恵まれすぎてハードモード

想磨

文字の大きさ
45 / 45

3-4 古の香りと、今の香り

しおりを挟む
 玉座への道は、遺跡の中心にある長い階段だった。
 細くて長くて、例の黄色い炎で照らされていて……何だかワクワクしてくる。

「まるで『ゲーム』みたいだねっ」

「ゲーム? こんな盤を使う奴があるのか?」

「何でもないよ。ほら行こう」

 階段を一歩一歩降りていくとどんどんと先が広くなっていく。
 そして、遂に玉座へと行きついた。

 そこはかなり豪奢で、古風で、とてもいい雰囲気な空間だった。

 基本的な構造として全面石造り。そして奥に配置された、丘のようになった階段が空間の三分の一を占めている。

 その天辺には大理石で出来た台があって、それが広間の三分の一を占めていた。
 壁際を見回すと、古びた鎧がずらりと並んでいて、マントだろうボロボロの布も着用していた。

 そして上にはシャンデリア。例の火が入ったものだ。

 総評して、素晴らしい。玉座というに相応しい空間だ。
 昔の荘厳さと威厳が微かに漂ってくる、少し寂し気な、最高の空間だ。

「凄い! 凄い! 凄すぎる!」

 僕は感極まっていた。その自覚があった。そして、思わず叫んでいた。

「竜の遺跡最高!!」

 もう居ても立っても居られない。鎧へと走る。

 目の前にある鎧は色々と細工がしてあった。複雑な意匠だけど多分牙のマークだ。
 それは時代を経て古びているけど、それで豪華さとか威厳が衰えることは無く、逆に風格が増していた。

 シャンデリアの真下に寝転がってみる。大きなシャンデリアが一つ。どこまでも高い天井につり下がっている。

 部屋の真ん中に位置しているそれは部屋全体を照らすだけの光量があって、眩しくて観察が出来ない。
 でも、光の粒が幾何学的に並んでいる様は美しい。職人技だ。

 そして、多分玉座であろう場所へ走って、一段目の所で急停止する。

 ここには逆に何の装飾もされて居なかった。
 でも丹念に磨かれた大理石の階段は鏡みたいで、埃が被っているけど目が爛々と輝いている僕を映すくらいピカピカだった。
 それに何だか、触るのがおこがましいと感じる。これが畏怖というものだろうか

 とにかく、素晴らしい。何もかもが素晴らしい。

「ああ、凄いなあ。ここで暮らしたい」

「な、何か凄い反応だな。別人みたいだ」

「当たり前だよ。こんな素敵な場所があったなんて。凄い良い雰囲気だ」

「だろ? これだけ雰囲気が良いと傾国の女王様ごっこするのが楽しいんだよ」

 ああ、そっか。こんな素晴らしい所を玩具にする不届き者が居たのだった。

 思わず、睨みつけてしまった。きっと殺意の籠った眼差しだったに違いない。
 要らぬ危険に首を突っ込んだと思ったのだろう。リンは直ぐに口笛を吹いて、僕の方へ歩いてくる。

「そ、そう言えば、この円盤がいっぱい積み重なった玉座に竜神が居たんだって。その竜の姿は雄々しいもので、誰もが畏怖を感じたらしい」

「へえ。ここに。ここに神様が」

 つまり、ここはまさに神話の世界なのだ。
 益々心が沸き立ってくる。

 こうなると凄いレベルのものがあるかも知れない。辺りの物へと目を凝らしてみる。

「……あれ?」

 可笑しい。そんなことがあっていいのだろうか。
 鎧に駆け寄って、一つ一つを調べ上げる。手甲とか兜とか剣とか全てを精査して、確かめてみる。

 でも、そのどれにも高レベルの物がなかった。

「何でこんなにレベルが低いんだ? こんな凄い場所なのに」

「当たり前だろ。ここは遺跡であってダンジョンじゃないんだから。魔力が少ないんだよ。ここ」

「えー。そうなのか」

 そんな事も聞いた覚えがある。ダンジョンは魔物が居るからダンジョンなのではない。魔力が溜まるからダンジョンなのだ。
 そして魔力が溜まるから魔物が生まれて、魔力が溜まるから道具のレベルが上がる。

「そこは何だかがっかりだな」

「そうか。じゃあ落ち着いた所でアシュルなんだらとかっていう国を迎え撃つ準備をしようか」

 そう言ってリンは剣を手にどこかへ歩き出す。

「どこ行くの?」

「戦いに一番大事なものを取りに行く」

「……何それ?」

「飯だ」

 それだけ言うと、リンは何処かに行ってしまった。

「……それってお腹空いてるだけでしょうが」

 いつの間にか木衛門も付いていっているし、あの暴食コンビは全然ぶれることがないなあ。
 仕方ないから僕も昔の彼女みたいに探検してみよう。

 それにまだメインディッシュが残っている。

「玉座があるなら宝物庫もあっていいよねえ」

 多分僕はにやけていただろう。
 それは当然金銭的なものでなく、ましてや芸術的なものでなく、ファンタジーを期待しての事だった。

「古代兵器とかないかなあ?」

 僕は早速探検を開始した。




 先ず玉座の奥にある階段だ。そこを降りてみると狭い部屋があった。
 上の階に比べてずっと小さくて、土みたいなものが一カ所に集まっている。

 その中にガラスと中にこびりついた黒い何かがあるから、多分これは朽ちた机なのだろう。
 漁ってみると、万年筆の先端が残って居たり、文鎮があったりと、昔の痕跡が一杯あった。

