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四章 一幕:管理者と筥の秘密
四章 一幕 7話-2 ※※
しおりを挟むローテーブルにカウチソファ、小さめのサイドテーブルとロッキングチェア。
結界防御壁のおかげで雨に濡れることも風に飛ばされることもない、この別荘に新たに増設された憩いのスペースだ。
ソファにルヴィウスを座らせたレオンハルトは、ローテーブルの上にすでに用意していた手のひらサイズのジュエリーボックスを手に取る。
「誕生日おめでとう、ルゥ」
ぱか、と開かれた小さな箱の中には、小粒であってもカットが美しい一対の深い蒼サファイアの魔石がはめ込まれたピアスが入っていた。
「お揃いだよ」
そう言い、レオンハルトが自分の耳たぶを指さす。彼の両耳たぶには、ブラックダイヤモンドのピアスが付けられていた。
「ありがとう、すごく嬉しい」
ピアスを受け取ったルヴィウスは、お礼の意味を込めてレオンハルトの頬にキスをした。
「なんか、レオには貰ってばかりだね」
少し気落ちした声で本音がこぼれ落ちてしまった。が、いま言うことではなかったと、すぐに気づく。
「ごめん、あの……、あんまり深い意味はなくて……」
小さな声でそう言い訳したルヴィウスの頬を、レオンハルトの節のしっかりした手が撫でる。
「俺は魔法が得意で、自分で素材を集められるし、討伐や素材の売買で個人資産もある。色んなものが手に入る俺だから出来るんだよ。公爵家の予算と王家からの品位保持費でルゥ名義のお金があるからって、総てを管理された状態で自由に買ったり選んだりできないって、ちゃんと分かってるから」
励ますように言ってくれるレオンハルトに、ルヴィウスは「うん」と小さく頷いた。
レオンハルトは凶龍の討伐以降、毎年ルヴィウスに特別なプレゼントを用意してくれている。
お揃いのバングル、インクのいらないペン、宙に浮かぶランプ、部屋に星空を投影する水晶、レオンハルトにだけルヴィウスの言葉を運ぶ銀の伝言蝶、そして今年は、ピアス。
片や、自分がレオンハルトの誕生日に贈ったものは、王家御用達の服飾店や宝石店で事前に幾つか候補として挙げられた物の中から、作業のように選んでいる物ばかりだ。
「ルゥ、顔をあげて」
レオンハルトはルヴィウスの頬を包み込んだ。
「ルゥは物じゃなくて、時間をくれてる。ルゥだけが俺に与えられる特別なプレゼントだよ。毎年、俺の我が儘に付き合ってくれるよね? 王宮を抜け出したり、庭でピクニックしたり。アクセラーダ公爵家の別荘での釣りは面白かったな。ほら、一昨年は生で魚を食べてみようってエーシャルワイドへ弾丸日帰り旅したし、去年はちゃんと宗教建築物見ようってエスタシオまで一緒に行ってくれた。ルゥだけだよ、俺の願いを全部叶えてくれる人は」
レオンハルトがあまりにも嬉しそうに話すから、ルヴィウスはきゅっと口を引き締めることしか出来なかった。そうしないと、今にも涙が零れてきそうだったから。
レオンハルトはルヴィウスの目尻に小さなキスをすると、テーブルの上に置いてあったもう一つの箱を開ける。
中身は見たこともない、縦5cm、横3cm程のサイズの、四角いケースがいくつも並んでいた。
「じゃあ、耳たぶにピアスホール開けようか」
「それ、なに?」
「これ? ハロルドと一緒に作ったピアスホール用の医療器具。今月から馴染の商団で取り扱い始めたんだ」
器具を一つ取り出したレオンハルトは、ルヴィウスからピアスをいったん預かる。そして器具の上部をスライドさせ、そこへキャッチャーを外したピアスを入れ込む。
「心の準備はいい?」
そう言われ、ルヴィウスは、こくり、と頷くと、ぎゅっと目を閉じた。
右耳に触れられ、何かの魔法が掛けられた気配がすると、がちっ、と音がする。「もういい?」と声を掛けると、「まだ。左もやるよ」と言われた。
ルヴィウスは左耳も、がちっ、と音がするまで目を瞑っていた。
そのあと、右耳にレオンハルトが触れて、かちん、と何かがはまる音がする。左も同じ音がすると、レオンハルトの声がした。
