【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

NOX

文字の大きさ
54 / 177
三章 二幕:呪いと時の神の翼

三章 二幕 1話-3

しおりを挟む
 
 ルヴィウスは励ますようにハロルドのカップに紅茶を注ぎ足したあと、やや遠慮がちに尋ねた。

「ねぇ、ハロルド。レオは……その物語のレオンハルトは、それからどうしたの?」

 ルヴィウスの問いかけに、ハロルドは眉根を寄せながら、納得いかないと言いたげな表情で答えた。

「物語の中のレオンハルトは、兄の幸せを見届けたあと、永遠にルヴィウスの傍にいるんだと、自分に永久に目覚めない魔法を掛けて、一緒に眠りにつくんです。読者はこんな終わり方ないだろうって、それはもう、あらゆるパターンのハッピーエンドが創作されました。ボクもその一人です。ボクは、心の底からレオンハルトを愛し、彼のために生きるルヴィウスが好きだった。もともとハッピーエンドが好きなんです。だから、レオンハルトとルヴィウスにも、ハッピーエンドを迎えてほしかった」

 ハロルドの想いが伝わってきて、ルヴィウスは何も言えなくなってしまった。
 彼にとってのハッピーエンドは、生きて、愛し合って、笑いあうことなのだろう。だからこそ、違うよ、と言えなかった。

 永遠に、二人で眠り続ける。ルヴィウスには、不幸には思えなかったのだ。二人だけの世界で、寄り添っていられる結末を迎えたその物語のレオンハルトとルヴィウスは、たぶん、幸せだ。ハロルドが目指したものとは違う。ただ、それだけ。

 気を取り直したルヴィウスは、ふと、違和感に捉われる。
 そもそも、ハロルドが話してくれたこの物語のどこにも、“聖女”が出て来ない。それは、なぜだろう。

「ねぇ、ハロルド。いま話してくれた物語と聖女、どこでどう繋がるの?」
「あ、そうでしたね。えぇっと、いま話した二部構成のヴィクトリア戦記を元に、女性に向けた恋愛シミュレーションゲーム―――乙女ゲームっていうのが作られたんです。ゲームっていうのは、自分の選択肢によって物語が進んでいく遊戯のことです」
「冒険から恋愛にジャンル替えしたってこと?」
「まぁ、おおざっぱに言えばそうです。舞台もシーズン1とシーズン2があって、主人公は異世界から転移してくる若い女の子です。神聖力が強く、聖女と呼ばれる設定で、シーズン1の舞台は、ヒースクリフ、グラヴィス、エスタシオの聖騎士ローラン、神官のナイルと四人が攻略対象で、イベントと呼ばれるミッションをクリアすると、それぞれ好感度が上がり、最終的には誰かと恋仲になります」

 ハロルドの説明を聞いたルヴィウスは、理解できずに眉間に皺を寄せながら首を傾げた。
「なにそれ、意味不明……」

 ハロルドも頷いて同意する。
「ですよね、ボクも意味が分からないくちでした。ちなみに、シーズン2では、エドヴァルド、ガイル、エスタシオの教皇マイアン、聖騎士アルフレドの四人に加え、隠しキャラのレオンハルトが攻略対象です」
「隠しキャラ? レオは隠されてるの?」
「そうなんです。レオンハルトの最初の立ち位置はモブ―――脇役なんです。でも物語が進んで、ある条件を満たすと攻略出来るようになるんですよ」
「その条件って?」
「婚約者のルヴィウスが呪いにかかること」

 これだ。やっと見つけた。そう感じたルヴィウスは、こく、と息を飲んだ。

「それ詳しく教えて。僕が呪いに掛かるとレオはどうなるの?」
「ゲームの中のレオンハルトは、ヴィクトリア戦記の時と違って、婚約者のルヴィウスを心から愛しているんです。ちなみに、ゲームでのルヴィウスは女の子です。真面目過ぎるから冷たい印象を与えてしまって、陰では悪役令嬢なんて呼ばれているんですけど、レオンハルトはルヴィウスを溺愛してるんですよ」
「へぇ……」なんか、ちょっと気分がいい。と、思ったことは内緒だ。

「ゲームの中盤、主人公の聖女が魔の森で真実の鏡っていうアイテムを手に入れてくるんですけど、それが呪われてて、ルヴィウスが被害にあうんです。ルヴィウスが呪われて永久とわの眠りについてしまったことで、レオンハルトは絶望して魔王に覚醒するんですね」

「いやいや、待ってよ、展開が唐突すぎない?」
「ボクもそう思います。脚本がおかしいとしか思えません」

「それで、どうなるの?」
「それで、レオンハルトは世界を壊しに掛かるんですけど」
「それもまた唐突な展開だね……。って言うか、レオなら出来そうと思えることが怖いよ……」
「えぇ、ボクも不可能じゃないなって思っちゃいました」
「もしかしてそのあと、魔王になったレオンハルトを聖女が封印したりする展開になるの?」
「まぁ、近いものがありますね。聖女は自分が持ってきた鏡がきっかけだからと、責任を感じて他の攻略対象と共にレオンハルトと戦うんです。最終的には、このゲームのレオンハルトはエドヴァルドの聖剣に切られます」

「なにそれ! 信じられない! これっぽっちも納得いかない!」

「ボクも納得できません。しかも、聖剣が切ったのはレオンハルトを蝕んでいる原因となっているルヴィウスへの恋心で、命が助かったレオンハルトは攻略対象として復活し、場合によっては聖女と結ばれます」

「はぁっ? ちょっと待ってよ! その物語で眠ってる僕―――令嬢のルヴィウスはどうなるのっ?」

「はっきりとは描かれていませんが、お亡くなりになったことを匂わす絵が流れます」
「えぇ……、なんで? そんなの受け入れられない……」
「ですよね。ボクも受け入れられませんでした」

 ハロルドが苦笑いして同調してくれる。それで少し救われたような気がした。

 話を聞き終えたルヴィウスは、軽く下唇を噛んで考え込む。

 聖女―――闇烏としてこの世界に召喚されてきた百々華の不可解な言動は、このゲームとかいう物語の内容のことを言っているのだろう。
 だが、物語は物語でしかないのと同じで、彼女の求めるものもまた現実ではない。その証拠に、ハロルドは今の現実と物語が違うことを認識している。同じ要素があるからと言って、同じことが起こるわけではない。
 だが、“同じ要素を使って、似た状況を作る”ことは可能だ。

「ねぇ、ハロルド」
「それ、お断りしてもいいです?」
「まだ何も言ってないけど」
「えー、ぜったい面倒なお願いじゃないですかぁ」
「聞くだけ聞いてよ」
「それ、聞くだけじゃ終わらないやつー」
「じゃ、命令?」
「ぐぅぅ……っ、それは断れないやつですっ」

 ルヴィウスは、ふふっ、と笑った。ハロルドは盛大なため息をつき、観念する。

「なんでしょう、ルヴィウス様」
「あのね、僕、呪われる必要があるんだ」
「はいっ?」
「ちょっと事情があってね」
「どんな事情があれば呪われる必要が生じるのでしょうかっ? いいですか、ルヴィウス様! 呪いは大昔の遺物です! 今の時代、呪いを掛けられる呪術師やアイテムはありません!」
「聖女がいる」
「聖女は神聖力を使うでしょう! 報告ではとんでもない女ってことですから、危害を加えてくる可能性はありますよっ? でもそれが呪いってことはないはずです!」
「それがあるんだよ。見たんだ、彼女が掛けた呪いを」

 ハロルドが、息を飲む。

「それは、本当に呪いですか……」
「うん。彼女はね、闇なんだ。神聖力を食って力を使う、聖女とは似て非なる存在。レオからどこまで聞いてる?」
「聖女が魅了を使うかもしれないから、王宮全体に魅了返しを掛けたと……」
「そっか、確かに魅了されると彼女の思い通りに動かされる心配があるものね」
「本当に、呪いを掛ける聖女なんですか……?」
「うん、彼女は呪いも掛けられる。ねぇ、ハロルド、王妃陛下に何を頼まれているの?」

 ハロルドはルヴィウスの追及に、ぐっ、と言葉を詰まらせた。ルヴィウスはさらに追いつめに掛かる。

「黙ってても無駄だよ、ハロルド。王妃陛下に頼まれて魔道具を作ってるよね? それ、なに? どうやって使うの?」

 そこまで知っているのか、とハロルドは観念することにした。魔道具を作ることは依頼されたが、それをルヴィウスに秘密にしろという命令は受けていない。

 ハロルドは一つため息をついたあと、口を開いた。

「時間を操る禁忌の魔道具です……。聖女がゲームの展開と同じように呪われた真実の鏡を持ってきた時、彼女ごと鏡の時間を巻き戻そうかと……。そうすれば、ルヴィウス様に掛けられるかもしれない眠りの呪いは無かったことにできるんじゃないかと考えました」
「それ、対象の時間を戻さずに止められる?」
「そりゃ、陣に刻む数理式と詠唱を変えれば出来ますけど……」
「じゃあ変えて」
「時間を止めるだけじゃ呪いを無かったことにはできませんよ?」
「いいんだ。呪いを解く方法は知ってるから。僕がほしいのは、死なないように呪いに掛かる手段だよ」
「どうして呪いに掛かりたいのか、お聞きしても……?」

