32 / 50
死にたくないけど死なないとは言っていない(適正利用)
しおりを挟む
「能力だけで判断したら他にも候補者はおられましたが、世代という意味で私とB令嬢が選ばれてしまいました。
そしてその後にC令嬢が選ばれたのは私達に足りない部分を補う事が出来るのがC令嬢だと判断されたからです。
殿下とのC令嬢の婚約は彼女が十三歳で殿下が十四歳の頃でしたが、本来彼女もまた殿下の婚約者にはならないはずでした。
そもそも貴族ともなれば婚約は早い段階で行われます。場合によっては生まれる前に相手が決まっていることだってある。
彼女も十歳の頃には婚約を結びその方とご結婚の予定でしたが、お相手のお家で問題が起きたそうで結局破談となりました。誤解無き様に申し上げますが円満破棄であり、両家の関係は今も良好ですので変な噂を立てませんように。
十三歳になる直前に破談になった彼女の能力を買った王家から打診があり、正式に殿下の第三妃としての婚約者になった。
私は領地経営や土地の管理、そして正妃として国を安定させる為交渉事に関しては得意です。B令嬢が語学が堪能な事で外交や物品の目利き、それに国の発展に必要な交渉が得意です。私達に決定的に足りなかった物が愛嬌、不和の緩和や仲介をする衝撃材、場を和やかにする癒やし。それをC令嬢は備えていた。
だから破談になった際これ幸いと王家から打診され、彼女の方も円満とはいえ破談をしたとなれば印象が悪く次の縁談が中々決まらなくなってしまう。そんな事態を避けられ王家に入る名誉も貰えるならと受け入れました」
「では仮にA令嬢かB令嬢が先程の話の毒や事故で無くなっていた場合は、もしかしてC令嬢は婚約者になる事はなかったのですか」
「それは亡くなった次期によりますでしょうか」
「ではもし今どちらかが無くなられたらどうなりますか」
平民でも人によっては不快に感じる己の『死』を仮定した話しを、実際に殺されかけた事のある相手に対して聞くのは流石に無礼どころの話では無い。特待生女子のように強制退場でもおかしくない。
だが図書員男子が見逃されているのは彼が始終丁寧に接している事と、知識欲からの質問だからだ。変に正義感に煽られ暴走する事も無いだろうという信用がある。
必要以上に突っ込んだ事を聞けば終わりだがその見極めが上手い。現にA令嬢の話の区切りまできちんと聞いた上で必要なタイミングだからと質問している。
「今私がいなくなればB令嬢が正妃になり、新しい第二妃が探されるかと思います」
「C令嬢は第三妃のままという事ですか?」
「その通りです。実際は多少違いますが正妃は国の運営、第二妃は国の発展、第三妃が国の安寧を担当しています。
幼い頃から殿下の婚約者として共に切磋琢磨してきたB令嬢でしたら国の運営も問題は無いでしょう。ですがC令嬢は後から婚約が決まったので妃教育が私達よりだいぶ遅れてしまっています。それに性格も安寧を保つにはピッタリな穏やかで優しい性格ですが、運営に必要な非情さや決断力には欠けてしまっています。
もし私がもっと幼い頃に亡くなっていれ安寧を担当のままC令嬢が正妃になっていた可能性もありますが、現状ではC令嬢が正妃になる事は難しいでしょう」
「令嬢の代わりに運営を担当出来る女性を新しく側室に迎え入れると」
「えぇ。必要な三つの要素はほぼ不動ですが、それの優先順位は歴代の王により変わります。
今代の王は世界的に見て時勢が安定していないと判断し、国があればこそだからと運営に重点を置いて婚約者候補をお選びになられました。
私とB令嬢はどちらかが死んでもどちらかが代わりになれる。皮肉ですが互いに代用品になれるので二人セットで選ばれた。片方でも残っている内に新しい予備を用意すれば問題ありませんもの」
喋り疲れたA令嬢が水に手を伸ばし、喉を潤す。作られた暫しの沈黙の間に皆が各々の考えを巡らせる。
騎士見習いが一つ公爵領特産のワインを手に取った。飲むのかと思えばそれ以外のワインも次々と手に取る。
