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序章
3.刻まれた名前は…
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彼が手を前に出すと、そこから魔法陣が生まれた。
魔法陣から光の粒が飛び出すと、球体の中央に繋がるように下から1段1段、階段を生み出していった。
(す、すごい…!)
はじめて見る魔法に興奮した。
彼が魔法使いなのだと今更理解した。
「さぁ、階段を登って」
コクリと頷き、一段一段踏みしめるように登っていく。
キラキラと光る純白の階段を登っていると、まるで妖精にでもなったような気分だった。
しかし階段は思った以上に長く、巨大なものに近づいていくことへの恐怖心で歩みはどんどん遅くなっていく。
丁度半分まで登ったところで恐怖と不安はピークになり、立ち止まってしまった。
助けを求めるように下にいる魔法使いを見つめた。
「大丈夫ですから、上まで登ってください」
その言葉に引き返せそうにないことを悟ると、少し不安ではあったが、彼の言葉を信用して歩みを進めた。
そうして何とか上まで辿り着いた。
眼前にある眩く光る球体に目を細める。
こんなに巨大なものを目の前にしたことはなく、足がすくんだ。
私が上まで登り切ったことを確認すると彼がまた魔法を発動させた。
すると、今まで勢いよくぐるぐると回っていた保護枠が「キキィーッ」と音を発しながらゆっくりと動きを止めた。
「さぁ怖がらないで、その大きな玉に触れてみて」
魔法使いの指示に従い、躊躇いながらも手を近づけた。
手が触れた瞬間、球体は眩いばかりの強い光を発した。
見ていられなくて、咄嗟に目を庇うように腕を目の前に出したが、それでも庇いきれず思わず目を瞑った。
しかしそれも一瞬で、すぐに目を開けるともう球体は先ほどと何ら変わらず、緩やかに自転していた。
ただ、1つだけ変化していることがあった。
球体内部の中央。何かが浮いているのが見える。
人だ、中に人がいる。
どこかで見たことのある人。
それは目を瞑った若い男の人だった。
銀色の髪は肩に着くぐらいの長さで切りそろえられていて、目を閉じていても端正な顔立ちをしているのがわかる。
着ている服は黒を基調としたもので、ところどころアクセントなのか赤い差し色が入っている。
服装から男の人だとわかったが、その中性的な顔は女の人だと言われても納得してしまうほどだった。
その人の胸の前のあたりに何かが浮かび上がっている。
目を凝らしてみると、どうやら文字のようだ。
(リヴェリオ・ヴァン・オルフェリウス……)
心の中で読み上げた瞬間に頭の中で思い出すようにある事実が囁いた。
(これ、私の名前だ…)
そして中にいる人物が誰なのか理解した。
あれは私だ。今の私になる前の、前世の私。
ぼんやりとした頭の中で、何かを思い出しそうになる。
そう、私は昔この姿で……。
「な、なぜ彼の悪逆皇帝が…!」
下からの狼狽えた声に、ハッと我に返った。
反射的にそちらを向く。
魔法使いは恐ろしい怪物でも見たかのようにわなわなと体を振るわせていた。
「転生することができる魂は、主によって清廉なものだと判断された者だけのはず!それなのになぜっ」
その魔法使いは信じられないと言いたげに誰にでもなく訴えていた。
その様子から、なんとなく私の前世が善人ではなかったことがわかる。
しかし、彼が動揺していたのもほんの少しの間だけだった。思い出したかのように、胸に手を当て落ちつきを取り戻すと
先ほどと同じように開いた手を伸ばし、魔法を発動させた。
彼の胸の前にあった名前がヒラリと舞うように私へ近づいた。と思うと、今度は私の胸の前で反転した状態で静止した。
それが止まっていたのも束の間、胸が文字に吸い寄せられるように引っ張られた。
その力に抗うことができず、私の足は階段を離れ、宙に浮いていた。
文字に近づくにつれ、私の胸が少しずつ光はじめる。
それは徐々に強さを増し、文字に触れるか触れないかぐらいの距離になると眩いばかりの光を発していた。
文字が胸に触れた瞬間、胸が強く光る。
吸い込まれるように文字はその光の中へ消えていった。
全ての文字が吸い寄せられ、消えると胸の光も無くなり、力を失ったようにふんわりと階段へ降ろされた。
(あ、熱いっ)
胸が焦げるように熱い。
我慢ができず胸で結んでいたリボンをほどき、ブラウスのボタンを開け中を確認した。
するとそこには薄赤色の名前が刻まれていた。
先ほどまであった前世の名前が。
ハッとして球体の中をみると、先ほどまでそこにいた前世の私は跡形もなく消えていた。
「さぁ、儀式は終わったよ。こちらに降りてきて」
明るく告げる彼の指示通りに下に降る。
「お疲れ様」
階段を降り切ると、魔法使いはねぎらい声を掛けた。
その優し気な声とは裏腹に、差し出された手はわずかに震えていた。
恐らく、私に怯えているのだろう。
正しくは私の前世に。
彼がここまで怯える私の前世に、私は恐怖を覚えた。
魔法陣から光の粒が飛び出すと、球体の中央に繋がるように下から1段1段、階段を生み出していった。
(す、すごい…!)
