【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

NOX

文字の大きさ
34 / 177
三章 一幕:聖なる乙女という名の闇烏

三章 一幕 1話-2

しおりを挟む
 
「何をそんなに悩んでおられるのです?」

 ハロルドが、遠慮なく聞いてくる。レオンハルトは、もうどうにでもなれ、という思いで白状することにした。

「ルゥが可愛い」
「でしょうね」
 ハロルドが首肯する。
「俺は正直、もっと会いたいし、もっと触りたいし、もっとキスしたいと思っている、常に」
「常に、ですか」
 ガイルが不思議そうに呟いた。

「そう、常に」レオンハルトは二人を振り向いて言った。「お前たちも婚約者や恋人がいたらわかるんじゃないか、こういう気持ち」

 う~ん、と考え込んだ二人のうち、先に答えたのはハロルドだ。

「婚約者も恋人もいませんし、触りたいもキスしたいもよく分かりませんが、会いたい気持ちはお察しします」
「わかってくれるか、ハロルド!」
「はい。ルヴィウス様のお可愛らしいご尊顔を拝めるだけで、ボクはもう天にも昇る気持ちになります」

 ハロルドが頬を染めて言う。レオンハルトは疑心の目を向けた。

「ハロルド……お前、まさか俺のルゥに懸想しているなどということはないだろうな」

「違いますよ! これは推しに対する気持ちです! ボクを殿下の側近に召し上げてくださった王妃様には感謝してもしきれませんっ。まさかここまでの至近距離で推しの成長を見守ることが出来るなんて、まさに天国です!」

 嬉々とした表情で両手を祈るように組むハロルドは、ガイルがドン引きするほどの熱量で、まくし立てるように語り始める。

「ルヴィウス様はボクの最推しなんです! 初めてお会いしたのは、ボクが六歳の時でした! 貴族の子どもばかり集めた“小さなお茶会”で、五歳になられたばかりのルヴィウス様をお見かけしたのです! あの時はまだお子様らしくハーフパンツを履かれていて、膝小僧を出したルヴィウス様は垂涎物でした! あれから十年! ルヴィウス様の大きく潤んだ銀月色の瞳! 濡れ羽色の髪に染み一つない真珠色の肌! 桃色の唇でボクの名前を呼んでくださるだけで―――」

「だまれ」

 いつの間にか席を立っていたレオンハルトが、絶対零度のオーラを纏い、ハロルドの顎を掴んだ。どこから出るのか、ハロルドの喉が「ぐぅっ」と奇妙な音を出す。

「ルゥに対するその並々ならぬ情熱のどこが恋慕ではないというのだ。場合によっては消し炭にするぞ」

 ふん、と乱暴に手を離したレオンハルトは、ハロルドの額を、ぺしり、と軽く叩いた。

「あいたっ」
「痛いわけあるか!」
「う~、殿下の意地悪~。ガイル、赤くなっていないか見てくれないか」
「なっとらん」
「そうかぁ。赤くなってたらルヴィウス様にヨシヨシしてもら―――」
「やっぱりいっぺん消えてこい!」
「冗談ですってば、殿下! ボクは、殿下のことが大好きで仕方ないルヴィウス様が好きなんですっ。ルヴィウス様から殿下への愛を取ったら、それはボクの推しではありません!」

 どやっ、と胸を張るハロルドに、レオンハルトは可哀そうな人を見る目を向ける。

「つまり……」ガイルが呟いた。「ハロルドは殿下とルヴィウス様、お二人がともにあることが好きだという事か?」

「あー、そういうのもいいんですけど、解釈違いですかねぇ。大丈夫ですよ、ボク、心の広いマニアなんで」

「はぁ……、」レオンハルトは額を抑えてため息をつく。「“おし”が何か分からんが、イラつくのは確かだ。ったく、なぜ母上はこんな妙ちきりんな奴を連れて来たんだか……」

「それはそのうち分かりますよ、殿下」

「いつ分かるというのだ。新しい魔道具や魔術研究を進める時には助かっているが、他に役に立つことあるのか、お前」

「ん~、それもそのうち分かるんじゃないですかねぇ。まだボクが活躍するタイミングじゃないですしぃ」

「はぁ? お前が活躍する場面などあるのか?」

 なんなんだ、こいつは。レオンハルトの眉間の皺が深くなる。しかし、ハロルドはお構いなしだ。

「それにしてもルヴィウス様、まだでしょうか~。殿下の首が伸びちゃいますね~」

「殿下じゃなくてハロルドの首が伸びる、の間違いではないか? お前がルヴィウス様に会いたいだけだろう?」
 ガイルが呆れ顔で言う。

「そうとも言えますけどぉ、正確には、殿下だけを愛おしそうに見つめるルヴィウス様を、そっと陰から見守りたいんです。わかります? ボクのこのこだわり?」

 そう言うハロルドに、ガイルは「わからん」と答えるしかなかった。

「あっ、ルヴィウス様!」

 ハロルドは“推し”の気配をいち早く察知し、テンションを上げる。なんだか負けた気がして、レオンハルトは面白くない。

 ルヴィウスに目を向けると、イーリスが隣にいた。二人で何かを話しているようだ。邪魔しては悪いと考え、会話が終わるまで待った。しばらくすると、イーリスが離れていく。

「お話終わったみたいなんで、ボクがお迎えにあがり―――いてっ」

 レオンハルトが、すかさずハロルドの額にやんわりと手刀を振り下ろした。

「俺の役目だ、ばかもの。控えていろ」

 咎めるようにハロルドを睨んだレオンハルトは、事前に用意していたふわふわの銀ぎつねの毛皮のケープを手に、ルヴィウスを迎えにガゼボを出た。
 途端、冷たい風が彼の頬を撫でる。ガゼボの周りに展開している暖房魔道具の効果範囲から外れたためだ。

