転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

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2章 幼少期編 II

45.ゴムゴム

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きっちりご用事トイレも済ませて、ヌディと一緒に練習室に戻る。
マジーエはこの後、控室のお片付けをして私が音楽堂を出る時まで待機だ。
……とはいっても、マジーエは下働きの人たちを呼びに行くだけだけど(侍女は掃除をいたしません)


戻った練習室にはもうチギラ料理人が来ていて、手伝っている楽師たちと一緒にワイワイと楽しそうに配膳していた。

若手の楽士だけでも大体いつも10人ほどいるから、ここのおやつには凝ったものは出されない。
しかし、そこに、チギラ料理人の腕が鳴りまくるのだ。

さぁ、今日の『簡単にたくさん作れて美味しいの』は、何ですか?

ん? 明らかに鉄皿で焼いて、包丁でザクザク切ったような四角いあれは……うおーっ!

「フロランタン!」

スライス・アーモンドが乗っているアレですよ!
いきなり口の中が唾液で洪水になった! 早く食べたい! 食べなければ治まらぬぞーっ!

……………………………………
フロランタンの作り方
【クッキー生地】
①バター+砂糖+卵+小麦粉を混ぜて30分寝かせる。
②火の通りをよくするために、鉄皿に敷いてフォークでザクザク穴を開ける。
【フロランタン】
①バター+砂糖+蜂蜜+乳を、色づくまで中火にかける。
②①に炒ったスライス・アーモンドを投入してひと煮立ちさせる。

クッキー生地の上に、フロランタンを乗せて均して、窯に in !
……………………………………

少し焦げたものや、形が崩れたものは、問答無用で楽師たちの方に配られているのが笑えます。

「ごきげんよう、ゼルドラ魔導士長」

「ごきげんよう」

シブメンはチギラ料理人のおやつに必ずついてくる。だが、絶対に手伝わない。
今ものんびりとMy椅子に座って、今日のBGM係が創作した新しい曲を聞いている……だけ。

練習室の備品椅子の座り心地が悪いとか言って、わざわざ新調した肘掛け付きソファーを持ち込んでくつろいでいるのですよ、この人は。
お仕事はどうしたのですか? 宮廷魔導士はそんなに暇なのですか?

「おや、昼時と髪型が違いますな」

離宮で一緒にお昼を食べて、魔導の勉強をして……顔を合わせるのは1時間ぶりですかね。

──…しかし、目ざとい人です。

「シルクリボンの宣伝のためですよ。でも、宣伝のためにあちこち歩いていると、どうしてもリボンが崩れてきてしまうのです。なにか良い案はないですか?」

──…踊りまくったのは内緒にしておく。

実際に最近の私は活動範囲が広がって、ホップ・ステップ・ジャンプだから仕方がないのだ。


私の今のスケジュールはこうなっている。

本宮で家族と朝食。
(徒歩→)魔導棟でワーナー先生とお勉強…と、ゲームとかして遊ぶ。
(徒歩→)離宮で遊び、昼食を食べる。魔導の実技練習をシブメンとする。たまにシブメンとテラスで昼寝をする事もある。
(馬車→)音楽堂で遊び、おやつを食べる。音楽堂に来ない日は離宮で遊ぶ。
(馬車→)本宮に帰り、ルーちゃんと遊んで、家族と夕食を食べて、家族の誰かに遊んでもらって、寝る。

ふぃ~、結構ハードスケジュールではないの。

「大人しくしていれば髪もくずれないのでは?」

あ、それ言っちゃうの? 無理だとわかってて言っちゃうの?

「い・い・え(スタッカート)…わたくしの髪がツヤツヤのサラサラなので、ツルツルのシルクリボンがスルリと落ちてしまうのですぅ~っ」

唇を突き出して『貴様はお姫さまの不興を買ったのだ』を伝えた。

私の髪がツヤサラ前提でお話を進めます。よろしくて?……よろしいらしい。片眉を上げたから。

「ふむ、でしたらピンは………いえ、私に聞かれれも困りますな」

──…そうね。私もちょっとそう思ったけど、なにかこう利用できる既存の何か……シブメンだったら知っているのではと期待したのよ。



(ゴム……)



──…あら? 今、素敵ワードが聞こえなかった? どこから?