はじめて見る魔法に興奮した。
彼が魔法使いなのだと今更理解した。
「さぁ、階段を登って」
コクリと頷き、一段一段踏みしめるように登っていく。
キラキラと光る純白の階段を登っていると、まるで妖精にでもなったような気分だった。
しかし階段は思った以上に長く、巨大なものに近づいていくことへの恐怖心で歩みはどんどん遅くなっていく。
丁度半分まで登ったところで恐怖と不安はピークになり、立ち止まってしまった。
助けを求めるように下にいる魔法使いを見つめた。
「大丈夫ですから、上まで登ってください」
その言葉に引き返せそうにないことを悟ると、少し不安ではあったが、彼の言葉を信用して歩みを進めた。
そうして何とか上まで辿り着いた。
眼前にある眩く光る球体に目を細める。
こんなに巨大なものを目の前にしたことはなく、足がすくんだ。
私が上まで登り切ったことを確認すると彼がまた魔法を発動させた。
すると、今まで勢いよくぐるぐると回っていた保護枠が「キキィーッ」と音を発しながらゆっくりと動きを止めた。
「さぁ怖がらないで、その大きな玉に触れてみて」
魔法使いの指示に従い、躊躇いながらも手を近づけた。
手が触れた瞬間、球体は眩いばかりの強い光を発した。
見ていられなくて、咄嗟に目を庇うように腕を目の前に出したが、それでも庇いきれず思わず目を瞑った。
しかしそれも一瞬で、すぐに目を開けるともう球体は先ほどと何ら変わらず、緩やかに自転していた。
ただ、1つだけ変化していることがあった。
球体内部の中央。何かが浮いているのが見える。
人だ、中に人がいる。
どこかで見たことのある人。
それは目を瞑った若い男の人だった。
銀色の髪は肩に着くぐらいの長さで切りそろえられていて、目を閉じていても端正な顔立ちをしているのがわかる。
着ている服は黒を基調としたもので、ところどころアクセントなのか赤い差し色が入っている。
服装から男の人だとわかったが、その中性的な顔は女の人だと言われても納得してしまうほどだった。
その人の胸の前のあたりに何かが浮かび上がっている。
目を凝らしてみると、どうやら文字のようだ。
(リヴェリオ・ヴァン・オルフェリウス……)
心の中で読み上げた瞬間に頭の中で思い出すようにある事実が囁いた。
(これ、私の名前だ…)
そして中にいる人物が誰なのか理解した。
あれは私だ。今の私になる前の、前世の私。
ぼんやりとした頭の中で、何かを思い出しそうになる。
そう、私は昔この姿で……。
「な、なぜ彼の悪逆皇帝が…!」
下からの狼狽えた声に、ハッと我に返った。
反射的にそちらを向く。
魔法使いは恐ろしい怪物でも見たかのようにわなわなと体を振るわせていた。
「転生することができる魂は、主によって清廉なものだと判断された者だけのはず!それなのになぜっ」
その魔法使いは信じられないと言いたげに誰にでもなく訴えていた。
その様子から、なんとなく私の前世が善人ではなかったことがわかる。
しかし、彼が動揺していたのもほんの少しの間だけだった。思い出したかのように、胸に手を当て落ちつきを取り戻すと
先ほどと同じように開いた手を伸ばし、魔法を発動させた。
彼の胸の前にあった名前がヒラリと舞うように私へ近づいた。と思うと、今度は私の胸の前で反転した状態で静止した。
それが止まっていたのも束の間、胸が文字に吸い寄せられるように引っ張られた。
その力に抗うことができず、私の足は階段を離れ、宙に浮いていた。
文字に近づくにつれ、私の胸が少しずつ光はじめる。
それは徐々に強さを増し、文字に触れるか触れないかぐらいの距離になると眩いばかりの光を発していた。
文字が胸に触れた瞬間、胸が強く光る。
吸い込まれるように文字はその光の中へ消えていった。
全ての文字が吸い寄せられ、消えると胸の光も無くなり、力を失ったようにふんわりと階段へ降ろされた。
(あ、熱いっ)
胸が焦げるように熱い。
我慢ができず胸で結んでいたリボンをほどき、ブラウスのボタンを開け中を確認した。
するとそこには薄赤色の名前が刻まれていた。
先ほどまであった前世の名前が。
ハッとして球体の中をみると、先ほどまでそこにいた前世の私は跡形もなく消えていた。
「さぁ、儀式は終わったよ。こちらに降りてきて」
明るく告げる彼の指示通りに下に降る。
「お疲れ様」
階段を降り切ると、魔法使いはねぎらい声を掛けた。
その優し気な声とは裏腹に、差し出された手はわずかに震えていた。
恐らく、私に怯えているのだろう。
正しくは私の前世に。
彼がここまで怯える私の前世に、私は恐怖を覚えた。
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