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終演のあとに
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ケルドから受け取った開幕初日の芝居の木札は2枚ある。
私は、いつもお世話になっている人と一緒に芝居を見に行こうと考えた。
そこで、世間知らずな私をいつも助けてくれているメイドのクラリスを誘うことにした。
ちらりとサラエリーナを誘うことも考えたのだけど、やはり人が多いところに
いきなり病み上がりの女の子を連れ出すのも良くないと考えたので止めておくことにした。
早速、クラリスを探して、声をかける。
「クラリスさん、お芝居とか興味あります?」
すると、クラリスは首をかしげて私に聞き返した。
「……なぜ、そんなことをお聞きになるんです?」
そこで私は、ケルドから木札を2枚もらったこと、いつも自分の世話を親身にしてくれる
クラリスに何かお礼がしたかったこと、一緒に出かけたら嬉しいので、と説明した。
クラリスはいつもの冷静さはどこへやら、少し顔を赤くしてつぶやいた。
「そんなこと、気になさらなくてもよろしいのに……好きでやっているんですから」
語尾は小声過ぎて聞き取れなかったけれど、一緒に出かけることは承知してくれた。
7日後の開演の時が待ち遠しいなぁ。
そう思っていると、玄関に小さな淑女の来客があったことを伝えられる。
早速玄関ホールに降りていくと、今日も愛らしい顔が嬉しそうに微笑んでいる。
「今日は、お芝居にお誘いに参りましたの!」
庭のいつもの場所でお茶を口にしながら、サラエリーナは木片のふちに赤い色のついた
ものを一枚差し出した。
「あ、芝居小屋の開演初日の木片?」
私が持っているのと色とデザインが少し違うので尋ねてみた。
「あ、ご存知でした? 父があの劇場の出資をしているんですの。
2階席の個室の席のものなんですって。とても見やすいそうですわ」
そこで、実は私も2枚ケルドから貰ったと話すと、サラエリーナは少し残念そうだったが
すぐにいつもの笑顔に戻ってたわいのない世間話を始めた。
そうこうしているうちに開幕の日はやって来た。
朝からクラリスが私を飾り立てて、いろんな角度から頷いては終始ご機嫌だった。
誰が報告したのか昨日は、クラーヴィオからゆったりとしたドレスが送られた。
劇場鑑賞にはうってつけですよ、とクラリスは微笑んだ。
「私はこんなもんでいいわよ。クラリスさんもそろそろ身支度をしないと」
クラリスはいつまでも喉の詰まった膝丈の黒のドレスに白いフリルのエプロンという
定番のメイド服を来ている。私の支度を手伝うばかりで自分の支度は気にしないようだ。
「私はこの格好でいいんですよ? 動きやすいですし」
その言葉に、せっかく美人なんだから飾らないともったいないよ!と力説すると
クラリスは渋々自分の自室に戻り、彼女によく似合う深い青のドレスに着替えてきた。
支度を済ませてふたりは、いそいそと馬車に乗り込んだ。
その際、見送ってくれた執事はクラリスの姿に目を回したが、私が頼んだ事を
伝えて、怒らないで欲しいとお願いすると、複雑な顔で、承知しましたと一言つぶやいた。
芝居小屋は、小屋というにはとても言えない、白い柱を何本も立てられて、まるで
どこかの神殿のようだ。
中に入ると白の建物に、赤い絨毯、至る所へは金細工の彫刻が並ぶ。
2階席へは特別な木札がいるようで、警備員が厳重に見張っていた。
どうやら特別なお客(出資者の関係者)しか立ち入れないようになっているようだった。
その時、聞きなれた声がする。
「ドゥーラさん!!」
サラエリーナがいつもとは違う、薄紅のふんわりしたドレスを来てこちらへやって来た。
後ろには、彼女の父親なんだろうか、じっとこちらを見守っている紳士と、その横に
控えるように立っているのはクアンダー邸で見かけたあの国一番の医師の姿があった。
「実はまだ体調が安定しないので、父が先生にそばに居てもらいなさいと無理に先生を
お誘いしたんです。私、大丈夫なんですけどね」
にっこりと微笑むサラエリーナは、とても可憐で透明感があった。
ひとしきり挨拶を済ませると、サラエリーナは彼女の父と医師の方へ戻っていた。
医師は笑顔でサラエリーナを迎え、三人は階上へ上がっていった。
その後ろ姿を見送る私。やっぱりあの医師、どこかで会っているような気がする。
私が難しい顔をしていると、クラリスが不思議そうな顔をして訪ねてきた。
「ドゥーラ様、何か? 少しお顔がこわばっておいでですわよ」
この間は、サラエリーナの治療が優先だったから声をかけられなかったけど
一度話してみたかった。
「クラリスさん、実はあのお医者様と一度会った事あるような気がするんです」
すると、クラリスは上演が終わったらお話をされてみるといいのでは?と
提案してくれた。 そうか。思いつかなかったけど、ちょっと声をかけてみよう。
そう言っている間に開演の合図が鳴り、係員の追い立てる声に私たちは慌てて自分の席を探した。
公演が終わった後に、サラエリーナと医師を探したが会うことは出来なかった。
たくさんの人々がごった返していたし、なかなかそれらしい人を見つけることもできず
仕方なく今日は帰りましょう、と促されて帰途についた。