「殿下とA令嬢に質問なのですが、こちらのワインは味が濃くガツンとした美味しさがあり、こちらのワインは芳醇な香りで色合いも美しい、そしてこちらのワインが甘くて飲みやすい、この三つの全ての良いとこ取りをしたワインは存在しません。
ですが仮にそんな完璧なワインがあれば我が国が世界に誇る特産となるでしょう」
流石というか、長年の付き合いと頭の回転が成せる技だろう。皇太子は全てを言われる前に答えた。
「完璧なワインを誇ろうとも他のワインは必要だ。
完璧な女性がいようと、妃は複数人という考えは変わらない」
「まだ説明の途中でしたが答えられるとは、恐れ入りました。
ですがやはり疑問ですが何故複数人必要なのでしょうか?」
騎士見習いの言葉に追随して図書員男子も質問を重ねる。
「先程からの説明でボクらも最悪の事態を想定してという事はわかっています。ただそれ以外にも理由はあるのですか?」
「A令嬢が言った婚約話の最初の辺りの理由だよ。妃も予備が必要なように、子供も予備が必要だからだ。そして王もな。
私の代わりはいないが、皇太子の代わりはいるんだよ」
事も無げに言うことじゃないのに、皇太子がそれを当たり前の事実として言う。
自分の価値を適切に理解し必要に応じて使用する。
国民としては信用出来る国の担い手だ。だが友としては『もっと自分を大事にしろ!無様であっても生き足掻け!』と怒鳴ってやりたい。
でもそれは出来ない。
だってそれは王族として、王族の一員になる身として生きてきた彼等を否定する事になってしまうから。
そしてその後にC令嬢が選ばれたのは私達に足りない部分を補う事が出来るのがC令嬢だと判断されたからです。
殿下とのC令嬢の婚約は彼女が十三歳で殿下が十四歳の頃でしたが、本来彼女もまた殿下の婚約者にはならないはずでした。
そもそも貴族ともなれば婚約は早い段階で行われます。場合によっては生まれる前に相手が決まっていることだってある。
彼女も十歳の頃には婚約を結びその方とご結婚の予定でしたが、お相手のお家で問題が起きたそうで結局破談となりました。誤解無き様に申し上げますが円満破棄であり、両家の関係は今も良好ですので変な噂を立てませんように。
十三歳になる直前に破談になった彼女の能力を買った王家から打診があり、正式に殿下の第三妃としての婚約者になった。
私は領地経営や土地の管理、そして正妃として国を安定させる為交渉事に関しては得意です。B令嬢が語学が堪能な事で外交や物品の目利き、それに国の発展に必要な交渉が得意です。私達に決定的に足りなかった物が愛嬌、不和の緩和や仲介をする衝撃材、場を和やかにする癒やし。それをC令嬢は備えていた。
だから破談になった際これ幸いと王家から打診され、彼女の方も円満とはいえ破談をしたとなれば印象が悪く次の縁談が中々決まらなくなってしまう。そんな事態を避けられ王家に入る名誉も貰えるならと受け入れました」
「では仮にA令嬢かB令嬢が先程の話の毒や事故で無くなっていた場合は、もしかしてC令嬢は婚約者になる事はなかったのですか」
「それは亡くなった次期によりますでしょうか」
「ではもし今どちらかが無くなられたらどうなりますか」
平民でも人によっては不快に感じる己の『死』を仮定した話しを、実際に殺されかけた事のある相手に対して聞くのは流石に無礼どころの話では無い。特待生女子のように強制退場でもおかしくない。
だが図書員男子が見逃されているのは彼が始終丁寧に接している事と、知識欲からの質問だからだ。変に正義感に煽られ暴走する事も無いだろうという信用がある。
必要以上に突っ込んだ事を聞けば終わりだがその見極めが上手い。現にA令嬢の話の区切りまできちんと聞いた上で必要なタイミングだからと質問している。
「今私がいなくなればB令嬢が正妃になり、新しい第二妃が探されるかと思います」
「C令嬢は第三妃のままという事ですか?」
