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第2章
永遠の夢へ
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「本、持って来たのか?」
「うん、保健室から借りて来た。」
「そうか。それ、面白いのか?」
「面白いけど、物語とかじゃないの。この本、『明晰夢』っていうのについて書かれてるんだって。夢を操って、まるで第2の人生みたいに生活出来るの。」
「明晰夢……そろそろ…か…」
「えっ?何がそろそろだって?」
「……なあ、アリス…」
お兄ちゃんは神妙な顔つきで、重苦しく口を開いた。
「目を覚ませ…」
「えっ…?」
「目を覚ませ…!ローラ!!」
「っ!?お兄…ちゃん?なんで、そんな事…!」
一瞬、喉が閉じてしまったかのように、声が出せなくなった。振り絞って出した声も、喉に突っ掛かり、上手く声になってくれなかった。お兄ちゃんも、黙ったまま俯いて動かない。
「…お兄ちゃん……ここは本当に現実?それとも…夢なの…?」
「……」
「ねえ、答えて…?」
「…明晰夢。お前が、自由に創り出した世界だ。」
どちらの答えが返って来ても、受け入れる準備はしていたつもりだった。
しかし、やはり衝撃は強かった。お兄ちゃんを見据えたこの目から、涙が1粒溢れ落ちた。
ベッドから体を起こすと、頬の辺りに違和感を感じた。手を当ててみると、そこは少しだけ濡れていた。
「泣いてたんだ…こっちでも…」
私は涙を拭き取ると、寝起きのまま階下へ降りた。
朝食の良い香りが漂ってきた。そして、それと一緒に、両親の話し声も漏れ聞こえている。
「ねえ、明日辺りにお墓参り行かない?だって、そろそろお兄ちゃんの命日でしょ?明日を逃したら、もう行ける日がないから…」
耳を疑った。両親が、さも当たり前のように、お兄ちゃんの話をしている。その上、お墓参りの話と関連付けされているではないか!
─お兄ちゃんの命日だって!?何を馬鹿な事を!
「そうだなぁ…ローラも休みが日曜日だけだから、早いうちに済ませても良いかもな。」
─お父さんまで、何を呑気に…!
「おっ、ローラ。おはよう、起きてたのか。」
口をぽかんと開けているところを、お父さんに気付かれた。
「ねえ……命日…って…」
私は朝の挨拶も忘れて、話を切り出した。
「あぁ、確か…1、2週間後だよな?」
「そうじゃなくて!お兄ちゃんの命日って、どういう事なの!?」
私は、2人に突っかかった。
「……また忘れたの…?」
「また忘れたのって…?」
私が、一体何を忘れたと言うのだろう。お母さんのしんみりした言葉に、首を傾げた。
「これでもう7…8回目かしら?毎回、思い出す度にすぐ部屋に籠って、次の日には忘れちゃってるんだから。」
お兄ちゃんは、もうとっくに亡くなっている。私が、その事実を忘れていただけ?
「私は、きっとまたこの事を忘れるのかな…それで1年後、また思い出して悲しむ事になるのかな…」
この言葉を言い終わったその時、突然記憶が蘇ってきた。
いつかのあの時も、同じ事を考えていた。同じように、全てを忘れていたのだ。
「ねえ……夢だよね…?」
「ゆ、夢?なんで、急にそんな事…」
「今は夢なんでしょ!?」
驚いたままのお父さんをよそに、私は異常なまでに取り乱していた。
お兄ちゃんには「目を覚ませ」と言われ、いざ目を覚ますと、そのお兄ちゃんは既に亡くなっていた。ここを「夢」だと肯定してくれる人は誰もいない。おまけに私は、現実でのお兄ちゃんの事について、何もかも忘れていた。
「あっ、ちょっと、ローラ!朝ご飯は!?学校はどうするの!?」
きっと、こうしてお母さんを心配させるのも、これで8回目なのだろう。だが、今はそんな事に配慮している場合ではない。
─迷惑かけてごめんね、お父さん、お母さん。でも、毎回毎回、荷が重すぎる…心が疼いて、抑えきれない…!
