147 / 203
2章 幼少期編 II
29.建設現場見学ツアー3
しおりを挟む建設現場から少し離れた場所に、仮設事務所として使用している天幕がある。
現場監督の案内でそこに招かれるも、まずは安全確認の騎士が先に入る。しかし確認を終えた騎士は、首を振りながら凄く渋そうな顔をして出てきた。なぜ?
「臭いんだろ? な? 自前の天幕は必要だったろ? 賭けは俺の勝ちだな」
ルエ団長がシブメンの肩に手をかけて嬉しそうにウハハ~と笑った。
口を開かなければ詩人と言われても納得できるほどの美形なのに、勿体ない。
「賭け事はヨーン男爵夫人に禁じられているのではなかったか?」
「堅いことは親父が…「父だ」…父が嫌いでなぁ」
ホント、仲いいな。
「では天幕を張るとしよう」
アルベール兄さまがアルベII号に足を向けた。
「いや、我らだけでやるから建設作業を優先させてくれ」
作業員に手伝わせようとした現場監督を止めて、アルベール兄さま自ら動き始めた。
もう、うちの王子さまって、もう……好き~。
◇…………………………
遠征慣れした騎士にはわかる"現場あるある"情報によると、所有がはっきりしていないテントは、まず洗われることはないのだそうだ。
『臭い天幕で昼食は取りたくない』と言うルエ団長によって持ち込まれたあれこれは、アルベII号くんの上にこんもり載せられて格好悪いことになっていた。
私が乗り込んだ後に何か積まれているなぁと思ていたけど、天幕セットだったのですね。
◇…………………………
ふむふむ、興味深い。
何の打ち合わせもせずに、天幕張りを手伝う人と、手伝わない人がはっきりと分かれた。
まず、シブメンが私とベール兄さまを下がらせて、自分もその横に並んだ(手伝う気ナッシング)
侍女はその両端に。手伝わないメンバーを護る騎士が前後に各1人。
アルベール兄さまは馬車上の荷を解くために上り、受取り役に待機しているのが現場監督と、従者二人と、ルエ団長だ。
手伝わない組を護る二人を除いた近衛騎士たち全員は、アルベール兄さまを囲んで護っている。
次の王様ですからね。他の弟妹と価値が違うのですよ。そういうものなのです。
なのに何故、怪我をしそうな馬車の上に行かせたのかと言うと、今の王さまがそういう人だからです。アルベール兄さまは間違いなくお父さまの子です。誰も疑ってないけど。
それと護衛騎士たちが手伝わないのは護衛に集中しているから。手伝うことで隙を作ってはいけませんからね。
「ゼルドラ魔導士長は、ルエ団長との賭けに負けたのですよね。何を賭けたのですか?」
「あれが勝手に言っているだけです。気にかけてはいけませんぞ」
口をへの字に曲げるシブメンの言葉に、ベール兄さまは頷いた。
「ルエ団長の賭けに乗ってくるやつは誰もいないぞ。勝っても負けても自分の払いで呑みに連れて行くんだ。酒場が好きなんだよ」
じゃぁ、シブメンはルエ団長の奢りで今夜呑みに行くんだ。
「たまには付き合ってやりませんとな」
ちょっと笑ってる。シブメンも楽しみにしているようですね。
………続く
140
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!
水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。
ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。
しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。
★ファンタジー小説大賞エントリー中です。
※完結しました!
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜
あいみ
ファンタジー
亡き祖母との約束を守るため、月影優里は誰にでも平等で優しかった。
困っている人がいればすぐに駆け付ける。
人が良すぎると周りからはよく怒られていた。
「人に優しくすれば自分も相手も、優しい気持ちになるでしょ?」
それは口癖。
最初こそ約束を守るためだったが、いつしか誰かのために何かをすることが大好きになっていく。
偽善でいい。他人にどう思われようと、ひ弱で非力な自分が手を差し出すことで一人でも多くの人が救われるのなら。
両親を亡くして邪魔者扱いされながらも親戚中をタライ回しに合っていた自分を、住みなれた田舎から出てきて引き取り育ててくれた祖父祖母のように。
優しく手を差し伸べられる存在になりたい。
変わらない生き方をして二十六歳を迎えた誕生日。
目の前で車に撥ねられそうな子供を庇い優はこの世を去った。
そのはずだった。
不思議なことに目が覚めると、埃まみれの床に倒れる幼女に転生していて……?
人や魔物。みんなに愛される幼女ライフが今、幕を開ける。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる