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絡み合う糸
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ファザーンの一手とは、とんでもない手段だった。
ぶっちゃけ、囮作戦なんだけども、私が国をあげて招かれた優秀な薬草師で、王立薬草園を視察した後に王宮で国王専属の薬草師として召抱えられるという噂を流して、敵をおびき出し本拠地を探る、という大胆なものだった。
確かに薬草の知識、あるけどね。
非力だけど何か出来ることあるはずですって啖呵切ったけどねなんか、すごい看板を背負わされて、中身こんなしょぼいんだけど大丈夫かなぁ?とかちょっと思うわけなんだけども……。
やるしかない!!従者として、もったいなくもクラーヴィオ様がついてくれるらしい。
ひいい。どうしよう。恐れ多いわ。
しかし、美しい人は何しても映はえるのよ。
クラーヴィオ様の従者姿は、中々に様になっている。腰に指した護身用の剣が王子様のよう。
「ドゥーラ、とにかく力を抜いて。まずは敵に噂が本当であると信じさせる必要があるからね」
しかし、王家の名前を勝手に使っちゃって大丈夫なのかなぁ?恐れ多いことだけど、私は演じ切らなくちゃいけない。今もなお、囚われたガルディアを助け出さなくちゃ。
まずやるのは、王立薬草園の園長との視察。
薬草園で働く人の中にユーラーティの手先がいると踏んで、シエル・サントル園長に協力を依頼すると、面白いことが大好きだ、というサントル園長は二つ返事で快諾してくれた。
そして、薬草園の職員に私がいかに優秀かということをノリノリで説明して回り王城にも挨拶に行こうと引っ張って行かれた。
ええっ私庶民なんですけど、いいんですか?!あの、ちょっとよそいきに着替えたい……
しかし、サントル園長が連れて行ったのは城の中ではなく、城の庭園裏の温室だった。
さすが王城の中にある施設。惜しみなくクリスタルを薄くのばしたものを贅沢に何枚も遣って透明な小屋を作っている。
その中に、ジョウロを片手に花に水をやっている青年がいた。
ヨレヨレのエプロンをかけてほのぼのとした風貌。なんとなく園長に似ている気がした。
息子さんといってもおかしくない位に似ている。
「やぁ!サントル園長。よく来たね」
ニコニコと微笑む青年は、私をじっくりと見つめる。
「あれぇ?新しい子が来た?」
ひだまりのような笑顔と、大変ゆったりとした言葉遣いで、ちょっと眠気が……。
「そうですよ。中々に優秀でね。王宮の国王専属の薬草師に推薦しようと思ってるんです」
事情が分かっていない青年に、サントル園長は話す。
「そか。いいんじゃない?頑張ってね、お嬢さん」
青年は、微笑むとまた、水やりを再開した。
「そうだ。次は……」
サントル園長は、まだまだ知り合いのところに連れ回し、夕方までに10数人の王宮の知り合いのところを飛び回って挨拶回りに連れて行かれた。
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・
ガルディア救出作戦の手はずを整えているのと同時刻、ユーラーティ神殿の地下で
ガルディアが重い鎖で戒められ、強固な鉄格子の中に囚われていた。
湿気た匂いに自分の体から出る鉄錆に似た血の匂いが混ざって何とも言えず鼻につく。
牢に閉じ込められてるのは、視界に入る限りは自分だけだろうか。
見張り役の男が、自分が意識を取り戻した時に動き出したので誰かを呼びに行ったのだろう。
石畳に響く靴の音がこちらに近づいてくる。
「お目覚めかね、多勢に無勢というがなかなかどうして。あれだけの私の手駒を大幅に減らしたのは
たいしたものだ。さすが業界では紅蓮の鬼神なんて二つ名がつくはずだね。凄まじい戦いぶりだった」
