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2章 幼少期編 II
43.花音サロン
しおりを挟むお姫さまのリボンは今日も注目を集めている。
「シルクという布ですよ」
聞かれて答えるセリフに真新しいものはない。
「タ~ン、タタ~ン♪」
サテンシルクの宣伝をしつつ、今、一番ハマっている遊び……じゃなくて、頑張っているのは「媒体」の訓練である。
「タタタ、タ~ン♪」
お花畑に往くために、積極的に音楽堂へ通っております。
前世で好きだった曲を演奏してもらってトリップするのです。
……けど、歌っても音が外れ、ペイアーノで弾いても再現できず……うろ覚えのような、サビの部分をなんとな~くしか思い出せないような……自分で自分にイラッときてたら、マガルタル楽士たちが代わるがわる質問を投げかけてきた。
どんな音?…『フォ~、ジャ~、ピャッピャ~』
───楽器を探してくれた。新しい楽器も作ってくれた。
音の速さは?…『トトト~、トゥル~トン、トト~』
───ステップで表現した。
音の重さは?…『フワ~、トァ~、タッタ~、ズズ~ン』
───ジェスチャーで表現。
どんな気持ち?…『キュゥゥ~ン、ふわぁぁぁ、しゅぅぅ~ん』
───喜怒哀楽……表情で表現。
印象や物語は?…『嬉し恥ずかし恋する乙女、愛は難しい、正義のために戦う、謎の足音……』
───コミカル、シリアス、サスペンス、アクション、ホラー……ジャンル分けをした。
リズムを口ずさみながらダンスを踊り続けた。
『木の葉が舞うぅ~♪…ここで盛り上がって~…ふたりは出会ぁうぅ~♪』
どんどん形が出来ていく。
一緒に遊んで(もう遊びでいいです)くれる楽師たちが思い思いに作曲し、波に乗ると二重奏、三重奏になり、いつの間にやら音楽堂の練習室は─シュシューア姫のメンタル向上集会─『花音サロン』と呼ばれるようになった。
花音の「音」はまさしく音楽のことで、「花」は私が媒体と繋がると花の香りが漂ってくることからそう名付けられた。
私のお花畑は実在する場所なのか、不思議なからくりの幻香なのか……次回、その真相が明らかに!…なりませ~ん。
『花音サロン』………………………
シュシューア姫が練習室にいる時間を単にそう呼ぶ。
【開催日】不定期
【時 間】4の鐘前後(午後3時ごろ)
【特 典】チギラ料理人のおやつ
【参加資格】楽士/シュシューア姫のお気に入り/創作に興味がある城人(身分証明書要持参)
メリット:完成曲を聴くことが出来る。自作のプレゼンが出来る。
デメリット:延々と子供の踊りを見せられる。
…………………………………………
サロンには未来のポップアーティストが集結しておりますよ。
宮廷楽士としては邪道気味のドラマーも確保しました。
うきうきうき。
チギラ料理人のスペシャルスイーツを食べながら、素敵な音楽を聴く幸せ時間。
聴くだけじゃなくて、私もペイアーノの片手打法で参加させてもくれる。
大好きなウィンドチャイムのシャラララ~ン。マラカスでシャカシャカ。作ってもらったカスタネットでフラメンコもどきを踊ってオーレィ! 楽しい、楽しい、楽しぃ~───…はい、お花畑に到着ぅ~♪
音で楽しんでいますからね。得られる媒体情報もほとんどが音楽関係です。
藁紙に山ほど印刷しておいた五線譜の減りが早いこと。
昔の転生者が残した未完の楽譜も埋まっていって、楽士たちが狂喜乱舞しておりました。
新譜の他に新しい楽器の絵図も多かった。
この音楽堂にある楽器は、昔の転生者が伝えたものも含めて、数え切れないほどの種類がある。
だいたい私の知っているものは揃っているかと思っていたけど、媒体からあふれてくる謎の楽器はまだまだ切れそうもない。
どこまで増えていくのかと首をかしげる私を見て、楽器の種類は無限にあるのだと楽師たちは笑っていた。そうですね、音が出れば何でも楽器になるものね。
そんな中にあった、ここ一番のデラックス楽器は「手回しオルガン」と「アコーディオン」である。
パリの街頭演奏の雰囲気を楽しめる超お勧め楽器なのです。
もうひとつ、ハーモニカもあった。これも是非作ってもらわねば。ノスタルジック~♪
(……あ、これは違う)
ラッパみたいな物が付いているこれは、え~と、たぶん……蓄音機?
