172 / 177
最終章:神様が紡ぐ恋物語
最終章 5話-4
しおりを挟む世界の理は、フォルティスレオが生まれ落ちるたびに早逝するため、彼を生かすための変化を用意する。
理が選んだ、フォルティスレオの魂に相応しい、対となる魂。彼を生かす為に、彼と共に輪廻から世界へ送り出される魂。
理に選ばれ、フォルティスレオの為だけに生きることを宿命とされた魂は、ルーセンテウスだった。神界で共に過ごし、神と従者として寄り添っていたことが、二人を引き寄せたことは言うまでもない。
理によってもたらされた世界の変化は、フォルティスレオの次の生まれ変わりに実装され、彼はルーセンテウスと共に生まれ落ちる。そのことでフォルティスレオは、初めて誰かと共に生き、初めて愛を知り、初めて穏やかだと言える人生を送った。
これがフォルティスレオに大きな変化をもたらし、彼は感情が行動に繋がることを覚える。
だが、初めて知った自分の感情を、フォルティスレオは上手く制御出来なかった。
大きすぎる魔力を持つフォルティスレオ。彼の傍にいたルーセンテウスは、その影響を大きく受け、早逝する。ルーセンテウスを喪ったフォルティスレオに、生きる意味などない。彼は迷うことなく、愛おしい者の後を追った。
この行動が再び世界に変化を起こさせる。理はフォルティスレオをなるべく長く生かすため、ルーセンテウスの魂に彼の魔力を受け取る器となる資格を与えたのだ。
これが、“管理者”と“筥”の始まりだった。
以降、フォルティスレオとルーセンテウスは、管理者と筥として共に生まれ落ちることを繰り返す。
ウェテノージルとイグドラシエルは神の代理人として世界に留まり、生まれ変わりを繰り返すフォルティスレオとルーセンテウスを見守りながら、最期は必ず世界樹へと呼び寄せた。
人として生まれ変わり続ける二人の命の終わりは、ウェテノージルとイグドラシエルにとって、フォルティスレオと意思疎通が出来る貴重な機会だからだ。
そして、魔の森が誕生し、エルトリアがエルグランデルとヴィクトリア王国に分かれてから800年の月日が経ったある日。今世の生を終えたルーセンテウスを輪廻へと送り出したあと、当たり前のように後を追おうとしたフォルティスレオをウェテノージルが引き留めた。
『お前は少し待て。私たちと話そう』
逃がすものか、とフォルティスレオの魔力を封じに掛かったウェテノージルは、まるで魔王のような顔をしていた。
『話? どんな話だ』
『君たちと私たちのこれからについてだよ』
イグドラシエルがあきれ顔で言う。彼ともすでに千年以上の付き合いだ。互いに遠慮の文字など存在しない。
どういう意味か分からない、と言うような顔をしたフォルティスレオの胸倉を、イグドラシエルは遠慮なく掴み上げた。
『君、ふざけてる?』
『ふざけてるように見えるか?』
フォルティスレオは眉根を寄せた。イグドラシエルはむっとした顔で「見えないね」と呟く。
ウェテノージルは深いため息をつきながら、「離してやれ」と言った。
イグドラシエルから解放されたフォルティスレオは、表情一つ変えずに服の乱れを直している。
『君さ、感情がないの?』
『神界に居た時に比べればあると思うが』
『ルーセンテウス限定ね! あー、もう、これって創世神の狙いなんじゃないのっ?』
イグドラシエルが長い髪をぐしゃぐしゃと掻きながら言う。ウェテノージルは「だろうな」と冷静に答えながら、乱れたイグドラシエルの髪を整えてやった。
『ルティスがこれじゃあ私たちはいつまで経っても神様をやめられないじゃないか!』
『やめたければ、やめてもいいぞ』
あっけらかんとフォルティスレオが言う。
はぁ? と表情を険しくしたのはイグドラシエルだ。彼の豊かな喜怒哀楽すべてが、ウェテノージルにとっては愛おしく感じる。が、いまはそれどころではない。
フォルティスレオは表情を変えることなく、イグドラシエルに言った。
『二人が神をやめたいのなら、ウェテノージルとの契約を解こう。最初の時、世界を壊さないためとは言え、お前たちを封じたり壊したりしてしまったのは私の落ち度だ。ルーセンテウスとは出会えたし、何度も生まれ落ちたことで魂は縛られたから、あとは一人でやる』
『バカじゃないのっ!』
飄々と答えたフォルティスレオに、イグドラシエルは怒りを露わにする。
『何をそんなに腹を立てているんだ』
『腹が立つに決まってるでしょ! 何度も生まれ落ちては出会って輪廻に還っての繰り返しをしているだけで、何一つ解決していないって分かってるっ?』
『だが、ルーセンテウスに出会う目的は果たせた』
『お前の中では今の状態が最良ということか?』
ウェテノージルに問われ、フォルティスレオは黙り込んだ。
創造した世界に生まれ落ち、人として生き、輪廻に戻り、再び生まれ落ちる。それをこの先も繰り返すことで、ルーセンテウスの魂とは寄り添っていける。だが、最良か、と問われれば、否、と答えるしかない。けれど……。
『ウェテノージルとイグドラシエルは目的を果たしただろう? あとは私の事情だ。二人をこれ以上、私の事情に巻き込むのは―――』
『ふざけないでよっ!』
イグドラシエルがフォルティスレオの言葉を遮った。
『君は私たちにとって、もう他人ではないんだよ!』
『神は人ではないからな』
『バカっ! そう言う意味じゃないよ! この分からずや! 冷血漢! 出来損ない!』
『エル』
ウェテノージルがイグドラシエルの額を、ぱちん、と軽く叩く。イグドラシエルは「ごめん」と、表情を曇らせた。言い過ぎたと、反省したようだ。しかし、当のフォルティスレオは不思議そうに首を傾げるばかりだ。
ウェテノージルはまたしてもため息をついた。
『ルティス、お前にとって私たちは何だ』
『私にとってのウェテノージルとイグドラシエルか? 二人は私の……』
