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想磨

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3-2 垂涎の遺跡

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 遺跡の入り口を言われた地点。

 そこはいくら見ても普通の地面で、何処にも穴なんてなかった。
 掘り返した後もないし、草だって生えている。ごくごく普通の山肌だ。

「ここが本当に遺跡の入り口なの?」

「ああ。ここはカモフラージュされているけど秘密の抜け穴で、内側からしか開かない仕組みになってたんだよ」

「へえ。……内側?」

 内側というと屋内という意味だ。決して屋外という意味にはならない。
 そして空を天井にする人は居ても外を屋内と言い張る人は居なくて。

 ここからはどう考えても開きそうにない訳で。


「じゃあ無理じゃん!」


 何を考えたのかリンは脱出専用の出入り口に案内してしまったのか。
 今の僕達には何の使い道もない。ここに居たのでは全く意味もない出入り口へと。

 ここまで必死で登ってきたのに。ここまで本当の意味で必死だったのに。

 思わず隠れて移動していることを忘れて叫んでいると、リンが笑いながら否定した。

「おう。だからこうするんだよ」

 言うや否や拳を握りこむ。

 そして、細い足場を目いっぱい使ってそれを思い切り叩きつけた。
 バキっと嫌な音が鳴って、大穴が空いて、土が中に落ちていった。

「え!? ちょっと!? 何で遺跡壊してるんだよ!」

 間違いを認めたくないのか。はたまた自棄を起こしたのか。

 遺跡を汚すなとか言っておきながら、それを言った本人が壊してしまった。
 大事な遺跡が、ファンタジーが。

「いやいや待て待て。そんな凶暴そうな顔になるな。壊しちゃいないから。ここは元々壊れてたんだよ」

「元々?」

「ああ。実は私が探検していた時にな……」

 なんて回想をまとめると、彼女曰く昔ここの探検に嵌っていた時があったらしい。

 階段を見つけては駆け下りて、扉を見つけては開け尽くす。
 暇な時は探索、親に叱られた時も探索と、言葉通り嵌っていたのだ。
 そうして地下も地上も探検しつくして、彼女はふと気づいたのだ。

 岩に塞がれて隠れていた秘密の抜け穴を。

 それは別の部屋の操作をするとロックが外れる仕掛けだったらしい。
 でもその時リンはそんな事を知らない。

 岩と壁の隙間を見て何かあると知るや否や、その隙間に手をかけ引っぺがしたのだ。

 結果、その機構は扉ごと破壊され、残ったのは外に出る穴だけだった。

「流石にこれは怒られるなあと思って木の板をここに当てて、上から土とか草を被せたのが、七年くらい前かなあ。まさかこんな所で役に立つとは」

 ……さてと、肺活量良し。足の踏ん張り良し。

「それってつまり! 元々壊れてたんじゃなくて元々壊しちゃってたんでしょうが!」

 しかもその上隠ぺいまでする悪ガキぶりだ。

 言うならば重要文化遺産の一部を壊して、それを隠して、七年後改めてぶち壊したという事じゃないか。
 普通だったらお尻ぺんぺんで済む問題でない。警邏隊が必要になる。そして親には罰金だ。

「他に壊してる所はないよね! この凄い遺跡はキチンと保全されてるんだよね!?」

「レイ。私は言わなかったか。遺跡を汚すなよって。壊すなよって」

 ニカっと笑ってリンが僕の頭を撫でる。

「そこに、あれ以上って言葉を付けといてくれ」

 そして、全く反省する気のない罪を自白した。

「やっぱりボロボロか! 中身ボロボロか!」

「仕方ねえだろ! 子供の時に遺跡の重要性なんて知るわけないんだから! そうだよ! あの中で果物食ったよ! そこらの錆びた剣でチャンバラごっこしたよ! 玉座っぽい所で王冠被って女王様ごっこしたよ!」

「あああああ! せっかくの神秘があああ! ファンタジーがああ!」

 信じられない。頭がクラクラしてきた。

 ファンタジー世界で言う遺跡と言ったら神秘と秘密と強力アイテムの宝庫だ。絶対に抑えておきたい場所だ。
 それを子供が荒らしまわるなんて信じられない。もっと強いボスとかを配置して守るべきではないだろうか。

