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第1章
アリスの誕生
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「おはよう、ローラ…」
疲れきった顔のお母さんが、これまた疲れきった私に向かって言った。
寝ていただけなのに、嫌に汗をかいている。これも、なかなかリアルすぎる夢のせいだろう。
それにしても、さっきの夢はよく覚えている。変な水の中で散々「お兄ちゃん」と叫び続けて、─いや、叫んでいたのは現実だったかな…─耳を澄ませると、お兄ちゃんからの声が少しだけ聴こえてきた…
最後に思い出した病院とは、ここのことだったのか。
「ローラったら、泣き疲れて、気づいたら寝てたんだから。」
やっぱり、私は泣いていたらしい。
「まあ、まだ小さいローラには、耐えられないのもしょうがないものね…まだゆっくり寝てた方が良いわよ。」
私はもう6歳なのに、そんなに耐えられない程の何が起こったって言うの…?
私は、未だにお父さんがすがり付いている隣のベッドを、恐る恐る覗いてみた。
─お兄ちゃんだ、お兄ちゃんが寝ている。お父さんは、なんでそんなに悲しんでるんだろう…
「お父さん、なんで泣いてるの?お父さんも泣くんだね、大人の男の人なのに。」
純粋に聞いたはずだった。少なくとも、今の私は何が起きているのかわからない。惚けたように聞こえてしまうのも、無理はなかった。
私のその口調が、余計に心に刺さってしまったらしい。お父さんは、今までにも増して泣き出した。
「お父さん…お兄ちゃんがどうしたの…?ねえ、お兄ちゃ……」
どうして気づかなかったのか、と言うよりも、どうして思い出せなかったのか、自分が不思議でならなかった。
─お兄ちゃんは、寝ているんじゃない!
悟ってしまった。いずれは知らなくてはならない事実だったけれど、全てを忘れかけていたせいで再び味わう事になってしまった、大きすぎる悲しみの襲来はさすがに応えた。
「お兄…ちゃん……」
私は、きっとまたこの事を忘れるのかな…そして、また思い出して悲しむ事になるのかな…
そう考えただけで、こんな現実で、これから何もかもやっていける気がしなかった。
─そうだった、これは夢なんだ…!覚めてしまえば、どんな悪夢だってちゃんと終わる。じゃあ、こんな酷い夢、早く覚まさせないと!
突然ほっぺたを叩き始めたり、手足をばたつかせ始めたりした私を、両親は驚いた顔で見つめた。
─全然覚めてくれない…方法が違うのかな…
他にも色々と試してみたが、何をやっても夢が覚めるような事はなかった。
─やっぱりダメ…どうしてもダメだ……それならしょうがない……強くなって、こんな悪夢にでも頑張って立ち向かってやる。
そんな考えをよぎらせた私は、かの有名なお話をふと思い出した。
そう、不思議の国のアリス。夢なのか現実なのか、本当の真相は誰にもわからない。けれど、好奇心旺盛な女の子が、迷い込んだ不思議の国で冒険するという簡単な内容なら、きっと誰でも知っている。
そんな事なら、私にだって出来る。だって、夢なら何でも出来るから。覚めてしまえば全てが終わる…何度も何度も言い聞かせたこの言葉を信じて、いつしか私は、その気になっていたのだった。
─私の名前はアリス。こっちが本物の私…
疲れきった顔のお母さんが、これまた疲れきった私に向かって言った。
寝ていただけなのに、嫌に汗をかいている。これも、なかなかリアルすぎる夢のせいだろう。
それにしても、さっきの夢はよく覚えている。変な水の中で散々「お兄ちゃん」と叫び続けて、─いや、叫んでいたのは現実だったかな…─耳を澄ませると、お兄ちゃんからの声が少しだけ聴こえてきた…
最後に思い出した病院とは、ここのことだったのか。
「ローラったら、泣き疲れて、気づいたら寝てたんだから。」
やっぱり、私は泣いていたらしい。
「まあ、まだ小さいローラには、耐えられないのもしょうがないものね…まだゆっくり寝てた方が良いわよ。」
私はもう6歳なのに、そんなに耐えられない程の何が起こったって言うの…?
私は、未だにお父さんがすがり付いている隣のベッドを、恐る恐る覗いてみた。
─お兄ちゃんだ、お兄ちゃんが寝ている。お父さんは、なんでそんなに悲しんでるんだろう…
「お父さん、なんで泣いてるの?お父さんも泣くんだね、大人の男の人なのに。」
純粋に聞いたはずだった。少なくとも、今の私は何が起きているのかわからない。惚けたように聞こえてしまうのも、無理はなかった。
私のその口調が、余計に心に刺さってしまったらしい。お父さんは、今までにも増して泣き出した。
「お父さん…お兄ちゃんがどうしたの…?ねえ、お兄ちゃ……」
どうして気づかなかったのか、と言うよりも、どうして思い出せなかったのか、自分が不思議でならなかった。
─お兄ちゃんは、寝ているんじゃない!
悟ってしまった。いずれは知らなくてはならない事実だったけれど、全てを忘れかけていたせいで再び味わう事になってしまった、大きすぎる悲しみの襲来はさすがに応えた。
「お兄…ちゃん……」
私は、きっとまたこの事を忘れるのかな…そして、また思い出して悲しむ事になるのかな…
そう考えただけで、こんな現実で、これから何もかもやっていける気がしなかった。
─そうだった、これは夢なんだ…!覚めてしまえば、どんな悪夢だってちゃんと終わる。じゃあ、こんな酷い夢、早く覚まさせないと!
突然ほっぺたを叩き始めたり、手足をばたつかせ始めたりした私を、両親は驚いた顔で見つめた。
─全然覚めてくれない…方法が違うのかな…
他にも色々と試してみたが、何をやっても夢が覚めるような事はなかった。
─やっぱりダメ…どうしてもダメだ……それならしょうがない……強くなって、こんな悪夢にでも頑張って立ち向かってやる。
そんな考えをよぎらせた私は、かの有名なお話をふと思い出した。
そう、不思議の国のアリス。夢なのか現実なのか、本当の真相は誰にもわからない。けれど、好奇心旺盛な女の子が、迷い込んだ不思議の国で冒険するという簡単な内容なら、きっと誰でも知っている。
そんな事なら、私にだって出来る。だって、夢なら何でも出来るから。覚めてしまえば全てが終わる…何度も何度も言い聞かせたこの言葉を信じて、いつしか私は、その気になっていたのだった。
─私の名前はアリス。こっちが本物の私…
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