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第16話 デート!デート!デート!
しおりを挟む王宮からのお迎えの馬車は毎日我が家に訪れた。
私は、毎日、王宮に通った。
毎日・・・。
キレそう・・・。
「殿下、公爵令嬢とのデートはどうなっているのですか?毎日、毎日私と会っていてもよくないと思いますよ」
少々八つ当たり。
だって、伯爵家の娘ごときが、皇子からの呼び出しにNOと言える訳ないと分かっていて、私のコトを毎日呼び出してるでしょ?
「ルセル、公爵令嬢ともちゃんとデートしていますから、そんな心配は要りませんよ。君は本当に僕のコトをよく考えてくれて・・・」
芝居かがったウルウル眼で私を見てくる。
それに、殿下は、いつの間にか私のコトを「ルセル」って呼び捨てにし始めていた。
「でも、殿下!殿下が毎日迎えの馬車を当家に寄こして下さるので、いろいろと噂が立ち始めているのをご存じでしょ?というか、噂が立つと分かっていて、毎日馬車を寄こしていらっしゃるんでしょ?」
「フフフ、ルセル!勘も鋭いなんて、益々すばらしい人だね」
キーっ!!
どう言っても、私が嫌がるパターンで返事をしてくる。
「それよりも、今日も計画を進めましょう!ルセル」
「うううぅぅ・・・わかりました、殿下」
「フフフ、じゃ、始めよう」
私たちは、昨日の続きから村運営の計画を練り始める。
昨日までで、村を運営する為に開拓する鉱山の目星がついた。
その鉱山を有する村を父上から譲り受ける予定だ。
目星をつけた鉱山からは、魔石、鉄鉱石など数種類の鉱石が採取できる予測が立っている。これは、殿下が参加してくださった恩恵の1つ。
王宮の高位魔導士が現地を見て鉱脈を発見してくれているので、鉱石が採掘できるのは、ほぼ間違いない。
「この鉱山を開拓し始めたら、1ヶ月も掘れば何かしらの鉱石が取れだすようだよ。ずいぶん浅い所から鉱石が取れだすなんて本当に幸運だね!」
「ええ。それだけ鉱石が早く取れるのならば、いろいろな先行投資の資金源としてありがたいです。ありがとうございます、殿下」
「うん、ルセルの考える運営に使うには十分だろう」
「はい。まさか、我が領地でまだ開拓できる鉱山があるとは思ってもみませんでした。嬉しい誤算です」
「フフフ、そう言ってもらえると影の協力者としては本望だな」
殿下は、この「影の協力者」というフレーズが大のお気に入りだ。
何かにつけ、くっつけて喋ってくる。
その点はウザい事この上ない!
けれど、正直言えば、殿下が影で協力してくれることがとてもありがたかった。
特に父上に了解を得なくても使える大人がいる、という利点がものすごく大きかった。
私が考える領地運営では、他国との貿易も視野に入れているし、領地に新しい建物を建てることも計画されている。けれど、領主の娘といえば聞こえは良いが、いかんせんまだ5才の子供だ、大事な取引の契約を交わすには事欠く次第。
父上がお決めになった領法でも「15才以下の未成年が親の承諾を得ずに行った契約は、何の責も生じず全て取り消すことができる」と決まっているし、年齢的な壁だけは超えるのが難しかった。
それを、殿下の采配で難なくクリアできたのだ。
そのうえ、殿下がつけてくださった、殿下付サーバントのジェロー氏 (使える大人26才) はかなり優秀な方だった。
いかなる時も、私の意図をうまく汲んでくれた。
前世の記憶あります!のカミングアウトをしていないから、私も私の考えを説明するのに窮する場面が多かったし、上手く説明できない前世の知識交じりの話が大半だったと思うのに、ジェロー氏は根気よく耳を傾けてくれた。
ところで。
私は、殿下に結構キレていて、日々ちくちくとヤツ当たっているのだけれど、前回、私がキレた時に私の3人の側近と師匠も毎日王宮に通うのを殿下に許されている。
だって、毎日殿下に呼ばれていたら、私の勉強が全くできないじゃない?
だから、殿下が勉強する時間は私も師匠に修練を見てもらえるようにしたかった。それに、父上に「いつでも側近達と4人でいなさい」と言われていたし、毎日お迎えに来る王宮の馬車に私1人で乗り込むよりは、数人が殿下に呼ばれてる風を装えた方がまだマシかとも思ったしね。
という訳で、殿下の自室の窓から中庭を覗くと、3人と師匠が修練をしている姿が見える訳。みんなの修練を上からのぞいている時が、この王宮で心穏やかでいられる。私の安定剤がわり。しょっちゅう覗き込んでしまうw
「明日は、とうとう僕のお誕生日ですよ、ルセル」
ニコっと殿下が笑う。
この人の笑い顔は危険なサインだ。
ずっと一緒にいるからわかる。
「はい、殿下。お誕生日おめでとうございます」
「フフフ、お祝いの言葉はまだ早いですよ」
「あ、そうですね」
「ルセル、明日、僕は楽しみでしょうがないんです。こんなに楽しみな誕生日は初めてですよ!パーティーでは、料理長に言って、ルセルの好きな鴨料理も出しますからね、一緒に食べましょう」
殿下が丁寧な口調になるのも危険なサインだ。何かしら企んでいる気がする。
でも、この1ヶ月、殿下に何度も婚約者の件はお願いしているし、殿下も常に最大限の考慮を約束してくださっている。それに父上から内々で聞いた話でも、婚約者は公爵家の令嬢でほぼ内定していると言っていたし・・・。婚約者の件以外、私が殿下に対して不安に思うことは何もない。ここで変に殿下をつついて、天邪鬼だという殿下の性格を引き出してしまうより、このまま大人しく明日を迎える方が良いかもしれない。
「殿下、領地計画の続きですけど!」
私は、これ以上不安なことは考えず、意識して明るく振うことにした。
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