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最終章:神様が紡ぐ恋物語
最終章 5話-5
しおりを挟むまるで仲のいい兄弟のようにも見えるフォルティスレオとイグドラシエルに目を向けながら、ウェテノージルが少し真剣な面持ちで話しだした。
『フォルティスレオ、ここはお前がルーセンテウスのために生み出した世界だ』
フォルティスレオはイグドラシエルに抵抗するのや止め、ウェテノージルに目を向けた。
『ルーセンテウスがフォルティスレオと共に生まれ変わるようになってもうすぐ千年だ。もともと神だったお前は何度生まれ変わろうと、その存在を必要とされるだろう。だが、ルーセンテウスは違う。彼はいつまでもお前の付属でいるわけにはいかない。これ以上の生まれ変わりは、彼の魂の消滅に繋がる。ルーセンテウスには明確な存在証明が必要だ』
『存在証明?』
『人が神になるための存在証明だ。もしくは、神と共に在り続けるための証明』
『それは、ルーセンテウスが選べるのか?』
『お前はいつもルーセンテウスを優先するのだな』
ウェテノージルは苦笑いした。
『お前が神となり、お前がそう望めばルーセンテウスが選択を許される。神の規範を覚えているか? 従者の魂を縛る規範だ』
『私の神力を、ルーセンテウスに与えること』
『そうだ。お前がこの世界に人として生まれ、その身に内包する力は魔力のように見えるが、そもそも存在が神だ。お前から溢れる魔力は神力と同等。ルーセンテウスはこれまで、筥としてお前の神力を与えられ続けてきた。次に生まれる時もそうだろう』
『つまり』イグドラシエルが話を引き継ぐ。『ルーセンテウスの魂はすでに君に縛られている。だから、存在証明をするためにも、次の段階が必要なんだ』
その言葉に、フォルティスレオは眉根を寄せる。
『ルーセンテウスを神にするのか?』
イグドラシエルは頷いた。
『君はルーセンテウスに選ばせたいんだろう? だったら、神になるかどうかは、ルーセンテウスが選べばいい。だけど、ルーセンテウスが君と共に神になると決めた時、条件が整っていなければどうにもならない。だから、次に生まれ変わった時、ルーセンテウスを千年生かし、三人の神―――つまり、私とジル、そして君に認められる必要がある』
戸惑うフォルティスレオに対し、ウェテノージルが言葉を付け加えた。
『私たち三人はすでにルーセンテウスを承認しているようなものだ。神に生まれ変わるために必要な神格も、お前が神界からこちらに来る時に内包してきた。問題は、この世界に人として生まれ落ちる彼を千年生かすこと』
『つまり、条件を整え、千年を生きたのち、神格を魂に埋め込むかどうかをルーセンテウスに選ばせる、ということか?』
『そういうことだ。これなら、ルーセンテウスの意志を汲み、かつ、その存在を証明することができる。どうだ?』
フォルティスレオは「それなら」と表情を緩めで頷いた。
ルーセンテウスに命じてもいい立場なのに、どこまでも彼を優先するその姿勢に、ウェテノージルとイグドラシエルはフォルティスレオの中にある深い愛情と強い執着を見た気がした。
手のかかる愛し子だ。そう思いながら、ウェテノージルはさらに話を進める。
『ルーセンテウスを千年生かすこともそうだが、もう一つ問題がある。私たちは神界にいた時も、この世界に生まれ落ちた時も、神だった。だが、お前たちはあくまで人としてこの世界に生を受けた。ルーセンテウスに神格を埋め込むことも、お前に神格を返すことも、神域ではないこの世界で行うとなれば、媒介がいる。それは私たちがこちらの世界に変革をもたらすことで用意しよう。お前の神格は私が預かっているし、お前が持ってきた神格はイグドラシエルが預かっている。この世界での現時点の神は私とイグドラシエルだ。しかし、どちらも私たちのものではない。が、今しばらく私たちは神としてこの世界での役割を果たしたい。そうしてもいいだろうか?』
フォルティスレオはしばし逡巡し、こくり、と頷いた。
『ねぇ、ジル、私たち二人で本気出すってことでいいよね?』
そう言ったのは、フォルティスレオを後ろから抱きしめたままのイグドラシエルだ。ウェテノージルは「もちろんだ」と答える。
『創世神が邪魔をしてくるかもしれないが、どのみち3対1で向こうに勝ち目はない』
『ルーセンテウスもいれてあげようよ』
『4対1か。こちらの圧勝だな』
『油断は禁物だよ、ジル。創世神がちょっかいを掛けてくるとしても、さすがに直接手を出してはこないよね。そうなると、亡者を使ってくる可能性はあるよ』
『亡者? なんだ、それは』
フォルティスレオが不思議そうな顔で問う。
『生者の世界に未練を残し、輪廻に戻れない魂だ。放っておけばいずれ消滅するその魂を、一時操れる方法がある。別の世界から闇を召喚し、亡者に呪いを掛けさせるんだ。まぁ、たいしたことは出来ないが。創世神とて、後継者にする予定だった者をたった一つの世界の神にするなど、黙って見ている気になれないだろう。最後の最後で邪魔をして、面目を保つ形に収めるに違いない』
『とは言ってもね~。私たち神の立場からすると、亡者は救済の対象だから消すわけにもいかないしね』
