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第3章
100.市井見学会⑪
ドキリとした。
今私の考えていたことが読まれてしまっていたような問いかけだった。
この人、きっと普通の人じゃない。
それは怪しいとか可笑しな人とかそういう意味ではなく。
この世界の真理に触れた、相当力のある人のような威厳を感じた。
私の問いかけに一度は疑問を投げかけ、覚悟を試した彼だったが首を横に振ると今度は下を向いて俯いた。
「やはり、伝えることはできないよ。次に貴方がまた利用されてしまえば、今度は確実にこの国は終わってしまう」
利用される……?
どうして私のことを私が知ったら利用されるなんてことになるのだろう。
それにこの国が終わるなんて。
私にはそんな力もなにもない。
先ほどから私に対しての言葉のはずなのに、まるで違う誰かに話しているようにも聞こえた。
「しかし、口走ってしまったのは私だ。だから、お詫びに1つだけ教えてあげるよ。貴方は昔、この世界と契約したんだ。とても、とても貴い誓いを」
「貴い、誓い……?」
やはり何が何だかさっぱりわからない。
しかし、彼が私の前世について言っているのではないかということだけは何となくわかった。
だが、私には彼の言葉に該当するような記憶など持ち合わせていない。
世界との誓い……?
そんな大それたことを私の前世はしたの?
しかし世界との契約なんてなんだか壮大な話で現実味のない話だ。
そんなおとぎ話のようなこと、本当にしていたのかも怪しい。
それとも、これもまだ思い出していない記憶の中に眠っていること?
確かにそれなら納得がいくけど……。
でもそんな大事なこと、忘れたままになっているかしら。
わからない。
だって私、思い出していることが少なすぎるんだもの。
でもやっぱり彼の言うことを真に受けるよりも、彼が私を揶揄うために言っている法螺話かなにかなのだと言われたほうがよっぽど納得がいく話だ。
うん、なんかそんなような気がしてきた。
「さて、これ以上は話すことはできないよ。さぁお行き、貴い人。あなたはもう、思い出すべきではない」
そういうと、手の甲をこちらに向けひらひらと振った。
まるで早くここからいなくなれと言われているみたいだった。
ただ彼の独り言か法螺話を聞かされただけなのに、こんな扱いをされたことに少しだけムッとした。
しかしそれを表に出すわけにもいかず、彼の目の前から離れようと数歩歩きだしたときだった。
「これ以上悲しみを知る前に、全てを仕舞ってしまいなさい。あなたの仕合せのために」
え?
どうして。
背中ごしに聞こえたその言葉は、私にとってはまるで警告のようだった。
確かに私は前世の事を思い出すたびに悲しい思いをしてる。
家族との思い出ならば、まだ平気だった。
生きているうちに失った家族の思い出はなんだか寂しさを帯びた感情を想起させるものだったけれど、それでも幸せな気持ちを私に与えてくれるものだった。
酷いのは貴族たちと会話をしたときなどだった。
私が主張したものは彼らの大きな声で掻き消され、一度も受け入れられたことなどなかった。
それでも大事な臣民なのだとそう言い聞かせて彼らの意見に耳を傾けた。
しかしそれだって間違っていると思ったものはちゃんと否決していたはずなのに。
それさえも、私の意見が通ることはなかった。
そんなことを思い出すと必ず、私の心は無力感と悲痛な思いに囚われてしまっていた。
思えばそんなことばかり私は思い出している。
でも、なぜそれを暗示させるようなことをこの人が。
やっぱりこの人は適当に言っているわけではないのかもしれない。
確信があるようなことは何もされていない。
けれど本能がそう感じ取っていた。
しかし、しあわせ。
しあ、わせ、か。
私の運命は、本当にこれで良いのだろうか。
ヴァリタスを傷つけ、それで自分まで傷ついて。
本当は誰にも嫌われたくない。
本当は誰かと一緒に居たいし、大事にしたい、されてみたい。
誰かに、愛してほしい。
でも、それを望めば必ず私の前世を言わなければならない。
しかし私の前世を告白して受け入れてくれる人など、この国にはいない。
誰も私を受け入れられない。
だって両親がそうだったんだから。
それなら、私の望むしあわせはそんな事にしなければいい。
もっと簡単に叶えられるものの方が、きっとしあわせになれる。
そう、そのはずなの。
と、そこで今の今まで忘れていた大事なことを私は思い出した。
そう、今は前世の事などに思いを馳せている場合ではない。
くるりと老人の方へ向き直ると、おそるおそる彼に尋ねた。
「あ、あの。大通りまではどちらに行けばよいのかしら」
そう、私は一刻も早くこの危機的状況から抜け出さなければならなのだ。
私の問いかけに口を開くことはなくスッと手を挙げると真っ直ぐ伸ばしてとある方向を指した。
それは先ほど私がここに来るまでに来た道だった。
「え? でも……」
「大丈夫、振り返らず真っ直ぐ行けば着くはずだよ」
なぜだかその言葉には説得力があった。
私はペコリと頭を下げると、彼の言った通りに元来た道を歩き出した。
結局彼が何者なのかは、私が知ることはなかった。
今私の考えていたことが読まれてしまっていたような問いかけだった。
この人、きっと普通の人じゃない。
それは怪しいとか可笑しな人とかそういう意味ではなく。
この世界の真理に触れた、相当力のある人のような威厳を感じた。
私の問いかけに一度は疑問を投げかけ、覚悟を試した彼だったが首を横に振ると今度は下を向いて俯いた。
「やはり、伝えることはできないよ。次に貴方がまた利用されてしまえば、今度は確実にこの国は終わってしまう」
利用される……?