「もういいよ」
差し出された手鏡を受け取り、着けてもらったばかりのピアスを確かめる。
じわじわと耳たぶが小さな痛みを感じ始める。けれど、痛みより、レオンハルトの瞳と同じ色のピアスに、つい顔が緩んでしまった。
「治癒魔法かけると穴が塞がっちゃうから、痛みだけ取ろうか?」
ルヴィウスはすぐに首を横に振った。ピアスの実感が薄れてしまうのが嫌だった。
「さて、誕生日の王様」レオンハルトが茶化すように言う。「今日はルゥが王様だから、下僕の俺はなんでも我が儘きいてあげるよ。何がしたい?」
レオンハルトはルヴィウスを膝の間に座らせると、背中からぎゅっと抱きしめた。首筋にキスをされ、ルヴィウスはくすぐったさに小さく笑う。
何がいいだろう。ルヴィウスはゆったりと体をレオンハルトに預け、「そうだなぁ」と呟く。
ディナーはレオンハルトが用意してくれていると言っていたから、一緒に料理するという提案はなしだ。
可能なら結界の外に出てみたかったが、あいにくの雨。あとで魔法の練習をする予定だけれど、今すぐでなくてもいい。なにより、レオンハルトは今朝まで討伐に行っていて、休めていない。寝転がってゆっくりしてもいいかも―――
「寝転がってのんびりするのは無しね」
心を読まれた、と驚いてルヴィウスが顔だけ振り返ると、当たり前のように唇が重なる。
誘うように口を少し開くと、意図を察したレオンハルトの舌が入り込んできた。
「ん……っ」
食むような濃い口づけを繰り返し、吐息が熱を持ち始める。
このまま肌を重ねて、深く繋がって、我慢せずに嬌声を上げて、腰を揺らめかせて、二人だけの世界に堕ちてしまいたい。
「する?」
レオンハルトの手が、するり、とシャツの裾から入り込んでくる。
円を描くように胸の頂を愛撫され、ルヴィウスの喉が仰け反った。その先を期待して、レオンハルトに腰を擦りつけてしまう。
「ぁ…っ、んっ、レオ……っ」
「ふふっ、ルゥ、可愛い。ね、俺に可愛いルゥを独り占めさせてくれる?」
ルヴィウスは、こく、こく、と二度頷いた。その愛らしい返事に、レオンハルトはルヴィウスを隣に座りなおさせる。
「じゃあ、準備するから少し待って―――っ」
立ち上がりかけたレオンハルトを、ルヴィウスがカウチソファに押し倒した。
レオンハルトは少しびっくりし、熱っぽく潤んだ瞳で見下ろしてくるルヴィウスを凝視する。
「あのね、レオ」
そう言うなり、ルヴィウスはズボンを下着ごと脱ぎ去る。
「今日は絶対するって思ってたから、ちゃんと避妊ポーション飲んできたよ」
そしてレオンハルトのズボンの紐を緩めると、ぐいぐいと下に下げる。積極的なルヴィウスに苦笑いしながらも、レオンハルトは腰を少し浮かせ、愛おしい人の手助けをした。
「それとね」
レオンハルトの上に跨ったルヴィウスは、二つの熱を擦り合わせながら、シャツを脱ぎ去る。
下から見上げるレオンハルトの視界には、いやらしさと愛らしさを綯い交ぜにしたルヴィウスの裸体が映っている。
「すぐ挿れられるように、自分で柔らかくしたんだよ。ちゃんと出来てるか、確認して?」
そう言ってルヴィウスはレオンハルトに覆いかぶさり、口づけをした。何度かキスを繰り返したあと、ルヴィウスは誘惑するようにレオンハルトの手を取り、自分の双丘の奥へと誘う。
「自分で準備したんだ?」
レオンハルトが、ぷつり、と指を後口へと入れると、ルヴィウスが甘く息をついた。
その吐息ごと口づけたレオンハルトは、中へと挿れた指を何度か出し入れする。
そこは、普段の始まりよりずっと柔らかく、すぐに二本目、三本目を飲み込み、そうするうちにルヴィウスの下腹部に刻んだ紋が反応して、ぐちゅ、ぐちゅ、と濡れた音が響き始めた。
「あっ、ぁっ、んんっ」
「俺のもの以外を挿れたんだ? 何を挿れたの?」
「ゅ、び……っ。だって……、ほか、のもの、は……ァっ、はぃら、なぃ、からぁ…んっ」
「そうだね、ルゥのお腹には俺が紋を刻んだから、俺とルゥ以外、無機物さえも入らないもんね」
それに頷きながら、ルヴィウスの腰が、かく、かく、といやらしく動く。
