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第6章
312.最後の証言者
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父はそこでひと息つくと、さらに続けた。
「ヴァリタス殿下と婚約を交わしたときはまだ娘は正気でした。そのため、ヴァリタス殿下と良い関係を結べると思っていたのです。しかしそれは間違いでした。国王陛下、そしてヴァリタス殿下。私はどんな罰でも受けます。ですからどうか、この過ちをお許しください」
頭を下げ、非を認める父の姿に見物人たちは感嘆した。
元々評判の良い父の弱弱しい姿を見れば誰しも同情したくなるというものなのだろう。
私には理解できないが。
「彼の悪逆皇帝が娘として生まれてしまえば、貴殿のように隠し通そうと思うのも無理はない。それも愛おしい娘の姿であれば尚更。貴殿への罰は後程下すとしても、悪いようにはしないから安心しなさい」
国王陛下でさえ、その潔い姿に心を打たれたようで何度も頷きならが父の事を気遣った。
「尊大なお心遣い、感謝いたします!」
嬉しそうに笑顔を向ける父の姿にうんざりし、またしても俯く。
この茶番劇は一体いつまで続くのだろう。
早く楽にしてほしい。
体は一層だるさを増し、足や手首が痺れを感じ始めた。
あまり長くはもたなさそうだ。
その後、二言三言交わした後父は証言台から降りた。
そして最後の証言者を呼んだ。
そこに現れたのは先ほどまで国王陛下の傍で座っていた王女殿下、シャルロットだった。
彼女は凛とした声で返事をすると下まで降りてきて証言台へ立つ。てっきり最後はヴァリタスだと思っていたのだが、思いがけない人物の登場に顔を上げた。彼女の顔を見たとき、一瞬こちらに向けられた不気味な笑みに気分が悪くなる。
「私は他の方々と違い、ベルフェリト嬢と深く関わっているわけではありません。それでも私がこの場に立ったのは、私の大切な友人がベルフェリト嬢によって非常に恐ろしい目に遭ったからです。その名もシルビア・ベルフェリト嬢。そこに立つエスティ・ベルフェリト嬢の実の妹君です」
言葉に合わせる形でシャルロットは右手を群衆の中の一つに向けた。
思わずその場に居た多くの人々がそちらに目線を向ける。
それは私も例外ではなかっ。
視線の先にいたのは、確かに私の妹シルビアだった。彼女はいきなりこの場の中心になってしまったことに酷く狼狽している。近くに両親がいるにも関わらずただ誰にも助けを求めることもなく、あちこちに目線を飛ばした後、不安そうに私を見つめた。
「可哀そうに、彼女は今も姉に対し恐怖心を持っているようです」
まるで同情するようにシャルロットは首を振った。
確かに今の反応はシルビアが私を恐れていると言われても違和感はないものだ。
「シルビア嬢は妹という事でベルフェリト嬢から散々嫌がらせを受けていました。学院の寮に入ったことでそれは免れていたのですが、それに痺れを切らしたのかもしれません。夏休みが終わってもシルビア嬢を解放しなくなってしまったのです。私は心配になって彼女の邸宅を何度も訪れました。はじめはベルフェリト嬢を恐れて心を開いてくれなかったのですが、何度目かのうちに意を決して私に打ち明けてくれたのです。ベルフェリト嬢が前世の記憶に飲み込まれ自分をいじめているのだと。そして、前世の正体があの悪逆皇帝なのだという事を」
その瞬間、なぜ彼女が私の前世を知っていたのかを理解した。
思わずシルビアの方を勢いよく見つめてしまう。
「ち、違います。違うのです、お姉さま!」
シルビアは酷く狼狽し、いつもは出す事のないような大声を無理やり張って弁明を測る。
だがそれも無意味だと理解したのだろう。
ついには泣き出してしまった。
その姿はまさしく、私に酷く恐怖しているかのように。
両親はこの機に乗じてシルビアの肩を抱き慰めている。
見せつけるかのような2人の仕草に、嫌悪感が強まった。
シルビアを利用していることも相まっているのだろう。
だが、そんな感情を募らせたところでどうしようもない。
私は上を向くと、ただぼうっと頭上のシャンデリアを見つめた。
