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松川紗希の混沌
私の意思が望むままに
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「じゃあ、行ってくるね。」
「うん、気を付けてね。」
さも、いつもの出勤かのように朝から家を出た私は、浩介さんとの待ち合わせの時間まで、一人でゆっくりカフェで時間を潰す。あまり外出が得意ではないので、一人でこうやってカフェに来ることも結婚してからはあまりなかったが、たまに過ごしてみると良いものである。些細なところで、結婚生活で忘れかけていた小さな喜びを感じている。いや、そこに目を向けることでギリギリ精神の均衡を保っているのかもしれない。
(今頃、梨奈さんに会いに行ってるかな……)
つい考えてしまうと、先ほどまで感じていた小さな幸せはもろくも崩れ去り、ずっしりと重たい気持ちに苛まれる。時計を見ると、そろそろ待ち合わせの時間だった。気持ちを切り替えて浩介さんが送ってくれていた場所のホテルへ向かうことにした。
先にホテルに入って待っていると、30分ほどしてから浩介さんがやってきた。
「すみません。お待たせしました。」
「いえ、大丈夫です。」
そうして、浩介さんはいつものようにノートパソコンを開き、望田家の監視カメラ映像を確認する。
「……あれ、居ないな。」
まさか、今日は会っていないのだろうか……淡い期待を抱いていると、巻き戻して確認していた浩介さんが口を開く。
「……来てはいるな。これ、多分ホテルかどこかで会おうとしてますね。多分、紗希さんが休みだから、いつ帰ってきてもいいように、警戒して外に行ってるんじゃないかと。」
「……そう、ですか……」
航自らの自制心で過ちに終止符を打ったのかと一瞬期待したが、そんなうまい話はなかった。きっと今、自制心など家に置いて梨奈さんに腰を振っているのだろう。
「……はぁ、ダメだな。……浩介さんは、梨奈さんが航と寝てるの、嫌じゃないんですか。」
不安定になった情緒で涙をこらえながらため息をついた後、浩介さんに以前から気になっていた質問を投げかけてみる。
「まあ、いい気分はしませんよもちろん。でも、紗希さんが居てくれるから、耐えられてます。」
そう言って、困ったような表情でふっと浩介さんが笑う。確かにそうかもしれないなと思った。私も、浩介さんが居なかったらとうに心が壊れていただろう。
「今日は、二人の様子見られないですね。どうします?」
そう。お互いの配偶者同士の不貞を見るために会っている私たちは、その目的がなくなった今、一緒に居る理由はなくなったはずだった。
「……せっかく、ホテルに来たわけですし、ちょっとぐらいゆっくりしたってバチは当たらないんじゃないでしょうか。」
「ははは、確かに。じゃあ、少しゆっくりしますか。……って、紗希さん。さっきから無理してるでしょう。どうしたんですか。」
いつもの航の不貞は、見えていたのでなんとか呑み込むことができたが、知らないところで会われてしまうと、完全に秘匿されてしまい、航との距離が際限なく広がっていってしまいそうなどうしようもない不安や恐れに苛まれてしまうのだ。必死に隠していたそんな不安定な心を、浩介さんが気付いて、解してくる。張りつめていた感情があふれ出し、涙がこぼれてしまった。
「……っ、すみません、こんなつもりじゃ……。」
「大丈夫ですよ。気にしませんから。心配はしますけど。」
そう言うと浩介さんは私の肩を優しく抱き、頬を伝う涙を指でそっと拭ってくれた。
「さっき言いましたけど、紗希さんが居るから何とかいつもと同じ日常を送ることができているんです。紗希さんも、もっと私を頼ってください。」
浩介さんが私の顔を覗き込み、優しく語り掛けてきた。そんなまなざしに見つめられ、つい、こくりと首を縦に振ってしまう。いい歳をした大人の女がめそめそと泣きながらうなずく様はあまり見られたものではないが、浩介さんは馬鹿にせず肩をさすってくれる。
私たちの会う目的は、最初こそ二人の情事を確認することがメインだったが、正直最近はそのあとの行為まで目的になっていたのは言うまでもない。身体がそれを覚えていた。この不安定な心を埋めることができるのは、今この瞬間において浩介さんしかいない。その存在に私は甘えてしまうことにした。
