【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

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二章:狂った龍と逆さの鱗

二章 7話-3 ※

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 唇を重ね、角度を変えて何度か啄ばむ。魔力交換をしない口づけは、心の中が見透かされるような、想いが全部あふれていくような感じがして、ルヴィウスは多幸感に包まれる。

 濡れた音がし始めたころ、レオンハルトは少し強引にルヴィウスを引きはがした。

「おしまい。もうこれ以上はしない」

 今はまだ、口づけだけ。そう言われているのだと分かり、ルヴィウスの胎の奥が、きゅっ、と甘くしびれた。本能が欲しいと告げている。この胎の最奥にレオンハルトの熱が欲しい、と。

 ルヴィウスの潤んだ目が何を訴えているのか理解したレオンハルトは、ふぅ、と一つ息をついた。

「ルゥ、成人するまでは繋がるつもりはない」
「じゃあ、繋がらなければいいの?」

 予想もしていなかったルヴィウスの言葉に、レオンハルトは固まる。いま、なんと?

 見たこともないレオンハルトの表情に、まだ知らないところがあるんだな、とくすぐったい気持ちになったルヴィウスは、ふふふ、と笑って、とどめを刺す。

「繋がらなくてもいろんなことが出来るって習ったよ?」
「………―――な…っ、なんて煽り文句を……! どこで覚えてくるんだ……っ!」
「講義で教えてもらった。文章だったからよく分からなかったけど。先生は、レオに任せたらいいよって言ってた。教えてくれる?」
「まだ早いからっ!」

 慌てるレオンハルトがなんだか可愛くて、もう少しからかってやりたくなったルヴィウスは、彼の首に腕を回して抱き着いた。
 もちろん、腹の下の際どいところを、腰を使ってわざと、すりっ、と擦り上げるのを忘れない。レオンハルトは突然の誘惑に、ガチリ、と体を強張らせる。その反応にさらに悪戯心をくすぐられたルヴィウスは、レオンハルトの耳元で甘く囁いた。

「ねぇ、レオ、口でしようか? それとも、手でする?」
「待てまてっ! ルゥ、それは意味を分かってて言ってるのかっ?」
 レオンハルトは驚いて、ルヴィウスの体を引き離した。
「もちろん。レオの―――」
「すとーーーっぷ!」大きな声でルヴィウスの言葉の続きを遮り、彼の口を手で塞ぐ。「言うな! やめろっ! 俺の天使はどこにいった!?」
「いるのは天使じゃなくて小悪魔だよ」
「そのとおり―――……じゃなくてっ!」

 レオンハルトは両手で顔を覆い、「あーっ、もーっ」と天井を仰ぐ。いつもは冷静で格好いい婚約者を翻弄できて満足したルヴィウスは、くすくす、と笑った。
「まったく……」
 先が思いやられるな、と聞こえるか聞こえないかで呟いたレオンハルトに、ルヴィウスは再び腕を回しそっと抱きついた。

「いつならいいの?」

 先ほどとは打って変わり、どこか切実さを含んだ声だ。耳元で囁く婚約者の声に背中がざわつくのを覚えながら、レオンハルトはルヴィウスを温かく抱きしめ返した。

「成人するまで待って」
「それは……どっちが……?」
「……ルゥの全部をもらうのは、せめて俺が成人するまで待ってほしい」

 ちゃんと自分で自分の責任を取れるようになってから。そこは譲れない気がした。
 すでに数年に渡り魔力交換を行ってきたのだ。これからも、ルヴィウスの中にレオンハルトの魔力が満ちている状態が続く。それは、子を成すための準備が整っている状態とも言い変えることができる。
 まだルヴィウスには言っていないが、控えめに言っても、レオンハルトには一発で孕ませる自信がある。それを回避する手立ては、まだ模索中だ。つまり、避妊のための魔道具なりポーションなりが出来るまでは、ルヴィウスを抱くわけにはいかないのである。

「じゃあ、繋がる前までの行為はいつまで待てばいいの?」

 不満声のルヴィウスに、レオンハルトは小さく溜息をついた。
 知識が増え、興味を抱くのは分かる。自信がないと言っていたから、確信を得たい焦りもあるのだろう。だが、ルヴィウスはまだ十二歳になったばかりだ。レオンハルトにしてみても、いくら人より成長が早いとはいえ、次の誕生日を迎えてやっと十三。明らかに口づけ以上に進むには早すぎる。

 どう納得させるべきか……。考えを巡らせるレオンハルトの首筋に、ルヴィウスが、ちゅっ、と口づけた。自然と顔がそちらを向き、目が合う。
 近すぎる距離に、当たり前のように唇を合わせた。

 最初は軽く。何度か角度を変えて、徐々に深く。深くなればなるほど、互いを抱きしめる強さが増していく。息を混ぜ合わせ、溢れる唾液を飲み込みながら互いの唇を隙もないほど重ねた。
 今朝までは、これはただの魔力交換だった。けれど今夜からは、愛情を確かめ合う行為の一つになる。

 どちらからともなく、唇を離した。はぁ、と吐き出した息の温度が分かるほどの距離。
 初めて会った日のように、物語の一ページがめくられる程度の静謐が二人を包んだあと、レオンハルトはルヴィウスの鼻先にキスを贈ってから呟いた。

「今だなって……」
「ん? なに?」
 とろり、とした瞳でルヴィウスがレオンハルトを見上げる。
「……今だなって思った時でいいんじゃないかな?」
「どういうこと?」

 レオンハルトはルヴィウスの前髪をそっと横に避け、額に口づける。

「お互いが、もっと近づきたいって思って、もっと触れたいって感じて、なんの心配事も思い浮かばなくなるくらい頭が真っ白になって、あぁいま欲しいなって思った時。そうしたら、もう少し先をしよう。もし、いま先に進んでも、ルゥは絶対に親の顔がよぎらないって言える? 俺は無理だよ。きっと、途中で父上や母上になんて弁解しようって考える気がするんだ。だから、今じゃない」

 ルヴィウスは、二度、瞬きする。そして、こくん、と頷いた。
 レオンハルトの言葉が、なんだか胸の奥に、すとん、と落ちたのだ。自分もきっと、親の顔が浮かんで後ろめたさを覚えてしまうに違いない。だから、今じゃない。

 納得してくれたのだと分かったレオンハルトは、甘く、甘く、ルヴィウスを抱き寄せた。

「愛しているよ、ルゥ。だから、安心して。ゆっくり進んでいこう?」
「うん……。僕も、レオが一番大好き」

 ルヴィウスは、ぎゅっとレオンハルトを抱きしめ返した。

 きっと、これからもいろんなことがある。楽しいとか、嬉しいとか、それだけじゃなく、苦しかったり、辛かったり、泣いたりすることもあるだろう。だけど、一番大事なことはもう間違えない。君が一番で、唯一の大切な人。

「ねぇ、誕生日の最後のわがまま言っていい?」
「いいよ、なに?」

 レオンハルトに甘やかされていることを自覚しているルヴィウスは、誰にも聞かせたことのない可愛らしく甘い声で、彼の耳元でそっと囁いた。

 ―――もう一回キスして。

 レオンハルトは小さく笑うと、「もちろん」と言ってルヴィウスの柔らかい唇に口づけた。

 長い口づけのあと、レオンハルトは「もう寝よう」と告げる。ルヴィウスは名残惜しそうにしながらもベッドの中へ入った。
 手を繋いだまましばらく、とつとつと他愛もない話をした。その声がだんだんと途切れるようになっていく。

「れ、ぉ……」

 睡魔に抗いながら、ルヴィウスがレオンハルトを呼ぶ。

「ここにいるよ」

 レオンハルトは繋いだ手の指を撫でながら、今にも眠りに落ちていきそうなルヴィウスを見つめた。

「ぼく……、れぉの……とく、べつ……」

 ―――僕、レオの特別でいられるように、がんばるね

 掠れるほどの声で呟いて、ルヴィウスは意識を手離した。レオンハルトは眉尻を下げて少し困ったように笑う。

 何かを成し遂げなくとも、ルヴィウスはレオンハルトの特別だ。傍に居てくれるだけで、欲しいものを与えてくれる。一番も、唯一も、特別も、すべてルヴィウスが与えてくれた。なにより今日、自分では気付けなかった大事なことを教えてくれた。

「俺のこと、ただの人だって言ってくれてありがとう」

 ルヴィウスが叱責してくれなければ、自覚することはなかっただろう。
 いままでずっと、無意識に自分のことを「人とは違う」と思っていた。
 表向き魔法の天才だと褒めてくれる人が多かったが、成長するにつれて異質なものとして認識する者が増えてきた。だから、傷つく前に自分で自分に言い聞かせていたのかもしれない。
 人間離れしているから、他の人とは違うから、強いから傷ついてもなんの問題もない、と。ルヴィウスはそんなレオンハルトの心に気づいて、気持ちごと抱きしめてくれた。

 レオンハルトが、するり、と繋いでいた手を解いた。ルヴィウスはすでに夢の中の住人だ。規則正しい寝息を立て、無防備で愛らしい寝顔をしている。
 いつか、この寝顔を毎夜、隣で見ることが出来るようになるだろうか。

 レオンハルトはルヴィウスの柔らかい髪を撫でて、額にそっとキスをした。愛らしいその寝顔を見つめながら、不確かで不明瞭な不安が過ぎる。

 逆鱗の存在を知ったのも、そのあと凶龍討伐の話が舞い込んだのも、偶然とは思えない。誰かが、作為的に仕組んでいる。そんな気さえするのに、その誰かの気配はどこにもない。

 レオンハルトはもう一度ルヴィウスの髪を撫で、無防備で愛らしい寝顔を見つめた。

 ―――おやすみ、愛おしい俺だけの“はこ”。

 逆鱗の情報を得た時に書かれてあった“筥”の存在。レオンハルトの大きすぎる魔力の受け皿になるためにルヴィウスが産まれてきたのだとしたら、自分はこの愛おしい子を守るために生きて行こう。

「ルゥ、いつか話すよ」

 君の運命を。そして、どれほど君を愛しているのかを。だから今はただ、安心して眠るといい。そしてどうか、いい夢を。
 
 
***************
お読みいただきありがとうございます。
これにて二章は終了です。
二章の紡ぎ話が2話ありますが、読まずとも本編にはあまり影響はありません。
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