82 / 177
四章 一幕:管理者と筥の秘密
四章 一幕 6話-2
しおりを挟むまるで禁書庫と禁書、そして自分の今までのことを言われているようだ。
自分が読みたいと思っていないのに、適切と思われる時期に一つずつ現れる、予言書のような禁書。これを冒険の書に置き換えたら、状況はハロルドの説明に酷似する。
いろいろな情報をあの書庫で得たが、目に見える形で受け取ったものはない。
強いて言えば、禁書を読んだあと、必ず魔力が増えることだろうか。ルヴィウスが先代の管理者であるニルス―――いまのアルフレドは、歴代最高の魔力を持った管理者だったと言っていた。まさか、管理者としての魔力を、禁書を通し、分割して受け取っているのだろうか。
管理者は、大きな魔力を持って生まれてくる。その魔力が自身や周りを傷つけないよう、受皿となる筥が用意される。
もし、管理者が最終的に手にする魔力が、神に匹敵するとしたら、どうだろう?
一度に受け取ると、その大きさに耐えられないに違いない。だから、禁書という形で受け取る。そして、受け取った力をうまく使えるよう、何かしらの出来事に直面させられる。
ハロルドの話を参考にするのなら、そうやって幾つ目かの禁書を開き、総ての魔力を回収した時、レオンハルトは管理者として完成するのではないだろうか。
そう仮定するとして、レオンハルトの物語の最後に待つのは、いったいなんなのだろう。
「殿下、まさかと思いますが、禁書庫が実在するんですか?」
「え? いや……」
否定しようと思ったが、ハロルドのキラキラと輝く目を見たら、上手い嘘などこれっぽっちも浮かばなかった。
それに、ハロルドはレオンハルトが通っている禁書庫を“正しく”理解していない。何を言っても問題ない気がする。
「危ないから連れていけないぞ」
「連れて行ってほしいなんて言いませんよ。ボクはモブですよ?」
「なんだ、もぶって」
「脇役ってことです」
なぜ脇役だとダメなんだ? レオンハルトは理解し難いハロルドの思考回路に、眉間にしわを寄せて首を傾げた。
「殿下が気にするところ、そこじゃないでしょ」ハロルドが眉尻を下げて笑う。「それより、ルヴィウス様のところへ行く前に少し休んだらどうですか。今朝、討伐から戻ったばかりなんですから。疲れた顔して会いに行ったら、ルヴィウス様が悲しみますよ」
なんだかんだ面倒見がいいハロルドに、「そうする」と答えて席を立つと、いつもルヴィウスと寝転んでいるカウチソファに一人横になった。
ハロルドが「じゃあ、書類を置いてきます」と部屋を出て行く。それに手を振ったあと、レオンハルトは目を閉じた。
頭に浮かぶのは、三日前に現れた新たな禁書に書かれていたこと。
それは、広域防御壁の魔術陣や、自動展開する空を覆う形のドーム型結界など、魔物を食い止める魔法について知るために、夜遅くまで禁書庫で調べものをしていた時に現れた。
最初は、異変を感じなかった。しかし、時間を忘れて調べものをしているうちに日付が変わっていたようで、目の前に灯りが揺れる気配がし、ふと顔を上げると、いつも自分を誘導するランプが宙に浮いていた。
こうなると、禁書を読まずに外へ出ることは出来ない。
レオンハルトは、ランプが導く先に現れた、表紙に『八番目』と刻まれた禁書を、読むしかなかった。
そこには、こう書かれてあった。
~~~~~~~~~~
総ての欠片が集まる兆候は、森に現れる。
歪みが消失の定めに抗い、魔素の流れが不安定になり、魔が溢れるだろう。
欠片を運び、力を宿し、資格を得た管理者に選択の時が来る。
選べ、自らの運命を。
共に有ること。
総てを投げうって救うこと。
物事には、決まりがある。
決して変えてはならない、不変の真理。
土は石になるかもしれないが、石は植物にはなれない。
人は人であり、その性差や容姿は、世界の理からすれば、髪一本程度の相違でしかない。
どれほど愛おしくとも、筥は人なのだ。
狼が狼として生まれたら、羊にはなれないように。
失いたくなければ、管理者は筥を手離してはならない。
手離せば、二度と元には戻れなくなるだろう。
名を与えられた日。初めて触れた日。愛おしいが何かを知った日。
生と死が同じ意味を持っていた『私』に、生きることを教えてくれた。
それが誰だったのか、思い出せ。
お前が愛を知ったのなら、お前は私を継ぐだろう。
私たちの愛し子よ。
私たちは、お前たちを待っている。
~~~~~~~~~~
ふっ、と目を開けると、見慣れた天井が映る。
相変わらず曖昧で、掴みどころのない文面だった。
管理者が何をする者か書かれていないし、資格がなんなのかも不明だ。
それに、以前読んだ禁書に出てきた、総てが整った時に救いの手を差し伸べるという“世界樹”が何を意味するのかも、未だに分かっていない。
ルヴィウスに逆鱗を使うためにも、“世界樹”が何を意味しているのかを知り、そこへ赴く必要があるのに。
「魔が溢れる……」
今回の禁書に記されていた言葉が、音になって唇からこぼれる。
これは今まさに、王国の永きにわたる平和を脅かしている状況を示すかもしれない言葉だ。だとすれば、自分が管理者として覚醒する日も近いのだろう。
すっと左手を天井へとかざしてみる。手首には、ルヴィウスとお揃いのバングル。
『八番目』の禁書を読んだ後、やはり魔力が増大した。ルヴィウスに『体に異変はないか』と聞いたが、『君がすぐ回復魔法を掛けるからむしろ元気だよ』と、レオンハルトの遠慮のない閨での行為を気にしているのだと、勘違いされてしまった。
「まぁ、それくらい、なんともないってことなんだろうな」
心配する必要はないのだろうか。だが、ルヴィウスを気にかけないという選択は、レオンハルトにはない。
いま現在、ルヴィウスが受け取っているレオンハルトの魔力は、攻撃として使えば王宮を一瞬で吹き飛ばし、更地にできるレベルだ。
その膨大な魔力量を受け取りながらも、平然としているどころか無効化しているのだから、筥の役割の大きさには改めて感服する。
