬間までだ。お前の記憶を蘇らせるには別の手段を用意する必要がある』
『それは心配ない。神格がなくとも、それぞれの性質を引き継げれば、記憶の蘇りは早い。侮らないでくれ、私も神だぞ』
『侮ったつもりはない。気分を害したのなら謝る』
『ルティス、お前の頭の中にも謝罪という言葉があるのだな』
『ルーセンテウスが悪いことをしたら謝るのが筋だと言っていた。それで、お前とイグドラシエルが生まれた後はどうする』
表情一つ変えずにそう言うフォルティスレオに、ウェテノージルは「お前は子どもか」と少し呆れた。挨拶から謝罪まで教えるとは、ルーセンテウスの苦労が目に浮かぶようだ。
黙ってしまったウェテノージルに、フォルティスレオが「どうかしたか」と声を掛ける。ウェテノージルは「なんでもない」と話を先に進めることにした。
『しばらくは私たちを傍観していろ。そうすることで世界は神の手から離れ、自動的に回りだす』
『私の手助けは必要ないのか?』
『必要ない。まぁ、お前がこちらに来る前に世界が壊れそうになるのなら、私たちを封じるという手段が必要になるかもしれないが。だいたい、自動的に回る状態にならなければ、お前は輪廻にルーセンテウスを迎えに行けないだろう?』
『私に神格を捨てろと言うのか?』
『端的に言えばそうだ。まずお前は、一人分の神格をお前が管理する神域に置き、創造した世界を維持したまま、お前はお前が造った世界の管理者として、ルーセンテウスを連れて生まれ落ちてくればいい。その時、私とイグドラシエルの神格を抱いてこい』
『何を言っているんだ。神格を持ったままでは輪廻に入れないだろう』
『輪廻が弾き飛ばすのは、“正しく”神格を持った者だ。私とイグドラシエルの神格は、お前にとっては正しくはない。そうだろう?』
『なんだ、その呪術みたない裏技は』
『何事にも抜け道はあるものだよ、若き創造主殿。ちなみにお前の神格は私が持っていくから寄越せ』
『なぜ』
フォルティスレオは無意識に胸元を握りしめ、一歩後ずさった。
『なぜも何も、お前がお前の世界に降り立った時、神に戻るために神格が必要だろう? それを先に持っていくだけだ』
『さっきは神界に神格を置けと言ったではないか』
『一人分の神格を置けと言ったのだ。創造した世界を維持するためには、お前の神域に神格がなければならない。だが、お前の神格を置いておくとなれば、お前は神には戻れない。だから私が先にお前の神格を持って生まれ落ちる。ここまでは理解できたか?』
手のかかるやつだと言わんばかりのウェテノージルに、フォルティスレオは渋々と言った顔で頷く。
『次に、お前の神域に置いておく神格のことだ。私とお前は契約関係となる。つまりお前には、私の神格と、私が預かっているイグドラシエルの神格に対し、所有権が発動する。お前は私とイグドラシエルの神格をそれぞれ半分にし、互い違いに一人分になるようくっつけて、二人分の神格を造り直せ』
『なぜそんな面倒なことをせねばならんのだ』
文句を言うフォルティスレオに、ウェテノージルは頬を引っ張ってやりたい気持ちに駆られる。
『お前はバカか。私たちではない神を造る必要があるではないか』
『は?』
『は? ではない。ルーセンテウスを輪廻から引っ張ってきたあと困るだろう』
『なぜ?』
『なぜだとっ? お前の頭の中にはゴミでも詰まっているのかっ? ルーセンテウスはお前の従者だろう! 神格のない者が生まれ落ちれば、それはただの人だぞ! お前、たった一人で永遠を歩く気かっ?』
声を荒げるウェテノージルに、フォルティスレオは目を瞬かせた。
『私が独りにならないために、ルーセンテウスを神にするのか?』
『そうだ。新しい神には新しい神格がいる。だが、新たな神格を造りだす権利を持っているのは創世神だけだ。だから、用のなくなった私とイグドラシエルの神格をお前の力で半分ずつくっつけて、私でもイグドラシエルでもお前でもない神格を二人分作り出すんだ。そして一つをお前の神域に置き、お前が創造した世界を管理する条理の役割をさせ、もう一つをお前が内包して世界に生まれ落ちる。そのあと、私が預かったお前の神格をお前に返し、お前が持ってきた神格をルーセンテウスに渡す。ここまで言えば分かるか?』
ウェテノージルの説明に、フォルティスレオは「理解はした」と呟き、納得できない顔で黙り込む。
『どうした、何が気に入らない』
『ルーセンテウスの意志を無視して神格を与えることに納得がいかない』
フォルティスレオの回答は、ウェテノージルを驚かせた。
『従者の意志が必要か? お前と共に在ることが役目だろう?』
『従者の役目としてはそうだが、ルーセンテウスの意見を確認したい。私はルーセンテウスの気持ちも意志も尊重してやりたいのだ』
ウェテノージルは再び驚き、目を丸くして数度瞬いた。
神にとって従者は、ただの所有物にすぎない。愛着を持って接する神も多く、従者という立場は、程度の差はあれ、少なくとも不幸とは無縁である。だが、所有物以上の感覚を持つ神は見たことがない。つまり、従者の意志や想いを尊重する神などいないのだ。
なるほど、これは確かにフォルティスレオに対する罰になり得る。ウェテノージルは苦笑した。ここまで従者を大切にしているくせに、その感情を理解していないとは。
『それなら生まれ落ちた後に聞いてやれ。だが、ルーセンテウスがお前と共に神になると答えた時、神格がなければどうしようもない。違うか?』
『確かに、そう言われればそうだが……』
『とにかく持ってこい。使うかどうかはっきりするまで、イグドラシエルに預けておけばいい。それと、これが一番重要なことだが』
『なんだ。勿体ぶらずに言え』
『お前は、世界に生まれ落ちた後、神域に置いてくる神格に抗うことになる』
『まぁ、そうだろうな。世界を管理する神は一人でいいわけだから』
『そうだ。神域に置かれた神格は条理に従って世界を管理しようとする。そこに意志は存在しない。単純に世界を維持するために働く力でしかないからだ。さらに、神格は神域に刻まれた経験則に引っ張られる傾向がある。どういう意味か分かるか?』
『意味……? 意味などあるのか?』
ウェテノージルは片手で目を覆い、天井を仰いだ。若い神だと思ったが、ここまで無知とは……。創世神はいったい何を教育していたのだ。
ウェテノージルは、仕方ない、とため息をついてフォルティスレオを指さして言った。
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