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三章 一幕:聖なる乙女という名の闇烏
三章 一幕 5話-4 ※※
しおりを挟む「ルゥの体に、気持ちいいこと全部、おしえてあげる」
レオンハルトが、上気した顔でルヴィウスを見下ろしながら言った。興奮しているのか、目がぎらついていて、瞳孔が開いているようにも見える。まるで肉食獣のようだ。
ルヴィウスは、擦りつけられる熱塊の刺激と羞恥心の狭間で、これから与えられる快楽への期待に身を震わせた。
「ルゥは恥ずかしがり屋みたいだから、俺が手伝ってあげるね」
そう言ったレオンハルトは、ルヴィウスの両肩から、するり、と腕を撫でおろす動作をした。
撫でられる力に逆らうことなく、ルヴィウスの両腕は彼自身の体に沿う。そして必死に閉じていたルヴィウスの脚を割り開き、足首が手首にくっつくように膝を立てさせたレオンハルトは、ついっ、と右手の人差し指を振った。
「え……っ」
瞬間、ルヴィウスは体の異変を感じ取る。右手首が右足首に、左手首が左足首に、そしてそのどちらもが枷を嵌められたかのように、ベッドにくっついて離れなくなってしまった。レオンハルトが拘束魔法を掛けたのだ。
「ふふっ、もう俺からにげられないね、ルゥ。俺が触れるところぜんぶが気持ちいいってことを覚えて、自分から足を開けるようにちゃんと躾けないと。ね?」
深みを増した蜂蜜色の瞳が、蕩けそうな潤いをたたえてルヴィウスを見つめている。それだけで、これから与えられる初めての快楽の波を期待して、ルヴィウスの熱は芯を持ち、先端から先走りを零れさせた。
今夜の触れ合いは、今までの淡い戯れとは違う。繋がることは出来なくても、それを模倣するような濃密な肌の触れ合いになるだろう。そうなることをお互いに強く望んだから、ここにいる。
きっと、王都で流行りの恋愛小説なら、こんな無理強いを迫るような展開には絶対にならない。だけど、他人の価値観など、どうでもいい。優しくなんてしてくれなくていい。ただ、ただ、忘れられない夜にしてほしい。
「ねぇ、ルゥ。俺が、ぜんぶ、ぜんぶ、教えてあげる。だから、俺だけを欲しがって?」
レオンハルトに、つぅ、と頬を撫で上げられたルヴィウスは、零した吐息が熱を持ったことを自覚して、体を震わせた。
レオンハルトが、理性を保てなくなりそうなほど求めてくれている。ルヴィウスの体がその事実に歓喜している。
酷くてもいい。痛くてもいい。色気も魅力もない、幼さがどこかに残るこの体を、レオンハルトが欲してくれているのなら、ぜんぶ、ぜんぶ、差し出してしまいたい。
―――支配されたい。この人に、ぜんぶを暴かれてしまいたい。
そう思ってしまったルヴィウスの感情が伝わったのか、レオンハルトはうっとりと微笑む。
「ルゥは、俺のものだからね」
そう囁かれたルヴィウスは、無意識に、こくり、と頷いていた。素直な反応に満足したのか、レオンハルトの瞳が悦びに濡れて三日月のように弧を描く。
「ルゥ、どうしてほしい?」
レオンハルトの蜂蜜色の瞳の中に、蕩けた顔をしているルヴィウスが映っている。誰も知らない、二人だけが知っているお互いの顔。今夜、二人だけの秘密が一つ増える。そのことが、どうしようもなく嬉しい。
「ぉしえて……っ、レオ、教えて…っ、気持ちいぃこと……っ」
そう訴えたルヴィウスに、レオンハルトは妖しく微笑み、自身の右の指を、べろり、と舐めて唾液を纏わせた。
「教えてあげる。俺がすること全部が気持ちいいんだって、ちゃんと覚えてね」
誘うようにそう言ったレオンハルトは、開かれたルヴィウスの脚の間に顔を埋めた。ねっとりとした温かさが、ルヴィウスの熱を包み込み、きゅっと吸い上げた。
「あぁ……っ!」
口に含まれたのだと気づくより早く、下半身から快楽が駆け上ってきて、声を上げ、喉が仰け反った。
じゅぶ、じゅぶ、と濡れた音がする。拘束された手では何も掴めなくて、力をどこに逃がしたらいいか分からなくなる。
先端を舐められたかと思うと、裏筋を舐められ、きつく吸い付かれたかと思ったら、吸われた時と同じ力で押し出される。初めての行為、初めての感触、初めて脳が痺れるほどの快楽を与えられ、ルヴィウスの声はどんどん甘くなる。
「ん……っ、れぉっ! ゃぁっ―――……あぁっ!」
ルヴィウスの体が、びくり、と硬直した。ぬめりを纏った何かが、双丘を割入って閉じた襞をこじ開け侵入してくる。後口に指を入れられていると気づいたルヴィウスは、さすがに焦った。
「やっ、レオっ! それ、まって……っ!」
「待たない。でも安心して、少し触るだけだから」
「ぅあ……っ、んっ、ん、ぅ……ゃあ…んっ」
ぬるっと前を握られて上下に擦られ、その拍子に力が緩まる。狭い孔内に押し入ったレオンハルトの指は、襞を押し広げながら蠢く。長い指が何かを探しているかのように中を弄っていたが、それがあるものを探し当てた。
すりっ、と固いしこりが撫で上げられた瞬間。
「ひぁ、あぁ……ッ、ぁん……―――っ!」
ルヴィウスは熱を溜め込んでいた先端から白濁の体液を吐き出し、弓なりに背を反らして痙攣したかのように体を震わせた。
「ふふっ、ルゥの気持ちいいとこ、忘れないようにしておかないと」
レオンハルトは水魔法を応用してルヴィウスの中に入れている指に潤滑油替わりの粘性の液体を纏わせると、何度か挿入を繰り返す。少しずつ解れてきた初々しいルヴィウスの後口に、もう一本指を咥えさえると、先ほどのしこりを重点的に弄りだした。
「やっ、だめ……っ! ィったからっ、ぁ……っ、しちゃ、だめぇ……っ!」
「大丈夫、今日は最後までしないよ。だから、ここが気持ちいいって、覚えて。ね?」
「ぉぼぇるっ、から、ぁっ、も……っ、やっ、ぁあっ」
「これからは一人でしてもイけないようにしてあげる」
「ぅそっ、そ、んなの…っ、むりぃ…っ、むりだか、らぁっ―――ゃあぁっ!」
散々弄られ、刺激を与えられた挙句に、ぐっ、としこりを押された瞬間、ルヴィウスの目の前に星が散った。弓なりに背がそって、体が強張る。自慰の経験はあるが、ここまで前後不覚になり眩暈がするような快楽は初めてだった。
ずるり、と指が抜かれると同時に、ルヴィウスの全身から力が抜ける。そこでやっと拘束魔法を解いたレオンハルトは、「頑張ったね」と、意識が朦朧とするルヴィウスに口づけをした。そして、力が入らない彼の体をうつ伏せにする。
「もう少し付き合って?」
「え……」
どういうこと? そう問いかける間もなく、ルヴィウスはうつ伏せの状態で脚をクロスさせられ、レオンハルトに圧し掛かられた。訳が分からないままに、枕を掴む羽目になる。
「ひぁっ!」
ぬるり、と熱くて硬いものが、腿の付け根の間に入り込んできた。レオンハルトの熱杭だ。足首が重なるように脚をクロスさせられている所為で、太ももの付け根の隙間を出入りするその熱との密着度が増し、まるで体の中に穿たれているかのように感じる。
「ぁんっ、あぁっ、んっ」
ルヴィウスの双丘と、レオンハルトの下腹部がぶつかり合う。濡れた音と、擦れる音が混じる。背中に、レオンハルトの体温を感じた。ぎゅっと抱きしめられ、項を甘噛みされる。ルヴィウスは多幸感の中、んっ、んっ、と甘い吐息を漏らすことしかできない。
「ルゥ……っ、ルゥっ、かわいいっ、俺のルゥっ」
耳元で囁かれ、全身が甘く痺れていく。抱きしめあうことは何度もあった。布ごしに体温を感じるだけでも幸せに包まれた。口づけ以上もしてきたのに、今日からはもう、それだけじゃ満足できない。
こんなにも肌をさらけ出して、ここまで隙もないほど密着して、羞恥心などどこかへ捨ててしまえるほどの行為を知ってしまっては、もう戻れない。
レオンハルトが力強くルヴィウスを抱きしめて、体を強張らせる。それに合わせるように、ルヴィウスの体を強い快楽が突き抜けていく。レオンハルトの熱の塊を受け入れていないのに、胎の奥が、きゅうっ、と収縮した。そのあと、熱いものが下腹部の下で広がるのを感じる。
レオンハルトは、まるで塗り込めるようにルヴィウスの柔らかい双丘に、ゆっくり何度か腰を押し付けた。そして、はっ、と吐息をついてから体の力を解放させた。
「ルゥ…、大丈夫…?」
汗で張り付いた額の髪を避けられて、ルヴィウスの意識はわずかに浮上した。ころり、と寝返りを打ち、上向きになる。
「ん……、へ、ぃき……」
「いま綺麗にするから、そのままでいて」
うん、と頷きを返すよりも早く、どろどろで粘ついていた体が軽くなる。魔法が便利なのは分かっているし、レオンハルトが得意な分野でもあるのも分かっている。いつまでも体液まみれなのもどうかとは思うのだが、それにしても、情事のあとの余韻とはいったい……。
「回復魔法かけようか? あ、服、着る?」
甲斐甲斐しく世話をやこうとするレオンハルトの胸板を、ルヴィウスは力のでない拳で叩いた。
「もうっ、このまま抱きしめて寝てっ」
ルヴィウスの言わんとしていることに気づいたレオンハルトは、顔を緩ませて愛しい人の願いを叶える。
何も纏わないまま、抱きしめあって眠る。心臓の音が聞こえる。腕の中に、何よりも大事な宝物のような人がいる。それだけで、生きていることを実感することができるのだと、レオンハルトは幸せを噛み締めた。