 そうだ。僕がこの能力を使って即死級の罠を作ってやればいい。そうすればここの現場は完璧に保全される。

「毒殺が良いかな? 串刺しが良いかな?」

「おい落ち着け。大丈夫だから。行けない所には過去の私の魔の手は届いてないから」

「本当? まだ神秘は残ってる?」

「多分、だから入ろうぜ」

 何だかそこについてはぼやかしているリンに促されて、僕はそこに入った。

「お、おおお!」

 凄い。本当に凄い。これこそ遺跡だ。 

 廊下の天井は雄大なくらい天井の高くて、四メートルはある。
 それに壁には色々な彫刻がしてある。きっと神話を象ったものだ。

 どれもかなり精巧で、多分当時は凄く豪華な生活をしていたと予想できた。

「……あれ?」

 そう言えば、ここ地下なのに観察できるくらい明るい。何でだろう。

 もう少し詳しく見ていると、壁の上辺りにガラスの瓶みたいなものが付けられていた。
 中に黄色い炎が入っていて、それがずらりと並んでいて、広い廊下を照らし出しているのだ

 目を凝らすと、『永久の火』というものだった。レベルは……二百七十と出ている。

「二百七十!?」

 流石は遺跡だ。凄い。欲しい。でもこれだけの炎を扱える自信がない。ああ、でも欲しい。

「おい、何か涎出てるぞ」

「ぐっ」

 言われて拭ってみると、確かにそうなっていた。
 しかも脳裏にはトレジャーハンターに転職している自分を想起する重症ぶりだった。

 気を引き締めないと、誘惑に負けてしまいそうだ。緩んだ頬を叩いて引き締める。

「よし、大丈夫」

「そこまでしないと大丈夫にならない時点でもうヤバいからな」

「そこは気にしちゃダメ」

 とにかく精神をやられないように注意しないと。
 だって、ここは宝物ばかりの空間じゃないもの。

 先ず、真っ先に目につくのは天井と足元にはめ込まれた格子だ。

 真四角な穴にはめられたそれは廊下一杯に広がるその格子は端に何かスイッチのようなものがある。
 僕は罠に関しては詳しくないけど、これくらいなら分かる。それくらいきな臭い。

 これは所謂、遺跡を荒らす者へのトラップに違いない。
 重みを感じたら格子が外れて真っ逆さまなのだ。

 確信を持ってその格子を覗いてみると……下の階が見えた。可笑しい。てっきり槍がズラリと並んでいると思ったのに。
 しかもそこには同じような格子があって、その下にもあるような気がする。

 まさかと思って上を見るとここは予想通りだ。この穴は上下ぴったりと合っている。

「これって何なんだろう?」

「さあ? 私は普通に飛べるから、全部開けて通り抜けてたけど」

「ああ、そういう奴か」

 竜神が作った場所なのだから、空を飛べる人を考えて作るのは当然か。

「因みにここには階段は余りないからこの格子を通った方が早いんだ」

 そこも何だか空飛ぶ種族らしい。きっと足よりも翼をよく使ったに違いない。

 一人感心していると、リンが格子の端のスイッチを押した。
 ガシャンと音が鳴って床に格子がしまい込まれ、下の階に続く穴が空く。

 これを繰り返していくと、最下層に行けるのだろうか。流石にそうだったら防衛面で難有りなきがするけど。

「これでどこまで行けるの?」

「玉座へ続く階段がある場所までだな」

「結構筒抜けだね」

 やっぱり責められた時に凄く困りそうだ。

 想像してみる。あの抜け穴に気付いた軍勢が辺りの壁を爆発して雪崩れ込む様を。

 兵士達は直ぐに格子の存在に気付くだろう。そして、あからさまなスイッチにも気づくはずだ。
 戸惑うことなく押すスイッチ。そして開く階下への穴。そして兵士はそこを飛び降りて……

 自身の重量に負けて潰れた。

 ああ、そうか。完全な武装をした人間が四メートルも落ちたら間違いなくただでは済まないのか。
 そう考えると案外頑丈な作りなのかもしれない。

「で、僕達はどこに潜伏するの?」

「当然、玉座の間だ。あそこは広いからな」

 リンはにやりと笑って僕と木衛門、そして荷物を抱えた。
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