【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

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最終章:神様が紡ぐ恋物語

最終章 最終話

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 名前を呼ばれたような気がして、レオンハルトの意識は浮上した。
 目を開けると、満天の星空が視界いっぱいに広がっている。優しく吹き抜けていく風が蒼い花を揺らし、レオンハルトの頬をくすぐった。

 瞬く星々を見上げながら、レオンハルトは永い、永い物語のような記憶に意識を引っ張られ、なかなか起き上がることが出来なかった。

「ウェテノージル……、イグドラシエル……」

 友のようであり、兄弟のようであり、師のようでもあった二人。レオンハルトが禁書を読むことで集めていた八つの欠片は、ウェテノージルのものではなく、自分の力と神格だ。そして、ここへ持ってきた二つの赤い実の姿をした欠片。あれの一つが、“フォルティスレオ”の記憶だ。ウェテノージルが輪廻に戻る前に封印を解き、欠片をレオンハルトに戻したのだろう。逆鱗は神格を埋め込むための媒介として、正しく使われた。

 レオンハルトの眦から、涙が零れ落ちた。起き上がり、それを拭うと再び星空を見上げる。

 もう、この世界のどこにもウェテノージルはいない。時が来ればイグドラシエルと共に再び生まれ落ちてくるだろうが、その時、二人に記憶があるかどうか分からない。

「ちゃんとお礼も言えなかった……」

 まるで家族のように大切だった二人。諦めることに慣れ切った自分を、辛抱強く支え続けてくれた。二千年以上もずっと一緒に過ごしてきた、大切な神様。彼らがいなければ、レオンハルトは“フォルティスレオ”の総てを取り戻すことは出来なかった。

 ―――いつか、もう一度会えるだろうか。

 レオンハルトはゆっくりと立ち上がり、自身の手を見つめ、ぎゅっと握りしめた。
 九つの力を宿し不死となった時も、人ではなくなったという感覚は朧げにあった。だが、今はもう、はっきりと“人ではない”と分かる。

 膨大な力。総てを理解する感覚。目を瞑り意識を巡らせるだけで、世界の果てがどうなっているかが分かる。まるで、人ひとり分ほどの大きさの球体を眺めているかのようだ。これが、創造主たる神の感覚か。だが、人として生きてきた記憶と感情が、レオンハルトを管理者たる神として生かそうとしている。

 人は脆く、儚い。そして愚かであり、尊くもある。時に壊し、時に守り、時に間違い、時に清く、永遠を歩く者からすれば、一瞬の輝かしい命を精いっぱいに生きている。
 彼らは善でも悪でもなく、そういう生き物なのだ。今後この世界を管理していくとするならば、手を出すのはバランスが崩れかかった時だけで良いだろう。それを肌で感じるためにも、神界へは戻らず、彼らの世界に身を置くほうがいい。

 そう考えて、星空を見上げて誓いを立てる。

「守るよ、ちゃんと、この場所を」

 ウェテノージルもイグドラシエルも、いつかこの世界に生まれ落ちてくる。それも、何度も。だから、この世界を壊すわけにはいかない。
 それに、レオンハルトとして生きてきた今日までの日々が、大切な人たちを増やした。ここはもう、自分のためだけの―――ルーセンテウスのためだけの世界ではないのだ。

 ざぁっと風が吹き抜ける。薄紫色の花びらが、夜空に舞い上がっていく。その花びらの流れを逆にたどるように、レオンハルトは振り返った。

 薄紫の華が美しく咲き誇る若い樹木が立っている。その樹木は、世界樹の気配を色濃く受け継いでいる。背丈は世界樹に比べるとずいぶんと小さいが、新たに生まれた存在であることは確かだ。

 レオンハルトはその樹に近づき、枝先に咲く華を見上げた。
 よく見ると、花びらが透けている。枝も樹木というより、硬質な鉱石のようにも見える。幹に触れると、微かにイグドラシエルの力を感じた。どうやら彼が、最後の力を振り絞って、ここに大切なものを封印してくれたようだ。
 神の欠片を封印した樹木。これはもはや世界樹とは呼べない。あえて言葉にするとすれば、神木、だろうか。

「レオ、起きてたの?」

 愛しい人の声に呼ばれ、レオンハルトは振り返り笑みを浮かべる。

「ルゥ、迎えに来てくれたのか」
「もちろんだよ。目が覚める前に来たかっ―――え、どうしたのっ?」

 ルヴィウスは慌てて駆け寄ってくると、戸惑いながらレオンハルトの頬を撫でた。そうしてやっと、レオンハルトは自分が泣いているのだと気づく。

「大丈夫? どこか痛い? 治癒魔法掛ける?」

 あたふたとした表情が可愛らしくて、レオンハルトは堪らずにルヴィウスを抱き締めた。
 記憶を取り戻した直後だからだろうか、フォルティスレオだった頃の意識がレオンハルトの感情を揺さぶる。

「あいしてる」

 少し体を震わせてそういうレオンハルトを、ルヴィウスはそっと抱きしめ返す。レオンハルトは溢れてくる想いを止められず、取り繕うことのない言葉が勝手に零れ落ちていく。

「愛しているんだ。お前がいればそれでいいと思っていた。それが愛だと知らずに、私はルーを縛り付けた。一緒に居るために世界を壊し続けていたのに、私はお前を失うことになった。愚かな私を許してくれとは言わない。けれど、私はお前を…―――ルーセンテウスを取り戻したくて、それで―――」

