【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

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エピローグ:千年の約束

エピローグ 1話ー2

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 ローズガーデンを歩きながら、レオンハルトが振り返りもせずシエルに話しかける。
「連れてくるのが遅くなって悪かったな、イグドラシエル」

 レオンハルトの言葉に、シエルは駆け足で彼の隣に並び、ふふふ、と笑う。

「ジル、怒ってた?」
「そうだな、少し機嫌が悪いかもしれない」
「そっかー……、じゃあ、目いっぱい甘やかさないと。ジルはすぐにレオンハルトと会えたの?」
「あぁ、ジルが一歳の時には会えていた。とは言っても、ジルもなかなか記憶が戻らなくて、こっちが焦ったよ」
「私のことも、記憶が戻らないことで苦労かけてしまったね」
「いや、面白かったよ。まさかシエルと学園生活を送れるとは思ってなかったからな」
「ふふふっ、そうだね。すごく楽しかったよ、君との学園生活は」
「お前が俺に惚れた時はどうしようかと思ったがな」
「ごめん、ごめん。あの時のことは忘れてよ。って言うか、レオンハルトが超絶美形で他人には冷淡だったくせに、私だけに優しくするから勘違いしちゃったんじゃないか」
「ルゥのことを忘れては困る」
「ルヴィウスはジルの師匠をしてたでしょ。私とはあんまり接点なかったじゃん。って言うか、ルヴィウスはどうしてるの?」
「そのうち分かる」
 うん? とシエルは首を傾げつつ、レオンハルトについて歩く。

 二人はローズガーデンを出ると、王宮だった頃の名残が強く残る貴賓館へとやってきた。警備員がいる重厚な扉から館に入り、応接間として貸出が行われている一階の廊下を歩く。

 そこはまるで、時間までが丁寧に磨き上げられたかのような空間だった。
 今では産出量が減った魔鉱石で造られた柱や、小さな傷さえも歴史を感じさせる飴色の窓枠。左右対称の造りは陽の光りの当たり具合によって表情を変え、豊かな陰影と奥行きが表現される。時折現れる絵画やタペストリーが、空間に彩を与え、歩くだけでも目を楽しませてくれた。
 
 緻密なレリーフを施された高い天井に、シャンデリア。窓から見える手入れの行き届いた庭園。廊下に敷かれた絨毯は足音を吸い込み、一歩足を踏み出すごとに、心地よい静けさが響く。
 廊下と言え、ここはもはやただの移動空間ではない。歴史の重みと細部まで息づく美意識は、訪れる者を魅了する。あちこちに解体された王家の名残がある空間は、細部まで丁寧に修復され、今も保存が続けられている。

 現在、このあたり一帯は、王族の居住区だった最深部以外を観光と市民利用のために開放しており、構造物・建造物自体は歴史的価値あるものとして国が保存を決めている。
 
 王家の解体と聞くと暗い歴史を連想しがちだが、帝国はそれに当てはまらない。初代皇帝となったヒースクリフと皇太子エドヴァルドは、二代かけて緩やかに王制を廃止。大きな混乱を招くことなく進められた政策には、当時の皇妃イーリスと皇太子妃ノアールの力が大きかったと聞く。
 エドヴァルドが皇帝となったあと、彼は貴族解体に乗り出した。皇妃となったノアールは人民の平等を掲げて活動した。二人が蒔いた種は芽となり、困難に見舞われつつもしっかりと成長し、彼らの第一子リリアンが初の女皇帝となったあとも引き継がれていった。そして、経済面をリリアンの弟であるエシルが、政治面をエシルの双子の弟カシルがそれぞれ先頭に立ち、改革を押し進めていった。今の帝国の原型は、リリアンが45歳で皇帝を退位したときに確立されたものだ。

 レオンハルトは貴賓館の一番奥、もっとも高貴な客を迎える際に使用されていた応接室までやってくると、扉をノックした。中から柔らかい男性の声音で「どうぞ」と許可が返ってくる。
 扉を開けた瞬間、レオンハルトを差し置いてシエルが部屋に飛び込んだ。

