九龍城砦の君は笑う

北東 太古

文字の大きさ
上 下
3 / 10
第二章 旅の始まり

旅は道ずれ世は情け?

しおりを挟む
「荷物は持ったか?シュエメイ」

「うん!多分忘れ物は無いはずだよ!」

「じゃあ行こうか。」

あの夜から数日後俺とシュエメイは本格的にシュエメイの師匠を探す為に、色んなものを買い足し、長期の旅に出ることに決めた。何故かシュエメイは金には余裕があり、そこら辺は困らなかった。
しかし、師匠というのが中々の曲者らしく、見つけるヒントが、生きている城にて待つ。だけらしい。城が生きているなんて意味がわからない。どうしたものか…。

「とりあえずどこを目指すの?」

「そうだなまずは…北京を目指そう。」

「北京!?ここどこだっと思ってるの!?雲南だよ!?!?」

今俺とシュエメイがいるのが、雲南省という海に隣している場所であり北京は大体ここから3000キロほど離れている。

「なんで北京なの!?何か宛があるの?」

「孤児院での知り合いが北京で新しく事業を起こしたらしい。北京なら人も多いし何か情報もあるだろう。」

「ふぅん…まぁ師匠が見つかるならなんでもいいけどさぁ…。」

「ぶつくさ言ってないで早く行くぞ」

「わぁ~待って~!北京を目指すのはいいとして、どこによって行くの?」

「まずは四川を目指そう。」

「はいはーい」

最悪の出会いから数日、すっかり年相応の対応をする様になったシュエメイは何か小動物感が増している気がする。
さて、最初に向かう四川だが、産業都市で、色々と近代的な街だ。まぁその分影もあるんだろうが…。

シュエメイと下らない話をしながら歩いていると。
いきなりみすぼらしい身なりの少女が駆け寄ってくる。

「あ、あの、お母さんが倒れてしまって、か、様子を見てくれませんか、?」

率直な感想は怪しいなと思った。
なぜこんな昼間に明らかに旅人の風貌をした俺たちに声をかけるのかも分からなかった。それほど切羽が詰まっているのかもしれないが…。

「それは大変だね…お姉さん達が力になってあげよう!ね、ハル?」

「あぁ…でも、その分北京に向かう時間が伸びてくぞ。」

「困ってる人がいたら助けるのは当然でしょ?師匠もよく助けられる人は全員助けるべきって話してたし。」

「はぁ…まぁいい案内してくれ。」

「あ、ありがとうございます!」

「私達におまかせあれ~!」

子供の先導で道を歩き出す。

「ところでシュエメイは医学の知識があるのか?そんなに自信満々ってことは。」

「?無いよ?でも師匠がツボ押したら大体治るって!」

「はぁ…。」

屈託のない笑顔を向けてくる。拳法家はこれだから嫌だ、何もかもを人だけの力で何とか出来ると思ってるこの感じが。
そんなに重病じゃないといいんだが…。
生憎俺も医学は乏しい。
まぁこの子の言ってる事が本当だったらの懸念だ。
そうしてしばらく歩いたあと一つの民家の前に辿り着いた。

「こ、ここです。」

明らかに金目の物がないような…いや、お世辞にも立派とは言えない民家だった。

「お邪魔します!」

シュエメイは意気揚々と扉を開け中に入る。
後に続こうと歩き出した時、少し子供が後ろめたそうな顔をしたのが見えた。
その直ぐにドンッという音と共にシュエメイが自分に吹っ飛んでくる。

「いてぇな…なんだよ!」

視線を前に向けると、怯えてる女と棍棒を構えた男が居た、男は薄汚い笑みを浮かべている。

「よくやったな童!これでお前の母ちゃんも助かるなぁ!」

そう言って男は棍棒を俺とシュエメイ目掛けて突いてくる。
その瞬間すごい力で横に突き飛ばされ、男の棍棒は土を抉る。

「危ないからどいてて。」

シュエメイが横に飛ばしてくれたみたいだった。
ポンポンと土煙を叩き落とし、背負っていた荷物を降ろしシュエメイは正面の男に構える。

「おぉ、嬢ちゃん見てくれだけじゃなくて、少しはやるみたいだな!」

「そう?あなたの技術が無さすぎるだけだと思うけど?」

普段とは打って変わってシュエメイの目はとても冷たく相手を見据えている。
構えは無駄がなく威圧感がある。
だけど、棍棒のリーチはとても長く。
拳法だけでは圧倒的に不利だ。

「言うねぇ嬢ちゃん、それに顔立ちもいい。物品を売っぱらった後は娼館にでも売っちまおう!」

「御託はいいから早くかかってきなよ。」

「そうかよ…!」

その瞬間男がシュエメイの腹を目掛けて強烈な突きを穿つ、シュエメイはそれを半身で躱し棍棒を掴む。

「どうした?ほら、もう一回。」

棍棒をぱっと離し、男に対し手でこいこいと挑発する。

「大人を舐めたらダメだ嬢ちゃん。娼館に売れないのは残念だがしょうがない。ぶっ倒してやるよ!」

もう一度男はシュエメイに向けて突きをする。
今度は顔に目掛けて。
シュエメイは冷静にそれを避ける、しかし男の突きは止まらない。

「どうした嬢ちゃん!!」

突きを避け続けられた苛立ちからか棍棒を横なぎにする、点ではなく面の攻撃だ。

「馬鹿が。」

シュエメイはそう呟き蹴りでいなすと、一気に間合いを詰め、無防備な男の横隔膜目掛けて掌底を打ち込む。

「破ッ!」

男の手から棍棒が落ち、蹲る。
呼吸もままならずヒューヒューと言っている。

「師匠の方が二千倍痛いし速いぞ素人が。」

そう言うとシュエメイは棒を放り投げ男の首を絞めて気絶させ紐で捕縛した。
騒ぎを聞き付けやってきた憲兵へと身柄を引き継ぎ、無事に終えた。
しおりを挟む

処理中です...