夢現アリス

Marnie

文字の大きさ
10 / 14
第2章

明晰夢

しおりを挟む
 目を開けると、目の前に沢山の人の顔があった。相当驚いていたのだが、固まったまま無意識に涙がこぼれてきただけだった。
 いつも静かなはずの保健室も、今は教室並みに騒々しかった。さっきまで、物音1つ感じられなかった耳に、騒がしさが飛び込んできた。
「ローラ!大丈夫!?」
 プリシラの声が聞こえた。あっちの方には、ディアナもいる。
 考え込んでいたら、いつの間にか倒れていたらしい。夢も見たのだが、記憶にもやがかかったように思い出せない。
─夢を見た…?
 なぜ夢を見たのだろう。
 実際、夢の中での夢というシチュエーションは、この間もあった気がする。
 しかし、この間とは訳が違う。今回の場合は、内容が思い出せないのだ。
「大丈夫~?ほら、血圧図るから、皆ちょっとどいて~。少し休んでから、お昼にしよっか。」
 保健の先生が、いつもの柔らか~い口調で近づいてくる。
 血圧を図る事や、皆が全然どかない事など、今の私にとって、もはやどうでも良いのだ。気になる事なら、他に盛り沢山ある。
 いつもなら、夢も現実も、内容は鮮明に覚えている。なのに、今はなぜ思い出せない?先程までも、睡眠状態とあまり変わりはなかったはず。それに、寝ている時と同じように夢を見た。
 いつの間にか、先生は全ての生徒の間を縫い、見事、私に辿り着いていた。
「はい、腕まくって。」
 先生の指示に従いながら、私は戯れている皆を見渡した。
「大丈夫だから、皆お昼食べに行ったら?」
 全員が昼食の存在を忘れていたらしく、皆が皆お腹を抑え始めたので、私は思わず笑ってしまった。しかし、その瞬間、私のお腹も元気を取り戻したらしい。ぐ~という鈍い音が、誰よりも大きな音で、保健室に響いた。

 15分程経ち、最後の見舞い客が戻って行った。私も、これでようやく気兼ねなく昼食にありつける。お弁当は、ここへ来るときに、プリシラが持って来てくれたらしい。
 お弁当箱に手を伸ばすと、ふと本棚にあった1冊の本に目が留まった。
明晰夢めいせきむ…?」
「あぁ、それね~。なかなか珍しい本でしょう?ずいぶん前だけど、それについて卒業論文を書いた人が、置いてったんだ~。」
「その人が書いたんですか?」
「いや、その子が、論文を書くのに参考にしたってだけみたいよ~。その本、一応読んでみたけど、私もよくわかんなかったわぁ。」
 先生は苦笑いをしながらも、一応私にその本を薦めてくれた。それは、名前からして、見た事も聞いた事もないものだった。
 そして、これを読めば、何かわかるかもしれないと、私の第六感が言っているようだった。
 無意識にその本を手に取ると、気付けば、待ち焦がれていたはずの昼食をそっちのけに、本に読み耽っていた。

 「明晰夢」それは、ここが夢の中だと認識しながら、夢を見るという事。夢の中での行動や状況を、自分の意志で操る事も出来る。感覚は、現実で生きている時と全く同じである。まさに2と言っても、過言ではない。
 これが明晰夢だと知らないまま、明晰夢を見ている人が多いという事。そして、元々出来ない人でも、練習すれば見られるようになる事もあるという事。そして、その有名な練習法など…その他、色々な事が書いてあった。
 私は今、その本を抱えながら、廊下を全力疾走している最中だ。昼食を10分足らずで詰め込み、残りの3分で教室まで辿り着かなくては、次の授業が始まってしまう。時間を忘れて、本に夢中になってしまっていたのだ。
 頭の中は、もう明晰夢の事でいっぱいだった。他に考えられそうな事は何1つなく、きっと次の授業も、頭に入っては来ないだろう。
 これでようやく、なぜ私の中に2つの生き方が存在したのか、明らかになった。そしていつか、どちらが本物の「夢」で、どちらが本物の「現実」なのかもわかるだろう。
 そんな思いを巡らせながら、手がかりを大事に抱え込み、私は教室へと戻って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...