牢の前に立ち止まったローブの男はしみじみと声をかける。
手駒を減らされて、怒る素振りもなくただ、淡々としていた。
飲み込まれるような黒髪になんでも見通すような黒い瞳。無駄な筋肉がついていないが鍛え上げられているのは着ているローブ越しにでもわかる。
「さて……君の雇い主を明かしてもらおうか?出来れば手荒な事はしたくない」
低く硬質な声は、優しげな口調でいて威圧感が滲んでいる。
「神殿に祈りを捧げに来て道に迷っちまった。それ以外何もねぇ」
黒い瞳が眇すがめられる。あまりお気に召さない答えだったらしい。
「……まぁ、騎士崩れの君なら、秩序の神であるユーラーティを信じていてもおかしくはないがな」
「なんだと?」
男は続ける。
「君のことはとても興味があってね。調べてはいたんだよ。騎士の家系に生まれ、いずれは
騎士団長にでもという有望な若者が、見ず知らずの市井の娘を助けたばかりに
候爵家のバカ息子に逆恨みされて勘当されたなんて……美談じゃないか」
金属の甲高い音が響く。思わず殴ろうとして手が出たが、戒めの鎖に阻まれて
腕は男に届くことはなかった。
「私は、君のような男は好きだ。だから、取引がしたい。悪い話ではないと思うがね」
「……断るってのはアリか?」
「ああ、構わないよ。君の力は惜しいが仕方ない。無理強いはしない主義なんだよ、私は。
ただ……近々、王都は大騒ぎすると思うよ……アルカの街の外れにある、ユーラーティの
聖域で起こった山火事の犯人が君だと発表されるだろうからね。君の家族はどう思うだろう。
やけを起こして冒険者に成り果てて、挙句あげく大罪を冒して処刑される……なんて」
「断らせねえってか……卑怯者がっ」
「それに、私たちの側についていたほうが何かと便利だよ……」
そう言って、さらに声を潜め、ガルディアにだけしか聞き取れない言葉で囁いた。
驚愕に目を見開くガルディア。
「お前……なんで……」
その言葉に、フードの男はにやりと微笑んだ。
「……わかった。この鎖を、外してくれ」
ぶっちゃけ、囮作戦なんだけども、私が国をあげて招かれた優秀な薬草師で、王立薬草園を視察した後に王宮で国王専属の薬草師として召抱えられるという噂を流して、敵をおびき出し本拠地を探る、という大胆なものだった。
確かに薬草の知識、あるけどね。
非力だけど何か出来ることあるはずですって啖呵切ったけどねなんか、すごい看板を背負わされて、中身こんなしょぼいんだけど大丈夫かなぁ?とかちょっと思うわけなんだけども……。
やるしかない!!従者として、もったいなくもクラーヴィオ様がついてくれるらしい。
ひいい。どうしよう。恐れ多いわ。
しかし、美しい人は何しても映はえるのよ。
クラーヴィオ様の従者姿は、中々に様になっている。腰に指した護身用の剣が王子様のよう。
「ドゥーラ、とにかく力を抜いて。まずは敵に噂が本当であると信じさせる必要があるからね」
しかし、王家の名前を勝手に使っちゃって大丈夫なのかなぁ?恐れ多いことだけど、私は演じ切らなくちゃいけない。今もなお、囚われたガルディアを助け出さなくちゃ。
まずやるのは、王立薬草園の園長との視察。
薬草園で働く人の中にユーラーティの手先がいると踏んで、シエル・サントル園長に協力を依頼すると、面白いことが大好きだ、というサントル園長は二つ返事で快諾してくれた。
そして、薬草園の職員に私がいかに優秀かということをノリノリで説明して回り王城にも挨拶に行こうと引っ張って行かれた。
ええっ私庶民なんですけど、いいんですか?!あの、ちょっとよそいきに着替えたい……
しかし、サントル園長が連れて行ったのは城の中ではなく、城の庭園裏の温室だった。
さすが王城の中にある施設。惜しみなくクリスタルを薄くのばしたものを贅沢に何枚も遣って透明な小屋を作っている。
その中に、ジョウロを片手に花に水をやっている青年がいた。
