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第一章

修行の始まり

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「さてと・・・・・・・・・・・・・・ここは・・・どこだ?」
 体を起こしながらキョロキョロと部屋を見回す。窓があったので外を眺めると、背の高い木々が見えた。どうやら俺は、森の中にある家の二階に運ばれたらしい。


 そう見当をつけベッドから降りると、カルラのことを思い出した。
(あ、カルラは大丈夫だろうか?まあ、今は逃げ切れたと思っておこう)
「・・・っていうか、あいつの人生ハード過ぎだろ。」

 今日は、オッサントリオに絡まれ、オーガに追われ・・・・・などの出来事があった。
(その前からも・・・・・・・・・・・・・)

 彼女について色々と調べたのがこんなのだ。


 親が王都で道具屋を営んでおり、カルラはその手伝いをしていた。店では、お手製のポーションやマナポーションなどを売っていて、冒険者達からは安くて効果の高いポーションとして人気で、町の人達からの評判も良かった。
 ところがある日、ポーションに麻痺毒が入っていて、戦闘中の危険な状態でそれを飲んだ冒険者が身動きが取れず魔物モンスターに殺されてしまう、という事があった。
 当然カルラの親は”毒などいれていない!”と否定し、その日はなんとかなったが翌日から、飲んだ者がバタバタと死んだことによって役所から店に調査員が派遣された。そして、店内のすべてのポーションに麻痺毒や即死毒が混入されていることが発覚し、その場で捕らえられた。
 カルラの両親は城の地下牢へ。カルラは大量の借金を背負わされ、”借金を返すまでお前の両親は牢獄の中だ”と役人に言われて、お金を稼ぐために冒険者になる。

(っと、こんな感じだったか?カルラの親は嵌められたっぽいんだよなぁ。多分元凶は、カルラの店を含む様々な店と入れ替わった。確か・・・べべブン商会とか言う、今王都の経済を牛耳っているとこだろうな・・・いつかぶっ潰そう・・・そんな彼女には幸せになって欲しいと思うのは俺の我儘なんだろうか・・・)



** **


 部屋の外に出て階段を降りると、ソファーに腰掛けている人物に声をかけられる。
「おお、起きたか。気分は悪くないか?」

「いえ大丈夫です。ところであなたはさっきの人ですよね?」

「ああそうじゃ。儂が散歩しておったらお主の叫び声が聞こえてきての」

「助けて頂き、ありがとうございます・・・あ!そうだ。あの稀少種レアオーガはどうなりました?」

「あの後、何度か手足を切り落としたら逃げよったんじゃ」
(サラッとえぐいこと言うなぁこの人)

「そうですか・・・ここは?それとあなたは一体?」

「質問は一つずつするものじゃぞ・・・まあいい、教えてやろう。儂は、ウォルフォ・メリダスという唯の老いぼれじゃ」
(いや、ただのじいさんがSランクの魔物モンスターをボコボコにできるわけないだろ)


「そしてここは、サフィーレ大森林の中部と深部の狭間にある儂の家じゃよ。」

「やはり森の中か・・・一人で暮らしているのですか?」

「いんや。婆さんと娘がいるぞい」

「娘、ですか・・・」

「ちょうどお主と同じぐらいの年じゃよ。今は外に出ておるがな・・・お、丁度帰ってきた。シル、こっちに来とくれ。」

 ガチャリと扉を開き入ってきたのは、静かな雰囲気の綺麗な女の子だった。
「ウォル爺、結界の修復してきたよ・・・・・・あなた、目を覚ましたのね」

「ご苦労さん。紹介しよう娘のシルフィじゃ」


 彼女は俺を見て自己紹介をする。
「シルフィ・メリダス。見ての通りエルフよ」

 優夜は彼女を見て驚いていた。
 彼女は、長い耳、クリアな水色の髪、アメジストのような瞳、スレンダーな体付きのエルフの美少女だったのだ。 

(おおーエルフだ。・・・めちゃくちゃ可愛いな・・・しかし・・ふむ・・・後で聞くか)
「ど、どうもシルフィさん。俺は、柊優夜ひいらぎゆうやと言います。ユウヤが名前です」
と、毎度お馴染みの説明をする。

「ほう、お主ユーヤと言うのか。覚えておこう」
「ユーヤ・・・・・・・・・私のことはシルフィって呼んで」

「はぁ、分かりました」
(何か知らんけど名前で呼んでいいって言われた)

「敬語もいらないから」

「・・・分かった。」
(敬語も無しでいいだと・・・)

「ところで、さっきシルフィが言っていた結界とは何のことです?」

魔物モンスターが入ってこないようにする魔道具のことじゃよ」

「へえー中部と深部の魔物モンスターが入れないって・・・すごい物なんですね」
(凄い魔道具だなあ・・・・・あれ?そんな物作れる人いたっけ・・・)