「レオ、レオ、待って。一回落ち着こう?」

 とん、とん、と背中を優しく宥められ、レオンハルトは我に返る。抱きしめる腕を緩めると、二人の間にわずかな隙間が出来た。
 ルヴィウスは「大丈夫?」とレオンハルトの顔を覗き込む。

「ごめん、俺、記憶が蘇ったばっかりで、フォルティスレオとごっちゃになってる……」
 しゅん、と落ち込んだレオンハルトに、ルヴィウスは目を瞬かせた。

「えぇっとー……、それ、誰なのか聞いてもいい?」
「あ、うん。えっと、フォルティスレオは俺」
「え?」
「あー、えーっと、うーん……、フォルティスレオは俺で、ルーセンテウスはルゥで、それからウェテノージルとイグドラシエルは神界から一緒に来た友達って言うか、師匠って言うか―――」
「待って、待って。ちょっと詰め込みすぎてるから順番に説明して」

 お互い見つめ合い、時が僅かに止まる。花びらが舞い落ちるほどの空白が流れた後、レオンハルトとルヴィウスは可笑しくなって、声を上げて笑った。

「ごめん、ちょっと端折りすぎた」

 レオンハルトがルヴィウスの手を引いた。そのまま薄紫の華を咲かせる樹の下へと連れてくると、幹を背にして腰を下ろし、自分の足の間にルヴィウスを座らせる。そうして後ろから愛おしい体を抱き込むと、彼の肩に顎を乗せ、甘えるような声で話し出す。

「ねぇ、ルゥ、聞いてほしいことがあるんだ」
「いいよ、レオの話、聞いてあげる」

 ルヴィウスはレオンハルトにもたれ掛かり、頬に触れる彼の髪に頬を擦り寄せる。

「愛を知らない神様の、すごく永い、永い物語なんだけど、聞いてくれる?」

 レオンハルトの温もりに抱かれながら、ルヴィウスは彼の声に耳を傾ける。

 見上げれば満天の星空。薄紫の華を咲かせる樹の下で、蜂蜜色の髪と蒼い瞳をもつ神様は、銀の月のように美しいたった一人の愛する人へ、永い、永い物語を語り聞かせる。

 星の輝きが白み始めた空に隠れ、夜と朝が混じる暁の色が世界に染みる頃、永く愛しい物語は終わりを迎えた。
 レオンハルトは腕を解き、ルヴィウスを解放すると立ち上がった。手を差し伸べると、どこか少し戸惑った表情のルヴィウスが、銀月の瞳で見上げてくる。

「ルゥが選んでいいんだよ。俺にとって、ルゥは世界のすべてだから」

 そう告げたレオンハルトは、以前よりもずっと、大人びた表情をしている。
 ルヴィウスは差し出された手を取り、立ち上がった。そして、その手を両手に包み込む。その表情は、どこか哀し気だ。

「僕には、ルーセンテウスの記憶がない。フォルティスレオと過ごした頃の記憶は、蘇らなかった。それでもいいの?」
「それは重要じゃない」

 そう言い、レオンハルトはルヴィウスを優しく抱き締めた。

「フォルティスレオはルーセンテウスを愛してた。俺はレオンハルトとして生まれて、ルヴィウスに恋をした。今は、心からルゥを愛してる。俺の一番で、唯一で、生きる意味そのもの。俺の世界のすべて。それがルゥだよ。だからって、強制はしない。まだ千年あるから、いつか心が決まったら教えてほしい」

 レオンハルトの言葉に、ルヴィウスは、ふるふる、と首を横に振った。それから、するり、とレオンハルトの頬を包み込み、愛おしそうに見つめる。

「ねぇ、何度言わせるの? 僕の愛は重いんだよ。レオを愛してる。君の傍にいたい。一緒にいさせてほしい。君が背負うものを、半分僕に分けてよ。そうして永遠とわを一緒に歩こう。だから、まずは君に、僕の千年を約束させて? 僕にルーセンテウスの記憶はないけれど、僕はルヴィウスとして生まれて君に恋をした。誰にも渡したくないほど、君のことが愛おしいんだ。だから、僕を君の永遠に連れて行って」

 ルヴィウスの言葉に、レオンハルトは「ありがとう」と笑って、唇が触れるほどの距離で「誰よりも愛してる」と囁いた。

 穏やかな風が吹き、蒼い花が揺れる。
 神様が紡ぎ続けた恋物語は、永遠とわの約束に帰結した。
 新しい陽が昇り、昨日という過去から明日へと向かう今日が始まる。それは、千年の約束を誓う二人の、新たな物語の始まり。
 
 
 **********

 初めて投稿した長い長いお話にお付き合いくださり、心から感謝申し上げます。
 読みづらい箇所が多々あったかと思います。お付き合いくださった方、本当にありがとうございました。

 千年はどこから出てきた? と思われた方は、プロローグを再読くださいますとお分かりいただけるかと思います。
 さて、レオンハルトとルヴィウスの物語は、千年後を書いたエピローグでいったん終わりとなります。
 彼らの千年後の様子を、覗いていってくださると嬉しいです。

 次回作は「初恋×呪い&初恋×禁忌」をテーマにしたお話になります。
 エピローグ三話が完結時にプロローグのDraft版を新作としてUP予定です。
 また次回作でお会い出来ましたら嬉しいです。
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