フォルティスレオは言葉に詰まってしまった。
ウェテノージルは契約者だ。イグドラシエルは、生まれ変わるたびに手を貸し続けてくれた。いわば協力者とも言える。だが、そんなありふれた言葉で表現したくない気持ちがこみ上げてきている。
『すぐに答えられないのはいい兆候だ』
ウェテノージルの言葉に、フォルティスレオは首を傾げる。
まったく、世話が焼ける。そう思いながら、ウェテノージルはフォルティスレオの右手を握り締めた。
『ルティス、いまも私に名を呼ばれたくないか?』
突然の問いに、フォルティスレオは目を瞬かせた。そしてしばらく考え込み、ふるふる、と首を横に振った。
『私はどう? 名前を呼ばせたくない?』
今度はイグドラシエルが言った。彼はウェテノージルがしたように、フォルティスレオの左手を取る。
両手を繋がれたフォルティスレオは、イグドラシエルにも首を振って答えた。
『フォルティスレオ。私の可愛い愛し子』
イグドラシエルが想いを込めてフォルティスレオに語り掛けた。
顔を上げ、イグドラシエルと視線を交わしたフォルティスレオは、ルーセンテウスへ向けるものとは別の種類の、愛おしさを感じた。
何かが胸の奥から沸き上がり、次第に目頭が熱くなる。
『フォルティスレオ、私を継ぐ者』
今度はウェテノージルが言う。力強く、誇らしさを感じるような声音だ。
フォルティスレオは堪らなくなって、きゅっと唇を噛み締めて俯いた。感じたことも無いような震えがこみ上げ、それはそのうち、フォルティスレオの視界を柔らかく歪ませてゆく。
ぽたり、と地面に雫が堕ちる。初めて、フォルティスレオは涙を流した。
『ねぇ、フォルティスレオ。私たちを信じてくれる?』
その声に顔を上げたフォルティスレオの頬を、イグドラシエルが優しく拭った。
『フォルティスレオ、私たちはお前が大事だ』
ウェテノージルがフォルティスレオの髪を撫でた。
『私とイグドラシエルにとって、この世界での一五〇〇年はお前と過ごした時間でもある。最初こそ上手くいかずお前に苦労を掛けたが、私たちは永い間お前とルーセンテウスが何度も生まれ落ち、共に生きていく姿を見守ってきた。一見、幸せに見えるが、このままを繰り返していいはずがない。なにより、契約があろうとなかろうと、私たちはお前を助けたい』
『そうだよ、フォルティスレオ。私たちに最後まで君とルーセンテウスを見届けさせて。でないと心配でたまらなくて神様をやめて輪廻に還れないよ』
二人の言葉にフォルティスレオは、はらはらと涙を零した。イグドラシエルは「泣き虫な神様だね」とフォルティスレオを抱き締め、ウェテノージルは「手のかかる子だな」と頭を撫でた。
フォルティスレオはひとしきり泣いたあと、恥ずかしそうに頬を赤らめて「もう平気だ」と言った。
ウェテノージルは「そうか」と笑顔を浮かべ、イグドラシエルは「可愛いなぁ」と再びフォルティスレオを抱き締める。フォルティスレオは「やめろ」と恥ずかしがり、身をよじっているが、イグドラシエルの腕からは抜け出せそうもない。
0
あなたにおすすめの小説
脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~
季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」
その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。
ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。
ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。
明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。
だから、今だけは、泣いてもいいかな。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない
ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。
元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。
無口俺様攻め×美形世話好き
*マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま
他サイトも転載してます。
吸血鬼公爵の籠の鳥
江多之折(エタノール)
BL
両親を早くに失い、身内に食い潰されるように支配され続けた半生。何度も死にかけ、何度も自尊心は踏みにじられた。こんな人生なら、もういらない。そう思って最後に「悪い子」になってみようと母に何度も言い聞かされた「夜に外を出歩いてはいけない」約束を破ってみることにしたレナードは、吸血鬼と遭遇する。
血を吸い殺されるところだったが、レナードには特殊な事情があり殺されることはなく…気が付けば熱心に看病され、囲われていた。
吸血鬼公爵×薄幸侯爵の溺愛もの。小説家になろうから改行を増やしまくって掲載し直したもの。
亡国の王弟は女好きの騎士に溺愛される
コムギ
BL
アラバンド国の王弟ルカーシュは、騎士のシモンによって地下牢から救い出された。
その時、肌に触れたシモンに、やけどのような怪我を負わせてしまう。
ルカーシュは北の魔女の末裔であり、魔力を持っていた。
魔力を持たない者に触れると、怪我をさせてしまうという。
騎士団長からの命令で、シモンはルカーシュの護衛につくことになった。
※他サイトにも掲載しています。
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる