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0-1 転生したら貴族だった
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ふと、その思い出に浸ってみる。
そして、考えてみる。
命を粗末にしてはいけないとはよく言うけど、僕の場合はどうだっただろうか。
果たしてあれは粗末にしたというのだろうか。それともよくやった、と称えられるだろうか。
思い出は現実味をなくしてしまい、答えてはくれない。
その時の感情も、思いも、時間が押し流してしまった。
もうその答えは手に入ることはないだろう。
それでもこの気持ちを抱いたまま、この大きな窓の外に行けば、何か分かるだろうか。
あの澄み渡る青空の下や広大な森の奥深くに、違う答えがあるのだろうか。
全く見知らぬ世界の何処かに、このモヤモヤとした感情の落とし所があるのだろうか。
こ子でずっと暮らす僕には、それすら分からない。
ただ『僕』にも分かることが幾つかある。
「転生って本当にあるんだね」
一つ、僕は隕石が落ちるよりも低い確率であろう幸運を入手したらしい。
「貴族って本当に本当にお金がいっぱいあるんだねっ」
一つ、僕はその隕石以下の確立の中でも、すさまじい幸運を入手したらしい。
「魔法って、本当にあるんだね!」
一つ、すさまじい幸運の中でも、飛び切りの幸運を入手したらしい。
……さて。
「凄いね! シュリ!」
何もかもをさておいて、早速この喜びを剣術指南役兼、護衛役兼、メイドのシュリにぶつけてみ
よう。
「理解しかねます。お坊ちゃま」
万能な僕のメイドは、全く感情を見せずに言い放った。
それは表情は勿論、エプロンドレスのフリル一つ動かさないほどの不動だった。
僕の唐突な奇行も、彼女の剣が僕の脳天を直撃して昏倒した事実も、彼女の感情を動かすには至らないみたいだ。
だけど、それでもいい。むしろ好都合だ。今、僕は叫びたいのだ。
だから、窓を押し開け、ベランダに飛び込んだ。
眼下にどこまでも続く森とそれを内包する世界に、胸が躍るままに叫ぶ。
「奇跡万歳!」
「頭ぶつけて狂いましたか? お坊ちゃま」
クロウ・ロペス。満五才と十か月七日で記憶、戻りました。
これから優雅な日常を過ごすべく、始動します。
「平気そうですね。では剣術の勉強を再開します」
「ひい!?」
始動した途端、破壊工作が始まりそうです。
そうだった。貴族にあまり自由時間はないのだった。
それどころか、生殺与奪の全てを掌握される勢いで拘束されている。
特にこのメイドはその気が顕著で、キツい。
僕が優雅に生きるには、まずはこの剣術指南から生き残ることを考えないといけない。
『ロペス家の血塗られた鉄仮面』と揶揄された、シュリから。
「先ずは私から一本取ってください。因みに真剣を使います。お坊ちゃまが死んだら私は逃げます」
「ひ、ひいいい!」
僕は奇跡の喜びを感じる間もなく、小一時間ほど逃げたのだった。
シュリの凶刃から何とか逃げて、もう一度現状を思い出す。
僕が転生を果たしたロペス家は貴族である、と。
それも、飛んでもない位の貴族である、と。
見渡す限りの森が敷地の『一部』であり、そこの運用法と言えば『この屋敷を建てること』のみ。
この屋敷の利用法も『僕が住む為』の一点のようだ、とあればその余りある財力が伺い知れる。
そんなロペス家だから、屋敷という外身だけでなくそこに入るモノも凄まじい。
繊細な彫刻が施された調度品。どこまでも沈みそうな絨毯。ガラス細工と化したランプは常に明かりを灯らせている。
それらは互いに補完しあう、完璧な調和を生み出していた。
そして完璧なのは内装だけではない。
食事はいつもフルコースで、どんな客に出しても不自然でないほど完成度が高い。当然ながら味も一級品。
批評家がどれだけ辛口につけても文句など言えやしない。
そしてそんな一級品の中でさらに異彩を放つのは専属のメイド、シュリだ。
彼女は一部を除いて、完璧すぎた。
家事をさせれば一級品。僕の世話も十全にこなす上、マナーから剣術、サバイバル術まで何でも知っている。
何よりも特筆すべきなのはそんな多才な上に、美人である、という点だ。
鉄のように冷たい表情だけど、絵画にしたらモナリザの対を為す作品になるだろう。
