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夢の都 王都。
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宿を出る頃にはたくさんの野次馬が馬車を取り囲んでいた。
宿の女将は、精一杯の笑顔で私たち一行を従業員全員で(5人程だけど)見送ってくれた。
どうやら、王都のさるご令嬢が下々の生活を見て勉強する為にお忍びで(ここ重要)訪れた
ということになっているらしい。
娯楽の少ない町や村では、旅人や商人のもたらす噂話や情報が楽しみとされていた。
宿の世話好きの女将は、もうすぐ王都に戻らんとしていたお嬢様である私が、あと僅かで
故郷にたどり着こうというまさにこの街で病に伏してしまったと勘違いしていた。
護衛のガルディアと、小間使いのケルド、そして、お嬢様の恋人で執事のファザーンが
付き添ってようやくここまで連れ戻したのに、今までの疲れが出てしまったのか、
身動きの取れない状態になる。
そこへ、熟練の女将が颯爽とお嬢様を看病し、元気を取り戻したお嬢様は
再び故郷である王都へ旅立とうとしていたが、王都から馬車がやってきた。
王都で待つ婚約者がこの宿に愛しいお嬢様がいることを突き止めて差し向けた馬車だった……
というなんともロマンチックなのだか、宿の女将の株が上がりまくりの話を野次馬に話して
聞かせていた。とんでもなく想像力のたくましいことだ。
もちろん否定はしたのだけど、女将や従業員のまぁまぁわかってますから、という
まったくもって分かっていない反応についに、訂正する事自体を諦めた。
それを肯定と考えた宿の従業員が、世話好き女将のロマンスに華を添えた話を
野次馬に話して聞かせると、野次馬に来ていた街の女性から黄色い声援が飛んでいて、
ファザーンの苦笑いを自分への微笑と勘違いした街の女性がさらに黄色い悲鳴を上げていた。
もう勝手にしてください……。
さらに脱力した私達は、満面の笑みで見送ってくれている野次馬と宿の人々に見送られ
この街を後にした。
豪華な馬車に揺られて、病み上がりとしては快適な旅をしている私。
この馬車を差し向けてくれたのは、街の長ヘルシャフトの話にあった弟さんのようだ。
ヘルシャフトは、10年前に街を当時の長から若干25歳という若さで引き継いだ。
その頃はまだ街はそこまで大きな権力を持っていなかったし、近隣の集落との小競り合いが続いていていつ何者かが襲ってくるか気が気ではない生活だったと、当時を知る隣のおばさんが話していた。
ヘルシャフトが長になってから、そんな小競り合いはパタリとなくなって、安心して生活ができるようになってから街はどんどん発展していったんだそうだ。元々外国へ遊学していて、その時の知識を街の発展に惜しみなく注いだ姿勢は、街の人を虜にしていったそう。今では若いというだけで不安がっていたお年寄りでも、ヘルシャフトには一目置いている。ただ、当時はちみつ色だった髪はこの10年ですっかり色をなくし白銀に変わってしまったのだそうだ。街の為に尽力する彼が、人に言えない苦労があったのだろうと、その尊敬がさらに深まる要因にもなっている。
そんなヘルシャフトに家族がいたのは初耳だったけど、馬車を差し向けてくれて、弟さんは中々に気配りの行き届いた人なのだろう。でも、不思議に思うのは、まだヘルシャフトの手紙を弟さんに渡していないのに、どうして馬車を差し向けることができたんだろう?という事。
その疑問には、ファザーンが答えてくれた。
「王都は物流の坩堝ですからね、色々と急ぎで知らせることがある時は手紙を届けてくれる仕事をしている人がいるんです。それを使って確認用に手紙を出したのでしょう。
おそらく、ドゥーラさんが寝込んでいたから、その分、後からの手紙の方が早く着いたのかもしれませんね」
ガタゴトと車輪を鳴らしながら、快適な馬車の旅はあっという間に終わりに近づいた。
遠くからでもわかる。大きな城壁に、いくつもの塔をしつらえた白亜の城が真っ青な空に浮かび上がる。
大きな城門は扉が薄く開き、中へ入るものを厳重により分けている。
街の賑やかな喧騒があと少しで目的地に着く事を教えてくれる。
御者には、先に病人の待つクアンダー屋敷に向かってくれるように頼んである。
主からドゥーラの指示に従うように言われていたとのことで円滑に対応してくれた。
そして、いよいよ憧れの王都に、私は足を踏み入れた。
雑踏に故郷の街では見たことがないような石畳。そして大勢の人々が行き交う。
見るもの全て新鮮で、道の端に店をかまえる商店の果物や野菜の豊富な彩りがとても美しい。
馬車は迷いなく王都の資産家、クアンダーの屋敷に到着し、待ちかまえていたであろう執事が
馬車の扉を開けてくれた。
ファザーンの顔を見た執事は事の経過を確認し、少女の主治医を呼ぶ為に人を差し向けた。
執事は、私たち一行をすぐに応接間に案内し、お茶と軽食を用意してくれた。
美しく盛り付けられた果物に、お茶、どれも今まで食べたものよりも数段美味しかった。
お腹も膨れて一息ついたところで肝心のブリスコラの状態を確認するのに陶器の入れ物の蓋を
開けると、洞窟では固い蕾だったものがこの気温でそろそろほころびかけているようだ。
「済みません。お医者様が到着するまで、この屋敷で一番涼しい場所に案内してくれませんか?」
その問いかけに執事は年配のメイド頭に一番涼しいワインの貯蔵庫に案内するように告げた。