『エルの祝福ならどうだ?』
『私の祝福なら救済出来るよ。でも、私がやってはだめだろう?』
『なら、ルーセンテウスにやらせよう』
『どうやって? ルーセンテウス一人じゃ世界樹の泉には来られないよ?』
『神格の欠片を受け渡すことで引っ張れないか?』
『できなくはないけど……かなり大掛かりになるよ?』
『それでもできるなら、やろう。それと、自分の身を守れるようにしたほうがいいだろうから、一時的に神格の欠片を埋め込もう。十に分けたうちの二つくらいがちょうどいいか』
『分けるのはともかく、もう一度くっつけて返す時に、フォルティスレオが危なくならない? 神の力を内包するには神格が必須だよ。神格を割れば神の力は不安定になる。それに、欠片同士を再びくっつけるには一度体の外に取り出さなくちゃ』
『そう言われればそうだな……。確かに、神格を一つに戻す時に器が力に耐えきれない恐れはある……。ならば、別の方法を―――』
『構わない。ルーセンテウスを守れるなら、それでいい』
ウェテノージルとイグドラシエルは、悩まし気に眉を寄せ、顔を見合わせる。
『私はどうすればいい?』
フォルティスレオがウェテノージルを真っ直ぐに見据えて言う。どうやら、もう決めているようだ。ルーセンテウスを何よりも優先する、と。
ウェテノージルはフォルティスレオの決意に応えるため、頼もしさを感じる自信たっぷりの笑顔で答える。
『ならば、神であったことを忘れて生まれてこい。神格もバラバラに分けて、私の欠片を集める要領で徐々に力を戻すことにしよう』
『そうだね。それなら何とかなるかも』
『では、決まりだ。フォルティスレオ、お前を再びこの世界に呼び寄せ、生まれ落ちる時を、私たちはお前のための物語を用意して待っていよう』
そう宣言し、ウェテノージルはフォルティスレオに赤い実を差し出した。自然と、フォルティスレオの視線が赤い実の姿をした神格に向けられる。
『力と記憶を封じれば、理はお前を見つけにくくなる。ルーセンテウスはお前に引っ張られて生まれ変わるから、彼についても理に見つかりにくくなるだろう。そうやって輪廻でしばらく眠れ』
『その間に、私たちは君たちを神様にする準備をするよ。最高の物語を用意するからね。その影響で力を使いすぎて私もジルも眠ってしまうかもしれないけれど、君が理の強制力を振り切って私たちの下にたどり着いてくれるって信じてる』
ウェテノージルとイグドラシエルの迷いのない瞳に見つめられ、フォルティスレオの胸の内が温かくなる。ルーセンテウスへ向けるものとは違うこの温かな感情に名を付けるのならば、それは確かに愛情だと言える。
この世界の創造主はフォルティスレオだ。そして、この世界はルーセンテウスを取り戻す為にある。しかし、この世界には彼以外にもたくさんの者が存在している。その中に、ウェテノージルとイグドラシエルがいる。
彼らの為にも、この世界を壊すわけにはいかない。その為にも、フォルティスレオは人々に認知され、語り継がれていく物語を生きなければならない。
フォルティスレオは小さな子供のように二人の腕に抱き着いた。
『ウェテノージルとイグドラシエルを信じる。だから、二人も私を信じてほしい』
ウェテノージルとイグドラシエルは、「もちろんだ」と言って、フォルティスレオを抱きしめ返す。
この瞬間、フォルティスレオはウェテノージルを継ぐ者であり、イグドラシエルの愛し子となった。
フォルティスレオは記憶と力をウェテノージルに預けた神格に封印し、二人に見守られながら輪廻へと還った。
それを見送ったあと、ウェテノージルとイグドラシエルは創造主であるフォルティスレオの代理人として、世界を彼の為に変革していく。
ウェテノージルとイグドラシエルは、管理者と筥の存在を確固たるものとするため、フォルティスレオとルーセンテウスによく似た魂を選んで、世界に新しい物語を生み出すところから始めた。
物語は、人を惹きつける。人の記憶に深く刻まれたものは、長い時間、消えうせることなく世界に影響を与え続ける。
竜と世界樹のお伽噺。姫と騎士の身分違いの恋物語。管理者と筥の関係を完成させるために必要な、神の遺物。その遺物を正確に作動させるため、別の世界線に繋がる穴を用意し、遺物に反応して召喚が可能になるよう、幾つか魂を呼び寄せた。そしてイグドラシエルは世界樹の中に預かった神格を封印し、ウェテノージルにひと時の別れを告げて眠りについた。
総ての準備は整い、フォルティスレオは異世界の記憶を持つ女の胎へと宿る。ウェテノージルは最後の力を使い、フォルティスレオの魂に十に割った神格の一つを埋め込んだ。フォルティスレオがこの世界で成長しながら、自分の欠片を集めていくための羅針盤にするために。
そして、フォルティスレオは再び、この世界へと生まれ落ちる。
産声を上げた時、彼はフォルティスレオと同じ名を与えられた。勇猛な獅子という、レオンハルトという名を。
そして、物語が始まる。
神だった自分の力と記憶を封じた欠片を取り戻し、愛を知るための、レオンハルト・ルース・ヴィクトリアとしての物語が。
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