記憶はなくとも、体は悲しみを覚えていた。そして、忘れていた過去7回分の記憶が、一気に波のように押し寄せてきたのだ。
「もう二度と…この事で悲しみたくない……絶対に帰って来なくて済む、現実逃避を…」
たまたま物置の棚に置いてあった瓶を手に取り、中身を無造作に出した。私が、水の入ったペットボトルと一緒に手にした物は、数粒の睡眠薬。薬と水を乱暴に流し込み、私はベッドの中で、深い深い眠りに落ちていった。
「うん、保健室から借りて来た。」
「そうか。それ、面白いのか?」
「面白いけど、物語とかじゃないの。この本、『明晰夢』っていうのについて書かれてるんだって。夢を操って、まるで第2の人生みたいに生活出来るの。」
「明晰夢……そろそろ…か…」
「えっ?何がそろそろだって?」
「……なあ、アリス…」
お兄ちゃんは神妙な顔つきで、重苦しく口を開いた。
「目を覚ませ…」
「えっ…?」
「目を覚ませ…!ローラ!!」
「っ!?お兄…ちゃん?なんで、そんな事…!」
一瞬、喉が閉じてしまったかのように、声が出せなくなった。振り絞って出した声も、喉に突っ掛かり、上手く声になってくれなかった。お兄ちゃんも、黙ったまま俯いて動かない。
「…お兄ちゃん……ここは本当に現実?それとも…夢なの…?」
「……」
「ねえ、答えて…?」
「…明晰夢。お前が、自由に創り出した世界だ。」
どちらの答えが返って来ても、受け入れる準備はしていたつもりだった。
しかし、やはり衝撃は強かった。お兄ちゃんを見据えたこの目から、涙が1粒溢れ落ちた。
ベッドから体を起こすと、頬の辺りに違和感を感じた。手を当ててみると、そこは少しだけ濡れていた。
「泣いてたんだ…こっちでも…」
私は涙を拭き取ると、寝起きのまま階下へ降りた。
朝食の良い香りが漂ってきた。そして、それと一緒に、両親の話し声も漏れ聞こえている。
「ねえ、明日辺りにお墓参り行かない?だって、そろそろお兄ちゃんの命日でしょ?明日を逃したら、もう行ける日がないから…」
耳を疑った。両親が、さも当たり前のように、お兄ちゃんの話をしている。その上、お墓参りの話と関連付けされているではないか!
─お兄ちゃんの命日だって!?何を馬鹿な事を!
「そうだなぁ…ローラも休みが日曜日だけだから、早いうちに済ませても良いかもな。」
─お父さんまで、何を呑気に…!
「おっ、ローラ。おはよう、起きてたのか。」
口をぽかんと開けているところを、お父さんに気付かれた。
「ねえ……命日…って…」
私は朝の挨拶も忘れて、話を切り出した。
「あぁ、確か…1、2週間後だよな?」
「そうじゃなくて!お兄ちゃんの命日って、どういう事なの!?」
私は、2人に突っかかった。
「……また忘れたの…?」
「また忘れたのって…?」
私が、一体何を忘れたと言うのだろう。お母さんのしんみりした言葉に、首を傾げた。
「これでもう7…8回目かしら?毎回、思い出す度にすぐ部屋に籠って、次の日には忘れちゃってるんだから。」
お兄ちゃんは、もうとっくに亡くなっている。私が、その事実を忘れていただけ?
「私は、きっとまたこの事を忘れるのかな…それで1年後、また思い出して悲しむ事になるのかな…」
この言葉を言い終わったその時、突然記憶が蘇ってきた。
いつかのあの時も、同じ事を考えていた。同じように、全てを忘れていたのだ。
「ねえ……夢だよね…?」
「ゆ、夢?なんで、急にそんな事…」
「今は夢なんでしょ!?」
驚いたままのお父さんをよそに、私は異常なまでに取り乱していた。
お兄ちゃんには「目を覚ませ」と言われ、いざ目を覚ますと、そのお兄ちゃんは既に亡くなっていた。ここを「夢」だと肯定してくれる人は誰もいない。おまけに私は、現実でのお兄ちゃんの事について、何もかも忘れていた。
「あっ、ちょっと、ローラ!朝ご飯は!?学校はどうするの!?」
きっと、こうしてお母さんを心配させるのも、これで8回目なのだろう。だが、今はそんな事に配慮している場合ではない。
─迷惑かけてごめんね、お父さん、お母さん。でも、毎回毎回、荷が重すぎる…心が疼いて、抑えきれない…!
記憶はなくとも、体は悲しみを覚えていた。そして、忘れていた過去7回分の記憶が、一気に波のように押し寄せてきたのだ。
「もう二度と…この事で悲しみたくない……絶対に帰って来なくて済む、現実逃避を…」
たまたま物置の棚に置いてあった瓶を手に取り、中身を無造作に出した。私が、水の入ったペットボトルと一緒に手にした物は、数粒の睡眠薬。薬と水を乱暴に流し込み、私はベッドの中で、深い深い眠りに落ちていった。
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