【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

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プロローグ:罪を犯した神の契約

プロローグ-2

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「バカにされたのに、腹を立てないのか?」
 その言葉にルティスは首を傾げる。
「私が出来損ないなのは事実だ。腹を立てる理由にはならないし、そういった感情は存在しない」
 ルティスの無表情ぶりに、罪人の男はやや目を丸くする。
「これはまた、たいそうな出来損ないぶりだな」
「どういう意味だ」
「お前のその出来損ないぶりが、ルーセンテウスを殺したんだろう、フォルティスレオ?」

 罪人の男の言葉に、ルティスが拳を握りしめる。その小さな変化に気づいた男は、笑みを浮かべた。

「軽々しく呼ぶな。私の名を許したのはルーセンテウスだけだ」
「名を許すほど大切だった者を殺したとは愚かなヤツだ」
「ルーセンテウスは私の代わりに罰を受けた。私が殺したのではない。そもそも、神界に死の概念は存在しない」
「死を“特定の世界線からの存在の消失”と定義すれば、神界にも死の概念は存在する。その前提の下ではルーセンテウスは死んでいる。そしてその原因はお前だ、ルティス。お前は世界を造っては壊し続けた。出来損ないでいるために、そうしたのだろう?」

 核心をつく罪人の男に、ルティスは眉間に皺を寄せた。彼さえも気づいていない感情の揺らぎが表に現れている。

 男は満足げな笑みを浮かべ、さらにルティスを追及する。
「一人前の神になれば、干渉してくる者は増える。お前はルーセンテウスと二人きりの時間を邪魔されたくなくて、出来損ないで居続けた。直接的に手を下さなくとも、お前がルーセンテウスを葬ったことは純然たる事実だ」

 男の責めるような物言いに、ルティスは「そうか」と小さく呟き、僅かに顔を俯けた。

 罪人は、未熟すぎる若き出来損ないの神に、まるで自分を見ているかのような感覚を覚えた。それを無視できないからこそ、罪人は“神になり損なった者”なのかもしれない。

「ウェテノージル・プリケプス」

 男の声に、ルティスは反射的に顔を上げた。男は満足げな笑みを浮かべてルティスを見ている。

「ウェテノージル・プリケプスだ。ウェテノージルは私が愛する人につけてもらった大切な名だ。私は寛大だからな。お前に名を呼ぶことを許そう」

 どこか楽しそうな雰囲気の男にそう言われ、ルティスは彼の名を口の中で呟いた。
 ウェテノージル。ただ一人の、という意味だ。羨ましい。なぜだか、そう感じてしまった。

「ルティス、お前はルーセンテウスを取り戻したい、私は愛する人、エルを―――イグドラシエル・イニティウムを取り戻したい。利害は一致している。そう言うことでいいか?」

 ルティスは、こくり、と頷いた。こんな結界だらけの牢獄に閉じ込められているくせに、外の事情をどうやって知るのだろう。そんな興味もあって、ルティスはウェテノージルを見据える。

「なんだ、違ったか? お前、私と契約しに来たんだろう?」
「なぜ知っている」
「これでも神の成り損ないだ。結界は破れずとも、外の事情は把握している」
「イグドラシエル・イニティウムとは誰だ」
「私に名を授け、私が愛した世界樹の神だ」

 あぁ、とルティスはウェテノージルが罪人となった彼の罪を思い出した。

 ウェテノージルは、プリケプスという先導者の意味をもつ神として生まれたにも関わらず、世界樹の神と恋に堕ちた。神にとって、同種族との恋は禁忌。なぜなら、互いの領域が混ざり合ってしまうことで、世界が歪んでしまうからだ。例外は一つだけ。同域内に二つ以上の神格が存在し、その世界の理が複数の神を“是”と認識した場合だ。
 ウェテノージルとイグドラシエルはこの例外には当てはまらない世界で、恋に堕ちた。彼らは意図せず、創造主たちが生んだ多くの世界を混沌に陥れた。その罪を背負い、イグドラシエルは神格を取り上げられ輪廻に封印され、ウェテノージルは彼の神格と共にこの牢獄に閉じ込められた。