あちらは柔らかな笑み、こちらは地球が氷河期を迎える眼差しだ。
さて、改めて考える。僕が生まれたのはそんな恵まれた貴族だ、と。
堅苦しく言うならば国王から広大な領土を拝領して、民から税を取って、それで国土を豊かにする。そんな役目を持っているということだった。
つまり恵まれてばかりでは、享受ばかりではいけない。義務も果たさないといけないのだ。
ではその義務、国土を豊かにするとはどういうことだろう。
前世の基準から言えば、交通を整備し、偏りがちな富を相応に分配し、あらゆる外患内憂を排することだろう。
でもここは魔法があるファンタジーの世界だ。基準は全く違う。
「では、次の問題です。次の魔物の大量発生時、どの程度の兵力が必要でしょうか? また、どのような方法で対処すべきでしょうか? 記録を元にして構いません。お答えください」
「えっと……?」
つまりこういう判断が求められるのが、この世界の貴族だというらしい。
更に言ってしまえば、こういう判断を延々と学ばされるのが、この世界の貴族らしい。
結論として、僕はシュリの授業から生き延びたと思ったら勉強部屋に閉じ込められ延々と勉強させられている。
自由時間なんてありはしなかった。
僕は、勉強する為だけにしては少し広い部屋の中、頭を悩ませた。問題にではなく現状に。
華美で大きすぎる机には膨大な資料の束。
そして前には何故か楽し気な魔物対策指南役。
その上彼の口からは子供が考えるにしては難題すぎる問い。
悩まない方がおかしい。異常な状況の叩き売りである。
こんな異常事態の諸悪の根元は、政治学の指南役であるこの優男だった。
眼鏡をかけた彼は、そう言えばいつも楽し気だった。
五歳児には難しすぎる問題を投げかけて、こちらが四苦八苦しながら答える様をニコニコと眺めているのだ。
そして、彼の今日のご機嫌はいつになく良かった。それに比例して問題も難しかった。
そんな彼を見ていると、これからやることを想像してしまって頭が痛くなってくる。
せっかくシュリの剣術を生き延びたのに、これでは全く休めない。余りにも酷い仕打ちだ。
というか転生生活とは、もっと楽しく刺激的では無かっただろうか。
仲間と冒険したり、魔法を会得したり、まだ見ぬ宝を入手したり……全くそんな気配がないのは何故だろう。
これでは転生した意味が全くない。
「……」
「どうしました? 資料を見ていいんですよ」
まあ、この授業が最も苦痛な理由はこれなのだけど。
「……まだ文字が読めません」
転生ボーナスの中では基礎の基礎であるはずの、言語が皆無なのが辛い。本当に辛い。
話し言葉は十分に扱えるのに、文字となったら絵本ですらつまづいてしまう。
そんな状態で、学ぶのは一苦労、いや百苦労だ。
「ああ、すみません。言葉だけは人並み未満でしたね」
「……」
更に更に付け加えるなら、ここの従業員は僕に対してあまり敬意を払う気がない、というのもやる気が失せる要因だ。
この指南役然り、あのメイド然り。
一応、僕は君達の期待に添えるよう努力をしているつもりなのだけど、まだまだ足りないみたいだ。
欲張りすぎやしないか。君達。
「敵はゴブリンの群れ。危惧すべき点は群れが膨大になることと、若干知恵が回ること。それに数匹でも残すといつの間にか増えてまた大量発生します」
それはさておいて、授業の続きだ。
たった今渡された資料がゴブリンに関するものらしい。図鑑から分厚い研究論文の類まである。
図鑑は絵で何とか解読出来るけど、研究論文に至っては題名の半分も読めない。
正直使えない。
「数は五百、森の中を進軍し、村々を襲撃しながら接近しています」
次は地図だ。ロペス家の土地は歪んだひし形で、その底辺から進軍しているらしい。
ゴブリンを表しているのだろう。地図の上には黒いチェス駒のようなものが二つ並んでいる。
幸いにもその二つは固まっているらしい。よかった。散発的だったらお手上げだった。
「これが使える手駒です」
と、今度は白い駒が出てきた。味方だ。
それぞれの頭に文字が書かれていて、種類分けがされてあった。
ロペス家の所有する騎士団が五百。近場の貴族の兵もそれと大体同じ。
国軍が一万。だけどこれは演習がてら動かす以外は、国の存亡の危機でしか動かないと聞いた。
国には色々とあるらしい。