 ハロルドの質問に、伏し目がちに微笑んだルヴィウスは、さっき言えなかった言葉を彼に告げることにした。

「さっきハロルドは、二人で眠りについた僕とレオの結末を、幸せじゃないって言ったよね?」
「はい、幸せな結末とは思えません」
「僕は、それでもいいと思ったんだ」
「はい?」
「二人きりの世界で永遠に眠れるのなら、それは僕とレオにとっては幸せの形の一つだよ」
「それと呪いにどんな関係が?」
「うーん……まだ言えない。でもね、世界から弾き出されるからって、不幸とは限らないんだよ」

 ハロルドは、じっとルヴィウスの銀月色の瞳を見つめた。

 真意がどこにあるのか、分からない。でも、本心で言っていることは確かだ。
 エスタシオから戻って以来、ルヴィウスはどこか雰囲気が変わった。何か、覚悟を決めたような眼をする時がある。

「呪いを解く確実な方法を教えてもらえれば、協力します」

 ハロルドの精いっぱいの譲歩だった。ルヴィウスの願いを聞くために、彼が犠牲になるのでは元も子もない。

 ルヴィウスは「わかった」と頷いて答えた。

「聖女が元の世界へ帰ること。エスタシオの教皇とレオが協力して、彼女を元の世界へ返す算段を付けているところなんだ。その過程に僕は入っていないのだけど、確実なものにするために、彼女には罪人になってもらう必要があってね」
「それが呪われることですか?」
「本当のところは、彼女を罪に落とすのはついでなんだけど。でも、この世界にいてもらっても邪魔だから、還ってほしくて。僕は王族の婚約者だから、準王族扱いだ。悪意を持って傷をつけたとしたら、エスタシオでも極刑になる。おとなしく帰還するか、首を撥ねられるか、彼女はどちらを選ぶだろうね」

 銀月の瞳を細めて、冷たい三日月のような笑みを浮かべるルヴィウス。
 目の前の人は、あの愛らしいルヴィウス・アクセラーダだろうか。ハロルドは背筋が冷たくなるのを感じた。冷や汗が背筋を伝う。だがそれは恐怖ではなく、歓喜だった。

 ―――なんと言うことだ、ボクの推しは美しいだけじゃなく、支配者たる風格もお持ちのようだ

 ハロルドは、ふぅ、と一つ息をつき、改めてルヴィウスを見つめた。

「もしかしたらルヴィウス様、超絶まずい状況に陥るかもですけど、いいですか?」
「ハロルド」ルヴィウスはこの上なく魅力的に見える笑みを浮かべた。「僕はね、レオが一番なんだ。それに、君が言ったんだよ。ハッピーエンドが好きだって。レオのことが大好きで、彼を心から愛してる僕を見るのが好きなんでしょ?」
「そうですけど……」
「じゃあ助けてよ。代わりに、レオに消し炭にされないようにしてあげる」

 ルヴィウスの言葉にハロルドは小さく笑い、そのあと「ぜひそうしてください」と苦笑いを返した。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない

ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。 元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。 無口俺様攻め×美形世話好き *マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま 他サイトも転載してます。

吸血鬼公爵の籠の鳥

江多之折(エタノール)
BL
両親を早くに失い、身内に食い潰されるように支配され続けた半生。何度も死にかけ、何度も自尊心は踏みにじられた。こんな人生なら、もういらない。そう思って最後に「悪い子」になってみようと母に何度も言い聞かされた「夜に外を出歩いてはいけない」約束を破ってみることにしたレナードは、吸血鬼と遭遇する。 血を吸い殺されるところだったが、レナードには特殊な事情があり殺されることはなく…気が付けば熱心に看病され、囲われていた。 吸血鬼公爵×薄幸侯爵の溺愛もの。小説家になろうから改行を増やしまくって掲載し直したもの。

亡国の王弟は女好きの騎士に溺愛される

コムギ
BL
アラバンド国の王弟ルカーシュは、騎士のシモンによって地下牢から救い出された。 その時、肌に触れたシモンに、やけどのような怪我を負わせてしまう。 ルカーシュは北の魔女の末裔であり、魔力を持っていた。 魔力を持たない者に触れると、怪我をさせてしまうという。 騎士団長からの命令で、シモンはルカーシュの護衛につくことになった。 ※他サイトにも掲載しています。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...