ヨレヨレのエプロンをかけてほのぼのとした風貌。なんとなく園長に似ている気がした。
息子さんといってもおかしくない位に似ている。
「やぁ!サントル園長。よく来たね」
ニコニコと微笑む青年は、私をじっくりと見つめる。
「あれぇ?新しい子が来た?」
ひだまりのような笑顔と、大変ゆったりとした言葉遣いで、ちょっと眠気が……。
「そうですよ。中々に優秀でね。王宮の国王専属の薬草師に推薦しようと思ってるんです」
事情が分かっていない青年に、サントル園長は話す。
「そか。いいんじゃない?頑張ってね、お嬢さん」
青年は、微笑むとまた、水やりを再開した。
「そうだ。次は……」
サントル園長は、まだまだ知り合いのところに連れ回し、夕方までに10数人の王宮の知り合いのところを飛び回って挨拶回りに連れて行かれた。
☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・
ガルディア救出作戦の手はずを整えているのと同時刻、ユーラーティ神殿の地下で
ガルディアが重い鎖で戒められ、強固な鉄格子の中に囚われていた。
湿気た匂いに自分の体から出る鉄錆に似た血の匂いが混ざって何とも言えず鼻につく。
牢に閉じ込められてるのは、視界に入る限りは自分だけだろうか。
見張り役の男が、自分が意識を取り戻した時に動き出したので誰かを呼びに行ったのだろう。
石畳に響く靴の音がこちらに近づいてくる。
「お目覚めかね、多勢に無勢というがなかなかどうして。あれだけの私の手駒を大幅に減らしたのは
たいしたものだ。さすが業界では紅蓮の鬼神なんて二つ名がつくはずだね。凄まじい戦いぶりだった」
牢の前に立ち止まったローブの男はしみじみと声をかける。
手駒を減らされて、怒る素振りもなくただ、淡々としていた。
飲み込まれるような黒髪になんでも見通すような黒い瞳。無駄な筋肉がついていないが鍛え上げられているのは着ているローブ越しにでもわかる。
「さて……君の雇い主を明かしてもらおうか?出来れば手荒な事はしたくない」
低く硬質な声は、優しげな口調でいて威圧感が滲んでいる。
「神殿に祈りを捧げに来て道に迷っちまった。それ以外何もねぇ」
黒い瞳が眇すがめられる。あまりお気に召さない答えだったらしい。
「……まぁ、騎士崩れの君なら、秩序の神であるユーラーティを信じていてもおかしくはないがな」
「なんだと?」
男は続ける。
「君のことはとても興味があってね。調べてはいたんだよ。騎士の家系に生まれ、いずれは
騎士団長にでもという有望な若者が、見ず知らずの市井の娘を助けたばかりに
候爵家のバカ息子に逆恨みされて勘当されたなんて……美談じゃないか」
金属の甲高い音が響く。思わず殴ろうとして手が出たが、戒めの鎖に阻まれて
腕は男に届くことはなかった。
「私は、君のような男は好きだ。だから、取引がしたい。悪い話ではないと思うがね」
「……断るってのはアリか?」
「ああ、構わないよ。君の力は惜しいが仕方ない。無理強いはしない主義なんだよ、私は。
ただ……近々、王都は大騒ぎすると思うよ……アルカの街の外れにある、ユーラーティの
聖域で起こった山火事の犯人が君だと発表されるだろうからね。君の家族はどう思うだろう。
やけを起こして冒険者に成り果てて、挙句あげく大罪を冒して処刑される……なんて」
「断らせねえってか……卑怯者がっ」
「それに、私たちの側についていたほうが何かと便利だよ……」
そう言って、さらに声を潜め、ガルディアにだけしか聞き取れない言葉で囁いた。
驚愕に目を見開くガルディア。
「お前……なんで……」
その言葉に、フードの男はにやりと微笑んだ。
「……わかった。この鎖を、外してくれ」
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