「その通りです。実際は多少違いますが正妃は国の運営、第二妃は国の発展、第三妃が国の安寧を担当しています。
幼い頃から殿下の婚約者として共に切磋琢磨してきたB令嬢でしたら国の運営も問題は無いでしょう。ですがC令嬢は後から婚約が決まったので妃教育が私達よりだいぶ遅れてしまっています。それに性格も安寧を保つにはピッタリな穏やかで優しい性格ですが、運営に必要な非情さや決断力には欠けてしまっています。
もし私がもっと幼い頃に亡くなっていれ安寧を担当のままC令嬢が正妃になっていた可能性もありますが、現状ではC令嬢が正妃になる事は難しいでしょう」
「令嬢の代わりに運営を担当出来る女性を新しく側室に迎え入れると」
「えぇ。必要な三つの要素はほぼ不動ですが、それの優先順位は歴代の王により変わります。
今代の王は世界的に見て時勢が安定していないと判断し、国があればこそだからと運営に重点を置いて婚約者候補をお選びになられました。
私とB令嬢はどちらかが死んでもどちらかが代わりになれる。皮肉ですが互いに代用品になれるので二人セットで選ばれた。片方でも残っている内に新しい予備を用意すれば問題ありませんもの」
喋り疲れたA令嬢が水に手を伸ばし、喉を潤す。作られた暫しの沈黙の間に皆が各々の考えを巡らせる。
騎士見習いが一つ公爵領特産のワインを手に取った。飲むのかと思えばそれ以外のワインも次々と手に取る。
「殿下とA令嬢に質問なのですが、こちらのワインは味が濃くガツンとした美味しさがあり、こちらのワインは芳醇な香りで色合いも美しい、そしてこちらのワインが甘くて飲みやすい、この三つの全ての良いとこ取りをしたワインは存在しません。
ですが仮にそんな完璧なワインがあれば我が国が世界に誇る特産となるでしょう」
流石というか、長年の付き合いと頭の回転が成せる技だろう。皇太子は全てを言われる前に答えた。
「完璧なワインを誇ろうとも他のワインは必要だ。
完璧な女性がいようと、妃は複数人という考えは変わらない」
「まだ説明の途中でしたが答えられるとは、恐れ入りました。
ですがやはり疑問ですが何故複数人必要なのでしょうか?」
騎士見習いの言葉に追随して図書員男子も質問を重ねる。
「先程からの説明でボクらも最悪の事態を想定してという事はわかっています。ただそれ以外にも理由はあるのですか?」
「A令嬢が言った婚約話の最初の辺りの理由だよ。妃も予備が必要なように、子供も予備が必要だからだ。そして王もな。
私の代わりはいないが、皇太子の代わりはいるんだよ」
事も無げに言うことじゃないのに、皇太子がそれを当たり前の事実として言う。
自分の価値を適切に理解し必要に応じて使用する。
国民としては信用出来る国の担い手だ。だが友としては『もっと自分を大事にしろ!無様であっても生き足掻け!』と怒鳴ってやりたい。
でもそれは出来ない。
だってそれは王族として、王族の一員になる身として生きてきた彼等を否定する事になってしまうから。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
恩知らずの婚約破棄とその顛末
みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。
それも、婚約披露宴の前日に。
さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという!
家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが……
好奇にさらされる彼女を助けた人は。
前後編+おまけ、執筆済みです。
【続編開始しました】
執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。
矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる