悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

文字の大きさ
4 / 339
序章

3.刻まれた名前は…

彼が手を前に出すと、そこから魔法陣が生まれた。
魔法陣から光の粒が飛び出すと、球体の中央に繋がるように下から1段1段、階段を生み出していった。

(す、すごい…!)

はじめて見る魔法に興奮した。
彼が魔法使いなのだと今更理解した。

「さぁ、階段を登って」

コクリと頷き、一段一段踏みしめるように登っていく。
キラキラと光る純白の階段を登っていると、まるで妖精にでもなったような気分だった。

しかし階段は思った以上に長く、巨大なものに近づいていくことへの恐怖心で歩みはどんどん遅くなっていく。
丁度半分まで登ったところで恐怖と不安はピークになり、立ち止まってしまった。
助けを求めるように下にいる魔法使いを見つめた。

「大丈夫ですから、上まで登ってください」

その言葉に引き返せそうにないことを悟ると、少し不安ではあったが、彼の言葉を信用して歩みを進めた。
そうして何とか上まで辿り着いた。

眼前にある眩く光る球体に目を細める。
こんなに巨大なものを目の前にしたことはなく、足がすくんだ。

私が上まで登り切ったことを確認すると彼がまた魔法を発動させた。
すると、今まで勢いよくぐるぐると回っていた保護枠が「キキィーッ」と音を発しながらゆっくりと動きを止めた。

「さぁ怖がらないで、その大きな玉に触れてみて」

魔法使いの指示に従い、躊躇いながらも手を近づけた。
手が触れた瞬間、球体は眩いばかりの強い光を発した。

見ていられなくて、咄嗟に目を庇うように腕を目の前に出したが、それでも庇いきれず思わず目を瞑った。
しかしそれも一瞬で、すぐに目を開けるともう球体は先ほどと何ら変わらず、緩やかに自転していた。

ただ、1つだけ変化していることがあった。

球体内部の中央。何かが浮いているのが見える。
人だ、中に人がいる。
どこかで見たことのある人。

それは目を瞑った若い男の人だった。

銀色の髪は肩に着くぐらいの長さで切りそろえられていて、目を閉じていても端正な顔立ちをしているのがわかる。
着ている服は黒を基調としたもので、ところどころアクセントなのか赤い差し色が入っている。
服装から男の人だとわかったが、その中性的な顔は女の人だと言われても納得してしまうほどだった。

その人の胸の前のあたりに何かが浮かび上がっている。
目を凝らしてみると、どうやら文字のようだ。

(リヴェリオ・ヴァン・オルフェリウス……)

心の中で読み上げた瞬間に頭の中で思い出すようにある事実が囁いた。

(これ、私の名前だ…)

そして中にいる人物が誰なのか理解した。
あれは私だ。今の私になる前の、前世の私。

ぼんやりとした頭の中で、何かを思い出しそうになる。
そう、私は昔この姿で……。

「な、なぜの悪逆皇帝が…!」

下からの狼狽えた声に、ハッと我に返った。
反射的にそちらを向く。
魔法使いは恐ろしい怪物でも見たかのようにわなわなと体を振るわせていた。

「転生することができる魂は、シュによって清廉なものだと判断された者だけのはず!それなのになぜっ」

その魔法使いは信じられないと言いたげに誰にでもなく訴えていた。
その様子から、なんとなく私の前世が善人ではなかったことがわかる。

しかし、彼が動揺していたのもほんの少しの間だけだった。思い出したかのように、胸に手を当て落ちつきを取り戻すと
先ほどと同じように開いた手を伸ばし、魔法を発動させた。
彼の胸の前にあった名前がヒラリと舞うように私へ近づいた。と思うと、今度は私の胸の前で反転した状態で静止した。

それが止まっていたのも束の間、胸が文字に吸い寄せられるように引っ張られた。

その力に抗うことができず、私の足は階段を離れ、宙に浮いていた。

文字に近づくにつれ、私の胸が少しずつ光はじめる。
それは徐々に強さを増し、文字に触れるか触れないかぐらいの距離になると眩いばかりの光を発していた。

文字が胸に触れた瞬間、胸が強く光る。
吸い込まれるように文字はその光の中へ消えていった。
全ての文字が吸い寄せられ、消えると胸の光も無くなり、力を失ったようにふんわりと階段へ降ろされた。

