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三章 一幕:聖なる乙女という名の闇烏
三章 一幕 5話-3 ※※
しおりを挟む―――失敗したかも……。
ルヴィウスはそう感じて項垂れた。
今日はゆっくり寝るだけ、と言われたが、正確には今日“も”だ。
エスタシオに着いた初日、自分から「一緒にお風呂に入ろう」と誘った。はっきりと言葉にしなかったが、肌の触れ合いをもっと先に進めたい気持ちの表れだった。レオンハルトには、その気持ちが伝わっていたはずだ。
あの日は、いろいろあって結局それが叶うことはなかった。けれど、今日は違う。仲直りできたうえに、二人きりになれた。それなのに、一緒に眠るだけになってしまうのだろうか。明日の朝には使節団一行に戻らなければならない。帰国すれば、毎日会えるような環境ではなくなってしまう。
ぐるぐると一人で考えているうちに、レオンハルトに呼ばれた。声のしたほうへ行くと、そこは、トイレや化粧台、バスルームなどの水回りがあるスペースだった。藍玉宮のレオンハルトの自室にあるものより、ずっとこじんまりしている。
レオンハルトに寝衣やタオルを渡され、「ゆっくりしておいで」と言われてしまう。やっぱり一緒に入りたい、とは言い出せなかった。仕方なく、先にお風呂に入らせてもらうことにする。
ちょうどよい温度のお湯に浸かりながら『そういえば王子という立場にある人にぜんぶ身の回りを世話してもらうなんて、どんな贅沢なんだ』と思ったり、『昔から何かと世話を焼いてくれる人だったな』と懐かしい頃を思い出したりしながら、諸々終えて寝支度を整える。
ほかほかの体に肌触りの良いロングシャツタイプの寝衣姿でリビングに戻ると、レオンハルトは本を読んでいた。すぐにルヴィウスに気づいて「おいで」と両腕を広げてくれる。
ルヴィウスが小動物のように小走りにレオンハルトの腕に飛び込むと、しっかりと抱きとめて、そして魔法で髪を乾かしてくれた。
「俺も風呂に入ってくるから、先に寝てていいよ」
そう言われ、ルヴィウスは頷き、離れがたさから一度、きゅっ、とレオンハルトを抱きしめてから、寝室に向かった。
部屋には魔道具のランプが設置されていて、控え目な明かりを灯していた。一番眠気を誘う照度だ。
ドアを閉め、のそのそとベッドに潜り込む。レオンハルトが保温魔法を掛けておいてくれたのか、ほんのりと温かかった。壁側に寄ってレオンハルトが寝るスペースを確保したルヴィウスは、彼が寝るほうに体を向け、目を閉じる。
一人でいると、マイアンの言葉を思い出す。ゆらりと忍び寄ってきた睡魔は、あの日の彼との会話にかき消されていった。
―――闇に呪われていただきたいのです。
頭にこびり付いた言葉。ルヴィウスは、すぅっ、と目を開けた。銀月色の瞳には、決意の色が浮かんでいる。
確実に、呪われる必要がある。だが、同じだけ確実に、死を避けねばならない。そのためには、計算高く行動する必要があり、あらゆる情報が必要だ。帰国したらすぐ、父グラヴィスと話をしなければ。それから、ハロルドとも話したい。
ルヴィウスは無意識に、ベッドのシーツを握りしめていた。
今までは、誰かに守られて生きてきた。ただレオンハルトの隣に居ればよかった。けれど、これからは違う。なんの価値もないと思っていた自分には、やるべきことがあった。きっと、辛くて、苦しくて、もしかしたら泣き出してしまうかもしれない。だけど、諦めたくはない。レオンハルトを救い、守り、彼の唯一でいられるのは自分だけだから。
―――知られないようにしよう、その時が来るまで。
マイアンから何を言われ、自分の役割がなんなのか。過保護なレオンハルトが知れば、反対するに違いない。もちろん、黙っていることで彼を深く傷つけてしまうかもしれないことも、分かっている。
けれど、それでもルヴィウスは心に決めたのだ。世界で一番大切なレオンハルトのために、守られてばかりの自分を捨てて、彼を守る側に立ちたいと。
ドアが開く音がして、レオンハルトが部屋に入ってきた。すぐにベッドに入ってきてくれて、ルヴィウスを抱きしめてくれる。ルヴィウスの着ているものとは違い、彼は上下に分かれた寝衣を着ていた。
温かいレオンハルトの体にすり寄ったルヴィウスは、彼の寝衣を、きゅっ、と握りしめる。
「ルゥ、まだ起きてたんだ?」
「レオを待ってた。おやすみのキス、してないし」
そう言い、顔を上げる。
上目遣いに可愛いおねだりをされたレオンハルトは、幸せそうに笑って、ルヴィウスの額にキスを落とす。
子ども扱いされた気がして、ルヴィウスは自らレオンハルトの唇に、自分のそれを重ねた。
最初は啄ばむように。次に少し大胆に舌を出してレオンハルトの下唇を舐めてみると、先端に吸い付かれた。
腰を抱き寄せられたから、背中に手をまわして抱きしめ返す。
舌を絡ませると、それに応えてくれる。触れ合う舌先の感触に、胎の奥が甘く痺れていく。
夢中になって口づけに応えているうち、気づけばレオンハルトに覆いかぶさられていた。
布越しに左胸の先端を撫で上げられ、ルヴィウスの唇から甘い吐息がもれる。
「ぁ、ん……っ、ん、ん……っ」
レオンハルトが器用にルヴィウスの脚を割り開き、膝で寝衣をたくし上げていく。