―――あぁ、誰にも渡したくないな。どこかに閉じ込めて、自分以外の誰の目にも触れられないようにしてしまいたい。
レオンハルトの胸の中に、美しいとは言い難い感情が沸いた。
エスタシオで、自分以外の男がルヴィウスを抱きしめた。咄嗟のことで守るためだったと謝罪されたが、あの目が気に入らない。一回り以上年下のルヴィウスを、熱を持った瞳で見つめていたあいつ。これからもそういう輩が湧いて出るのだろうか。あぁ、そんなこと我慢ならない。
「ねぇ、ルゥ」
レオンハルトが髪を撫でながらルヴィウスを呼んだ。
「なに?」
ルヴィウスは目を閉じたまま答える。
「あの約束、反故にしていいかな」
「どの約束?」
「ルゥの全部をもらうの、成人してからってやつ」
ルヴィウスは少しだけ驚いて顔を上げた。蜂蜜色の瞳が見つめ返してくる。
「い…いいけど、なんで?」
「マイスナー卿、ルゥを気に入ってただろ?」
「あー……、うん……」
「なんか言われた?」
「えぇっとぉ……」
言葉を濁すルヴィウスに、何を想像したのか、レオンハルトは、ちっ、と舌打ちした。
「油断も隙もないな」
「別に何もなかったよ!」
「あったら速攻で燃やしてる」
「燃やさないでよ……。怒ってるの?」
「違う。嫉妬してる」
「レオが?」
考えもしなかったというようなルヴィウスの口調に、レオンハルトは少しだけ不機嫌そうに右の眉を上げる。
「ルゥは俺を何だと思ってるの? ちょっと魔法が出来るだけのただの男だよ? 好きな子に言い寄ってくるヤツがいたら腹が立つし、嫉妬もするよ。しかもマイスナー卿は顔もいいし性格もいい。のんびり構えてたらルゥを掻っ攫われそうで、ちょっと……不安になったっていうか……。だから、なんていうか……確実なものがほしくなったっていうか……」
だんだんと尻すぼみになる言い訳に、ルヴィウスは小さく笑った。なんて可愛い人だろう。
「今日ぜんぶもらってくれてもよかったのに」
「それはダメだろ」
「なんで?」
「なんでって……、いま研究してるポーションが出来てからにしないと」
「んん? どういうこと?」
お互いに、目を丸くしていた。レオンハルトはルヴィウスが本当に分かっていなかったことに驚いていて、ルヴィウスはレオンハルトがなんの話をしているのかが分かっていないようだった。
レオンハルトは小さくため息をつく。
―――俺の婚約者、大胆なくせして無垢すぎないか……
「ルゥ、気づいてないみたいだから言うけど、俺、ルゥを一発で孕ませられる自信あるから」
「えっ、なんでっ?」
「ルゥの体の中にある魔力、誰のものだと思ってるの? 俺だよ? 100%俺の魔力が満ちてるルゥの体を、なんの対策もしないまま俺が最後まで抱いたらどうなると思う?」
そこまで言われて初めて、ルヴィウスは閨教育の薄い教科書の一節を思い出す。
『閨事で魔力交換をし、魔力が馴染んで相性が高まると、妊娠する確率が高くなる。この原理を応用し、妊娠を望まないときは互いの魔力の交換を阻害する避妊具や避妊ポーションを使用する』
と、いう部分だ。避妊具も避妊ポーションも、互いが違う波長の魔力を持っているから効果がある。しかし、ルヴィウスの中にあるのはレオンハルトの魔力だ。阻害もなにも、通常の避妊方法では相性は100%のままである。
「に……妊娠、するね……」
「そうだろ? だから、俺たち専用の避妊ポーションが必要なわけ。分かった?」
「わ、分かった……」
なんだか難しそうな顔をしているルヴィウスの髪を撫でながら、レオンハルトは苦笑いした。
「すぐ出来るから待ってて」
「出来たら僕のぜんぶをもらってくれるの?」
純粋な瞳でルヴィウスが見つめてくる。レオンハルトは少し困ってしまった。やっぱり自分の婚約者は可愛い小悪魔のようだ。
レオンハルトはルヴィウスをしっかりと抱き締めなおして、その額にキスをした。
「大好きだよ、ルゥ。俺だけの可愛いルゥ」
そう言うと、ルヴィウスが、すりっ、とレオンハルトにすり寄った。
「僕も、レオが大好き」
寄り添って心音を聞きながら、満たされた幸せの中で眠りに落ちていく特別な夜。誰もいない秘密の場所で過ごす時間は、世界から切り離されたかのようだ。
―――このまま、永遠に時が止まってしまえばいいのに。
言葉にはしなかったが、二人は同じことを想い、同じ願いを抱き、幸せにつつまれたまま、眠りについた。
***************
お読みいただきありがとうございます。
これにて三章一幕は終わりです。
紡ぎ話を挟みまして、三章二幕に入ります。
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