そして、ファンタジーには絶対出てくる存在。
「冒険者」
僕達の領だけでも人口の十分の一、五千はいるらしい。
そしてそして、冒険者が出てきたならば絶対これもある。
「一級冒険者っ」
それは、もはや一人で軍隊を壊滅させられる戦力として分類される存在と聞いたことがある。
そしてそしてそして、そんな一級冒険者は……。
「一人しかいないんだね。一級って」
残念な数だった。
「国が直接雇うような人々ですから。むしろここに居るのが不思議なくらいですよ」
気を取り直して。
この五百の不届き者を現兵力で何とかしろ、という話だったか。
しかも指南役の言葉から察するに、クリア条件は一匹残らず殺すと来た。
制約は金銭と時間だろう。予算は……流石に数字は読める。二千ミール、大体二千万だ。
当然、兵をポンと置けるわけではない。移動時間もある。
と、すると国はもちろん、お隣さんも頼れない。遠すぎるからだ。
一級冒険者も適当ではない。予算は足りるけど、せん滅するなら数で包囲すべきだからだ。
最善手は、こうに違いない。
「先ず騎兵数人でもって偵察させて、その間に騎士百人を出陣。後、千ミールでゴブリン発生地帯の近隣冒険者を雇います。目的地はこの、手前の町です。ゴブリンはどう動いてますか?」
偵察で動きを確認しつつ、騎士と冒険者で包囲殲滅を狙う。
「ゴブリンは性質通り、散らばることなく群れを為して迫っていますね。因みに千ミールで三日間千名雇えます。騎士は……まあたどり着けることにしましょう」
ここから、暫しの脳内模擬戦が繰り広げられる。
それは舌戦ともいえる授業で、僕を非常に疲れさせた。
けど、それだけやったのに結局ゴブリンは包囲網から突破。せん滅には至らなかった。
原因は冒険者の動きが思いの外遅く、包囲が完璧にできなかったことだ。
「そうですね。一級を頼らず、数多の冒険者を集めるのはいい案ですが、あれらは軍隊ではありません。集団行動には向かないのです。ここは普通に数に任せて殺させた方がよかったですね」
とは指南役の弁。
「じゃあ次のシミュレーションを」
とも指南役の弁。鬼である。
その後も様々なシチュエーションで思考して、一時間。
やっと休憩の時間が始まる。
その休憩には、『会食』という名がついているのには気にしないでおこう。
豪華な食事には変わりないのだから。
そして、考えてみる。
命を粗末にしてはいけないとはよく言うけど、僕の場合はどうだっただろうか。
果たしてあれは粗末にしたというのだろうか。それともよくやった、と称えられるだろうか。
思い出は現実味をなくしてしまい、答えてはくれない。
その時の感情も、思いも、時間が押し流してしまった。
もうその答えは手に入ることはないだろう。
それでもこの気持ちを抱いたまま、この大きな窓の外に行けば、何か分かるだろうか。
あの澄み渡る青空の下や広大な森の奥深くに、違う答えがあるのだろうか。
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こ子でずっと暮らす僕には、それすら分からない。
ただ『僕』にも分かることが幾つかある。
「転生って本当にあるんだね」
一つ、僕は隕石が落ちるよりも低い確率であろう幸運を入手したらしい。
「貴族って本当に本当にお金がいっぱいあるんだねっ」
一つ、僕はその隕石以下の確立の中でも、すさまじい幸運を入手したらしい。
「魔法って、本当にあるんだね!」
一つ、すさまじい幸運の中でも、飛び切りの幸運を入手したらしい。
……さて。
「凄いね! シュリ!」
何もかもをさておいて、早速この喜びを剣術指南役兼、護衛役兼、メイドのシュリにぶつけてみ
よう。
「理解しかねます。お坊ちゃま」
万能な僕のメイドは、全く感情を見せずに言い放った。
それは表情は勿論、エプロンドレスのフリル一つ動かさないほどの不動だった。
僕の唐突な奇行も、彼女の剣が僕の脳天を直撃して昏倒した事実も、彼女の感情を動かすには至らないみたいだ。
だけど、それでもいい。むしろ好都合だ。今、僕は叫びたいのだ。
だから、窓を押し開け、ベランダに飛び込んだ。
眼下にどこまでも続く森とそれを内包する世界に、胸が躍るままに叫ぶ。
「奇跡万歳!」
「頭ぶつけて狂いましたか? お坊ちゃま」
クロウ・ロペス。満五才と十か月七日で記憶、戻りました。