(あ、熱いっ)

胸が焦げるように熱い。

我慢ができず胸で結んでいたリボンをほどき、ブラウスのボタンを開け中を確認した。
するとそこには薄赤色の名前が刻まれていた。

先ほどまであった前世の名前が。

ハッとして球体の中をみると、先ほどまでそこにいた前世の私は跡形もなく消えていた。

「さぁ、儀式は終わったよ。こちらに降りてきて」

明るく告げる彼の指示通りに下に降る。

「お疲れ様」

階段を降り切ると、魔法使いはねぎらい声を掛けた。
その優し気な声とは裏腹に、差し出された手はわずかに震えていた。
恐らく、私に怯えているのだろう。
正しくは私の前世に。

彼がここまで怯える私の前世に、私は恐怖を覚えた。
感想 7

あなたにおすすめの小説

亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』

まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」 ​五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。 夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。 生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。 ​冷淡な視線、姉と比較される日々。 「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」 その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。 ​しかし、彼女が消えた翌朝。 カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。 そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。 そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。 ​――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」 ​真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。 だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。 ​これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea
恋愛
 ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、   死んだ  と、思ったら目が覚めて、  悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。   ぽっちゃり(控えめな表現です)   うっかり (婉曲的な表現です)   マイペース(モノはいいようです)    略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、  「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」  と、落ち込んでばかりもいられない。  今後の人生がかかっている。  果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。  ※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。 ’20.3.17 追記  更新ミスがありました。  3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。  本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。  大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。  ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

『処刑された悪女は、今度こそ誰も愛さない』

なつめ
恋愛
断頭台の上で、自分の終わりを見た。 公爵令嬢セラフィーナ・エーデルベルク。傲慢で冷酷、嫉妬深い悪女として断罪され、婚約者である王太子に見放され、社交界の嘲笑の中で処刑された女。 けれど次に目を開けた時、彼女はまだ十七歳の春に戻っていた。 処刑まで残された時間は、三年。 もう誰も愛さない。 誰にも期待しない。 誰も傷つけず、誰にも傷つけられず、静かに生きる。 そう決めて、彼女は人との距離を置きはじめる。 婚約者にも、原作の“主人公”にも、騎士にも、侍女にも、未来で自分を断罪するはずの人々すべてに。 けれど、少しだけ優しくした。 少しだけ、相手の話を聞いた。 少しだけ、誤解を解く努力をした。 たったそれだけのことで、なぜか彼らのほうが先に彼女へ心を寄せ始める。 「……あなたは、こんな人だったのですか」 「もう少し、私を頼ってください」 「君が誰も愛さないつもりでも、俺は君を放っておけない」 「ずっと、怖かっただけなんでしょう」 悪女として死んだはずの令嬢が、二度目の人生で手に入れるのは名誉か、友情か、それとも恋か。 これは、誤解に殺された少女が、静かに息を吹き返していく物語。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

あなたがすき、だったから……。

友坂 悠
恋愛
 あなたが好きだったから、わたしは身を引いた。  もともと、3年だけの契約婚だった。  恋愛感情なしに、偽装夫婦を演じよう。  そういうあなたに同意をして一緒に暮らし出した日々。  それなのに。  約束の期限の三日前、まさか酔ったあなたとそういう関係になるなんて、思わなかった。  だから。 わたしはそのまま翌朝家を出た。  わたしだけが、どんどんあなたを好きになってしまったことを隠したくて。  こんな気持ちを悟られ、あなたに迷惑がかかるのに、耐えられなくて。    ############# なろうさんで開催されていた、氷雨そら先生、キムラましゅろう先生主催、 シークレットベビー企画参加作品だった、「あなたが好きだったから」という短編に、少し加筆修正して連載化しました。 初めてのシクべ、ちょっと変わったタイプのシクべ作品となりました。 お楽しみいただけると幸いです。