【完結】神様が紡ぐ恋物語と千年の約束

NOX

文字の大きさ
75 / 177
四章 一幕:管理者と筥の秘密

四章 一幕 4話-1 ※

しおりを挟む
 
 結界の向こう側にある澄み渡った湖面に、臘月が映り込んでいる。躰を光らせる魔蛍まぎょうが点滅しながら舞い、レオンハルトが構築した境界線を越えて迷い込んだ瞬間、ぱちん、と弾かれてさらさらと消えていく。
 すぐそこが魔の森だとは思えないほど、命の終わりさえも美しい景色だ。

 その日の夜遅く、宣言通りルヴィウスの部屋に転移魔法で現れたレオンハルトは、寝支度を済ませて待っていた彼を連れて、魔の森の湖畔にある、秘密の研究所へとやって来た。

 いきなりベッドに連れ込むのでは雰囲気もなにもあったものではないと、ひとまずリビングに連れて来たはいいが、思いのほかルヴィウスが体を強張らせていて、レオンハルトはなんだか懐かしい気がしていた。
 初めてここで二人きりの朝を迎えた時も、最初は緊張で体を硬くしていたものだ。

 ルヴィウスは、ふくらはぎ丈のワンピースタイプの寝衣姿をしている。少し寒そうにしていたため、レオンハルトは「寒い?」と聞きながらすぐさまストールを巻き、魔道具で部屋を暖め始めた。

 レオンハルトの気遣いに「ありがとう」と答えたルヴィウスだったが、まだ少し表情が強張っている。
 レオンハルトにとっては、それさえも可愛らしく感じられた。

「あったかい紅茶か、ココアか。ハーブティーもあるよ。ルゥ、何がいい?」
「えぇっと、じゃあ、ココア」
「わかった。入れてくるから座ってて」

 そう言って、レオンハルトはキッチンへ向かう。とは言っても、仕切りのないLDKだ。リビングのソファに座ったルヴィウスが、キッチンからよく見える。

 普段の様子と比べると、まだまだ顔が強張っている。大胆な言動とは裏腹に、初心なところがやっぱり可愛らしい。

 レオンハルトは、ルヴィウスのためにココアを用意し、自分にはハーブティーを淹れた。

 マグカップを2つ持ってリビングへ戻り、ルヴィウスにココアを手渡して隣に座る。「ありがと」と言ったルヴィウスは、さっそくココアに口を付けていた。それを横目で見ながら、自分もハーブティーを口に含む。すっとした爽やかさが口の中に広がった。

「明日、一日中ずっと一緒にいようか」

 レオンハルトが遠慮なく、願望を口にする。ルヴィウスはその意味を理解し、頬をほんのり染めながら困ったように笑った。

「帰らないと、怒られるんじゃないかな」
「そうかもしれないけど、たぶん俺、浮かれすぎてルゥを離してやれない気がする」

 正直にそう言ったら、ルヴィウスは頬を真っ赤に染めて顔を逸らし「そ、そうなの?」と呟いてココアの入ったカップを、ぎゅっと握りしめた。

 あぁ、可愛い。その想いが溢れて止まらなくなったレオンハルトは、愛おしそうに目を細め、ルヴィウスの横髪を、さらり、と撫でた。

「一緒に怒られてよ、ルゥ」
「だっ、誰かが迎えに来るかもしれないよっ?」
「それはないなー。誰もここには来られないし」
「でも、騎士団と魔法使いは来られるかも……」

 どうやらルヴィウスは、明日を一緒に過ごすことはいいけれど、誰かに邪魔されることを心配しているようだ。
 レオンハルトはルヴィウスの不安を取り除くため、得意顔で言う。

「誰も来ないよ。だって、ここに近づくと迷う魔法掛けてるから」
「そんな魔法あるのっ?」
「あるよ。目的地を誤認させる魔法」
「レオ……、平和な時代に生まれてよかったね……」
「ははっ、よく言われるし、自分でもそう思うよ」

 笑ったレオンハルトは、ことん、とカップをテーブルに置き、ルヴィウスの髪を撫でる。ふわり、と石鹸の匂いがした。

 じっと見つめていると、ルヴィウスの銀月の瞳が少し揺れる。
 レオンハルトはルヴィウスの手からマグカップを奪い、テーブルへ置くと、ゆったりと近づいて、触れるだけのキスをした。

「ルゥ」

 名前を囁いて、顎のラインを撫でる。こく、とルヴィウスの喉が上下した。

「ルゥがほしい。俺にルゥをちょうだい?」

 吐息が絡む距離で囁くと、ルヴィウスがきゅっとレオンハルトの寝衣を握りしめる。体はまだどこか強張っているようだが、その銀月の瞳には決意が見てとれた。

「レオ……」

 甘く呼んで、食むように口づける。

「僕のぜんぶ、レオのものにして」

 どちらからともなく唇を重ねて、互いを強く抱きしめた。
 角度を変えては何度も貪るように唇を重ね合わせ、舌を絡ませる。ただそれだけで、ルヴィウスは体温が上がるような感覚に陥る。

 飲み込めなかった唾液が口の端を伝う。
 ルヴィウスの左手がレオンハルトの髪を掴んで、右手は寝衣の背面を握りしめた。それを合図にしたかのように、レオンハルトはルヴィウスを縦抱きにして立ち上がる。