どうして私のことを私が知ったら利用されるなんてことになるのだろう。
それにこの国が終わるなんて。
私にはそんな力もなにもない。
先ほどから私に対しての言葉のはずなのに、まるで違う誰かに話しているようにも聞こえた。
「しかし、口走ってしまったのは私だ。だから、お詫びに1つだけ教えてあげるよ。貴方は昔、この世界と契約したんだ。とても、とても貴い誓いを」
「貴い、誓い……?」
やはり何が何だかさっぱりわからない。
しかし、彼が私の前世について言っているのではないかということだけは何となくわかった。
だが、私には彼の言葉に該当するような記憶など持ち合わせていない。
世界との誓い……?
そんな大それたことを私の前世はしたの?
しかし世界との契約なんてなんだか壮大な話で現実味のない話だ。
そんなおとぎ話のようなこと、本当にしていたのかも怪しい。
それとも、これもまだ思い出していない記憶の中に眠っていること?
確かにそれなら納得がいくけど……。
でもそんな大事なこと、忘れたままになっているかしら。
わからない。
だって私、思い出していることが少なすぎるんだもの。
でもやっぱり彼の言うことを真に受けるよりも、彼が私を揶揄うために言っている法螺話かなにかなのだと言われたほうがよっぽど納得がいく話だ。
うん、なんかそんなような気がしてきた。
「さて、これ以上は話すことはできないよ。さぁお行き、貴い人。あなたはもう、思い出すべきではない」
そういうと、手の甲をこちらに向けひらひらと振った。
まるで早くここからいなくなれと言われているみたいだった。
ただ彼の独り言か法螺話を聞かされただけなのに、こんな扱いをされたことに少しだけムッとした。
しかしそれを表に出すわけにもいかず、彼の目の前から離れようと数歩歩きだしたときだった。
「これ以上悲しみを知る前に、全てを仕舞ってしまいなさい。あなたの仕合せのために」
え?
どうして。
背中ごしに聞こえたその言葉は、私にとってはまるで警告のようだった。
確かに私は前世の事を思い出すたびに悲しい思いをしてる。
家族との思い出ならば、まだ平気だった。
生きているうちに失った家族の思い出はなんだか寂しさを帯びた感情を想起させるものだったけれど、それでも幸せな気持ちを私に与えてくれるものだった。
酷いのは貴族たちと会話をしたときなどだった。
私が主張したものは彼らの大きな声で掻き消され、一度も受け入れられたことなどなかった。
それでも大事な臣民なのだとそう言い聞かせて彼らの意見に耳を傾けた。
しかしそれだって間違っていると思ったものはちゃんと否決していたはずなのに。
それさえも、私の意見が通ることはなかった。
そんなことを思い出すと必ず、私の心は無力感と悲痛な思いに囚われてしまっていた。
思えばそんなことばかり私は思い出している。
でも、なぜそれを暗示させるようなことをこの人が。
やっぱりこの人は適当に言っているわけではないのかもしれない。
確信があるようなことは何もされていない。
けれど本能がそう感じ取っていた。
しかし、しあわせ。
しあ、わせ、か。
私の運命は、本当にこれで良いのだろうか。
ヴァリタスを傷つけ、それで自分まで傷ついて。
本当は誰にも嫌われたくない。
本当は誰かと一緒に居たいし、大事にしたい、されてみたい。
誰かに、愛してほしい。
でも、それを望めば必ず私の前世を言わなければならない。
しかし私の前世を告白して受け入れてくれる人など、この国にはいない。
誰も私を受け入れられない。
だって両親がそうだったんだから。
それなら、私の望むしあわせはそんな事にしなければいい。
もっと簡単に叶えられるものの方が、きっとしあわせになれる。
そう、そのはずなの。
と、そこで今の今まで忘れていた大事なことを私は思い出した。
そう、今は前世の事などに思いを馳せている場合ではない。
くるりと老人の方へ向き直ると、おそるおそる彼に尋ねた。
「あ、あの。大通りまではどちらに行けばよいのかしら」
そう、私は一刻も早くこの危機的状況から抜け出さなければならなのだ。
私の問いかけに口を開くことはなくスッと手を挙げると真っ直ぐ伸ばしてとある方向を指した。
それは先ほど私がここに来るまでに来た道だった。
「え? でも……」
「大丈夫、振り返らず真っ直ぐ行けば着くはずだよ」
なぜだかその言葉には説得力があった。
私はペコリと頭を下げると、彼の言った通りに元来た道を歩き出した。
結局彼が何者なのかは、私が知ることはなかった。
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