「ジルっ!」

 満面の笑みで駆け込むシエルを、黄金の瞳に蒼い髪を後ろで一つに結った少年が、両腕を広げて迎える。

「エル、会いたかった」

 飛び込んできたシエルをしっかりと抱き留めたジルベスタは、黄金の瞳を揺らめかせている。いつもは強気なジルベスタも、最愛の人との再会は感極まるようだ。

 二人の少年は手を取り合い、額をくっつけるほどの距離で、これまで生きてきたそれぞれの十七年間を報告し合う。

 彼らのその様子を扉の前で佇んで眺めていたレオンハルトの隣に、一人の人物が寄り添った。

「上手くいきそう?」

 ふふっ、と愛らしく微笑むのは、黒髪に銀の月を思わせる瞳の青年だ。レオンハルトとは別の種類の並外れた彼の美しさは、よく宵闇に浮かぶ月に例えられる。

「大丈夫だと思う。それより、“弟君”を連れてきてくれてありがとう」
「どういたしまして。神様のご要望とあればなんなりと」

 わざとらしいやり取りが可笑しくて、レオンハルトとルヴィウスは顔を寄せ合って笑った。そしてレオンハルトは、指を絡めてルヴィウスと手を繋ぎ、彼の艶やかな黒髪に口づける。

「エルとジル、二人っきりにしてやろう」
「僕たちも二人っきりになりたいし?」

 上目遣いにそう言ったルヴィウスに、レオンハルトは「そうだな」と苦笑する。

「ジル」

 レオンハルトがジルベスタを呼ぶと、彼の視線がこちらを向く。それを確認したレオンハルトは、ぱちん、と指を鳴らしてジルの目の前に魔法の砂時計を召喚した。
 美しいガラスのような素材で出来たそれは、光りの粒が上から下へと流れ落ちている。

「一時間したら迎えに来る。くれぐれも“兄上”に迷惑を掛けるようなことはするなよ」

 そう言うレオンハルトに、ジルベスタは右の眉をひょいっと上げて言い返す。

「分かっている。ルヴィウス“兄上”を困らせたりしな―――」
「えっ? ルヴィウスとジルって兄弟なのっ?」

 シエルが驚いた顔でルヴィウスとジルベスタを見比べる。今までジルベスタに夢中で、ルヴィウスに気づいていなかったようだ。

「似てないけど兄弟なんだよ、僕たち。ね、ジル」
「冗談はよせ。エルが本気にしてしまうではないか」
「え、嘘なのっ? 兄弟じゃないのっ?」
「ふふふっ、ジルが僕をルヴィ兄上って呼んで慕ってくれてるっていう話だよ」
「なにそれっ、もっと詳しくっ!」

 食って掛かるシエルに、ジルベスタが「落ち着け」と苦い顔をする。

「話はジルに聞くといい。積もる話もあるだろうから俺とルゥは席を外すよ」
「うわぁ、私たちを気遣っているフリして、そっちはそっちで二人になりたいだけでしょ~」

 エルが茶化すように文句を言ってきたが、レオンハルトは気にせず「また後で」とルヴィウスの細い腰を抱き寄せ、転移魔法を展開した。


 応接室から姿を消した次の瞬間には、レオンハルトとルヴィウスは立ち入り禁止となっている王族居住区だった青薔薇園にいた。
 レオンハルトとルヴィウスがまだ第二王子と公爵家子息だった頃、婚約の顔合わせや茶会で使っていた青薔薇が咲き誇るこの庭園は、今も美しい景観を保っている。なぜなら、レオンハルトが保存魔法を掛け、人の出入りを制限しているからだ。

 二人は手を繋ぎ、寄り添いながら歩く。この庭園には保存魔法だけでなく結界も張られているため、誰に気兼ねすることもなく、どんな話でも出来る。

「アクセラーダ家のほうは落ち着いたか?」
「うん、ジルの姉―――ユリア嬢が継ぐことを来週の夜会で公式発表することになった」
「そうか。ユリア嬢は才女だからアクセラーダ家も安泰だな。ご両親はジルを跡継ぎにと考えていたようだが、諦めてくれてよかった」
「ユリア嬢が協力的だったし、僕たちも長年仕込んできた甲斐があったよね」
「ジルもエルも、さすがに十一回目の生まれ変わりとなると、なかなか記憶が戻らなくて困ったからな。それに、」
 レオンハルトは足を止め、ルヴィウスを抱きすくめると同時に口づけた。
「そろそろ俺の住む柘榴の宮殿に住まいを移してほしい。毎朝ルゥが隣で目を覚ます日常に戻りたい」
「ふふっ、そうだね。千年以上ずっと一緒に朝を迎えてたものね。僕もこの二年は離れ離れで 寂しかったよ。会えないわけじゃないけど、別々に寝るのはやっぱり嫌だな」

 そう言ってルヴィウスは、ゆったりとレオンハルトに唇を重ねる。
 最初は触れるだけ、次に、角度を変えて。その後は、食むような口づけをしながら、ルヴィウスはレオンハルトの首に腕を回した。

 あの頃と変わらない青薔薇園に、二人だけの時間が流れている。レオンハルトとルヴィウスは、小説の一ページを読み終えるほどの時間が流れていく間、夢中になって口づけを交わした。
 
 
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