 が、流石は執務室だ。他には何もない。

 歴史が感じられたけどファンタジーを感じることは出来なかった。

「あ、でも文鎮はぶつけたら痛いかも」

 かなり硬いし、きっと護身くらいにはなるだろう。
 ここでの戦利品は、古代の文鎮だ。

 因みにレベルは七。普通の文鎮より微妙に強い。能力は……おお良いかも知れない。

「これのレベルを上げよう」

 僕は意気揚々と真四角の文鎮を手に探検再開した。






 散々探して、上から下まで探しまくって、でもやっぱり宝物庫はなかった。
 宝物庫のない遺跡なんて凄く微妙だと思うけど、何処を探してもない。

 玉座があるのに。凄くステキな廊下も付いていたのに。
 まるで外側だけ綺麗で中身がない宝箱じゃないか。

 収穫としては文鎮一つだった。このものを書くときに紙を抑える道具だけというのは何だかわびしい。
 余りの貧しい収穫に、ふてくされそうになる。もっと不思議な何かがあったらよかったのだけど。

「まあ、この玉座の雰囲気だけでも良しとするか」

 そう言えばここには何かダンジョンみたいなものがないのだろうか。
 この文鎮を鍛えたいけど魔物が居ないとそれも出来ない。

 帰ってきたらリンに聞いてみよう。

「玉座に帰ろうかな、どうせリンも直ぐに帰って来るだろうし」

 なんて思っていたら、直ぐに物音がした。もう聞き覚えのある翼の音だ。
 流石リンだ。もう食糧を見つけたらしい。

 上を見ると、格子をあけてリンが降りてきていた。
 でもその手には何も持って居ない。それに血相を変えて慌てているみたいだ。

「レイ! こっち来てくれ!」

「うわあ!」

 僕の手を掴むと、一気に急上昇する。
 そして廊下を凄い勢いで飛んでいく。

 広いはずの廊下もこうなると狭く感じる。もう翼の先がぶつかりそうだ。いや、もう擦れている。

「どうしたの!?」

「言ってる暇はない!」

 言うとまた上昇して、どんどん遺跡を登っていく。

 何でこんなに焦っているのだろう、と思って直ぐにその理由に行き着く。
 でも、こんなに早く態勢が整うなんて思えない。というかあり得ない。 

 彫刻の内容がどんどん変わっていって、そして遂に最上階にたどり着く。
 そこは窓のある階で、自然の光がめいっぱい廊下を照らしていた。

 その窓の奥をじっと見ると、煙ばかりが上る景色が映し出されている。

「これって、こんな早く?」

「ああ! もう攻め込まれてる!」

 森と草原の狭間で翼が生えた人がいっぱい見える。竜族だ。

 彼等は空を飛びながら火を吐いて、森の方を焼き払っているみたいだ。
 そして、それに反撃する様に森から弓矢が放たれて、空を飛ぶ者を射抜いている。

 更に、軍が森から姿を見せて、それと同時に竜族が滑空して迎え撃つ。

「これが、この世界の戦争」

「ああ。でも、竜族を倒せるほどの攻撃なんて、あるわけがないのにっ」

 彼女の言葉を否定する様に、敵が竜族を倒していた。
 寧ろ、投網を使って動きを封じたり、投げ斧を使って有利に戦っている。

 余程の強い攻撃か、武器に違いない。それか他のタネがあるのかも。

 それが分かれば形勢は逆転だ。敵の持つ武器達へと目を凝らして、その武器の正体を探る。

「レベル二? 意外と少ないね」

「いや低い訳じゃない。レベルを一上げるのだってダンジョンに放り込んだり、儀式をしたりしなきゃいけないんだ。軍の装備としては一級だぜ」

「でも、それは可笑しいよ。だって全部……?」 

 いや、まさか。そんな事が。

 でも、そうだ。間違いない。この剣は、いやこの剣たちは……

「全部僕が育てた剣だ」  
しおりを挟む
感想 14

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(14件)

k_zero
2017.02.25 k_zero

2―20
そも祖茂
→そもそも

解除
猫鍋EX
2017.01.10 猫鍋EX

毎日更新して一定期間休むより
定期的にした方がいいと思う

解除
さいふぁ
2016.12.27 さいふぁ

『ダンジョンの神様』ナルホド、ダンジョンマスターには成らずにダンジョンを作っていく系か。オモシロそう。
2部待ってます。

ゲイルが言っていた(、)人がくぐれるくらいの穴があった。
ゲイルが言っていた人が(、)くぐれるくらいの穴があった。じゃないですよね?

解除

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。