【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

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二章:狂った龍と逆さの鱗

二章 紡ぎ話-1

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 雨季が過ぎ去り、新緑に夏色が混ざり始めた七月十日。アクセラーダ公爵家当主執務室には、グラヴィスとアレンの姿があった。

「無事に受け取れたようだね」

 アレンが紅茶のカップをソーサーに戻しながら言った。

 レオンハルトが一時的に行方不明になり、王宮が大騒ぎになった数日後、王太子であるエドヴァルドが、レオンハルトの捜索に尽力してもらった礼状と礼品を携え、エーシャルワイドを訪れた。彼は使節団代表として令状や礼品を届けただけでなく、午餐の席で立派に外交をやり遂げた。レオンハルトから預かった手紙をシロウへと手渡すことも忘れず、翌日には凶龍討伐の見返りを受け取り、無事に帰国した。

「まさか宝玉も差し出してくるとは思わなかったな」
 グラヴィスが足を組み替えて言った。
「おかげで僕の魔道具が役に立って上手く隠せたよ」
 アレンが満足げに笑う。

 現在、王家の宝物庫には二つの神の遺物、逆鱗と、龍が右手に持っていた宝玉が納められている。
 エーシャルワイド側としては、凶をもたらすものという理由でヴィクトリア王国へ宝玉を押し付けたかのような格好だ。厳重に管理された二つの神物は、レオンハルトの予想通り、魔法省が研究を理由に口を出してくる気配があった。が、そこはヒースクリフが上手く立ち回り、凶龍の他の素材を無償譲渡という餌を撒き、興味を逸らすことに成功している。無論、この先どう出てくるかは未知数だ。

「それにしても、早いものだね。ルヴィも十二歳か」

 先週四日に行われたルヴィウスの誕生日パーティーの様子を思い返したのか、アレンは小さく笑った。
 今回の誕生日パーティーは、ルヴィウスの社交界デビューでもあり、第二王子の婚約者として披露される初の公の場だった。
 王家と公爵家の縁繋ぎとあって、これまでは噂や記事を鵜呑みにしていなかった貴族の間では「実際は今時めずらしい政略結婚では」と噂されていた。
 だが、レオンハルトのエスコートを受けながら会場に入場したルヴィウスを見て、噂は一掃されてしまった。市井で人気の恋愛小説は本当だったようだ、と。

「殿下の溺愛っぷりはさすがだったね」
 アレンの言い草にグラヴィスは「そうだな」と微苦笑して紅茶を口にした。
「とにかく、鱗が手に入ってよかったよ」
「使うかどうかは、ルヴィに任せたい」
「それはもちろんだよ。嫌がる子に使わせたくないもの。でも、必要な時に無かったら困るでしょう?」
「本当に必要な時が来るのか?」
「来るよ。殿下が成人するまであと五年。十八歳になる頃には必要になるはずだ」
「どう考えても今の二人が離れる選択肢はないと思うがな」
「想いあっているが故に、離れることが必要になるんだよ」

 アレンの言葉にグラヴィスは、そんなものだろうか、と懐疑的だ。アレンは困ったように眉根を寄せて微笑む。

「僕も伝え聞いたことしか知らないから、そういうものだと言うしかないけど。でも、彼らはこの世の理から外れる存在だから」
 そう言われ、グラヴィスは表情を曇らせた。
「あまり、辛い思いをさせたくない……」
「それは僕も同感だよ。もちろん、レアも。そうそう、レアが君に会いたいって言ってた」
「カトレア様が? はじめて会った時は欠乏症の症状で意識が朦朧としていたから、私にしてみたらほぼ初対面に近いな」
「ははっ、レアってばヴィーに忘れられてる」
「代わりに謝っておいてくれ……。それと、できれば普通に…平時に会いたい、と」
「上手く事が運べば可能だよ。普通に会うこと」
「上手くいけば、だろう?」
「そうなるよう、僕たち大人が力を合わせるんじゃないか。及び腰にならないでよ」

「君とは経験値が違うんだから、無茶を言わないでくれ」
「経験値って言うけど、単純に倍生きてるだけだよ。それに最近、体の変化を感じるんだ。細胞一つずつが目覚めていく感じ? 今では三ヶ月向こうに居るのが精いっぱいだ。そのうち、こっちにずっと居るようになって、君たちと一緒に歳を取っていくことになるんじゃないかな」
「それならそれでいい。君にはずっと助けられてきた。私も、ルヴィも、殿下も」
「そんなに恩義に感じないでよ。僕は受けた恩を返しているようなものだよ。父のエルビスと兄のルーカスは、“ミックス”の僕を受け入れてくれた。もしルヴィが“資格者”でなかったなら、僕は君の代まで秘密を引きずることはなかっただろうに。貧乏くじ引いたね」

「そんなふうに言うな。私はこれで良かった思っている」
「え?」
「君と血が繋がっていることだ。もっと父から学びたかったが、予想より早く逝ってしまったからな。君は私にとって親代わりであり、兄のようでもある。だから、これからもここに来てくれ。向こうに行けなくなったら、公爵家にいてくれればいい」

「ルーウィック領じゃなくて?」
「それはあくまで出自を隠すためだ。君は我がアクセラーダ家の直系じゃないか。しかも母君はエルグランデルの公爵家のご息女。血筋だけを見ればアクセラーダを継ぐことだってできる」
「それは言い過ぎじゃない?」
「考えておいてくれという話だ」
「ノアールがいるのに?」
「ルヴィが“資格者”なんだ。ノアの恋が成就する可能性はゼロじゃない」
 グラヴィスの言葉に、アレンは「どこまでも父親だね」と微笑んだ。

 二人の間に、互いを慮る静寂が訪れる。
 長い間、ただの親類という関係で過ごしてきた。けれど、レオンハルトが誕生し、彼のために神に遣わされたかのようにルヴィウスが生まれ、アレンとグラヴィスは、ただの親類ではいられなくなった。だが、それは彼らに亀裂を生むどころか、救いをもたらした。二人は特殊な状況下にいるが、それでも誰が何と言おうと、家族なのだ。

 心地よい静寂を終わらせるように、扉をノックする音が入り込む。グラヴィスが「なんだ」と応答すると、執事が扉を開けることなく「ルーウィック伯爵の馬車のご用意が整いました」と告げてくる。それを聞き、アレンが立ち上がった。

「じゃあ、行くね、ヴィー」
「今年も騎士団の模擬戦を見るのか?」
「そうだよ。辺境伯爵家はそういうお膳立てでもないと陛下たちと会う約束が取れないから」
「我が家に入ってくれればその面倒はなくなるぞ」
「ふふっ、たしかにそうだね」
「しばらくは王都にいるのだろう?」
「もちろん。向こうよりこっちにいることのほうが長くなってきたからね」
「それこそ我が家に入ればあっちこっち行かずにすむぞ」
「すごい勧誘してくるじゃん」

 朗らかに笑いうアレンを、グラヴィスは黙って見つめた。本気だと察したアレンは、茶かすことなく答えた。

「あの子たちの幸せを見届けたらね」
「約束だぞ」

 念を押すグラヴィスに「わかった」と答えたアレンは、手を振って執務室を後にした。
 静かに閉じたドアを見つめ、グラヴィスはこれからのことを思い小さくため息をついた。
 
 
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