「お前もたいがい飽きないな」ガイルが呆れて言う。
「あぁ、本日のルヴィウス様もお美しい……」
 ガイルの声など聞こえていないのか、ハロルドは瞳をハートにする勢いでルヴィウスを拝んでいた。

 銀ぎつねの毛皮で作ったケープをルヴィウスの肩にかけたレオンハルトが、さっそく彼の頬にキスをしている。
 すると、ルヴィウスも少し背伸びして、レオンハルトの頬にキスをした。
 はにかんで微笑み合う二人は、手を繋いで歩き出す。実に、楽しそうである。

 何を話しているのだろう。昨日は何をしていたのか、とか、今朝は何を食べた、とかだろうか。それとも、もっと甘ったるい会話? あぁ、お邪魔はしませんので、出来れば今すぐにでもお傍に侍りたい。

「ハロルド、ぜんぶ声に出てるぞ」
「え、どこから聞かれてた?」
「何を話しているのだろう、あたりからだ」
「うぇ~、気を付けますぅ……―――あっ」

 ハロルドが目ざとく、噴水の前で立ち止まった二人の異変に気付く。
 レオンハルトがルヴィウスの耳元で何かを話し、ルヴィウスがほんのり頬を染めている。そして僅かに見つめ合ったあと、額をくっつけお互いに何かを呟くと、美しい絵画のように唇を重ねた。

「はぁぁっ、尊いーっ。ボクの生命エネルギーが満たされるぅ~!」

 またしても、ハロルドがお祈りポーズで目を煌めかせて拝む。
 ガイルは変なものを見る目で視線を送り、そっと一歩、彼から距離を取った。

 しばらくすると、ルヴィウスがレオンハルトのエスコートでガゼボまでたどり着く。
 ハロルドはさっそく表情を引き締め、椅子を引き、普段より少し低い声で挨拶の口上を唱える。

「ようこそおいでくださいました、アクセラーダ公子。どうぞこちらへおかけください」
「ありがとう、ハロルド。この前も伝えたけれど、僕のことはルヴィウスでいいよ」

 ルヴィウスは、にこり、と笑いかけ、椅子に腰を下ろす。
 ハロルドは余所行きの笑顔で横へ控え、少し頭を低くして言った。

「ありがとうございます。では、ルヴィウス様、本日は南部から献上された茶葉と、東部が改良した新品種の茶葉がございますが、いかがいたしましょう」
「ふふっ、執事までしてくれるの? じゃあ、東部の新品種をもらおうかな」
「かしこまりました。すぐご用意いたします」

 このやりとりを、レオンハルトとガイルが、じと、と半眼で見ていたことは言うまでもない。
 これは果たして、同一人物だろうか……。二人の中のハロルドに対する謎は深まるばかりだ。

 その後、レオンハルトとルヴィウスは、お茶をしながら、婚約者らしい“公的な”会話をいくつか交わした。

 週明け八日には、和平協定を結んでいる西の隣国、宗教国家神聖国エスタシオとの協定再締結のための特使として、王都を出発することが決まっている。
 今回はレオンハルトとルヴィウス、二人そろっての初めての公務だ。その旅程の細かいスケジュールや、歓迎会で着るお揃いの衣装が予定通り出来上がっていることなどを確認しあった。
 それから、来年に迫るルヴィウスのアカデミー進学。レオンハルトがアカデミーには行かず魔法省所属になること。まだ三年ほど先とは言え、そろそろ結婚式の日取りを考える時期にきていること。そのほか、今後数月先までの社交についての予定の確認など、一通り話し終えるころには一時間ほどが経っていた。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない

ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。 元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。 無口俺様攻め×美形世話好き *マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま 他サイトも転載してます。

吸血鬼公爵の籠の鳥

江多之折(エタノール)
BL
両親を早くに失い、身内に食い潰されるように支配され続けた半生。何度も死にかけ、何度も自尊心は踏みにじられた。こんな人生なら、もういらない。そう思って最後に「悪い子」になってみようと母に何度も言い聞かされた「夜に外を出歩いてはいけない」約束を破ってみることにしたレナードは、吸血鬼と遭遇する。 血を吸い殺されるところだったが、レナードには特殊な事情があり殺されることはなく…気が付けば熱心に看病され、囲われていた。 吸血鬼公爵×薄幸侯爵の溺愛もの。小説家になろうから改行を増やしまくって掲載し直したもの。

亡国の王弟は女好きの騎士に溺愛される

コムギ
BL
アラバンド国の王弟ルカーシュは、騎士のシモンによって地下牢から救い出された。 その時、肌に触れたシモンに、やけどのような怪我を負わせてしまう。 ルカーシュは北の魔女の末裔であり、魔力を持っていた。 魔力を持たない者に触れると、怪我をさせてしまうという。 騎士団長からの命令で、シモンはルカーシュの護衛につくことになった。 ※他サイトにも掲載しています。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...