「んっ、ン…っ」

 不安定さからルヴィウスは、レオンハルトの肩に手を置いた。それでも少しも離れたくなくて、自ら唇を重ね合わせる。

 魔法で寝室の扉を開けたレオンハルトは、ルヴィウスを抱き上げたままベッドへ向かう。

 寝室は、ベッドサイドに魔道具の照明が灯されているだけで、窓からは月の明かりが差し込んでいた。

 ベッドに下ろされたルヴィウスは、上がった息を整えるように肩で息をした。
 ふと目線を上げると、窓から月が見える。前回―――三週間前に来た時とは違う視界に、意識が現実を捉え始めた。

 以前に比べると、幾分か広くなった寝室。真新しい寝具は以前よりも二周りほど大きく、シーツからは花の香りがする。
 乱雑に本が積み上げられていたはずの書棚はなくなって、ドレッサーとクローゼットが新調されていた。ベッドサイドには小ぶりのサイドテーブルと、ほんのり灯る魔道具のランプ。

 そう言えば、さっきまでいたLDKも、壁紙が変わっていたり、ソファとテーブルが新しくなっていたり、ところどころ変わっていたような気がする。

 ここは、ゴーレムをはじめ色々な魔道具や魔法薬を生んだレオンハルトの秘密の研究所だったはずだ。それなのに、以前とは違って、研究所らしさがどこにも見当たらない。

「レオ……、あの……、ここ……、なにかしたの?」
「ここって?」
「レオの研究所、こんなふうだっけ?」
「あぁ、二週間前くらいにちょっと改修工事した」
「か…改修工事?」
「だって、これからもルゥとここで一緒に過ごすことを考えたら、小さい別荘みたいにしたほうがいいかと思って。別荘って言うより、小さい平屋みたいになっちゃったけど」
「えっ、研究スペースはっ?」
「隣に建て増ししたから大丈夫」
「た、建て増し……」

 なんだろう、この人。万能? いや、分かってたけど、器用過ぎない? そう思ったことが顔に出たのか、レオンハルトは苦笑した。

「魔法とゴーレムを使って建てたから、見た目ほど手間暇かけてないよ。研究所のほう、見たかったら明日、案内するけど」

 うん、と頷くと、レオンハルトは「見ても面白いものなんかないよ」と笑う。
 ルヴィウスは「いいの」と呟いて、レオンハルトにすり寄った。どんな小さなことも、レオンハルトのことなら知っておきたい。

 ルヴィウスの髪をゆったりと撫でたレオンハルトは、サイドテーブルの上から小さな小瓶を取り、蓋を開けると中身を口に含んだ。
 そのままルヴィウスに口づけし、口内に含んでいた液体を口移しする。
 ルヴィウスは抵抗することなく、入り込んできたほんのり甘いポーションを、こくり、と飲み下した。
 わざわざ聞くことはしないが、このポーションが、レオンハルトの作った二人専用の避妊ポーションなのだろう。

 小瓶の中のポーションを総て飲み終わったあと、レオンハルトはルヴィウスの腰を抱き寄せた。

「ねぇ、ルゥ、ここに紋を入れてもいい?」

 レオンハルトの指が、ルヴィウスの臍の下を指す。

「い、いいけど、それ、どんな効果があるの……?」

 なんの? とは聞けず、勢いで承諾してみたが、嫌な予感しかしないのは何故なのか。

「俺以外の奴がルゥの中に入れなくなる効果」
「レオ以外の人を受け入れるわけないでしょっ」
「ルゥがそのつもりでも、拐かされたり無理やり迫られたりするかもしれないだろ?」
「バングルにあれだけ保護魔法掛けておいて、まだ心配なのっ?」さすがに呆れる。
「だって、バングルはルゥが自分の意思で外せるし……―――あ、それから、ルゥが気持ちよくなってくると、後ろが濡れる効果も重ね掛けしよう」
「そ……っ」

 それは……、男でありながら受け入れる側になる者としてはありがたいかもしれないが、そういう問題なのだろうか。

「だめ?」
「う……」

 置いていかれる子犬のような目を向けられ、ルヴィウスの男の子としての矜恃はいとも簡単に崩れ去る。

「だ……、だめじゃ、ない、です」

 そう返事をすると、レオンハルトは満面の笑みを浮かべ、さっそくルヴィウスの寝衣を脱がしにかかる。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない

ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。 元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。 無口俺様攻め×美形世話好き *マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま 他サイトも転載してます。

吸血鬼公爵の籠の鳥

江多之折(エタノール)
BL
両親を早くに失い、身内に食い潰されるように支配され続けた半生。何度も死にかけ、何度も自尊心は踏みにじられた。こんな人生なら、もういらない。そう思って最後に「悪い子」になってみようと母に何度も言い聞かされた「夜に外を出歩いてはいけない」約束を破ってみることにしたレナードは、吸血鬼と遭遇する。 血を吸い殺されるところだったが、レナードには特殊な事情があり殺されることはなく…気が付けば熱心に看病され、囲われていた。 吸血鬼公爵×薄幸侯爵の溺愛もの。小説家になろうから改行を増やしまくって掲載し直したもの。

亡国の王弟は女好きの騎士に溺愛される

コムギ
BL
アラバンド国の王弟ルカーシュは、騎士のシモンによって地下牢から救い出された。 その時、肌に触れたシモンに、やけどのような怪我を負わせてしまう。 ルカーシュは北の魔女の末裔であり、魔力を持っていた。 魔力を持たない者に触れると、怪我をさせてしまうという。 騎士団長からの命令で、シモンはルカーシュの護衛につくことになった。 ※他サイトにも掲載しています。

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...