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想磨

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3-1 竜の里旅行の栞

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「竜ってのには注意すべきことがいくつかある」

 シュリの追手を振り払って竜の里へ行く道すがら。

 雲一つない快晴の空を飛びながら、リンが声を張った。
 言われてみて、確かにリンを見ていたら注意すべき事の二三は、簡単に想像できた。

 食費とか、思ったら即行動みたいな所とか。

「先ず、あいつらは馬鹿だ! 私よりずっと!」

「そこまで言う!?」

 というかその口ぶりだと自分が馬鹿だと認めているように聞こえてしまう。
 やっぱり気付いていたのか。自分の弱点に。

「そこまでって、私の頭はどこまでだと思ってるんだよ」

「え? あー」 

「まあいい。血の濃い子供を作るために私に何人もの夫を用意するって時点で分かり切ってるだろ」

「あーまあね」

 ここの辺りでは重婚は犯罪だ。でも一応他所に行けばそう言う所はあったりする。
 つまり長老の考えた方法は余り突拍子もないとは言えなかったりするのだ。……まあ、今は必要ない知識かな。 

「次に、異様に人懐こい……らしい」

「らしい?」

「自覚がないんだよ。私って人懐こい?」

「それなりに」

「うーん。じゃあ私並みの人懐こさが基本だ」

 それは何だか平和な世界かも……と考えて少し想像してみる。

 …………あ、辛い。

 とにかく辛い。一人なら友達になれるけど、それが何人も集まると暴力的になってしまう。
 慣れない内は、とても苦労するだろうし、慣れたとしたらよそで生きるのが辛くなるだろう。

「最後に自分が竜であることに誇りを持って居る奴が多い。自慢話は長いと思え」

「例えば?」

「瞳孔の縦長具合とか、鱗の具合とか」

「そんなのを自慢されても困るよ」

 瞳孔がどんな風に縦長ならいいのだろうか。鱗はすべすべの方がいいのだろうか。
 そんな事を考えながら適当に相槌を打たないといけないなら、大変過ぎる。

「ん? でもリンはそんな話しないよね」

「ああ、何というか色々あるから。という事で竜はそんな奴だから、気を付けな」

「うん」

 強引に話を切るくらい色々あるみたいだった。
 触れてほしくない所には触れないのが人付き合いだ。僕もそこは流して、聞きたいことだけを聞いてみる。

「竜の里ってどんなところなの? やっぱり不思議なものとかある?」

 即ちファンタジーだ。竜の里に行くんだから絶対にある筈だ。

「おうあるぜ」

「やっぱり!?」

「里の外観は山の中腹辺りから裾野まで段々畑みたいになってるんだが、実は山の中が遺跡になっていて地下に大きな縦穴があるんだよ」

「遺跡? 穴?」

 何だか色々心躍る文言が溢れてきた。期待できる。例え竜が厄介な存在だとしても行く価値はある。
 思わず足をバタバタさせると、リンが上でにやりと笑った。

「因みに遺跡は遥か昔、竜の神バールが地面を歩いていた時に作ったものらしいぜ」

「神の遺跡っ」

「んで、大きな縦穴は変革の牢穴とか言う温泉が満ちてる穴で、自分の秘めたる力を引き出すらしい。毎年何人かが潜ってるんだぜ」

「変革の牢穴っ」

 竜の里はテーマパークか何かだろうか。もう今すぐ行って遺跡を歩き尽くしたい。僕も穴に潜りたい。

 いや待てよ。こんな素敵な場所に戦争が起こるのか。
 軍隊が押し寄せて、そんな素敵な場所が荒らされてしまうのか。

「アシュルグリスの奴め。許せない……」

「おお、妙な所で戦意が上がったな。まあいいけどさ。と、もう一つ言わなきゃいけないことがあったな」

 リンが少し言うのを躊躇して、そして言った。

「実は潜伏先はその例の遺跡にしようと思ってるんだ」

「っ!!」

 その瞬間、僕に素晴らしい思い出が刻まれることが決定した。

「木衛門、今夜は宴会だ!」

「キシャアア!」

「歴史ある場で宴会は止めてくれ」

「でも神が作った遺跡だよっ」

 きっと神聖な空気が漂っている場なのだろう。色々な不思議がたくさん眠っているのだろう。ファンタジーが満ち溢れているのだろう。
 そう考えるともうウキウキして、宴を開かずにはいられない。