後口から指を抜き、ルヴィウスの胸をぐっと押したレオンハルトは、半ば無理やりに上体を起こさせた。
硬く膨れ上がったルヴィウスの熱の先端は、既に濡れ始めている。
「少しだけ、腰を上げられる?」
「う、ん……っ」
筋肉がしっかりついたレオンハルトの腹に手を置き、少しぐらつきながらもルヴィウスは腰を上げた。
下から見上げるルヴィウスの細く白い体が、全身でレオンハルトを誘惑している。
レオンハルトは自身の膨張し硬度が増した熱に手を添えて、ルヴィウスの脚の付け根へと押し当てた。
「ルゥ、そのままゆっくり腰を落として」
ルヴィウスは瞳に涙を溜めながら、腰を下ろし、レオンハルトの熱の先端を自身の後口へと受け入れる。
「んっ、んんっ、ぁ…んっ」
喘ぎ声と共に、ずぶずぶとレオンハルトの熱がルヴィウスの胎へと入り込んでいく。
三分の一ほど入ったところで、レオンハルトはルヴィウスの腰を両手で掴んだ。
「そう、上手。頑張って、ルゥ」
「ん…っ、んぁ…っ、ふっ、ぅ……ゃ、ァっ」
「ルゥ、まだ全部入ってないよ。止まっちゃダメ」
「ァっ、も……、はぃ、ら、な…ぃ……―――あぁっ」
レオンハルトが、ゆさっ、と腰を揺さぶると、ルヴィウスの胎の中に熱が押し込まれる。それでも全部入りきらず、ルヴィウスはレオンハルトの腹に手をついて、ぷるぷると脚を痙攣させながら耐えた。
「しょうがないな、手伝ってあげるね、ルゥ」
レオンハルトは掴んでいたルヴィウスの細い腰をぐっと下ろすと同時に、下から腰を突き上げた。
「あぁっ、ァっ、んっ、んっ」
深くまで穿たれ、ルヴィウスの視界は明滅した。唇から漏れる艶めいた声は止められず、眦からは涙が零れた。
ルヴィウスの熱の先端からは、ぴゅっ、ぴゅっ、と白濁が飛び出していた。挿れた拍子に甘く達したようだ。
深い。気持ちいい。こんなに奥まで入るなんて初めてだ。まだ知らない快楽があることにルヴィウスの体は歓喜し、従順に反応を返す。
「下から見るルゥも可愛い」
甘ったるくそう囁いたレオンハルトは、自分の腹の上に手を置いて辛うじてバランスを取っていたルヴィウスの両手を、自分のそれと組み合わせた。
「もう少し気持ちよくなろうね、ルゥ」
言葉と同時に、ゆさ、ゆさ、と腰を揺する。ルヴィウスは組まされたレオンハルトの手をぎゅっと握りしめ、「あっ、あっ」と言葉にならない甘い吐息を漏らした。
「ルゥ、かわいい、ルゥ」
「んっ、あっ、ぉ、く……っ、き、もち、ぃ…―――あァっ!」
徐々に、徐々に突き上げる勢いが増していく。胎の奥の奥を突かれて、気持ちよさが全身を駆け巡り、脳が痺れる。
体を支えられなくなったルヴィウスは、手を繋いだままレオンハルトの上に覆いかぶさった。
「んっ、んっ、あっ、れ、ぉっ、れおっ、れおっ」
舌足らずな呼ばれ方に、レオンハルトの情欲と愛おしさが募っていく。
「ルゥ、俺にしがみ付いてていいよ」
そう囁くと、ルヴィウスはレオンハルトの両肩を掴んだ。
レオンハルトはルヴィウスの細い腰を掴んで、力強く奥を突く。
ルヴィウスの喘ぐ声に濃度と甘さが増した。触れ合った肌の上では汗が混じり合って、熱が溶けあう。
誰にも邪魔されない二人だけの営みは、甘くて、いやらしくて、まるでお互いの気持ちを凝縮させたかのように濃厚だ。
「ルゥ…っ、キス、しよ……っ」
少し余裕のないレオンハルトの声が遠くに聞こえた。
全身を快楽に揺さぶられながら、ルヴィウスは何とか顔を上げる。
噛みつくようにキスをしたレオンハルトは、ひときわ大きく腰を打ち付けた。ルヴィウスの脚の指が、きゅっ、と丸まる。
「ん……ぅ……―――っ」
腹の上と、胎の奥とが、じわり、と温かくぬめる。
唇を離すと、唾液が糸を引いた。
はっ、はっ、と浅い息を繰り返し、ルヴィウスはレオンハルトの上で力尽きる。
レオンハルトは自分に総てを預けて快楽の波に揺蕩う愛おしい温もりを、しっかりと腕の中に包み込んで、何もかもを忘れ、ただ幸せにひたるだけの時間に身を委ねた。
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