「浩介さん……抱いてください。」
「うん、気を付けてね。」
さも、いつもの出勤かのように朝から家を出た私は、浩介さんとの待ち合わせの時間まで、一人でゆっくりカフェで時間を潰す。あまり外出が得意ではないので、一人でこうやってカフェに来ることも結婚してからはあまりなかったが、たまに過ごしてみると良いものである。些細なところで、結婚生活で忘れかけていた小さな喜びを感じている。いや、そこに目を向けることでギリギリ精神の均衡を保っているのかもしれない。
(今頃、梨奈さんに会いに行ってるかな……)
つい考えてしまうと、先ほどまで感じていた小さな幸せはもろくも崩れ去り、ずっしりと重たい気持ちに苛まれる。時計を見ると、そろそろ待ち合わせの時間だった。気持ちを切り替えて浩介さんが送ってくれていた場所のホテルへ向かうことにした。
先にホテルに入って待っていると、30分ほどしてから浩介さんがやってきた。
「すみません。お待たせしました。」
「いえ、大丈夫です。」
そうして、浩介さんはいつものようにノートパソコンを開き、望田家の監視カメラ映像を確認する。
「……あれ、居ないな。」
まさか、今日は会っていないのだろうか……淡い期待を抱いていると、巻き戻して確認していた浩介さんが口を開く。
「……来てはいるな。これ、多分ホテルかどこかで会おうとしてますね。多分、紗希さんが休みだから、いつ帰ってきてもいいように、警戒して外に行ってるんじゃないかと。」
「……そう、ですか……」
航自らの自制心で過ちに終止符を打ったのかと一瞬期待したが、そんなうまい話はなかった。きっと今、自制心など家に置いて梨奈さんに腰を振っているのだろう。
「……はぁ、ダメだな。……浩介さんは、梨奈さんが航と寝てるの、嫌じゃないんですか。」
不安定になった情緒で涙をこらえながらため息をついた後、浩介さんに以前から気になっていた質問を投げかけてみる。
「まあ、いい気分はしませんよもちろん。でも、紗希さんが居てくれるから、耐えられてます。」
そう言って、困ったような表情でふっと浩介さんが笑う。確かにそうかもしれないなと思った。私も、浩介さんが居なかったらとうに心が壊れていただろう。
「今日は、二人の様子見られないですね。どうします?」
そう。お互いの配偶者同士の不貞を見るために会っている私たちは、その目的がなくなった今、一緒に居る理由はなくなったはずだった。
「……せっかく、ホテルに来たわけですし、ちょっとぐらいゆっくりしたってバチは当たらないんじゃないでしょうか。」
「ははは、確かに。じゃあ、少しゆっくりしますか。……って、紗希さん。さっきから無理してるでしょう。どうしたんですか。」
いつもの航の不貞は、見えていたのでなんとか呑み込むことができたが、知らないところで会われてしまうと、完全に秘匿されてしまい、航との距離が際限なく広がっていってしまいそうなどうしようもない不安や恐れに苛まれてしまうのだ。必死に隠していたそんな不安定な心を、浩介さんが気付いて、解してくる。張りつめていた感情があふれ出し、涙がこぼれてしまった。
「……っ、すみません、こんなつもりじゃ……。」
「大丈夫ですよ。気にしませんから。心配はしますけど。」
そう言うと浩介さんは私の肩を優しく抱き、頬を伝う涙を指でそっと拭ってくれた。
「さっき言いましたけど、紗希さんが居るから何とかいつもと同じ日常を送ることができているんです。紗希さんも、もっと私を頼ってください。」
浩介さんが私の顔を覗き込み、優しく語り掛けてきた。そんなまなざしに見つめられ、つい、こくりと首を縦に振ってしまう。いい歳をした大人の女がめそめそと泣きながらうなずく様はあまり見られたものではないが、浩介さんは馬鹿にせず肩をさすってくれる。
私たちの会う目的は、最初こそ二人の情事を確認することがメインだったが、正直最近はそのあとの行為まで目的になっていたのは言うまでもない。身体がそれを覚えていた。この不安定な心を埋めることができるのは、今この瞬間において浩介さんしかいない。その存在に私は甘えてしまうことにした。
「浩介さん……抱いてください。」
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