「…………ゴム?」



ゴム、ゴム、ゴム、ヘアゴムみたいな……

はっ! ヘアゴム! みたい・・・じゃなくて、まんまヘアゴムを所望いたします!


「ゴムゴムゴム~♪ ゴムですよ、シブメン! ゴム紐で髪を縛るのです! ギュッと締まるから落ちないのです。その上にリボンを巻けば……あ、でもむき出しのゴムじゃ髪が絡まっちゃうから糸と一緒に編むのですよ。織るのもありますよ(ぜんぶ日本語)」

縦糸部分を細いゴムに差し替えて、横が糸の平織りは……パンツのゴムみたいな平ゴムね。

伸ばした状態の糸ゴムを芯にして、その周りを右回りと左回りの糸で螺旋状に組んでいく……糸ゴムをもとの状態に戻せば、はい、ゴム紐の出来上がり。

(わかる、わかるぞ、編み図案とかわかるぞ!)

書くもの、書くものと手をフリフリさせると、ヌディがすぐに筆記具を用意してくれる。

ぬぅ、絵が下手だ。ここをどうにかわかりやすく……上手い単語も出てこない。日本語でいいか。これをこうして、ふむふむ、あ、フロランタンが来た。私が一番身分が高いね…「万物に感謝を!」…ばくっ、さくっ、めりっ、旨っ!……お行儀が悪かろうと、おやつをサクサク食べながら、織り図と編み図を楽譜の裏に描いていく。

くわえたフロランタンをヌディに取られたけど、無意識に取り返したらもう止められなかった。
驚愕した顔がチラッと見えたけど、おほほほ……前世知識は忘れる可能性があるので待った無しなのですよ。

ん~♪ ふんふ~ん♪ カロリークッキーを食べながら残業したのを思い出すね。うん、澄子はがんばってたね。えらい、えらい、うまい、フロランタンが旨い。

サクサクサク……
カリカリカリ……

こうなったのは初めてじゃないので、離宮メンバーはもちろん、ヌディ以外は誰も何も気にしない。
楽師たちも気にせずにおやつタイムに入っていた。

(ルベール兄さまにだけは見せられない姿ね。泣かれそう)

「のびる、ぬの、ディひも……たていとが、いとのように、ほそいゴム……よこは、せんいのいとで、おる。ダッセントこちらは……せんいのいとで、ほそいゴムを、くるんで、あむ……」

まぁたシブメンの日本語が出た。
話すだけじゃなくて文字も読めるようになってるよ。
彼の媒体には、きっと辞書機能があるのね。

「なるほど、髪結いに……」

シブメンは私を置いて思考の海に出港しまった。フロランタンを食べながら……
しかし手元のフロランタンが無くなり集中が途切れたのか、おかわりを求めてチギラ料理人を鷹揚に呼んだ。

「焦げたのしか残っていませんが、かまいませんか?」

離宮では失敗作もみんなで普通に食べているのだけど、一応チギラ料理人は聞いてあげている……のに、無反応でお皿に手を伸ばす。ありがとうは?

「これはこれで香ばしく…………ふむ、身に着けるのであれば、ガモ臭は抑えて……糸の様に細く……」

また出港しちゃった。

これもいつものことなのでチギラ料理人は小さく笑って、私のお皿にも2枚足してから楽師たちの方に戻っていった。
彼らとは気が合うようです。とっても楽しそう……あら?「この菓子に会う短い曲を作ってみる」…とか言ってBGM係がペイアーノを弾きだしましたよ。

サクサク感がでているポンポンポーン、美味しさが転がるようなポロポロポロ~ン、ひろがる甘さが感じられるスイーティなメロディ………

……いいな、これ。踊りたくなってきた……いかんいかん、私もヘアゴムの続きを書こうっと。あ、本当。焦げたのもなかなか美味しいね。もぐもぐもぐ………




………続く
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