録音できるみたいだけど再生は? レコード盤の絵図もあるけど、両方できるのかな? 説明文もまたカタカナだよ……西大陸語で『音を記録する機械』と補足しておいた。こういうのはアルベール兄さまに渡して終了です……と思ったら、偉い楽士がそれを見て大騒ぎしていた。けど、やっぱりアルベール兄さまに話を持って行って、シブメンに声をかけて、研究院行きになったそうだ。いつものパターンですね。
チギラ料理人はまだかな。
小腹が空いたのだけど、4の鐘は……まだか。
(……ん?)
──誰の歌声?
(んんん……?)
──好みの声なんだけど……あ。
「マガルタル楽士! この音で『あー』をお願いします!」
シュパッとペイアーノに走って適当に鍵盤を叩く。
「あー♪」
マガルタル楽士は、私の要望に即座に答える。
よし、キーを上げてポーン。
「あー♪」
もっとキーを上げてポーン。
「あー♪」
「もう一回、今度は長く!」
ポーーーン。
「あーーー♪」
キターーーッ! クリアボイス!
「次、声の波!」
ポーーーン。
「あ~~~~♪」
ビブラートも美しーーーっ!
この声で、あの歌もこの歌も歌ってもらいたい! あぁん、何だっけ、どんな歌だっけ? えぇと、えと、え~と! あれよ、あれ! えっと、え~っとぉぉぉ…………くぅぅぅぅ。
「マガルタル楽士ーっ! 歌ってーっ!」
ガニ股で地団駄を踏む5歳児。
戸惑うマガルタル楽士。
ワッと他の楽士たちが集まった。
「王女殿下、どんな気持ちの歌ですか?」「王女殿下、楽しいのですか?」「悲しいのですか?」「青春ですか?」「対象年齢は?」「憧れですか?」「すれ違いですか?」「別れますか?」「出会いですか?」「結ばれますか?」「夢と希望は?」「危険を感じますか?」「慟哭は必要ですか?」「ぽっぷすですか?」「ろっくですか?」「ばらーどですか?」「じゃずですか?」「───……
──… Yes! 全部作りましょう!
そうこうしているうちに、媒体情報の傾向は、音楽のジャンルによっても左右されることが分かった。
要は私の中でイメージが固まると、その系統の情報先に繋がりやすくなるということだ。
……うん、それは何となくわかってた。
それが音楽で操作できるとは、音楽の威力って凄いね。
「でも……もの足りない」
エレキギターが欲しい。
キュイーーーン、ギュワーーーンが欲しい。
エレキギター…エレキ……電気……
ふふん、発電には成功している。海水を電気分解する目的で研究院に依頼して成功しているのだ。
スピーカーは……これも磁石と金属コイルで、音を広げるコーンの素材は寒冷地の針葉樹で作った紙で……よし、いけそう!
はっ! 肝心のエレキギターの構造がわからない!
来~い、来~い、エレキギターの絵図ぅ~。
「………」
雨乞いのような踊りで粘ってみたが、欲望が入ると媒体には往けないようだ。
純粋に楽しくないとダメなのか。ふぅぅぅ~。
「王女殿下、こちらへ……」
ヌディの楚々としたお誘いは、私の身だしなみを整えるためのものだ。
そろそろチギラ料理人がおやつを持ってくる時間だし、踊りまくって汗もかいたしクールダウンしてこよう。
「用を済ませてきますので、少しの間、席を外しますね」
楽師たちの顔を流し見て、暗黙の了解で私担当になっているマガルタル楽士に声をかけておいた。
これで自動的に楽師たちも休憩時間に突入だ。
ウキウキと楽器を片付け、雑談をしながらテーブルや椅子を部屋の中央へ運び始める。
『今日の菓子は何だろう』『飲み物も楽しみだよな』『甘い菓子か』『塩菓子か』
うんうん。みんな楽しみ。私も楽しみ。
花音サロンのおやつタイムなのです。
どうでもいい設定………………
時知らせの鐘は3時間ごとになります。
1の鐘……午前6時
2の鐘……午前9時
3の鐘……正午
4の鐘……午後3時
5の鐘……午後6時
6の鐘……午後9時
7~8の鐘……鳴りません
……………………………………
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