これから優雅な日常を過ごすべく、始動します。
「平気そうですね。では剣術の勉強を再開します」
「ひい!?」
始動した途端、破壊工作が始まりそうです。
そうだった。貴族にあまり自由時間はないのだった。
それどころか、生殺与奪の全てを掌握される勢いで拘束されている。
特にこのメイドはその気が顕著で、キツい。
僕が優雅に生きるには、まずはこの剣術指南から生き残ることを考えないといけない。
『ロペス家の血塗られた鉄仮面』と揶揄された、シュリから。
「先ずは私から一本取ってください。因みに真剣を使います。お坊ちゃまが死んだら私は逃げます」
「ひ、ひいいい!」
僕は奇跡の喜びを感じる間もなく、小一時間ほど逃げたのだった。
シュリの凶刃から何とか逃げて、もう一度現状を思い出す。
僕が転生を果たしたロペス家は貴族である、と。
それも、飛んでもない位の貴族である、と。
見渡す限りの森が敷地の『一部』であり、そこの運用法と言えば『この屋敷を建てること』のみ。
この屋敷の利用法も『僕が住む為』の一点のようだ、とあればその余りある財力が伺い知れる。
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それらは互いに補完しあう、完璧な調和を生み出していた。
そして完璧なのは内装だけではない。
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批評家がどれだけ辛口につけても文句など言えやしない。
そしてそんな一級品の中でさらに異彩を放つのは専属のメイド、シュリだ。
彼女は一部を除いて、完璧すぎた。
家事をさせれば一級品。僕の世話も十全にこなす上、マナーから剣術、サバイバル術まで何でも知っている。
何よりも特筆すべきなのはそんな多才な上に、美人である、という点だ。
鉄のように冷たい表情だけど、絵画にしたらモナリザの対を為す作品になるだろう。
あちらは柔らかな笑み、こちらは地球が氷河期を迎える眼差しだ。
さて、改めて考える。僕が生まれたのはそんな恵まれた貴族だ、と。
堅苦しく言うならば国王から広大な領土を拝領して、民から税を取って、それで国土を豊かにする。そんな役目を持っているということだった。
つまり恵まれてばかりでは、享受ばかりではいけない。義務も果たさないといけないのだ。
ではその義務、国土を豊かにするとはどういうことだろう。
前世の基準から言えば、交通を整備し、偏りがちな富を相応に分配し、あらゆる外患内憂を排することだろう。
でもここは魔法があるファンタジーの世界だ。基準は全く違う。
「では、次の問題です。次の魔物の大量発生時、どの程度の兵力が必要でしょうか? また、どのような方法で対処すべきでしょうか? 記録を元にして構いません。お答えください」
「えっと……?」
つまりこういう判断が求められるのが、この世界の貴族だというらしい。
更に言ってしまえば、こういう判断を延々と学ばされるのが、この世界の貴族らしい。
結論として、僕はシュリの授業から生き延びたと思ったら勉強部屋に閉じ込められ延々と勉強させられている。
自由時間なんてありはしなかった。
僕は、勉強する為だけにしては少し広い部屋の中、頭を悩ませた。問題にではなく現状に。
華美で大きすぎる机には膨大な資料の束。
そして前には何故か楽し気な魔物対策指南役。
その上彼の口からは子供が考えるにしては難題すぎる問い。
悩まない方がおかしい。異常な状況の叩き売りである。
こんな異常事態の諸悪の根元は、政治学の指南役であるこの優男だった。
眼鏡をかけた彼は、そう言えばいつも楽し気だった。
五歳児には難しすぎる問題を投げかけて、こちらが四苦八苦しながら答える様をニコニコと眺めているのだ。
そして、彼の今日のご機嫌はいつになく良かった。それに比例して問題も難しかった。
そんな彼を見ていると、これからやることを想像してしまって頭が痛くなってくる。
せっかくシュリの剣術を生き延びたのに、これでは全く休めない。余りにも酷い仕打ちだ。
というか転生生活とは、もっと楽しく刺激的では無かっただろうか。
仲間と冒険したり、魔法を会得したり、まだ見ぬ宝を入手したり……全くそんな気配がないのは何故だろう。
これでは転生した意味が全くない。
「……」