ルヴィウスが居なければ、レオンハルトは人として接してもらえないどころか、魔王として討伐されていてもおかしくない状況に陥っていたことだろう。
レオンハルトは天井へとかざした自分の左手を、じっと見つめた。
この手で、何を成し遂げるのだろう。
何を守り、何者になるのだろうか。
ルヴィウスは「自分のことなのに無頓着」だと言っていたが、不思議なことに不安はどこにもない。
人は、知らないこと、初めてのこと、予想がつかないことに、恐怖や不安を覚える。
その感覚が分からないわけじゃない。だが、自分に関わるまだ見えぬ未来に対しては、当てはまらない。それが管理者たる宿命なのだ。そう思っている。
恐ろしいのは、むしろ―――
不意に、バングルが震えた。通信魔法を繋げる合図だ。ソファに起き上がり、しばらく待つと、愛らしい声が聞こえてくる。
『レオ?』
「あぁ、聞こえる。準備できた?」
『うん、大丈夫』
「じゃあ、十分後に迎えに行くから、部屋で待ってて」
『僕を召喚してくれてもいいけど』
「それはダメ」
『なんで?』
ふふっ、と笑いがこみ上げてきてしまう。レオンハルトはルヴィウスの「なんで?」がお気に入りだ。
「今年の誕生日はまだルゥのところへ行けてないから」
『だから今から来てくれるんでしょ。僕の誕生日はまだ半分以上残ってるよ』
「いつもは日付が変わる頃に行ってたって言いたいの」
『大丈夫、今日は事前に邸にいる全員に、“お祝いしないで”って通達しておいたから、レオが僕の誕生日をお祝いしてくれる第一号だよ』
「ははっ、なにそれ。俺、また公爵に睨まれそう」
『僕がレオから一番にお祝いしてもらいたいの。だからみんなに、お祝いしないことが僕への誕生日プレゼントだよって言ってあるから大丈夫』
可愛いお強請りに、邸中の者が眉尻を下げて了承する様子を思い浮かべ、レオンハルトはくすぐったい気持ちになる。ルヴィウスはこんなにも、自分からの「おめでとう」を特別に思ってくれている。
「ルゥは可愛いなぁ」
『すぐそう言う……』
「ふふっ、実際に可愛いから。それで、お迎えに行っていいですか、愛しい人?」
そう聞くと、少し間があったあと「うん」と返ってきた。レオンハルトは「待ってて」と告げて通信を切る。
ソファから立ち上がると、執務机のほうへ向かう。
机の傍には、ワゴンが置かれていて、ハロルドに頼んだものが、上下二段に分かれて用意されている。
レオンハルトは確認しながら、一つずつ亜空間へ放り込んでいく。
りんご、イチゴ、ベリー、ワイルドボアのロース肉に、じゃがいも、ニンジン、たまねぎに葉物野菜各種。チーズに牛乳、白パン、その他調味料。
これらの食材は、亜空間で繋がった先、魔の森の湖畔にある“秘密の別荘”の保管庫へ、自動的に収納される。
続いて下段にある、リネン類に着替え一式、訓練用の騎士服に革製の防具。
こちらも亜空間に放り込む。これらの行先もやはり“秘密の別荘”の各収納庫だ。
すべての品物を収納した後、レオンハルトは壁のフックに掛けられた青磁色の鞘の剣を取り、フードのついたロングケープを羽織る。
準備が出来ると指を鳴らして、自分専用の黄金の伝言蝶を二羽呼び出し、「ルゥと“別荘”に行ってくる」と言霊を込めて、ハロルドとガイルへ飛ばした。
二羽の黄金の蝶が二度その場で羽ばたく。
それが行き先へと消えるのとほぼ同時に、レオンハルトも室内から姿を消した。
30
あなたにおすすめの小説
脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~
季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」
その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。
ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。
ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。
明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。
だから、今だけは、泣いてもいいかな。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない
ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。
元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。
無口俺様攻め×美形世話好き
*マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま
他サイトも転載してます。
吸血鬼公爵の籠の鳥
江多之折(エタノール)
BL
両親を早くに失い、身内に食い潰されるように支配され続けた半生。何度も死にかけ、何度も自尊心は踏みにじられた。こんな人生なら、もういらない。そう思って最後に「悪い子」になってみようと母に何度も言い聞かされた「夜に外を出歩いてはいけない」約束を破ってみることにしたレナードは、吸血鬼と遭遇する。
血を吸い殺されるところだったが、レナードには特殊な事情があり殺されることはなく…気が付けば熱心に看病され、囲われていた。
吸血鬼公爵×薄幸侯爵の溺愛もの。小説家になろうから改行を増やしまくって掲載し直したもの。
亡国の王弟は女好きの騎士に溺愛される
コムギ
BL
アラバンド国の王弟ルカーシュは、騎士のシモンによって地下牢から救い出された。
その時、肌に触れたシモンに、やけどのような怪我を負わせてしまう。
ルカーシュは北の魔女の末裔であり、魔力を持っていた。
魔力を持たない者に触れると、怪我をさせてしまうという。
騎士団長からの命令で、シモンはルカーシュの護衛につくことになった。
※他サイトにも掲載しています。
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる