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第3章
62.思わぬ接点
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50音順に忠実に並べられた書物の背を一つ一つ確かめながら探していく。
う~ん、これもないわね。これで3つ目だけれど、そう易々と見つからないみたい。
というよりか、やはりここの図書館は庶民が読むような俗物的なものよりも貴族が参考にするようなものばかりが置いてある。
恋愛というジャンルでもそれは例外ではないらしく、題名から察するにどこかの元令嬢が書いたエッセイのようなものばかりだ。
『伯爵夫人の華麗なる人生』とか、まさにそれじゃない?
でもここの本棚にあるってことは、恋愛要素が強いってこと……よね。
どこの馬の骨ともしれない夫人の恋愛話なんて誰が興味持つのかしら。そう思うとちょっと中身に興味が……って、いけないいけない! さっきミリアに忠告されたばかりなのに!
頭をぶんぶんと激しくふり、本来の目的へ戻るため頭を空っぽにする。こうやってすぐ思考が寄り道するから、ミリアに呆れられてしまうのよ。
ええっと、次は……『彼は素敵な王子殿下』ですか。
反吐が出そうな題名だけど、これはあるかなぁ。
指を滑らせながらタイトルを探す。
どうせこれもないだろうと高をくくりながら探していたら……あった! やっと1つ見つけた!
その興奮が抑えきれず、思わずパッと手を伸ばした。
すると、私の手と同様にその本を手に取ろうと横から伸びてきた手があった。
丁度その本の前でその手とぶつかり、その瞬間パッと手を引っ込めた。
……びっくりした。
本に夢中で近くに人がいるのに気づかなかった。
「ご、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません」
顔も見ずに頭を下げると、聞き覚えのある声が上から降ってきた。
はて、どこで聞いた声だっけ?
確かめるべく顔を上げるとそこには……。
「メ、メドビン嬢⁈」
「へっ! あっ、ベルフェリト様⁈」
驚いた。まさかこんなところでメドビン嬢に会うとは。
それはあちらさんも同じようで、私と同じように、いや、それ以上に驚いている。
それもそのはず。
私は公爵令嬢だし、今手に取ろうとした本なんて庶民が読むようなもので上位貴族の令嬢が読むようなものではない。
きっと彼女は相当戸惑っているはずだ。
ど、どうしよう。なんて声を掛ければいいのか……。
「あ、あの。ベルフェリト様はこういう小説、お好きなんですか?」
私が考えていると、彼女が先に話を切り出してくれた。
その瞳にわずかながら煌めくものを感じ、少し身じろぎする。
この目、良く知っているわよ。
しかし、ここで誤魔化しても無駄だろう。
「え、ええ。実はそうなの……」
「やっぱり! そうだったのですね!」
なんと眩しく可愛らしい笑顔だろう。
そんな私の一言でこんなに笑顔になってくれるとは嬉しいよ、嬉しいけど……。
嫌な予感しかしないのよね。
「貴族令嬢の方々はこんな俗物的なものなど読まないと思っていましたので……。まさか、あのベルフェリト様がお読みになっていらっしゃるとは。とても嬉しいです!」
「で、でも私もあまり詳しくはないのよ。ナタリー嬢が進めてくれたから読んでいるのだし。読み始めたのも最近なの」
「まぁ! ビスティーユ様も!」
更にキラキラとした目をし出した彼女が眩しくてもはや直視できない。
本当に嬉しそうにしている彼女に、私の企みを考えると罪悪感がチクリと胸を指す。
そんな彼女に目を背け本棚の方に向き直ると、先ほど手に取ろうとして阻まれた小説を本棚から抜き出した。
「はい」
「え?」
差し出された本を見て固まる彼女。
「これが読みたかったのではないの?」
「へ! え、ええと……」
「?」
歯切れの悪い彼女の反応に若干心配になる。
上位の貴族が下位の貴族に優しくするの、もしかして慣れてないのかしら?
それじゃあ、悪い事してしまったかも。
「私、このシリーズが好きなのです。だから学院の図書館に置いてあるのが嬉しくて、つい手を伸ばしただけで……。どうぞ、ベルフェリト様がお読みになってください」
「あら、そうだったの」
どうやら私の杞憂は的外れだったようで、下を向き恥ずかしそうに告白する彼女に安心する。
また変に気を使われるのは申し訳ないからよかったわ。
「あの、それで……。もしよろしければ読み終わった後、感想をお聞かせ願えませんか? できれば、ビスティーユ様も一緒に!」
どうやら同士を見つけて興奮しているのか、両手を胸の前でグーにして握りしめながら前のめりにお願いしてくる。
ああ、やっぱり。彼女もナタリーと同類みたいね。
しかし、これはメドビン嬢と仲良くなるチャンス。
彼女との関わりを増やすことができれば自然とヴァリタスとくっつける機会を持てる可能性が高くなるではないか。
まさか、こんなところで婚約破棄計画が前進してくれるとは。
「ええ、大丈夫よ。ナタリー嬢にも伝えておくわ」
「あ、ありがとうございます!!」
今日一番の笑顔がここで飛び出し、本当に嬉しがってくれているのがこちらまで伝わる。
いや、やめて。私の良心がどんどん傷つけられていくから、もうやめてぇ!