 勿論大事な遺跡を壊したり汚したりはしない。きちんと現状を保存する。敷物を敷いてその上で宴会だ。

「それに神様は宴が好きだって相場が決まっているんだ」

「まあそうだけど。一応隠れるってことを思い出そうか。……そろそろ低空飛行に移るぜ」

 これも隠れて接近する為だろう。高度が一気に下がって僕の足がつくかつかないかの高度まで下がる。

 そしてそのまま数分飛んだ所で、リンは飛ぶのを止める。
 少しくたびれたのか、翼を仕舞う前にゆっくりと伸びをして空を見上げた。

「さてっと。ここからは歩かないと見つかるから慎重にな」

「歩く……というより登るだけどね」


 僕も彼女と同じ所を見上げると、峻厳な山が晴天の空に食い込んでいるのが見えた。




 普通に出来た山にしては異様に急すぎる傾斜だった。その上、岩肌はごつごつとして、まるであらゆる侵入者を排そうとしているみたいだ。
 そしてかなりの高さがあるらしい。見上げないといけないその頂には白い雪が乗っている。

 簡単に言ってしまえばどう見ても素人が昇っていい山じゃない。登山家が何か月も準備して行く山だ。

 僕達は今からそれを登り切らないといけないらしいのだけど……不安だ。

「ここって普通に毎年何十人の死者を出すレベルの山だよね」

「安心しな。比較的登りやすいルートから行く」

「それに、こんなところ登ったら直ぐに見つかるよね」

「言っただろ。山の中に遺跡があるって、途中からそこに入る。見つかってもそこに逃げ込めば撒ける」

「そっか。じゃあ、遺言書を書かないとね」

「どうせ送る奴なんかいねえだろ」

「シュリに出すよ」

 僕はあの世に逃げた。追えるものなら追ってみろ、と書けば散々悔しがるだろう。

「くくく、本当にあの世に追ってきても、追い返してやろう」

「やってることが恩返しじゃないか。というか、あのシュリなら普通にお前を現世に引きずり出すんじゃ……」

「ないよ。流石に……多分。ねえ、神様って化け物を倒せるかな?」

「さあな。見たことないから知らねえ」

 僕は一応、転生した身としては見たことはあるのだけど……うっすらしていて分からない。
 実はそこまでインパクトがなかったのかも知れない。だったらきっとシュリに負けてしまうだろう。

「じゃあ不味いよ。あの世に逃げてもシュリが追いかけてくる!」

「だったら遺言書には長生きの方法を書くべきだな。つーか死なねえよ。こんなところ落ちたって。低レベルじゃあるまいし」

「僕は低レベルなの! 永遠のレベル一なの!」

「あ、そっか」

 全く、レベルディーラーはこういう所が不便だ。
 文字通り、打ち所が悪かったら直ぐに死んでしまうのだから。

 今度高レベルの頭巾とか手袋とか、全身を覆う一式でも作ってみようか。

 とにもかくにも、冗談を抜きにして言えばこんな所で死んでなどいられない。僕は遺跡とか縦穴を観光しないといけないのだ。

「死んでも登り切ってやる。最悪舞い戻ってやる」

「……モクちゃん。レイを手伝ってやりな」

「……」

 言葉を言えないモクちゃんは、一つ相槌を打つだけだった。


 そこからレベル一の、つまり赤子レベルの人間の無謀な登山が始まった。
 それは何度も死にかける、地獄への遠足だった。

 足を滑らせて死にかけ、石が頭に降って来て死にかけ、山の壁が崩れて死にかけ……
 とにもかくにも死にかけた。一生分は死にかけたと思う。

 その度にモクちゃんやリンが助けてくれて事なきを得たのだけど、彼女たちが居なかったら僕はきっとぼろ雑巾になっていただろう。
 この服より脆い体が恨めしい。やっぱり防御面を何とかする道具が欲しい。

 そんな事を考えながら、およそ一時間。
 死線を十何も潜り抜けた僕は、竜にもアシュルグリスの人間にも見つからずにその穴に行き着いた。

「穴?」

「ああ」

 リンが穴だと言い張るそこは、どう見てもただの山肌だった。 
  
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