 しばし視線を交わし合っていた二人だったが、先にルティスが顔を逸らした。

「結界を解く前に、契約を交わしたい」
「それでいい。私は罪人だ。結界を解いた瞬間、お前を攻撃するかもしれないしな」
「そんなつもりはないのは分かっている」

 ルティスが絶対の確信を持って言う。ウェテノージルは「そうか」と右の口端を上げた。

「ルティス、物事を成し遂げるためには、物語がいる」
「物語?」

「そうだ。物語は世界を創造し、生命を生み、心を動かし、感情を知り、叡智を与え、永久を生きる。神格があれば世界は回るが、物語のない世界は月のない夜と同じだ。世界に認知され、人々に語り継がれる物語こそ、創造主が生む世界の原動力であり、世界が破壊されずに維持され続ける源になる。ルティス、私と私の物語をお前の創造に飲み込め。そうすれば、私は神の成り損ないではなくなり、私の魂に縛られたイグドラシエルも輪廻の封印から引き寄せられ新たに生まれ落ちてくる」

「だが、神格は授受が可能だ。創造主の世界に生まれ落ちるお前たちは神格を失う恐れがある」
「それこそが目的だ。神でなくなれば、私たちは罪人ではなくなる」

「ルーセンテウスはどうなる」
「ルーセンテウスを呼ぶのはお前の役割だ。ルーセンテウスがお前にとってどんな存在なのかを知れば、おのずと次にどう行動すればいいかが分かる」

「分からなければどうなる」
「ルーセンテウスには会えず、お前は出来損ないのまま消滅する。ルーセンテウスを取り戻したければ創造主たる神のひと柱になれ」

「私が失敗すれば、お前もイグドラシエルも消滅することになるぞ」
「構わん。私とイグドラシエルにとって、どちらかを欠くことは、世界が無いようなものだ」

「ウェテノージルにとって、イグドラシエルは世界そのものなのか?」

「そうだ。イグドラシエルは私にとって、ただ一つの世界で、愛する人だ。私たちは互いを愛しすぎた。他の世界がどうなろうと構わないほどに。だから私には神の資格などない。成り損ないで構わないし、ましてや創造主になどなりたくない。ただイグドラシエルと共にあれたらいい。だからお前の世界に私を堕とせ。お前は愛おしいという感情が分かっていない。それが分かった時、お前は真にルーセンテウスに会えるだろう。その方法を教えてやる」

 強い瞳で言い切ったウェテノージルに、ルティスは「わかった」と頷いた。

 二人はそのまましばらく、永い、永い物語を作り上げるための話し合いに没頭した。
 夜通し続いた話し合いが終わる頃、陽が昇り初め、闇の森がその光りを吸収していく。
 ようやく話し合いが済むと、ルティスが契約の祝詞を謳い、ウェテノージルがそれを受け入れ、返しの祝詞を唱える。

 牢獄の結界が解け、闇の森にそびえ立つ漆黒の塔が数百年ぶりに陽の光りを浴びた。
 塔は陽に溶け、煌めきながら光りの粒子へとその姿を変えていく。塔の影響を色濃く受けていた闇の森も、祓われるかのように煌めく光りにその表面を撫でられ、あとには美しい華が咲き誇る姿へと変容した。
 風が吹き、花びらが舞う。塔のあった場所には、ルティスが立っていた。その手には、始まりの赤い実が二つ。実の内側には、核となる神格が内包されている。

 ―――もう一度会うことが叶ったら、私はルーセンテウスに何を告げればいいだろう

 ルティスは朝焼けのような薄紫の空を見上げながら、いまはもう傍に居ない従者を想った。
 しばらく空を見上げていたルティスだったが、答えが出るわけでもなく、腕に赤い実を大切に抱き、自分の神域へと転移した。

 この日、創造主となるべく、若き神の手により新しい世界が生まれ落ちた。
 それは物語であり、愛おしいとは何かの証明でもあり、千年の約束の始まりだった。

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