う~ん、これもないわね。これで3つ目だけれど、そう易々と見つからないみたい。
というよりか、やはりここの図書館は庶民が読むような俗物的なものよりも貴族が参考にするようなものばかりが置いてある。
恋愛というジャンルでもそれは例外ではないらしく、題名から察するにどこかの元令嬢が書いたエッセイのようなものばかりだ。
『伯爵夫人の華麗なる人生』とか、まさにそれじゃない?
でもここの本棚にあるってことは、恋愛要素が強いってこと……よね。
どこの馬の骨ともしれない夫人の恋愛話なんて誰が興味持つのかしら。そう思うとちょっと中身に興味が……って、いけないいけない! さっきミリアに忠告されたばかりなのに!
頭をぶんぶんと激しくふり、本来の目的へ戻るため頭を空っぽにする。こうやってすぐ思考が寄り道するから、ミリアに呆れられてしまうのよ。
ええっと、次は……『彼は素敵な王子殿下』ですか。
反吐が出そうな題名だけど、これはあるかなぁ。
指を滑らせながらタイトルを探す。
どうせこれもないだろうと高をくくりながら探していたら……あった! やっと1つ見つけた!
その興奮が抑えきれず、思わずパッと手を伸ばした。
すると、私の手と同様にその本を手に取ろうと横から伸びてきた手があった。
丁度その本の前でその手とぶつかり、その瞬間パッと手を引っ込めた。
……びっくりした。
本に夢中で近くに人がいるのに気づかなかった。
「ご、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません」
顔も見ずに頭を下げると、聞き覚えのある声が上から降ってきた。
はて、どこで聞いた声だっけ?
確かめるべく顔を上げるとそこには……。
「メ、メドビン嬢⁈」
「へっ! あっ、ベルフェリト様⁈」
驚いた。まさかこんなところでメドビン嬢に会うとは。
それはあちらさんも同じようで、私と同じように、いや、それ以上に驚いている。
それもそのはず。
私は公爵令嬢だし、今手に取ろうとした本なんて庶民が読むようなもので上位貴族の令嬢が読むようなものではない。
きっと彼女は相当戸惑っているはずだ。
ど、どうしよう。なんて声を掛ければいいのか……。
「あ、あの。ベルフェリト様はこういう小説、お好きなんですか?」
私が考えていると、彼女が先に話を切り出してくれた。
その瞳にわずかながら煌めくものを感じ、少し身じろぎする。
この目、良く知っているわよ。
しかし、ここで誤魔化しても無駄だろう。
「え、ええ。実はそうなの……」
「やっぱり! そうだったのですね!」
なんと眩しく可愛らしい笑顔だろう。
そんな私の一言でこんなに笑顔になってくれるとは嬉しいよ、嬉しいけど……。
嫌な予感しかしないのよね。
「貴族令嬢の方々はこんな俗物的なものなど読まないと思っていましたので……。まさか、あのベルフェリト様がお読みになっていらっしゃるとは。とても嬉しいです!」
「で、でも私もあまり詳しくはないのよ。ナタリー嬢が進めてくれたから読んでいるのだし。読み始めたのも最近なの」
「まぁ! ビスティーユ様も!」
更にキラキラとした目をし出した彼女が眩しくてもはや直視できない。
本当に嬉しそうにしている彼女に、私の企みを考えると罪悪感がチクリと胸を指す。
そんな彼女に目を背け本棚の方に向き直ると、先ほど手に取ろうとして阻まれた小説を本棚から抜き出した。
「はい」
「え?」
差し出された本を見て固まる彼女。
「これが読みたかったのではないの?」
「へ! え、ええと……」
「?」
歯切れの悪い彼女の反応に若干心配になる。
上位の貴族が下位の貴族に優しくするの、もしかして慣れてないのかしら?
それじゃあ、悪い事してしまったかも。
「私、このシリーズが好きなのです。だから学院の図書館に置いてあるのが嬉しくて、つい手を伸ばしただけで……。どうぞ、ベルフェリト様がお読みになってください」
「あら、そうだったの」
どうやら私の杞憂は的外れだったようで、下を向き恥ずかしそうに告白する彼女に安心する。
また変に気を使われるのは申し訳ないからよかったわ。
「あの、それで……。もしよろしければ読み終わった後、感想をお聞かせ願えませんか? できれば、ビスティーユ様も一緒に!」
どうやら同士を見つけて興奮しているのか、両手を胸の前でグーにして握りしめながら前のめりにお願いしてくる。
ああ、やっぱり。彼女もナタリーと同類みたいね。
しかし、これはメドビン嬢と仲良くなるチャンス。
彼女との関わりを増やすことができれば自然とヴァリタスとくっつける機会を持てる可能性が高くなるではないか。
まさか、こんなところで婚約破棄計画が前進してくれるとは。
「ええ、大丈夫よ。ナタリー嬢にも伝えておくわ」
「あ、ありがとうございます!!」
今日一番の笑顔がここで飛び出し、本当に嬉しがってくれているのがこちらまで伝わる。
いや、やめて。私の良心がどんどん傷つけられていくから、もうやめてぇ!
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