めくれ上がった寝衣の裾から入り込んできたレオンハルトの節のしっかりした指が、ルヴィウスの太ももから丸みを帯びたラインを、上へと撫でていった、その時。
「え、ちょっと待って!」
驚くと同時に動きを止めたレオンハルトを、ルヴィウスは潤んだ瞳で見上げた。
レオンハルトはルヴィウスを見つめながら、ごくり、と喉を鳴らす。
「あの……、ルゥ……? 下着、は……?」
「ない、けど……」
「え、これ、いつもなの? もしかして、寝る時はいつもこう?」
「寝る時はいつも、こうだけど……」
「いやいや、三年くらいまえに王宮に泊った時は、ちゃんと履いてたよね?」
「あの時は……、レオが着替えを順番に渡してきたから着ただけで……」
「じゃあ……やっぱり、いつもはこうなの……?」
「だめ、だった……?」
「だめじゃないです……」
ルヴィウスの返答に、レオンハルトは彼を押しつぶさないように突っ伏した。
―――俺の婚約者、エロすぎだろ……っ。
つまり、エスタシオで喧嘩してベッドの端っこ同士で寝ていた時も、こうだったということだ。知っていたとしたら……―――いや、知らなかったからこそ、隣で寝られたのかもしれない。うん、知らないままで良かった。
「レオ……?」
のそり、と少し身を起こしたレオンハルトは、顔を赤らめていた。
「あー……、うん、ごめん、俺、ちょっと暴走しそうかも……」
そう呟いたレオンハルトのことを可愛いと思えてしまったルヴィウスは、するり、と彼の首に腕を回し、極上の笑みを浮かべる。
「して?」
「は?」
「暴走、して?」
ルヴィウスはそう言い、つぃ、と自分の脚をレオンハルトの脚に絡ませた。
はっ、と息をついたレオンハルトの体温が上昇する。全身が快楽の予兆を感じて粟立つ。
上から自分を見下ろすレオンハルトの瞳の色が、いつもより濃く、そして獰猛になったのを感じて、ルヴィウスの胎は無意識に収縮した。
「後悔しない?」
全身で欲しがっているのに、理性を総動員してルヴィウスの意思を優先してくれるレオンハルトの優しさに、胸が締め付けられる。
「しないよ。もっとレオが欲しいんだ。もうキスだけじゃぜんぜん足らない。もっと僕のものになって。僕も、もっとレオのものになりたい」
思っていたことが、するり、と言葉になる。好きだとか、愛してるだとか、そういう言葉も大事なのは分かっているけれど、それよりももっと、確かな繋がりが欲しい。
レオンハルトの顔が近づいてくる。ルヴィウスは、うっとりと瞼を閉じた。
噛みつくような口づけと、口内を蹂躙する舌に、ルヴィウスの息はいとも簡単に上がる。
寝衣がたくし上げられ、そのまま脱がされた。露わになった肌をレオンハルトの手が撫で上げていく。
騎士団に交じって実践的な剣の稽古をしているため、レオンハルトの左手の指の付け根は皮が固くなっている。それが右手とは違う刺激を与えて、ルヴィウスの体は素直に快楽を拾っていく。
「ルゥ…、かわいい……」
呟いたあと、唇から首筋へと口づけを移したレオンハルトは、ルヴィウスの滑らかな肌に吸い付いた。強く吸って、所有の痕を残す。それに満足すると、耳たぶを甘噛みした。同時に、ルヴィウスの胸元に手を滑らせる。
「ぁっ、あ…っ、ん……ぁ…っ」
左の胸の突起を親指の腹で擦り上げられ、右の突起は抓まれる。初めて触れられた時は、くすぐったいような感じがしただけなのに、何度も弄られ続けてきたたことで、ここは気持ちいいところ、と教え込まれてしまった。
今はもう、愛撫を期待するだけで胸の蕾が膨らんでしまう。
レオンハルトの口づけが首から鎖骨へ、そしてその下へと降りていく。そして散々弄られて敏感になった右胸の飾りを、熱い舌が舐めとる。ざらり、とした感触に、ルヴィウスの体は、びくり、と反応した。
「ゃあっ、んっ……っ、れ、ぉっ! それ…っ、ゃあっ」
舌先で転がされ、舐めあげられ、甘噛みされて、最後には吸い付かれた。しつこいまでの愛撫に甘く痺れた快感が全身を走り、ルヴィウスはシーツを握りしめる。
ふっ、とレオンハルトの重みが離れた。解放されたことに少しの寂しさを覚えたルヴィウスは、目を開けた。
視線が合うと、不敵な笑みを浮かべたレオンハルトが、ルヴィウスの両太ももの裏に手を置いて、脚を大きく開かせ、腰を密着させた。
知識としてはあったが、実践は初めてだ。あられもない自分の姿を見られていることが恥ずかしくて、ルヴィウスは脚を閉じようと膝を引いて体を丸める。そうして膝頭がくっつくような体勢を取ったが、大事なところが自分からは見えなくても、レオンハルトからは丸見えだった。
「こーら、逃げない」
「やっ、でも…っ、レオ…―――っ、あっ」
逃げようとしたルヴィウスの腰を引き寄せたレオンハルトは、自身の上の寝衣を躊躇いもなく脱ぎ捨てた。
引き締まった鋼のような肉体が、ルヴィウスの視線を縫い留める。まるで彫刻のようだと見惚れていた隙に、レオンハルトは下履きの前を寛げて、芯を持ち始めて膨らみ始めた自身の熱を、ルヴィウスのそれに擦りつけた。
「やっ、ひ……んっ」
自分のものより重く長い熱の塊を直に感じたルヴィウスは、知らずしらずのうちに、まだ触れられたこともない後口を、ひくっ、と反応させる。だが、まだ羞恥心が勝り、自ら脚を開くことができない。
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