ここには何もない。
私の目に映してよいものなど、何も。
何もないのだ。
「ヴァリタス殿下と婚約を交わしたときはまだ娘は正気でした。そのため、ヴァリタス殿下と良い関係を結べると思っていたのです。しかしそれは間違いでした。国王陛下、そしてヴァリタス殿下。私はどんな罰でも受けます。ですからどうか、この過ちをお許しください」
頭を下げ、非を認める父の姿に見物人たちは感嘆した。
元々評判の良い父の弱弱しい姿を見れば誰しも同情したくなるというものなのだろう。
私には理解できないが。
「彼の悪逆皇帝が娘として生まれてしまえば、貴殿のように隠し通そうと思うのも無理はない。それも愛おしい娘の姿であれば尚更。貴殿への罰は後程下すとしても、悪いようにはしないから安心しなさい」
国王陛下でさえ、その潔い姿に心を打たれたようで何度も頷きならが父の事を気遣った。
「尊大なお心遣い、感謝いたします!」
嬉しそうに笑顔を向ける父の姿にうんざりし、またしても俯く。
この茶番劇は一体いつまで続くのだろう。
早く楽にしてほしい。
体は一層だるさを増し、足や手首が痺れを感じ始めた。
あまり長くはもたなさそうだ。
その後、二言三言交わした後父は証言台から降りた。
そして最後の証言者を呼んだ。
そこに現れたのは先ほどまで国王陛下の傍で座っていた王女殿下、シャルロットだった。
彼女は凛とした声で返事をすると下まで降りてきて証言台へ立つ。てっきり最後はヴァリタスだと思っていたのだが、思いがけない人物の登場に顔を上げた。彼女の顔を見たとき、一瞬こちらに向けられた不気味な笑みに気分が悪くなる。
「私は他の方々と違い、ベルフェリト嬢と深く関わっているわけではありません。それでも私がこの場に立ったのは、私の大切な友人がベルフェリト嬢によって非常に恐ろしい目に遭ったからです。その名もシルビア・ベルフェリト嬢。そこに立つエスティ・ベルフェリト嬢の実の妹君です」
言葉に合わせる形でシャルロットは右手を群衆の中の一つに向けた。
思わずその場に居た多くの人々がそちらに目線を向ける。
それは私も例外ではなかっ。
視線の先にいたのは、確かに私の妹シルビアだった。彼女はいきなりこの場の中心になってしまったことに酷く狼狽している。近くに両親がいるにも関わらずただ誰にも助けを求めることもなく、あちこちに目線を飛ばした後、不安そうに私を見つめた。
「可哀そうに、彼女は今も姉に対し恐怖心を持っているようです」
まるで同情するようにシャルロットは首を振った。
確かに今の反応はシルビアが私を恐れていると言われても違和感はないものだ。
「シルビア嬢は妹という事でベルフェリト嬢から散々嫌がらせを受けていました。学院の寮に入ったことでそれは免れていたのですが、それに痺れを切らしたのかもしれません。夏休みが終わってもシルビア嬢を解放しなくなってしまったのです。私は心配になって彼女の邸宅を何度も訪れました。はじめはベルフェリト嬢を恐れて心を開いてくれなかったのですが、何度目かのうちに意を決して私に打ち明けてくれたのです。ベルフェリト嬢が前世の記憶に飲み込まれ自分をいじめているのだと。そして、前世の正体があの悪逆皇帝なのだという事を」
その瞬間、なぜ彼女が私の前世を知っていたのかを理解した。
思わずシルビアの方を勢いよく見つめてしまう。
「ち、違います。違うのです、お姉さま!」
シルビアは酷く狼狽し、いつもは出す事のないような大声を無理やり張って弁明を測る。
だがそれも無意味だと理解したのだろう。
ついには泣き出してしまった。
その姿はまさしく、私に酷く恐怖しているかのように。
両親はこの機に乗じてシルビアの肩を抱き慰めている。
見せつけるかのような2人の仕草に、嫌悪感が強まった。
シルビアを利用していることも相まっているのだろう。
だが、そんな感情を募らせたところでどうしようもない。
私は上を向くと、ただぼうっと頭上のシャンデリアを見つめた。
ここには何もない。
私の目に映してよいものなど、何も。
何もないのだ。
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