そして、ワインの貯蔵庫に主治医が到着するまで待機することにした。
宿の女将は、精一杯の笑顔で私たち一行を従業員全員で(5人程だけど)見送ってくれた。
どうやら、王都のさるご令嬢が下々の生活を見て勉強する為にお忍びで(ここ重要)訪れた
ということになっているらしい。
娯楽の少ない町や村では、旅人や商人のもたらす噂話や情報が楽しみとされていた。
宿の世話好きの女将は、もうすぐ王都に戻らんとしていたお嬢様である私が、あと僅かで
故郷にたどり着こうというまさにこの街で病に伏してしまったと勘違いしていた。
護衛のガルディアと、小間使いのケルド、そして、お嬢様の恋人で執事のファザーンが
付き添ってようやくここまで連れ戻したのに、今までの疲れが出てしまったのか、
身動きの取れない状態になる。
そこへ、熟練の女将が颯爽とお嬢様を看病し、元気を取り戻したお嬢様は
再び故郷である王都へ旅立とうとしていたが、王都から馬車がやってきた。
王都で待つ婚約者がこの宿に愛しいお嬢様がいることを突き止めて差し向けた馬車だった……
というなんともロマンチックなのだか、宿の女将の株が上がりまくりの話を野次馬に話して
聞かせていた。とんでもなく想像力のたくましいことだ。
もちろん否定はしたのだけど、女将や従業員のまぁまぁわかってますから、という
まったくもって分かっていない反応についに、訂正する事自体を諦めた。
それを肯定と考えた宿の従業員が、世話好き女将のロマンスに華を添えた話を
野次馬に話して聞かせると、野次馬に来ていた街の女性から黄色い声援が飛んでいて、
ファザーンの苦笑いを自分への微笑と勘違いした街の女性がさらに黄色い悲鳴を上げていた。
もう勝手にしてください……。
さらに脱力した私達は、満面の笑みで見送ってくれている野次馬と宿の人々に見送られ
この街を後にした。
豪華な馬車に揺られて、病み上がりとしては快適な旅をしている私。
この馬車を差し向けてくれたのは、街の長ヘルシャフトの話にあった弟さんのようだ。
ヘルシャフトは、10年前に街を当時の長から若干25歳という若さで引き継いだ。
その頃はまだ街はそこまで大きな権力を持っていなかったし、近隣の集落との小競り合いが続いていていつ何者かが襲ってくるか気が気ではない生活だったと、当時を知る隣のおばさんが話していた。
ヘルシャフトが長になってから、そんな小競り合いはパタリとなくなって、安心して生活ができるようになってから街はどんどん発展していったんだそうだ。元々外国へ遊学していて、その時の知識を街の発展に惜しみなく注いだ姿勢は、街の人を虜にしていったそう。今では若いというだけで不安がっていたお年寄りでも、ヘルシャフトには一目置いている。ただ、当時はちみつ色だった髪はこの10年ですっかり色をなくし白銀に変わってしまったのだそうだ。街の為に尽力する彼が、人に言えない苦労があったのだろうと、その尊敬がさらに深まる要因にもなっている。
そんなヘルシャフトに家族がいたのは初耳だったけど、馬車を差し向けてくれて、弟さんは中々に気配りの行き届いた人なのだろう。でも、不思議に思うのは、まだヘルシャフトの手紙を弟さんに渡していないのに、どうして馬車を差し向けることができたんだろう?という事。
その疑問には、ファザーンが答えてくれた。
「王都は物流の坩堝ですからね、色々と急ぎで知らせることがある時は手紙を届けてくれる仕事をしている人がいるんです。それを使って確認用に手紙を出したのでしょう。
おそらく、ドゥーラさんが寝込んでいたから、その分、後からの手紙の方が早く着いたのかもしれませんね」
ガタゴトと車輪を鳴らしながら、快適な馬車の旅はあっという間に終わりに近づいた。
遠くからでもわかる。大きな城壁に、いくつもの塔をしつらえた白亜の城が真っ青な空に浮かび上がる。
大きな城門は扉が薄く開き、中へ入るものを厳重により分けている。
街の賑やかな喧騒があと少しで目的地に着く事を教えてくれる。
御者には、先に病人の待つクアンダー屋敷に向かってくれるように頼んである。
主からドゥーラの指示に従うように言われていたとのことで円滑に対応してくれた。
そして、いよいよ憧れの王都に、私は足を踏み入れた。
雑踏に故郷の街では見たことがないような石畳。そして大勢の人々が行き交う。
見るもの全て新鮮で、道の端に店をかまえる商店の果物や野菜の豊富な彩りがとても美しい。
馬車は迷いなく王都の資産家、クアンダーの屋敷に到着し、待ちかまえていたであろう執事が
馬車の扉を開けてくれた。
ファザーンの顔を見た執事は事の経過を確認し、少女の主治医を呼ぶ為に人を差し向けた。
執事は、私たち一行をすぐに応接間に案内し、お茶と軽食を用意してくれた。
美しく盛り付けられた果物に、お茶、どれも今まで食べたものよりも数段美味しかった。
お腹も膨れて一息ついたところで肝心のブリスコラの状態を確認するのに陶器の入れ物の蓋を
開けると、洞窟では固い蕾だったものがこの気温でそろそろほころびかけているようだ。
「済みません。お医者様が到着するまで、この屋敷で一番涼しい場所に案内してくれませんか?」
その問いかけに執事は年配のメイド頭に一番涼しいワインの貯蔵庫に案内するように告げた。
そして、ワインの貯蔵庫に主治医が到着するまで待機することにした。
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