「どうしました? 資料を見ていいんですよ」
まあ、この授業が最も苦痛な理由はこれなのだけど。
「……まだ文字が読めません」
転生ボーナスの中では基礎の基礎であるはずの、言語が皆無なのが辛い。本当に辛い。
話し言葉は十分に扱えるのに、文字となったら絵本ですらつまづいてしまう。
そんな状態で、学ぶのは一苦労、いや百苦労だ。
「ああ、すみません。言葉だけは人並み未満でしたね」
「……」
更に更に付け加えるなら、ここの従業員は僕に対してあまり敬意を払う気がない、というのもやる気が失せる要因だ。
この指南役然り、あのメイド然り。
一応、僕は君達の期待に添えるよう努力をしているつもりなのだけど、まだまだ足りないみたいだ。
欲張りすぎやしないか。君達。
「敵はゴブリンの群れ。危惧すべき点は群れが膨大になることと、若干知恵が回ること。それに数匹でも残すといつの間にか増えてまた大量発生します」
それはさておいて、授業の続きだ。
たった今渡された資料がゴブリンに関するものらしい。図鑑から分厚い研究論文の類まである。
図鑑は絵で何とか解読出来るけど、研究論文に至っては題名の半分も読めない。
正直使えない。
「数は五百、森の中を進軍し、村々を襲撃しながら接近しています」
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ゴブリンを表しているのだろう。地図の上には黒いチェス駒のようなものが二つ並んでいる。
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「これが使える手駒です」
と、今度は白い駒が出てきた。味方だ。
それぞれの頭に文字が書かれていて、種類分けがされてあった。
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国軍が一万。だけどこれは演習がてら動かす以外は、国の存亡の危機でしか動かないと聞いた。
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「冒険者」
僕達の領だけでも人口の十分の一、五千はいるらしい。
そしてそして、冒険者が出てきたならば絶対これもある。
「一級冒険者っ」
それは、もはや一人で軍隊を壊滅させられる戦力として分類される存在と聞いたことがある。
そしてそしてそして、そんな一級冒険者は……。
「一人しかいないんだね。一級って」
残念な数だった。
「国が直接雇うような人々ですから。むしろここに居るのが不思議なくらいですよ」
気を取り直して。
この五百の不届き者を現兵力で何とかしろ、という話だったか。
しかも指南役の言葉から察するに、クリア条件は一匹残らず殺すと来た。
制約は金銭と時間だろう。予算は……流石に数字は読める。二千ミール、大体二千万だ。
当然、兵をポンと置けるわけではない。移動時間もある。
と、すると国はもちろん、お隣さんも頼れない。遠すぎるからだ。
一級冒険者も適当ではない。予算は足りるけど、せん滅するなら数で包囲すべきだからだ。
最善手は、こうに違いない。
「先ず騎兵数人でもって偵察させて、その間に騎士百人を出陣。後、千ミールでゴブリン発生地帯の近隣冒険者を雇います。目的地はこの、手前の町です。ゴブリンはどう動いてますか?」
偵察で動きを確認しつつ、騎士と冒険者で包囲殲滅を狙う。
「ゴブリンは性質通り、散らばることなく群れを為して迫っていますね。因みに千ミールで三日間千名雇えます。騎士は……まあたどり着けることにしましょう」
ここから、暫しの脳内模擬戦が繰り広げられる。
それは舌戦ともいえる授業で、僕を非常に疲れさせた。
けど、それだけやったのに結局ゴブリンは包囲網から突破。せん滅には至らなかった。
原因は冒険者の動きが思いの外遅く、包囲が完璧にできなかったことだ。
「そうですね。一級を頼らず、数多の冒険者を集めるのはいい案ですが、あれらは軍隊ではありません。集団行動には向かないのです。ここは普通に数に任せて殺させた方がよかったですね」
とは指南役の弁。
「じゃあ次のシミュレーションを」
とも指南役の弁。鬼である。
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