私馬鹿は嫌いなのです

藍雨エオ

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死にたくないけど死なないとは言っていない(適正利用)

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「能力だけで判断したら他にも候補者はおられましたが、世代という意味で私とB令嬢が選ばれてしまいました。
そしてその後にC令嬢が選ばれたのは私達に足りない部分を補う事が出来るのがC令嬢だと判断されたからです。
殿下とのC令嬢の婚約は彼女が十三歳で殿下が十四歳の頃でしたが、本来彼女もまた殿下の婚約者にはならないはずでした。
そもそも貴族ともなれば婚約は早い段階で行われます。場合によっては生まれる前に相手が決まっていることだってある。
彼女も十歳の頃には婚約を結びその方とご結婚の予定でしたが、お相手のお家で問題が起きたそうで結局破談となりました。誤解無き様に申し上げますが円満破棄であり、両家の関係は今も良好ですので変な噂を立てませんように。
十三歳になる直前に破談になった彼女の能力を買った王家から打診があり、正式に殿下の第三妃としての婚約者になった。
私は領地経営や土地の管理、そして正妃として国を安定させる為交渉事に関しては得意です。B令嬢が語学が堪能な事で外交や物品の目利き、それに国の発展に必要な交渉が得意です。私達に決定的に足りなかった物が愛嬌、不和の緩和や仲介をする衝撃材、場を和やかにする癒やし。それをC令嬢は備えていた。
だから破談になった際これ幸いと王家から打診され、彼女の方も円満とはいえ破談をしたとなれば印象が悪く次の縁談が中々決まらなくなってしまう。そんな事態を避けられ王家に入る名誉も貰えるならと受け入れました」
「では仮にA令嬢かB令嬢が先程の話の毒や事故で無くなっていた場合は、もしかしてC令嬢は婚約者になる事はなかったのですか」
「それは亡くなった次期によりますでしょうか」
「ではもし今どちらかが無くなられたらどうなりますか」
 平民でも人によっては不快に感じる己の『死』を仮定した話しを、実際に殺されかけた事のある相手に対して聞くのは流石に無礼どころの話では無い。特待生女子のように強制退場でもおかしくない。
 だが図書員男子が見逃されているのは彼が始終丁寧に接している事と、知識欲からの質問だからだ。変に正義感に煽られ暴走する事も無いだろうという信用がある。
 必要以上に突っ込んだ事を聞けば終わりだがその見極めが上手い。現にA令嬢の話の区切りまできちんと聞いた上で必要なタイミングだからと質問している。
「今私がいなくなればB令嬢が正妃になり、新しい第二妃が探されるかと思います」
「C令嬢は第三妃のままという事ですか?」
「その通りです。実際は多少違いますが正妃は国の運営、第二妃は国の発展、第三妃が国の安寧を担当しています。
幼い頃から殿下の婚約者として共に切磋琢磨してきたB令嬢でしたら国の運営も問題は無いでしょう。ですがC令嬢は後から婚約が決まったので妃教育が私達よりだいぶ遅れてしまっています。それに性格も安寧を保つにはピッタリな穏やかで優しい性格ですが、運営に必要な非情さや決断力には欠けてしまっています。
もし私がもっと幼い頃に亡くなっていれ安寧を担当のままC令嬢が正妃になっていた可能性もありますが、現状ではC令嬢が正妃になる事は難しいでしょう」
「令嬢の代わりに運営を担当出来る女性を新しく側室に迎え入れると」
「えぇ。必要な三つの要素はほぼ不動ですが、それの優先順位は歴代の王により変わります。
今代の王は世界的に見て時勢が安定していないと判断し、国があればこそだからと運営に重点を置いて婚約者候補をお選びになられました。
私とB令嬢はどちらかが死んでもどちらかが代わりになれる。皮肉ですが互いに代用品になれるので二人セットで選ばれた。片方でも残っている内に新しい予備を用意すれば問題ありませんもの」
 喋り疲れたA令嬢が水に手を伸ばし、喉を潤す。作られた暫しの沈黙の間に皆が各々の考えを巡らせる。
 騎士見習いが一つ公爵領特産のワインを手に取った。飲むのかと思えばそれ以外のワインも次々と手に取る。
「殿下とA令嬢に質問なのですが、こちらのワインは味が濃くガツンとした美味しさがあり、こちらのワインは芳醇な香りで色合いも美しい、そしてこちらのワインが甘くて飲みやすい、この三つの全ての良いとこ取りをしたワインは存在しません。
ですが仮にそんな完璧なワインがあれば我が国が世界に誇る特産となるでしょう」
 流石というか、長年の付き合いと頭の回転が成せる技だろう。皇太子は全てを言われる前に答えた。
「完璧なワインを誇ろうとも他のワインは必要だ。
完璧な女性がいようと、妃は複数人という考えは変わらない」
「まだ説明の途中でしたが答えられるとは、恐れ入りました。
ですがやはり疑問ですが何故複数人必要なのでしょうか?」
 騎士見習いの言葉に追随して図書員男子も質問を重ねる。
「先程からの説明でボクらも最悪の事態を想定してという事はわかっています。ただそれ以外にも理由はあるのですか?」
「A令嬢が言った婚約話の最初の辺りの理由だよ。妃も予備が必要なように、子供も予備が必要だからだ。そして王もな。
私の代わりはいないが、皇太子の代わりはいるんだよ」
 事も無げに言うことじゃないのに、皇太子がそれを当たり前の事実として言う。
 自分の価値を適切に理解し必要に応じて使用する。
 国民としては信用出来る国の担い手だ。だが友としては『もっと自分を大事にしろ!無様であっても生き足掻け!』と怒鳴ってやりたい。
 でもそれは出来ない。
 だってそれは王族として、王族の一員になる身として生きてきた彼等を否定する事になってしまうから。
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