翌日になって、気分の悪くなったサラエリーナが、付き添っていた医師ごと、姿を消したと
クアンダー家の執事が血相を変えて屋敷に現れて私に知らされた。
私は、いつもお世話になっている人と一緒に芝居を見に行こうと考えた。
そこで、世間知らずな私をいつも助けてくれているメイドのクラリスを誘うことにした。
ちらりとサラエリーナを誘うことも考えたのだけど、やはり人が多いところに
いきなり病み上がりの女の子を連れ出すのも良くないと考えたので止めておくことにした。
早速、クラリスを探して、声をかける。
「クラリスさん、お芝居とか興味あります?」
すると、クラリスは首をかしげて私に聞き返した。
「……なぜ、そんなことをお聞きになるんです?」
そこで私は、ケルドから木札を2枚もらったこと、いつも自分の世話を親身にしてくれる
クラリスに何かお礼がしたかったこと、一緒に出かけたら嬉しいので、と説明した。
クラリスはいつもの冷静さはどこへやら、少し顔を赤くしてつぶやいた。
「そんなこと、気になさらなくてもよろしいのに……好きでやっているんですから」
語尾は小声過ぎて聞き取れなかったけれど、一緒に出かけることは承知してくれた。
7日後の開演の時が待ち遠しいなぁ。
そう思っていると、玄関に小さな淑女の来客があったことを伝えられる。
早速玄関ホールに降りていくと、今日も愛らしい顔が嬉しそうに微笑んでいる。
「今日は、お芝居にお誘いに参りましたの!」
庭のいつもの場所でお茶を口にしながら、サラエリーナは木片のふちに赤い色のついた
ものを一枚差し出した。
「あ、芝居小屋の開演初日の木片?」
私が持っているのと色とデザインが少し違うので尋ねてみた。
「あ、ご存知でした? 父があの劇場の出資をしているんですの。
2階席の個室の席のものなんですって。とても見やすいそうですわ」
そこで、実は私も2枚ケルドから貰ったと話すと、サラエリーナは少し残念そうだったが
すぐにいつもの笑顔に戻ってたわいのない世間話を始めた。
そうこうしているうちに開幕の日はやって来た。
朝からクラリスが私を飾り立てて、いろんな角度から頷いては終始ご機嫌だった。
誰が報告したのか昨日は、クラーヴィオからゆったりとしたドレスが送られた。
劇場鑑賞にはうってつけですよ、とクラリスは微笑んだ。
「私はこんなもんでいいわよ。クラリスさんもそろそろ身支度をしないと」
クラリスはいつまでも喉の詰まった膝丈の黒のドレスに白いフリルのエプロンという
定番のメイド服を来ている。私の支度を手伝うばかりで自分の支度は気にしないようだ。
「私はこの格好でいいんですよ? 動きやすいですし」
その言葉に、せっかく美人なんだから飾らないともったいないよ!と力説すると
クラリスは渋々自分の自室に戻り、彼女によく似合う深い青のドレスに着替えてきた。
支度を済ませてふたりは、いそいそと馬車に乗り込んだ。
その際、見送ってくれた執事はクラリスの姿に目を回したが、私が頼んだ事を
伝えて、怒らないで欲しいとお願いすると、複雑な顔で、承知しましたと一言つぶやいた。
芝居小屋は、小屋というにはとても言えない、白い柱を何本も立てられて、まるで
どこかの神殿のようだ。
中に入ると白の建物に、赤い絨毯、至る所へは金細工の彫刻が並ぶ。
2階席へは特別な木札がいるようで、警備員が厳重に見張っていた。
どうやら特別なお客(出資者の関係者)しか立ち入れないようになっているようだった。
その時、聞きなれた声がする。
「ドゥーラさん!!」
サラエリーナがいつもとは違う、薄紅のふんわりしたドレスを来てこちらへやって来た。
後ろには、彼女の父親なんだろうか、じっとこちらを見守っている紳士と、その横に
控えるように立っているのはクアンダー邸で見かけたあの国一番の医師の姿があった。
「実はまだ体調が安定しないので、父が先生にそばに居てもらいなさいと無理に先生を
お誘いしたんです。私、大丈夫なんですけどね」
にっこりと微笑むサラエリーナは、とても可憐で透明感があった。
ひとしきり挨拶を済ませると、サラエリーナは彼女の父と医師の方へ戻っていた。
医師は笑顔でサラエリーナを迎え、三人は階上へ上がっていった。
その後ろ姿を見送る私。やっぱりあの医師、どこかで会っているような気がする。
私が難しい顔をしていると、クラリスが不思議そうな顔をして訪ねてきた。
「ドゥーラ様、何か? 少しお顔がこわばっておいでですわよ」
この間は、サラエリーナの治療が優先だったから声をかけられなかったけど
一度話してみたかった。
「クラリスさん、実はあのお医者様と一度会った事あるような気がするんです」
すると、クラリスは上演が終わったらお話をされてみるといいのでは?と
提案してくれた。 そうか。思いつかなかったけど、ちょっと声をかけてみよう。
そう言っている間に開演の合図が鳴り、係員の追い立てる声に私たちは慌てて自分の席を探した。
公演が終わった後に、サラエリーナと医師を探したが会うことは出来なかった。
たくさんの人々がごった返していたし、なかなかそれらしい人を見つけることもできず
仕方なく今日は帰りましょう、と促されて帰途についた。
翌日になって、気分の悪くなったサラエリーナが、付き添っていた医師ごと、姿を消したと
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