 俺の不思議そうな顔を見て、ウォルフさんが教えてくれた。
「ああ、うちの婆さんが作ったんじゃ。ただし、二日に一度魔力を込めねばならんがな」

「それでも凄いですよ・・・お婆さんはどこに?」
(売ったらとんでもない値段が付きそうだな)

「今、夕飯を作っているとこじゃよ」


 そんな話をしていたら、
「爺さん、シル、飯ができたから食べに来とくれ」
とお婆さんらしき人の声がした。


「詳しい話は後じゃ、先に飯を食おう」
 ウォルフォさんは立ち上がるとそう言って歩き出す。シルフィがその後に続く。

「ほら、ユーヤも来んか」

 俺が立ったままでいると、ウォルフォさんが振り向いて言った。
「いえ、食事まで頂くのは流石に・・・」

「そんなことはいいから」
「そうじゃぞ。気にせず来い」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
 二人にそう言われたので、遠慮がちについていく。


(優しい人達だなあ・・・・・)



 食卓へ移動すると、美味しそうな料理が並んでいた。お婆さん(メアリー・メリダスという)とも軽く挨拶をして、いざ。

「いただきます」
両手を合わせてそう言うと、俺以外の3人が不思議そうな顔をして聞いてきた。

「「「それは・・・何?」じゃ?」さね?」

「これは故郷の習わしで、食事を始める際に”いただきます”、食後に”ごちそうさまでした”を、食材と作った人、この場合だとメアリーさんに感謝の気持ちを込めて言う挨拶のようなものです」

「ほうほう・・・」
「へえ・・・」
「いいね、それ」

「そ、それより食べましょうよ。俺もうさっきから腹が減って仕方ないんです」
 ちょっと恥ずかしいので話を逸らす。

「ハハハハハ。そうかそうか、食欲があるのはいいことじゃ。では、儂らも」
「「「いただきます」」」


 料理はとても美味しかった。食材は、ウォルフさんが倒したオーガ黒豚ブラックオークの肉、森で採った植物などらしい。
(そうか、あの牛肉みたいな食感の肉がオーガのか・・・・・稀少種レアオーガめ待ってろよ、必ず強くなってお前を倒してやるからな・・・・)
 稀少種レアオーガへの怒りを再確認していると、もう一つの食材が気になった。

(・・・そんで豚肉みたいなのが黒豚ブラックオークの肉か・・・・・ん?黒豚ブラックオークって適正ランク:Sの魔物モンスターだったっはず、オーガはBだからまだしも・・・・・・出会った時といい、ウォルフさんは一体何者なんだ?)


 黒豚ブラックオークは、適正ランク:Sの魔物モンスター。つまりウォルフさんは、サフィーレ大森林の深部に行き、Sランクの魔物モンスターを狩ってこれるだけの実力が最低限あり、もしかしたらSSランクの魔物モンスターも狩れるかもしれないということだ。



** **



 食事も済んだのでそろそろ失敬しようかと思い、玄関へ向かおうとするとウォルフさんに呼び止められる。
「ユーヤ、何処へ行くつもりじゃ?」

「いえ、そろそろ帰ろうかと思ったので・・・」

「また稀少種レアオーガに遭遇したらどうするつもりじゃ。今度こそ殺されてしまうぞ」

「それは・・・」

「仮に稀少種レアオーガでなくとも、この辺には深部の魔物モンスターがうろちょろしておる」

「だったら俺はどうしたらいいんですか?」
(この人はさっきから何が言いたいんだ?まさか鍛えてくれる訳でもあるまいし・・・)

「ここで生活せい」

「な、何を言ってるんですか。そんな事言ったって、ここに居てもどうしようもないじゃないですか。それに、俺はアイツを軽く捻れるぐらい強くなりたいんですよ!」

「だったら儂が鍛えてやる。今のお主と儂では実力差がかなりある。その差を無くすことが出来なかったとしても、最低深部の魔物モンスターを倒せるレベルにまでは上げてやろう。これならどうじゃ」


 ウォルフさんの後ろに居るメアリーさんとシルフィを見る・・・二人とも異論は無さそうだ。
(マジか、それなら)
「・・・しばらくお世話になります」

「そうかそうか・・・さて、始めるかの」
 そう言って腕捲りするウォルフさん。

「へ?何を?」
(ま、まさか・・・・・)

「当然、稽古に決まっておろう。なに、食後の運動に軽くじゃ」

「い、今からですか?」
(やっぱり・・・)

「そうじゃ」

「マジか・・・」
 そうぼやきながら考えこんでいると。

シュタッ!
「ほらほら、庭でやるから早う来い」


「ッ!!」
 さっきまで俺の前に居た筈なのに、一瞬で後ろにある玄関口に移動している。
(・・・ヤバイ、動きが速すぎて見えなかった・・・・・)

「ほっほっほ、この程度で驚いていてはきりがないぞ」

(・・・・・・ウォルフさん、めっちゃスパルタそうな気がするのは気のせいだろうか・・・)



 その日、サフィーレ大森林の中部と深部の狭間で、優夜の後の人生を大きく変えた修行が、始まった。
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